WOWOWと米Max(旧HBO Max)の日米共同制作でおくるドラマシリーズ、「TOKYO VICE」。“世界で最も撮影が難しい都市”と言われる東京を舞台に、ハリウッドのスタッフと日米の豪華キャストらによってつくり上げられました。2022年春に日本で放送(配信)がスタートした本作は、2024年春に待望のSeason2がついに放送(配信)されます。

物語の舞台は1990年代の東京。きらびやかで世界が憧れた大都市というイメージに潜む裏社会。東京の大学を卒業し、難関な試験を突破して日本の大手新聞会社に就職したジェイク(演:アンセル・エルゴート)。新聞記者として日本の報道に疑問を抱きながら、ネタを追いかけていくうちに警察内でも一匹狼として知られる刑事・片桐(演:渡辺謙)に出会います。一方、プライベートでは石田組のヤクザ・佐藤(演:笠松将)と意気投合し、不思議な関係を結んでいきます。しかし記者として、真実を追求するため裏社会の奥へ入り込むうちに危険な領域へと足を踏み入れることになってしまい…。ヤクザの抗争、それをけん制する警察、そしてその事件を追う新聞記者たちの鬼気迫るやり取りもさることながら、表社会でもはびこる、女性蔑視や人種差別といった現代につながる日本の社会問題にもスポットライトを当てます。

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シーズン2は、主要人物全員が窮地に追い込まれた状況から始まります。また、ファーストシーズンのキャラクターに加えて、千原会の若頭・葉山(演:窪塚洋介)や男社会の中で生きる女性警視・長田(演:真矢ミキ)も加わり、物語は大きく進展していきます。

このたび、シーズン2の放送・配信開始のタイミングで、ヤクザ絡みの事件を追う敏腕刑事・片桐役を務める渡辺謙さんに取材の機会を得ることができました。


2024年2月、春の暖かい日差しが降り注ぎはじめた日に、都内某所のスタジオに現れた渡辺謙さん。何本ものインタビューが控える多忙な一日にも関わらず、「今日はどうぞよろしくお願いします」と丁寧な挨拶からスタート。映像から伝わる印象とは裏腹に、物腰の柔らかい対応と慎重な言葉選びなど、一挙一動に目を奪われながらインタビューが始まりました。

esquire(エスクァイア日本版)|俳優・渡辺謙の撮り下ろしインタビュー
Wataru Yoneda
ジャケット 73万400円、シャツ 8万2500円、パンツ 21万1200円、シューズ 18万1500円、ポケットチーフ 3万5200円(すべてBRUNELLO CUCINELLI/ブルネロ クチネリ ジャパン TEL 03-5276-8300)時計234万9600円(カルティエ/カルティエ カスタマー サービスセンター TEL 0120-1847-00)ジレ(スタイリスト私物)

「TOKYO VICE」シーズン1と2の違い

ESQUIRE(以下、ESQ):「TOKYO VICE」シーズン1は一気に3話、観終わってしまうほど、ストーリーに引き込まれました。渡辺さんは本作品でエグゼクティブ・プロデューサーも務められていますが、シーズン2はストーリーテリングがさらに強化されたと感じられますか?

渡辺謙(以下、渡辺)シーズン1は、とにかくこの物語の基盤をつくるためのものでした。僕らも脚本を読んで、「これで終わっちゃうの?」みたいなところは正直少しありました。なので、僕ら自身もシーズン2はどのように始まるのか?が興味深かったですね。シーズン1の終わりを観ていただければわかるように、最初から大きな壁にぶつかり、シーズン2は今ある全員の状況がさらに混沌としていく…例えるなら、「より強く弓を引く」…みたいなところから始まっているので、弓を放たれたときの反発力がすごいと思います。

「複雑な人間関係を描くのはストリーミングの特徴」

ESQ:シーズン2は、複雑な人間関係に焦点が当てられているように感じました。片桐(演:渡辺謙)とジェイク(演:アンセル・エルゴート)のように、父子ほど年が離れ国の垣根をも超えたバディ関係、佐藤(演:笠松将)と石田親分(演:菅田俊)の疑似親子、ジェイクと故郷の父など、いくつもの”父と子”の関係が複雑に絡まり合っているところが物語として興味深いと思いました。父子関係に重視して脚本は描かれていたと思いますか?

渡辺:そうですね。精神的な部分に関しても、そういうつながりみたいなものがきちんと重視されたキャラクター設定がされているとは感じました。みんな個で生きているわけではなく、必ず何かしら人とのつながりがあるはずです。そのつながりがどこかで強固になったり、軋轢(あつれき)を生んだりすることもありますよね。そういうわけでは家族間だけではなくて、人とのつながり方がそういう関係性だとより太かったり強かったりするとは思いますね。

ESQ:これまで、家族をテーマにした作品というのはたくさんありましたが、時代が変わるにつれ、新しい作品が生まれるにつれ、描かれる親子関係や人間関係が複雑化してきているなと感じます。映画がより小説的・文学的になるというか…。人間模様にフォーカスが当たっていることに関しては、どのように思いますか?

