オミクロン株によって、アメリカの感染率は瞬く間に増大。あまりに感染者が増えたので、NY州では1月11日には濃厚接触者の追跡を中止したほどだ。全米ではオミクロン株が98%を占めるようになって、新規感染者の数は過去最多の140万人を超えた。
ニューヨーク州では一時期、陽性率が30%を超え、すなわち3人にひとりは感染しているような事態となった。実際にこれがどんな感じかというと、周囲で感染した人がめずらしくなり、職場や学校での陽性報告が毎日あるようになる。今回は子どもの入院数が急激に増えたのが特徴であり、学校での感染例があいついだ。
しかしながら、症状はまちまちで陽性となるものの、無症状というケースもある。一日だけ微熱が出たり、鼻風邪程度で終わったりするケースもあれば、一週間以上高熱に苦しめられ、回復後も息苦しいといった後遺症が長く続くケースもある。
公衆衛生の専門家であるシュレルさん(30歳)は、すでに2021年1月に感染、その後ワクチンも打ち、ブースターショットも打ったが、また今回のオミクロン波で感染。ただしまったく無症状だったという。
「今回の感染で重症化しているのは、ワクチンを打っていない人たち。また、そこでウィルスが変化して、オミクロンとデルタが合体した株も出ています」と言う。
つまり、ブースターを打っていても感染はするのだが、ワクチンを打っていることで重症化を防ぐことはできるのは確実らしい。
ニューヨークではレストランがクローズすることもなく、営業時短という規制も取られないまま過去最高の感染者数をはじき出したが、1月下旬にピークに達して感染者数は減ってきている。
2022年1月29日時点でニューヨーク市の新規感染者が4600人となり、マンハッタン内の陽性者率は3.06%となった。オミクロン株は感染拡大が急激だが、ピークに達して下がるのも早いと言えそうだ。
また米政府は、1月18日から家庭で検査できるコロナテストキットを無料で配布するサービスを始めた。これは郵便局を通じてリクエストを送り、配達してもらえるというシステムで、手続きもオンラインですぐ済み、とても便利だ。「N95」マスクも4億枚無料配布される。
一方、感染拡大とともに懸念されているのが犯罪で、1月15日にミッシェル・ゴー(Michelle Alyssa Go)さん(40歳)が、タイムズスクエア駅で地下鉄がホームに入ってくるタイミングでホームレスにいきなり突きとばされて、即死するという凄惨な殺人事件が起きた。彼女はファイナンシャル業界で働くコンサルで、犯行も朝9時半という通勤時間帯だった。
逮捕された犯人は犯罪歴があり、精神病をわずらっている人物であり、逮捕時にも舌を突きだしてみせ、反省の色は見られなかった。
ミッシェルさんはホームレスを助ける人道ボランティアを行っていたというのが、なんとも悲しく気の毒すぎる事件だ。
就任してまもないエリック・アダムス市長と共にタイムズスクエアでは、黙祷の灯が掲げられた。交通にまつわる犯罪は前年に比べて65%アップしている。
ニューヨークではもはや地下鉄のホームで端に立つ人がいなくなっているが、事件の一週間後にも、また地下鉄ホームへの突き落とし事件が起きており、市警の対策強化が望まれている。
さて今回は、アメリカで昨年暮れから話題になっているゴシップで、ひとつ気になるトピックを取りあげたい。
コメディアンのピート・デヴィッドソンが、離婚後のキム・カーダシアンとデートしているという件だ。ピートが今いちばんモテる男性だというところに、面白い時代の変化が表れているので分析してみたい。
