異分野との革新的な共創で注目を集める建築家の谷尻 誠さん。今秋、土地の開墾からスタートしたのは、出身地である広島の離島だ。

枠にとらわれない発想で建築界に新風をもたらしている谷尻誠。出身地である広島で、無農薬無肥料の畑作りを行う原点回帰のサポートを得て、新時代のステイ施設を創生する。

水があればなんとかなる。絶景の場所をセレクト

プライベートビーチを見晴らす島で、仲間と土地を開墾する。建築家の谷尻 誠さんが今年新たな拠点に選んだのは広島県尾道市の離島、岩子島。「広島に人が来てもらえるような場所作りがしたいと考えていて、土地を探していました。条件は眼前に海があり、井戸水があること。水があればなんとかなると思います」。

土地を整備する谷尻誠
Hideyuki Kon
自らも体を動かしDAICHI予定地を整備

出身地である広島では今秋、平和公園付近に事務所が入居する小規模商業施設「猫屋町ビルヂング」も開業した谷尻さん。近年は建築設計のほか自然豊かな環境での企画開発を手がける「DAICHI」を展開し、この離島では自家農場のある施設を設計予定だ。

瀬戸内海を見晴らせる絶景
Hideyuki Kon
瀬戸内海を見晴らせる絶景の場所がDAICHIの建築予定地

農の原点に立ち返る

daichi予定地を整備する男性
Hideyuki Kon

農地作りには、俳優の山田孝之さん率いる「原点回帰」が参画。耕作放棄地を畑に変え、無農薬無肥料有機栽培に取り組むコミュニティである。

柑橘を手にする谷尻誠
Hideyuki Kon
「有機レモンサワーを飲みたい。サウナの後に、海に飛び込むと最高に気持ちいいので、今から施設完成が楽しみです」(谷尻さん)

谷尻さんはここでの開発方針を「人の手と自然の力を信じて、できるだけ環境に負荷をかけない方法で行う」と話す。井戸を利用して、夏は冷水で空間を冷やす構造や断熱機能を整え、まきストーブや五右衛門風呂など、すでにあるエネルギーを活用していくそうだ。

チェーンソーを操るヒャクタロウさん
Hideyuki Kon
日本中の「原点回帰」の畑を飛び回るヒャクタロウさん

自然の中での活動に目覚めたのは、原点回帰のプロデューサーで副帰長のヒャクタロウさんからキャンプに誘われたのがきっかけだとか。東京のパーティで同席したのが出会いで、都会で多忙な生活を送ってきたふたりは意気投合し、谷尻さんもアウトドアライフに引かれていったという。

広島に人が来てもらえるような場所づくりがしたい。人の手と、この地の自然の力を信じて、環境に負荷をかけない開発を目指します

瀬戸内海を背に立つ谷尻誠
Hideyuki Kon

「少年時代は川で魚を釣り、山を走り回っていましたが、東京では仕事ばかりで、野性の部分はおいてけぼりになっていた。野外でサウナに入ると頭がさえ渡るし、いい空気の中でのご飯のおいしいこと。キャンプに行くと、不便で思いどおりにならないことだらけですが、いつも感動がある。ホテルのようなサービスや空調がないことも、学びの体験になるんだと思いました」。そして休暇にはアクティブレストを心がける。「休日にだらだら過ごすと週明けがかえってつらくなる。週末に野外で遊ぶほど活力が出て、仕事が楽しくなり、ビジネスがうまくいくように感じます」

自然に溶け込むラグジュアリーを提案するDAICHI

daichiの最近の建物
©DAICHI
谷尻 誠のDAICHI 自然環境を生かして、宿泊、商業、スパ、サウナなどの企画開発および運営、地域ブランディングなどを手がける。自然に溶け込む設計で新しい能動的なラグジュアリーのあり方を提案。

岩子島の開拓は初のDAICHIと原点回帰のコラボ。その共創への思いとは?「建築でハードを作り、原点回帰はソフト。建物がよくてもいい体験ができなかったらただの箱。今後はシェフが滞在するシェフインレジデンスも計画中です。将来、自給自足ができる環境作りができたら、未来のケアホームにもなり得る。今未来の楽しみづくりをしています」

谷尻誠
Hideyuki Kon

谷尻 誠

1974年 広島生まれ。2000年建築設計事務所、SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。広島・東京を拠点にインテリア、住宅、複合施設など幅広く手がける。近年「絶景不動産」「DAICHI」「yado」など多分野で開業し、事業と設計をブリッジさせて活動。

原点回帰とは

山田孝之
©Esquire
「原点回帰」を率いる山田孝之。
2021年公開のYouTube動画、山田孝之「人じゃなく地球のペースに合わせる 原点回帰から生きる意味を見つめ直す」もご覧ください。

山田孝之(帰長)が“生きるためのスキル”を学び、メンバーと共有するオンラインコミュニティ。各ジャンルの達人の下、野菜作りは無農薬無肥料固定種自然栽培にこだわるなど、古来の文化を継承する循環型ライフスタイルをオン、オフライン両方で学ぶ。現在、全国15以上で全国のメンバー(帰人)と農作業などに参加でき、サイトでは専用のストアも利用できる。新たに10月14日よりメンバーを募集。今回取材した尾道での開拓、および全国での活動にご興味のある方はHPの詳細を。

gentenkaiki.jp/

Text & Editing / Ryoko Kurobe

※この記事は、発売中の『エスクァイア・ザ・ビッグ・ブラック・ブック』Fall/ Winter 2023号の抜粋です。