ロサンゼルスを拠点に活躍する俳優マット・ボマー。彼は自身を評して「ファッションに詳しいほうではない」と言っていますが、話を聞く限りそんなことはありません。

現地時間2024年1月20日(土)に行われたロエベの2024年秋冬コレクションショーでは、クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソンの最新作をフロントロウで見つめる豪華俳優陣(ハリウッドにおけるトップクラスの男性俳優の半分が出席していた印象を筆者ジョナサン・エヴァンスは受けました)の中に、マット・ボマーの姿もありました。

そして彼は、その翌日に現地パリから電話をくれました。

“アートとスタイルの
完璧な融合――”

ボマーはこのショーについて、そう語りました。今シーズンのコレクションは、米国人アーティスト、リチャード・ホーキンスのアートから大きな着想を得たもので、ショーの中でもホーキンスの大型コラージュ作品が展示されていました。

さらにボマーは、次のように語っています。

「壁のコラージュ作品を体現したモデルが音楽に合わせて躍動し、全てが混然一体となって素晴らしい雰囲気をつくり上げていました。ジョナサンの制作意図は、そのエネルギーと興奮の中にはっきりと見ることができ、まるでビートルズのコンサート会場にいるかのように思えました」

電話で話したのは夕刻だったのですが、ボマーは現地パリでの貴重な一人の自由時間(パートナーと子どもたちはニューヨーク)の中で時間を割いてくれました。フレンチディナーの予定がすぐ後に控えているにも関わらず、ファッション・ウィークに参加したことや私生活のスタイルに関する大きな心境の変化、最近や今後の仕事などについてゆっくり語ってくれました。

それでは、この興味深いインタビューのハイライトをお届けします。

matt bomer
Luca Strano

ロエベのデザイナー
ジョナサン・アンダーソン
その世界について

ボマー:彼のデザインは大胆で、手を出すのに気が引けてしまうような憧れの服ですが、意外にも着こなしやすく、かつアーティスティックな雰囲気をまとうことができます。

例えばサングラスは、ピカソの抽象的なデザインに通じるものがありますね。常に視線は未来に向けつつも、過去の芸術や歴史の価値も大切にする……。

今回のコレクションでも、チェックやアーガイルなど、とても親しみがあるというか、ノスタルジー的なものを感じるパターンが登場しています。ですが、ただノスタルジックなだけでなく、独創的で新鮮。未来的な思考で完成されていると感じました。彼の仕事がエキサイティングなのは、まさにそういった部分だと思います。

ショーでの装いについて

ボマー:私はこれまでずっと、ショーウィンドウの中の服を観て、「ああ、とても素敵だな。でも、自分で着ることはできないな」と思ってしまうようなタイプでした。ですが、このコレクションにはどこか自分にしっくりくるものを見つけることができました。中でもセーラーパンツタイプのハイウエストデニムは、特に…。

高校生の頃、陸軍や海軍の払い下げ品を扱うストアに行って、こういうタイプのジーンズを気に入って買っていました。学校で『南太平洋』の劇を上演したこともあって、セーラータイプのジーンズが好きになり、通学にはそれをはいていたものです。

他にもボンバージャケットや着用しているアーガイルセーター、ブーツなども、全て私の好みでした。

matt bomer
Luca Strano

仕事用と実生活の
スタイルの違いについて

ボマー:全く違いますね。ちょっと言いにくいのですが、私生活ではかなり実用性重視です。常に子どもたちを朝学校に送っていくことを第一に考えているので、L.A.の多くの住民と同じで、一番快適で、送り迎えに最適なアスレジャーに落ち着いていました。

でも1年くらい前にふと、自分のクローゼットを見て、「素敵な服をこんなに持っている」と再確認できましたので、ときにはちょっとお洒落するようになったという感じです。もちろん、人と会うときはいつも、自分なりにドレスアップしますよ。かなりファッション上級者の友人もいるので、彼らとあまりかけ離れないようにしないといけませんから…。

次世代の若者の手本として

ボマー:つい先週、ディナーの約束があったのでドレスアップしていたら、息子の一人が私に「そんなきちんとした格好して、今夜はどこに行くの?」と言ってきました。そのとき、とてもドキっとしましたね。

「ああ、この子の目から見ると、夜に家にいるときの私のスタイルはかなり期待の低いものだったんだなぁ」と…。

matt bomer getting his hair dried
Luca Strano

ファッションを
楽しむことについて

ボマー:私はずっと名優ポール・ニューマンのように、「20年先にもクラシックに見えるような、プレッピーモダンの定番を着ること」にこだわってきました。でもコロナ禍を経て、私の中の何かが急に声を上げたのです。

「そうだ、カラーで遊んでみてはどうだろう。ブラックは置いておいて、冒険してもいいんじゃないか? 『着たい』と思ったものを着よう。それがいかにも2024年のトレンドだったとしてもいいじゃないか。人生の長さは神様にしかわからない。今を楽しんで生きよう」って思うようになりました。

私のスタイリスト、ウォーレン・アルフィー・ベイカーはすごい人で、私が自分の“コンフォートゾーン”から抜け出すのを非常によく助けてくれました。私はただ、自分の気分が上がる装いをしたかったのです。(この業界のイベントは)もちろん素晴らしいもので、仲間を祝福したり、出会いや再会があったり、栄誉ある賞を受賞したりする格調高い場です。なので、ときには少し堅苦しく神妙な雰囲気になることもあるものです。