まずピート・デヴィッドソン(27歳)とは誰か。彼は「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」から出たスターで、炎上すれすれの辛辣なジョークをいうスタンダップコメディアンとして頭角をあらわした。生粋のニューヨーカーで、スタテンアイランド生まれだ。
2017年アリアナ・グランデが英国マンチェスターで行ったコンサートでは自爆テロが起こり、23名が亡くなる悲劇があったが、「アリアナは自分が有名になったかを実感しただろうね、ブリトニー・スピアーズのコンサートではテロは起きたことがないから」というジョークを言ったことで、遺族感情を傷つけたと、激しい非難を浴びた。
もっともピート自身がテロの遺族であり、2001年の「9.11」では、消防士として働いていた父親が救助作業中に亡くなったという背景の持ち主だ。父親を亡くした当時は7歳。そうしたトラウマから、トラブルティーンエイジャーとしてアルコールやドラッグに溺れた時期を持つ。
そのピートが当のアリアナ・グランデと婚約したのが、翌年2018年のこと。しかもすぐに解消した。彼はこのゴシップで全米に知られるようになった。そしてその後の恋愛遍歴がすごい。
2019年はじめには、女優のケイト・ベッキンセイルとゴールデングローブ賞のアフターパーティで知り合い、恋人関係に。ケイトは当時46歳であり、ピートよりも20歳年上ということで、世間で話題を生んだ。
その年の差問題について、ピートは「サタデー・ナイト・ライブ」でこのようにコメントした。
「もし年齢差がある恋愛に関して質問がある場合は、レオナルド・ディカプリオやジェイソン・ステイサム、そしてマイケル・ダグラスやリチャード・ギアに聞いてみてください」
男性が若い女性とつきあってもふしぎがられないのに、男性が20歳上の女性とつきあうと驚かれる。そのジェンダーギャップについて、鮮やかに切り返してみせたのだった。
そのケイト・ベッキンセイルとは長くは続かずに、次に付き合ったのが、新進女優のマーガレット・クアリーだ。母親が女優のアンディ・マクダウェルというサラブレッドであり、タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でスターダムに踊り出た。交際が始まったのは、ヴェネチア国際映画祭でのことだったが、2カ月ほどで関係は終わる。
次に注目を集めたのが、スーパーモデル、カイア・ガーバーとの交際だ。カイアも母親がかつてのスーパーモデル、シンディ・クロフォードという、これまたサラブレッドであり、モード界の超新星だ。
カイアとの交際も数カ月で終わり、同年にピートはメンタルヘルスの治療のため、リハビリ入りをした。
そして2021年春に、ピートが噂になったのが、ネットフリックスの『ブリジャートン家』で一躍スターダムに踊り出た女優、フィービー・ディネヴァーだ。よくぞ旬の女優やモデルばかりと付き合えるものだと驚くしかない。
しかも、別れた女性たちから悪口が聞こえないのは、性格的に良い人物なのだろうし、ふたまたをかけるといったズルがなく、誰かと付き合っているときはその一人と付き合い、ケンカ別れにならないのだろうとも推察できる。
そして2021年10月から世間を騒がしているのが、「Ye(イェ)」(2018年からステージネームとして使用していたこの名〈※ミドルネーム、ファミリーネームはなく、「Ye」がフルネーム〉に改名することを、2021年10月にロサンゼルスの裁判所が承認。ちなみに出生名は、「Kanye Omari West(カニエ・オマリ・ウェスト)」)に改名したカニエ・ウエスト(以下、カニエで統一)と離婚したキム・カーダシアンと、デートを始めたことだ。ピートよりキムのほうが、14歳ほど年上という年齢差カップルとなる。
いったなぜ、そんなにピートがもてるのか?
