ブラック・アイド・ピーズのメンバーとして、そしてソロのラッパーとしても活躍するウィル・アイアム(will.i.am)。慈善事業家としても知られる彼とメルセデスAMGの協業により、一度限りの特別企画のコンセプトカー「WILL.I.AMG」が誕生しました。

このモデルは、ウィル・アイ・アムが現在取り組んでいる慈善事業の目玉として位置づけられる1台となりますが、そのプロジェクトについて紹介する前に、まずはこのクルマを検証してみることとしましょう。

MTVの人気番組『Pimp My Ride(車改造大作戦!)』でおなじみのカスタムカー軍団「West Coast Customs(ウエストコースト・カスタムズ)」が、メルセデスAMG「GT4ドアクーペ」をベースにつくり上げたのが今回の1台です。ウィル・アイ・アムは過去にもウエスコースト・カスタムズに制作を依頼したことがあり、これで実に6台目の発注とのこと。ですが、個人使用目的のカスタムカーと比べ、今回は極めて控え目な仕上がりとなっています。

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これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
FULL SEND Honda Civic | West Coast Customs
FULL SEND Honda Civic | West Coast Customs thumnail
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特筆すべきは、メルセデスAMG「GT」の4ドアから2ドアへの改造です。その改造の度合いは、過去にこれほどまでに大きなドアを持つクルマなどなかったのではないか!? とさえ錯覚してしまうほど大規模なものとなりました。

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MERCEDES-BENZ

ドアのヒンジは車体後方に位置しており、まるで諸手を広げて乗客を歓迎しているかのように大きく開くドアが特徴的です。

フロントエンドのデザインは、トラックを思わせる四角張ったフロントエンドのデザインとなり、まるで「Gワーゲン」から移植されたかのよう。このデザインがいかにして考案されたのかは不明ですが、他のメルセデスAMG「GT」との差別化という点においては大成功していると言えるでしょう。

グリルに鎮座するメルセデスの星型エンブレムは、「Bear Witness(ベア・ウィットネス=証人、証言者)」を象徴する熊をイメージしたものとなっています。これは、マイアミのメルセデスAMGエクスペリエンスセンターと、オンラインショップで販売される同名のアパレルコレクションのネーミングに由来するものです。このプロジェクトに関しては、2022年5月17日から28日にかけて開催されている第75回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されている映画『Drive(ドライブ)』と題された6部構成のドキュメンタリー映画も用意されています。

クルマが社会のためにできること

記事の冒頭でもお伝えした通り、このコンセプトカーはウィル・アイ・アムの慈善事業「The Flip - Innovation for Purpose(ザ・フリップ ― イノヴェーション・フォー・パーパス)」の一環として制作されています。この慈善事業は恵まれない地域に暮らす子どもたちに、「STEAM分野(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学/ものづくり、Art=芸術/リベラルアーツ、Mathematics=数学)」の教育を提供するためのプロジェクトです。技術分野に特化した仕事を得るために必要なスキルの習得を通じ、地域の貧困撲滅を目的としています。

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MERCEDES-BENZ

ラッパーであり、ソングライターであり、シンガーであり、ブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)のオリジナルメンバーでもあるウィル・アイ・アムは、この特別なメルセデスAMGに託した思いを次のように説明しています。

「私自身、ゲットー(※編集注:マイノリティの居住地区。貧困、治安、教育などに問題を多く抱える地域を指すことが多い)で生まれ育った人間です。ヒップホップは常に身近な音楽でした。ヒップホップのレジェンドたちがメルセデスについてラップするのを聞きながら、いつか自分もメルセデスに乗れるようになりたいと夢見ていました。すなわち、私のような環境で育つ子どもたちにとってメルセデスは『前進』を意味し、『困難からの脱出』を意味してもいるのです」

今回の「The Flip」は、まだ始まったばかりのプロジェクト。ですが、彼が創設した財団「i.am/Angel Foundation(アイ・アム/エンジェル・ファウンデーション)」の活動の一環として行われている、STEAM教育プログラムの一つとして位置づけられています。

ウィル・アイ・アムはすでに、このような慈善事業を10年以上にわたって継続中。財団は彼の地元であるLAのボイルハイツ地区を始めとした貧困地域における教育支援と、そのための資金援助に取り組んでいます。

ロボット工学、情報システム、コンピューターのプログラムや設計、芸術などの分野で教育支援が行われている他、課外での個人指導プログラムや奨学金の提供により、進学から卒業まで広範囲な支援が行われています。プログラムのために、すでに数百万ドル(数億円)規模の支援が集められた実績もあります。

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MERCEDES-BENZ

今回のコンセプトカー「WILL.I.AMG」にまつわる全ての活動は、「i.am/Angel Foundation(アイ・アム/エンジェル・ファウンデーション)」の目的とする「STEAM分野における人材育成の支援を通じ、地域コミュニティを貧困から救済する」ための活動に寄与するものであると、ウィル・アイ・アムおよびメルセデスは宣言しています。

当初はこのワンオフカーをオークションに出品し、その収益を10~20人の子どもたちを対象に100種程度のロボット工学分野の教育資金とする計画でしたが、メルセデスが自ら買い取りを決定したことによりオークションへの出品の話は立ち消えとなりました。

収益はロボット工学分野における教育支援プログラムに回されることが決定しており、クルマそのものはドイツのシュトゥットガルトにある「メルセデス・ベンツ博物館」に収蔵される予定です。「Bear Witness(ベア・ウィットネス)」によって展開されるアパレル部門からの収益についても、財団へ寄付が予定されています。

カスタムカーに賛否両論はつきものですが、今回この1台が意味する善意、ポジティブな目的、そして未来を見据えた希望については異論を差し挟む余地などどこにもないでしょう。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。