「インボイス制度」の実態は

来年、2023年10月からインボイス制度が導入される。この制度は、中小・零細事業者、いわゆるフリーランスと呼ばれる個人事業主に多大な影響を与えるものであり、地域経済の破壊、ひいてはこの国の社会経済の基盤をも崩しかねないものである。しかし、その実態はおろか、制度の概要についてすら多くの国民に知られていないというのが実情である。

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STOP! インボイス
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そうした中で、インボイスの導入による影響を直接、モロに受けることになるフリーランス事業者や税理士を中心に、まずはその制度の実態をより多くの人に知ってもらい、制度の導入阻止につなげるべく、「STOP!インボイス」が結成された。これまで同団体は、インターネットなどで積極的な問題提起や周知活動、与野党を問わず国会議員への働きかけ等を行ってきた。筆者も、自らのYouTubeチャンネル「霞が関リークス」での団体関係者との対談動画の収録・配信や、同団体によるインターネットラジオへの出演等、微力ながら支援・協力を行ってきた。

去る10月26日、同団体による大規模な集会として「STOP!インボイス日比谷MEETING」が東京都千代田区の日比谷公園の野外音楽堂において開催された。この集会に筆者もゲスト・スピーカーとしてお声がけをいただき参加し、インボイスの問題点について発言してきた。もっとも発言時間が限られていたので、網羅的に解説することは困難であった。そこで、本稿において、インボイス制度とは何であり、何が大いなる問題であるのかについて解説することとしたい。

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財務省栄えて国滅ぶ|恐るべきインボイス制度の闇(佐伯和雅×阿部伸×室伏謙一)
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インボイス制度とは正確には適格請求書等保存方式であり、「仕入税額控除制度の適用を受けるために、原則として、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書又は適格簡易請求書の保存が必要」とされ、そうした「適格請求書等を交付しようとする課税事業者は、あらかじめ適格請求書発行事業者の登録を受ける必要がある」というもの(財務省「令和4年度税制改正の解説」中、「消費税法等の改正」より)。

つまり、仕入税額控除を受けたいのであれば、適格請求書発行事業者の登録を受けなければいけないということなのだが、この適格請求書発行事業者の登録というのがくせもので、その登録は、なんと課税事業者であることが前提とされている。消費税については、年間の売上高が1000万円以下の事業者については納税義務が免除されている。ところが、適格請求書を発行するためには、納税義務が免除されている事業者であっても、消費税の課税事業者とならなければならないのである(財務省も先に引用した解説において、「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には課税事業者となる必要がある」とはっきりと記載している)。

課税事業者は、当然のことながら仕入税額控除を受けたいわけであるから、取引先には適格請求書の発行を求めることになる。しかし、免税事業者であれば、その発行ができない。ということになると、免税事業者との取引を避けるようになるか、取引先の免税事業者に発行事業者としての登録をするように求めるか、ということになる。取引を継続したい免税事業者は発行事業者としての登録を受ける、すなわち消費税課税事業者となるという選択肢を選ばなければならなくなる。

しかし、免税事業者は売上高が1000万円以下の事業者であり、消費税法においても免税事業者については「小規模事業者」と規定されている事業者である。その少ない売り上げの中から10%を徴税されることになるわけであり、売り上げは減少するわけであるから、打撃は少なくない(無論、小規模事業者も仕入税額控除の適用を受けることができるわけであるから、売り上げ全体に対して10%徴税されるわけではないが)。

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そんなことは冗談ではない、あくまでも免税事業者でいようということになれば、適格請求書の発行ができなくなり、当該請求書を求める取引先からは取引を停止させられる可能性も出てくるし、新たな取引を始めようとしても、適格請求書発行事業者ではないことを理由として取引を断られることになるかもしれない。そうなれば、売り上げは減少し、小規模事業者は窮地に立たされることになる。

つまり、インボイス制度の導入は、「小規模事業者に係る納税義務の免除」の規定、すなわち売上高1000万円以下の事業者の免税規定を事実上空文化させることになるということである。ということは、売上高にかかわらず、事実上全ての事業者が消費税の納税義務者になるということであり、そこに本制度導入にいそしむ財務省の本当の意図があるのではないか。