なので、「レッドカーペット上にも楽しい雰囲気を取り入れ、うれしい気持ち、この上なく幸せな気持ちに素直になって、そういう雰囲気を会場内に持ち込んでもいいんじゃないか 」って思うようになりました。

「一流俳優」という
概念について思うこと

ボマー:正直なところ、最近ははっきりわからなくなっています。かつてのハリウッドでは、「一流の男性俳優とは」という概念が非常に明確に見えていた時代があったと思います。今回のコレクションの多くはその逆で、「現代の男らしさとは何か?」という問題を提起するもの。なので、とても興味深いものでした。

私たちがまさに、こうしたトップ俳優という概念を完全に再構築している世代と言っていいかもしれませんね。トップ俳優の定義というものは、もしかしたら「特定のジャンルを望んで演じる人々がいて、その人たちのカリスマ的な個性がどの役にも反映され、その役の人間の内面や人生が常に同じ…ということではないか?」って思ったりもします。それは実際、表現者としての私にとっては興味深いものではありません。

私も俳優ですので、仕事だと割り切って演じなくてはならないことは常にあります。でも、もし選択することが許されるなら、私はいつも「自分が何を恐れているのか? まだやったことのないことは何かないのか? できるかどうか自信がないことは何か?」と探求心とともに考えるようにしています。

一般的に、そのような要素がある役であればあるほど、またその程度が大きければ大きいほど、厳しい試練の連続になることはわかっています。が、その経験で得られる達成感はより大きいなものであることを知っていますので…。

matt bomer
Luca Strano

若さを保つ秘訣は?

ボマー:テキサスで幼少期を過ごした私は、日焼け止めを使っていなかったか、塗ったとしても十分ではなかった…と思います。だから20代前半のある時期に、ヘアメイクアーティストから「日焼け止めは毎日塗ったほうがいいですよ」と、アドバイスされたことはとてもありがたいことでしたね。

それに私は良くも悪くも、撮影の前日に食べたり飲んだりしたものがたちまち顔に出てしまうタイプ。コンディションがはっきり顔に出るんです。むくんだり、吹き出物ができたり…。なので、撮影中やプレスツアー中などは特に、食べるものにも気をつけています。私はよく食べますが、内容には人一倍注意を払っていますね。今特に問題なく過ごすことができていることの8割は、このヘルシーな食生活を維持していることのおかげかな。そう、あとは日焼け止めもね。

映画『マエストロ:その音楽と愛と』のデヴィッド・オッペンハイム役について

ボマー:ブラッドリー(・クーパー)は卓越したつくり手であり、俳優であったと思いますよ。『アリー/ スター誕生』の監督としての彼の仕事には、とても感銘を受けました。私はもともと、音楽界の巨匠レナード・バーンスタインになんとなく魅力を感じていました。彼の音楽にも、人となりにも…。ですから、彼を描いた作品に参加できることは本当に興味深かったし、このクリエイティブ・チームが関わる作品だなんて、幸せ過ぎて信じられませんでした。

スティーブン・スピルバーグとマーティン・スコセッシといった錚々たるメンバーがエグゼクティブプロデューサーを務めています。これは「絶対に出演した」って思うに違いない作品ですよ。監督のブラッドリー自身も安心して任せることができましたし、有益な話し合いもできました。

私は、自分が演じる人物について、少し調べてみました。それは米国議会図書館のウェブサイトにある、バーンスタインとオッペンハイムが互いに書き送った手紙の数々です。作品の土台となるものがわかってからは、本当に熱が入りました。

matt bomer in a car
Luca Strano

「フェロー・トラベラーズ」シリーズでのホーキンス・"ホーク"・フラー役について

ボマー:コロナ禍でロビー・ロジャースとロン・ナイスワーナーが、このテレビシリーズ「フェロー・トラベラーズ」(トーマス・マロンの同名小説をもとにした、1950~90年代のアメリカを舞台に描かれる同性愛者のラブストーリーかつ政治スリラー)の脚本を持ってきてくれたのです。読んですぐに、この物語の世界に魅了されました。これまでにおける文化の歴史の中で、私が知る限り未知の側面でした。

あちこちで少し耳にしたことがあり、どういうものか素人なりに理解していたつもりでしたが、実際の日々の暮らしや50年代のワシントンでは、同性愛がいかに“魔女狩り”的な対象のものだったかということ。そして、この作品でも描かれている60年代の政情をも背景としたものだったという点は全く知りませんでした。ですので、光と同じくらい影を持ち、ときには光よりも影の部分を多く持った多面的な人物、そして私がよく知らなかった歴史の一部を生きていた人物の役に深く入り込めたことは、私自身にとって貴重な機会でした。

また、ゲイのラブストーリーを数十年に渡って描いたストーリーというのも、それまでなかったことです。私はこの仕事をかれこれ30年近く、12歳のときにチャック・ノリスの映画の端役で出演したのを含めればもっと長く続けています。が、このようなプロジェクトにゴーサインが出され、実際に製作に至り、私たちの希望どおりに予算とクリエイティブ・チームが与えられるなど考えも及ばないことでした。この作品をつくることができて、本当に感謝しています。

今後の仕事について

ボマー:現在、話が進んでいるものや、本当に楽しみな予定もたくさんあります。が、今のところはそれらを調整している状態です。この業界はまだストによる中断から再開したばかりという感じなので、「これだ」というものに出会うチャンスを待っています。

そういう作品は脚本を読んだり、企画についての話を聞いたりすれば、すぐにわかります。もちろん、待っているだけでなく、いくつかの企画を温めていますし、かなり楽しみなものになりそうな『ホワイトカラー』リブート版の話もありますよ。

Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire US