日本時間2020年8月24日(月)。日本のカーレース界、そして自動車業界にとって明るいニュースが飛び込んできました。現地時間8月23日(日)、アメリカ・インディアナ州で開催された「インディアナポリス500マイルレース(以下、インディ500)」の決勝レースで、佐藤琢磨選手が自身2度目となる優勝を果たしました。
このインディ500は、F1モナコグランプリ、ル・マン24時間レースと並び、「世界3大レース」に数え上げられるレースのひとつです。
「F1モナコグランプリ」は、モナコの美しい市街地コースを走るレース。美しいモナコの街並みを見ながら、現地では観客席はもちろん、ホテルのバルコニーやクルーザーといった他のレースではできない観戦方法で愉しめます。テレビで観ているだけでも、その優雅で特別な雰囲気が伝わってきます。
フランスのル・マン近郊のサルト・サーキットと公道をミックスコースにした、全長約13キロの長いコースを24時間戦う耐久レース「ル・マン24時間レース」。24時間という長丁場のレースもさることながら、コースも約13㎞と長いレースなので、がっつり観戦するもよし、あるいは合間にバーベキューなどをしながら仲間同士でわいわい騒ぎながら観戦という方法もあります。
そして…インディ500。アメリカのインディアナ州にあるインディアナポリス・モーター・スピードウェイのオーバルコースを周回するレースで、1周2.5マイル(約4km)のコースを200周走り、合計すると500マイル(約805km)に上ります。
至近距離でレースが繰り広げられ、座席によってはピット作業を目の前で見られることも。さらにレース中にアクシデントが発生したり、コース上に落下物があるとイエローフラッグが振られ、何度も再スタート。ハラハラドキドキ、大興奮のアメリカらしいレースです。
インディ500は、一度のレースの賞金も桁違いです。決勝順位以外にも1周ごとに賞金が出て、優勝すると億単位の金額を手に入れることができる、まさにアメリカンドリーム…。2020年は新型コロナウイルスの影響を受け、当初の予定金額の約半分となったそうですが、それでも破格には変わりありません。
毎年、インディ500には1日で約30万人がサーキットに押し寄せると言われています。そのため、サーキットへと移動する関係者のバスには、先導車が付くということを以前聞いたことがあります。
と言いつつ、私はF1モナコGPとル・マン24時間レースには行っていますが、まだこのインディ500だけ観戦しておらず…。しかし、今年(2020年)は取材に行く予定でした。それなのに、新型コロナウイルス感染拡大のため取材は中止に。また、本来であれば5月に開催予定だったレースも8月に延期となり、しかも無観客での開催となりました。日本からも取材には数名のカメラマンが行ったそうですが、よほどの覚悟がなければ、なかなか今の段階では海外取材は厳しい…。
アメリカのレーシングチーム「レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(Rahal Letterman Lanigan Racing)」所属の佐藤琢磨選手は、3番手の最前列からのスタートでした。常に安定した走りで4位以内をキープ。そして158周目にトップを奪取。残り5周の時点でチームメイトがクラッシュし、イエローフラッグが振られ追い越し禁止に(イエローフラッグが振られているときは速度を落とすことと、他のクルマを追い越さないことがルールとして定められています)。そのままフィニッシュを迎えて、見事優勝を果たしました。
琢磨選手は現在、日本人でインディカー・シリーズ(IndyCar Series)に参戦している唯一のドライバーですが、2017年にもインディ500で優勝を飾っていて、今回は3年ぶり2度目の優勝となりました。2017年のときは、優勝トロフィーと優勝者に贈られる指輪と共に日本に凱旋帰国。F1ではかなわなかった「優勝」の味は、ひとしおだったに違いありません。
ちなみに下世話な話ですが、今回の琢磨選手の賞金総額は137万500ドル(約1億4500万円)。当初は過去最高の賞金総額が予定されていて、2017年に優勝した琢磨選手の獲得賞金約2億7000万円を超える予定だったそうです。しかし、このコロナ禍で優勝賞金は約半減。それでも1億円超えなのは、やっぱり凄い! 凄すぎる!
それは長年、琢磨選手を応援しているファンの方にとっても、うれしい出来事だったに違いありません。琢磨選手と言えば恐らく今、日本で最も人気のあるレーシングドライバーだと思われますが、その人気の秘密は爽やかなルックスはもちろん、礼儀正しい好青年(好中高年!?)、さらに頭脳明晰ある点ではないでしょうか。
2017年の凱旋帰国のときにホンダの青山本社ビルで開催された優勝報告会でもそうですが、数年前に琢磨選手のファンクラブミーティング取材に行ったときに、全てのレースで何周目にどこで何が起きたかを全て記憶されていて、それをわかりやすく説明してくれることに驚きました。恐るべき記憶力。
そして何より最大の魅力は、どこまでも攻めて、決して諦めない「サムライ魂」であり、「No attack No chance」の精神です。しかし、ときにはやりすぎて失敗することも…。F1に参戦していた時代、私が取材したモナコグランプリでは、私の目の前でクラッシュしてマシンを止めたことがありました。常に一つでも上の順位を、いえ常に優勝を目指してアタック、アタック、アタック。その諦めない姿勢と、そこに結果が伴っていることも、ファンを魅了している秘訣かもしれません。
そんな琢磨選手は、2011年東日本大震災で被災された方々に長期的な支援を目指して活動を行う「With you Japan プロジェクト」に参画しています。さらに、その一環として「モータースポーツの楽しさを通じて、復興地を応援しよう!」という思いのもと、小学生向けのカートレース「TAKUMA KIDS KART CHALLENGE(タクマ・キッズ・カート・チャレンジ)」の活動を2014年から行っています。
そして今年のインディ500優勝後のセレモニーの際に、両手をV字に広げ、左足を上げる“グリコのポーズ”を決めたのは、この「With you Japanプロジェクト」のスポンサーであり、琢磨選手のパーソナルスポンサーでもある江崎グリコさんへの配慮だったようです。
それにしても、インディ500のレースで1度のみならず2度の優勝を果たした佐藤琢磨選手。これはゴルフの渋野日向子選手が「AIG女子オープン(全英女子)」で、2度優勝したようなもの(ちなみに渋野選手の2020年同大会の成績は105位タイでした)。しかも、43歳という年齢で! 日本の元気なミドル世代にも夢と勇気を与えてくれるこの快挙を、日本人の活躍を、もっと認めてもらっても良いと思いますし、これは国民栄誉賞レベルの功績ではないかと私は思うのですが…いかがでしょうか?
少なくとも「エスクァイア日本版」読者の皆さんには、ぜひこの活躍についてもっと知っていただきたいなと思います。そして、これからも琢磨選手の活躍から目が離せません!
カーライフ・エッセイスト
吉田由美
2月23日、岩手県生まれ。短大在学中に「ミス渋谷」、「ミス・チェッカーモータース」、「準ミス・エチュード」など、10個以上のミスコンタイトルを受賞。卒業後、本格的にモデル活動をはじめる。1998年より、モデル業とともに日産ドライビングパークで、セーフティ・ドライビング(安全運転講習)のインストラクターに。3年間務めた後、現在は「カーライフ・エッセイスト」として、著書、雑誌、ブログなどの執筆活動を行っている。