加えて、適格請求書発行事業者との取引が半ば強制されることにもなりかねず、そうなれば近代法の原則であり、民法にも規定された契約自由の原則に反することになる。

これほどにこの制度は問題が多いばかりでなく、我が国社会経済に大きな影響、悪影響を及ぼすものなのである(岸田政権はスタートアップを増やそうとしているが創業当初はその多くが小規模事業者であり、そうした事業者の少ない売り上げから消費税を巻き上げようというのは、自らの政策に冷や水を浴びせかけるようなことなのではないか)。

そもそも中身がわかりにくいインボイス制度

しかし、ここまで拙稿を読まれた読者の中で、こうしたインボイスに関する事実をご存じだった方はどのくらいおられるだろうか?関心の高い方は既にいろいろと調べられたり、勉強されたりしているかもしれないが、多くの方がこうした事実や、自分たちへの影響等についてご存じなかったのではないだろうか。

その背景としては、「インボイス」というわかりにくい、具体的中身が見えないカタカナ語によって、その実態が誤魔化されてきたことがあるだろう。単にインボイスとだけ聞くと、「ただの請求書でしょ」と思ってしまう人が少なくないようで、筆者もある友人にこの話をしていたときの反応がまさにこれだった。つまりは、こうすることで危機感を持たせない、中身を知らせずにシラーッと導入してしまおうとしてきたということだろう。

インボイス
Halfpoint//Getty Images
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いや、そうはいっても消費税は消費者が負担して、事業者はそれを預かっているだけで、本来国に納めるべきものなのだから、全事業者が納税して当然ではないか、という意見も聞かれるようになっているし、そう考えている国民は少なくないだろう。しかし、これは誤った理解である。消費税の納税義務者はあくまでも事業者であって、消費者ではない。何かモノを購入するときの消費税はあくまでも価格の一部を構成するものでしかなく、消費者が消費税を直接的に払っている、直接的に負担しているわけではない(別の言い方をすれば、消費税分価格が上がっているということである)。

したがって、かつて言われたような消費者からの「預かり金」ではない。十数年前だったか国税庁は、消費税は消費者からの預かり金であると誤認させる、うそのポスターやCMを作って、そのうそを流布させていたが、国会での指摘や消費税を巡る訴訟での確定判決を受けて、シラッとやめてしまった(だいたい「預かり金」ということであれば事業者が徴税義務者ということになり、国から徴税の業務を任されているということなってしまう。その根拠となるような規定は当然消費税法には見当たらない)。そもそも消費税法第5条には事業者が納税義務者である旨記載されている。

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それにもかかわらず、財務省は「預かり金」といううそを積極的に訂正するようなことはせず、そのまま放置し続けている。国民が勘違いして「俺たちが払った消費税を納めない事業者はとんでもない。インボイス導入で全員払え」という方向に持っていこうとしているかのようだ。極めて悪質な話である。

そもそも消費税は社会保障のためだけの税制ではなく、何にでも使える便利な第二の「サイフ」としての「第二法人税」か「第二事業税」のようなものであり、極めてタチの悪い税制と言っていいだろう(そもそも税は財源ではないのであるが、そのことについての詳細な解説は別稿に譲りたい)。

社会保障のためだけではないと書いたのは、消費税法においては消費税の使途も目的も法定されておらず、「趣旨等」として想定される使途の例が記載されているだけ。だいたい社会保障のための財源というのであれば消費税を全て繰り入れる特別会計が存在しなければならないが、そうしたものはない。実際、安倍首相(当時)も、第198回国会(常会)の施政方針演説において、消費税率を5%から8%に引き上げた際に、増税分の5分の4を国債の償還に充てていたことを明言し、これを反省して使途を見直すと述べている。

要するに、インボイス制度以前に消費税自体が極めてタチが悪く問題のある制度ということであり、その悪い制度の悪さをさらに拡大するのがインボイス制度であると言ってもいいだろう。本来は消費税自体が廃止されるべきであるが、少なくとも、百害あって一利なしのインボイス制度、適格請求書等保存方式は「絶対に導入させてはいけないもの」だと筆者は考えている。

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