ずばぬけたハンサムでもなければ、全盛期のジム・キャリーのようにコメディアンとして大成功して稼いでいるわけでもない。
これはアメリカでもよく話題になるところなのだが、モデルのエミリー・ラタコウスキーはセス・メイヤーズ司会のレイトナイトショーでこう答えている。
「他の男性だけが、『なんであいつがモテるんだ?』というのだと思う。私にしたら、彼はとても魅力的。脆くて、愛嬌があって、爪がよく手入れされていて、とてもステキに見える。そして、お母さんといい関係を保っている。そういう男性を見つけるのは困難よ」
興味深いのは、ここで“ vulnerable”という言葉を使っていることで、これは「無防備で弱い」「脆い」「弱みがある」「すぐにやられてしまう」といった意味になる。ふつう男性の魅力を表すのに使う Tough (強い)とは正反対の表現で、褒めているのがポイントだ。
ピート本人はメンタルをわずらっていた時期があり、リハブに行ったことやドラッグなどの問題についてもオープンに語っていることから、自分の弱さをさらけ出せる人間、そしておそらく、他人の弱さも理解できるのではないかと推察できる。
また、ピートのファッションスタイルも今どきらしい。
上の写真は、ピートが「ジミー・ファロンのトゥナイト・ショー(Tonight show with Jimmy Fallon)」に出演したときの服装だが、ダサかわいい猫Tシャツに花柄のパンツ、オモチャのようなネックレスと、まさしくKawaii スタイルを取りいれたコーディネートだ。
また彼はマニキュアも愛用していて、メットガラでは、トム・ブラウンのスカートスーツに、黒いマニキュアを施したスタイルを披露してみせた。今どきらしいジェンダーレスなスタイルを好んでいるのがわかる。
彼自身はペーパーマガジンの取材に、「ぼくは誰かと付き合っているときは、相手をプリンセスのように対応する。もし誰かと関係を持つなら、その人を特別な存在に感じさせてあげるべきだ」と答えている。
掲示板のRedditでは「なぜピートがモテるのか?」という題目に、さまざまな人がコメントを載せていたが、うまい表現だと思ったコメントがあった。
「彼は、女の子のバッグを持つのもためらわないタイプに見える」
つまり、ガールフレンドがトイレに行ったり、試着室に行ったりする時に、彼女のバッグを持つのを嫌がらないように見えるということだ。これは意外とアメリカの男性にとっては「みっともないと感じる」案件のようで、10年前のTVコマーシャルにはこんなものまであった。
つまり、10年前まではアメリカでも「男が女モノのバッグを持つのはみっともない」派に賛同が集まっていたのだ。その理想の男性像は、ハリウッド映画にも如実にあらわれている。
ハリウッド映画を牽引してきたのは、“アルファメイル(alpha male)”、すなわち「群の中でリーダーになるような男性」だ。例えばハリソン・フォードやブルース・ウィリス、トム・クルーズやレオナルド・ディカプリオ、あるいはマット・デイモンらは当たり前に、どんな危機にあっても世界を守ってくれそうなキャラだと言える。
そして前述のスターたちで想像してみれば、確か女の子のバッグを持つのは似合わない感じがある。例えばトム・クルーズにバッグを持たせるのは似合わないし、また女性のトイレや試着を待っているというのもあり得ない。それが今どきの人気俳優を見ていくと、かなり雰囲気が変わってきているのに気づくはずだ。
例えばアダム・ドライバー。元アメリカ海兵隊員であるというハードな経歴を持ちながら、一方で「思い悩む」「アンビバレンツ」なキャラを演じたら、これほどうまい人もいないわけで、彼になると妻のバッグを持っているのも容易に想像できる。
彼であれば、トイレの前で女性モノのバッグを持ちながら、なにやらあれこれと思索にふけっている個性的なキャラクターが浮かんできそうだ。
ライアン・レイノルズもアクション映画のスターをこなしながら、人を煙に巻くような独特のジョークのセンスとあいまって、いわば「偉くなさそうな」雰囲気のあるスターだ。例えば、彼が妻のブレイク・ライヴリーのバッグを持っているというのは想像できるだろうか? 簡単に想像できるはずだ。
さらに若いスターを観ると、大きく様相が変化している。
例えば、同性愛の少年を演じてスターダムに上がったティモシー・シャラメ。線の細いスパイダーマンを演じたトム・ホランド。レディースの服を着てヴォーグ誌に登場したハリー・スタイルズ。
トム・ホランドにおいては人気絶頂期でありながら、「家庭をつくりたいから」と仕事を休業する宣言をしており、かつての世代には考えられないライフワークバランスを持っている。
ハリー・スタイルズに至っては、ガールフレンドのバッグを持っていても、自分のバッグのようにしか見えないだろう。