渡辺:それはある意味、「ストリーミング配信の特徴だ」と思います。1本の映画だと、1人のキャラクター設定とかバックグラウンドはそんなに深く説明できないじゃないですか。少しだけ見せておいて、「あとは想像にお任せします」とならざるを得ないのがほとんどだと思います。ですが、ストリーミング配信になると、話数も時間もあるので、“1つのキャラクターを取りまくもの”みたいなことを描ける要素がたくさん盛り込める…そう思います。

esquire(エスクァイア日本版)|俳優・渡辺謙の撮り下ろしインタビュー
Wataru Yoneda
esquire(エスクァイア日本版)|俳優・渡辺謙の撮り下ろしインタビュー
Wataru Yoneda

ハリウッドと日本の映画業界

ESQ:シリーズならではのメリットが、そこにあるということですね。「TOKYO VICE」はWOWOWとハリウッドのコラボ制作ということでも注目を集めていますが、日本の俳優の力というのは感じられましたか?

渡辺:(日本の俳優の)力がいま出てきたわけではなくて、「信頼度や経験年数だったりとか、積み上げてきたものが成熟した」と思っています。僕たちがこれまで積み上げてきた仕事が、目に触れる機会が増えてきたことも要因のひとつで、この俳優はこういうこともやってくれて、こういうポジショニングもできるんだということが(海外でも)認識されるようになってきた…ということです。

それは、一朝一夕でできるものではなくて、僕も含めて20年以上いろんな作品に出演したり、信頼の積み重ねがないと、いまのカタチにはなっていなかったかもしれません。それと同時に、エンターテインメント業界のネットワークがいろいろな意味でつながってきたからでもある、そう思ってもいます。

ESQ:その最たる例が今年、2024年のオスカーではないでしょうか。日本から3作品ノミネートされたことは、そういうことでしょうか。『ラストサムライ』(2003年)から20年、そこに関して感慨のようなものはありますか?

渡辺:自分のときもそうだった(第76回アカデミー賞助演男優賞にノミネート)けれど、「時代によっていろんなムーブメントがある」と考えています。近年では、アジアの映画が注目を浴びたり、人種的多様性を認めようとする動きがあったり、もっと言えばコロナ禍があったり、2023年の映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)のストライキがあったり、ネガティブな意味ではなく、いろいろな大作の公開が延期になりましたよね。

そういうのも含めて、アワード(賞)というのはいろんな兼ね合いがあって受賞するものなので、あまりそこに関して一喜一憂はしないですね。単純に「よかったな」とは思いますけど、そこで一気に何かが変わる期待とかはなく、「そういうムーブメントなのかな」という程度に捉えています。

esquire(エスクァイア日本版)|俳優・渡辺謙の撮り下ろしインタビュー
Wataru Yoneda

ESQ:近年世界的な注目を集めている邦画作品のひとつとして、映画『ゴジラ-1.0』が邦画として初めて、アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされたことが挙げられます。ハリウッドでの日本作品の見られ方は変わったと思いますか?

渡辺:それもやはり、先ほどお話ししたように、複合的な要素が絡まっているのだと思います。技術的な部分だけではなくてね…。もちろん技術は、バジェットと日数をかけさえすれば日本もハリウッドと勝負できる力をもともと持っていたと思います。「それがついに見つけられただけ」と言っていいかもしれません。

ESQ:「ゴジラ」と言えば、2014年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』に出演していらっしゃいましたね。あれから10年間のうちに、ハリウッドや日本の映画や作品に感じた変化はありますか?

渡辺:映画だけではなくて、こういうストリーミングも含めていろんなところで作品が観られるネットワークが増えたと思いますね。一時あった「日本の映画界、やばいかなあ」という不穏な空気は、もしかしたら脱したかもしれないと思いましたね。

ESQ:未来は明るいという感じでしょうか?

渡辺:とはいえ正直、日本に限らずどこも同じ状況ですから。アメリカでも、(優れた)オリジナルの脚本がなかなか出てこなかったり、何度もシリーズ化したり、フランチャイズしたり、リメイク映画が主流を占めてきたりしているわけですからね。だけど、やっぱり才能を持っている人はどこかに必ずいるわけで…。だからそういう人たちが、作品をつくれる土壌をもっと増やせたら、これからもっともっと多様性のある目新しい作品が僕らの目に触れる機会が増えると思いますね。

ESQ:最後の質問です。渡辺さんがYouTubeに出てきたときに、驚きました。YouTubeで自然に料理をつくっている姿が新鮮で…。スクリーンに映る人物として、今後5年以内にチャレンジしたいことがあったりしますか?

渡辺:YouTubeは娘のチャンネルに出ただけで、僕が主導でやったものではないですよ(笑)。とは言え、あまりコンテンツやプラットフォームにこだわりはないのです。それよりも、ちょっと人の記憶に残ったり、心に響いたり…と、どんな短編でもいいのでカテゴリにはこだわらず、さまざまな作品に携わっていきたいという思いしかありませんね。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
【世界同時公開】ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE Season2」特報映像【WOWOW】
【世界同時公開】ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE Season2」特報映像【WOWOW】 thumnail
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ハリウッド共同制作オリジナルドラマ
「TOKYO VICE Season2」
2024年4月6日(土)21時よりWOWOWで放送・配信スタート(第一話放送無料)
※WOWOWオンデマンドにて、Season1(全8話)配信中
公式Instagram(@wowow_tokyovice

公式サイト


インタビュー後、休憩になりオフ時間に入ると「今日はありがとう!」とフランクに話しかけてくれました。この清々(すがすが)しい切り替えが、ハリウッドからブロードウェイまで多くの現場を潜り抜けてこられた理由なのかもしれない…と、妙に納得しました。

Photo / Wataru Yoneda
Hair & Make / Masaki Kurata(enfleurage)
Styling / JB
Interview / Keiichi Koyama
Edit / Mirei Uchihori