現代のハリウッドの稼ぎ頭は、アクション俳優のドウェイン・ジョンソン(The Rock)であり、アルファメイルが主流ではあっても、「今までにはないタイプ」が出てきていることはよくわかる。
またRedditでは、こんな面白い意見もあった。
「(ピートは)2番手の男って感じ。例えば韓ドラを観ていると、大抵イケメンの主人公がいて、でも、そいつはヒロインに冷たいイヤなヤツなんだよね。一方、それほど魅力的じゃないけど、やさしくて、ヒロインを大切にする男がいて、観ているほうはその男を応援する。でも、最後にヒロインはそのイヤなヤツとまとまったりするんだけどね(笑)」
これを聞いて「ある、ある…」と思い当たるのではないだろうか。“リーダー”や“アルファメイル”やズバ抜けたイケメンというよりも二番手の男性で、でも、ヒロインを大切にしてくれて人柄もいいキャラクター。
これらの印象を総合してみると、面白くて、ウソがなくて、相手に対し大切に思いながら接し、自分の弱さも認められる男性がいれば、それは女性に好かれるだろうと容易に想像できる。
キム・カーダシアンという、どう転んでもゴシップの的になる火中の栗に手を出して、ごく自然につき合い出すあたり、ピートも相当に神経がず太いとは言える。
ふたりは、ピザを食べるようなカジュアルなデートをしているところが目撃されているが、昨年末、映画館でデートをしていたキムに対して、カニエのファンである一般人が「カニエのほうがずっといいだろ」と叫んだ事件が起きた。
これは二人に対して失礼であるだけでなく、女性蔑視のあらわれでもある。例えばジェフ・べゾスに対して面と向かって、「正直、前の奥さんのほうが良かったですよね」という人はいないだろう。また、カニエ自身が新しいガールフレンドを伴っていても、「キムのほうがずっとマシ」という言葉を浴びせるキムのファンもいない。
ところが自分がカニエのファンなのだから、ボスのために何か言ってやっていいのだと思っているとしたら、女性蔑視に他ならない。一方、カニエ・ウエストのほうは、子どもたちに会えるように、キム・カーダシアンの家のすぐ前に住宅を購入した。
さらに若い女優、ジュリア・フォックスと交際を始めている。デートの後にホテルに戻ると、スイートの部屋いっぱいに、カニエからのギフトとしてジュリアのための服が並べられていたという。
「まるでシンデレラになったみたい」とジュリアは喜んでいて、本人がうれしいのだからかまわないのだが、ハタから見るとカニエの支配欲が強いのがわかって恐ろしい。
パリ・メンズ・ファッション・ウイーク最終日には、NIGO®の手がける『ケンゾー(KENZO)』がコレクションのランウェイを打ったが、そのフロントローにカニエとジュリアもデニムのペアルックで登場した。
さらに『スキャパレリ』のクチュールコレクションにも、二人はブラックのレザーに身を包んで登場。しかもカニエはちょうどキムがメットガラで見せたように、黒い布で顔を包んでいるという奇抜な装いだった。
誰が見てもジュリア・フォックスは「キムみたい」に映り、前妻そっくりの恰好をさせるあたり、カニエの徹底した美意識というのか、コントロールフリークぶりがうかがえる。
またカニエは、新曲の中でキムが自分を家に入れないことをラップにして歌っていて、「ピート・デヴィッドソンのことをぶん殴れるように、神は俺を救ってくれた〈God saved me from that crash just so i can beat pete davidson's ass(who?)〉(およそ2:36あたりから…)」という歌詞が出てくる。
また、キムの子育てについても「ナニーよりも本当の家族が大事〈I got love for the nannies, but real family is better〉(およそ2:12あたりから…)」とかなり批判的な歌詞が出てくる。これではキムもうんざりしてしまうだろう。
そのカニエの批判に対して、ピートのほうが返した言葉が、「おれはゴミための中のダイアモンドなんだ」というセリフで、これがまたカニエの怒りをかきたてそうだ。
彼らの関係がどうなるにせよ、今やアルファメイルよりは「二番手」の男性に人気が移っている時代であり、それが如実にあらわれた人間模様となっている。
「共感力」や「弱さ」を持った男性像が好かれる時代に、力をふりかざす「ボス」たちはどうなっていくのだろうか。
黒部エリ
Ellie Kurobe-Rozie
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。『Hot-Dog-Express』で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYに移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続けている。著書に『生にゅー! 生で伝えるニューヨーク通信』など。