ザ・ビートルズ
Icon and Image//Getty Images
1967年5月19日、同年に発表されたザ・ビートルズ通算8枚目のアルバム「Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band」のリリースをサポートするために、ジョン・レノン(1940年-1980年)、ポール・マッカートニー(1942-)、リンゴ・スター(1940-)、およびジョージ・ハリスン(1943年-2001年)がプレスパーティに参加。ロンドンにある、マネジャーのブライアン・エプスタインの自宅で撮影した写真。

ザ・ビートルズ
“最後の新曲”を発表

ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが、ジョン・レノンのデモ曲『Now and Then』に、AI技術を駆使して仕上げたザ・ビートルズ待望の新曲が発表されました。不動の伝説的ロックバンドによる“最後の新曲”とされるミュージックビデオは、2023年11月3日(金)午後10時にYouTubeプレミアで解禁。すると、公開21時間で1000万再生を突破し、その記録を日々伸ばし続けています(11月15日の時点で、2862万回試聴)。

なぜこのタイミングで
新曲なのか?

やはりこの贈り物は、現代のAI技術の賜物(たまもの)でした――。

そもそもの音源は、故ジョン・レノンが70年代後半に録音したデモのうち未発表だった1曲。それを人工知能(AI)の技術を用いて過去のレノンの声を抽出し再現しながら、ポール・マッカートニー(81歳)そしてリンゴ・スター(83歳)によって楽曲として完成させたものです。

そして、この曲『Now and Then』のShort Filmバージョンには、“ Now And Then - The Last Beatles Song”と紹介されているのです。つまり、残念ですがこれで『ビートルズ』という物語にエンドマーク…そう、限りなく終わりに近づいているのです。この曲はそれを感じさせるほど、甘く切ないアティチュードにあふれていました。

バンドのキャリアとレノンの暗殺の両方を惜しむコーダ(曲において独立してつくられた終結部分)も加えるなら、多くの人がこの曲が展開する素晴らしいストーリーに圧倒されることでしょう。37歳のジョン・レノンと81歳のポール・マッカートニーが再び一緒に歌うのです、これを「感動」という言葉だけで表現するのは陳腐すぎます。

しかもそれは、感傷的でもなく不気味でもありません(少々、悲しみがにじみ出るでしょうが…)。むしろ、活力にあふれるパワーを聴く人に感じさせます。90年代半ばに3人の生存メンバーがこの曲を封印して以来、『Now and Then』に隠されていたビートルズの魅力が今回の発表で、完璧なまでに掘り起こされています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
The Beatles - Now And Then (Official Music Video)
The Beatles - Now And Then (Official Music Video) thumnail
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マッカートニーは11月1日(水)に公開されたドキュメンタリーで、「全ての思い出がよみがえる」と語っています。「ああ、あんな素晴らしい人たちと一緒に仕事をし、このようなたくさんの音楽をつくり上げることができて私は、どれほど幸運だったのだろうか」とも…。

そして音楽的には、『Now and Then』はまさにマッカートニーの言葉のように、センスよく仕上げられています。そこには『ビートルズ』であった瞬間がちりばめられており、思い出のフリップブックのようでもあります。曲中のギターのワンフレーズは『You Never Give Me Your Money』を反映し、『Here, There and Everywhere』『Because』『Eleanor Rigby』のハーモニーがコーラスの後ろに流れ、マッカートニーとガイルズ・マーティンの弦が『Something』と『I Am the Walrus』の間を漂っています。

もしかすると、曲全体を通じて暗いイメージを感じるかもしれません。ですが、この悲しい歌には、この歌を特別なものにしている何かが存在していると思うのです。

時間軸的には、「私たちはビートルズ史の四半期(Q4=決算期)にいる」と言えます。なぜなら今、集中的にビートルズ関連の作品が発表されているからです。

この新曲『Now and Then』が発売されたばかりでなく、短編ドキュメンタリーやピーター・ジャクソン(ドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』を手掛けた映画監督)によるミュージックビデオもリリースされました。さらに、1973年からのキャリア全体を網羅したベスト盤『The Beatles 1962-1966(赤盤)』、『The Beatles 1967-1970(青版)』拡張版 2023エディションも登場しています。

また、バンドのローディー(スタッフ)であり、マネジャーでも友人でもあったマル・エヴァンスの新しい伝記『Living The Beatles Legend:The Untold Story Of Mal Evans』も発表されました。この伝記は、ビートルズのファンが長らく崇(あが)めていた“エヴァンスがマネジャー時代に、日々記録していた日記”を元に書かれています。

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The Beatles - Now And Then - The Last Beatles Song (Short Film)
The Beatles - Now And Then - The Last Beatles Song (Short Film) thumnail
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その他にもロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーは、改装を経て3年ぶりに2023年6月再開すると、ポール・マッカートニーがビートルマニアたちの視点を表現した写真展が開催されました。

さらにマッカートニーのポッドキャストでは、彼のヒット曲の裏にあるストーリーが語られています。例えばジョージが、1995年にレコーディングしたギターパートがいかに少なく、リンゴがドラム・トラックを2、3回通しただけでつま先の写真を撮るために中断してしまったことなどです。そういった意味では、『Now and Then』の発売は2022年のグラストンベリー・フェスティバル以降に起きた、「マッカートニー祭り」のピークであることは間違いないでしょう。

ザ・ビートルズの軌跡

ザ・ビートルズ
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ビートルズは、“最後の決意表明”を出すことを得意としていましたが、『Now and Then』は特に心に響く歌詞となっています。

Now and then, I miss you(今も昔も、君が恋しい)
Oh, now and then I want you to be there for me(ああ、今も昔も。僕のそばにいてほしい)
Always to return to me.(いつも僕のもとに帰ってきてほしい)

ビートルズが初めて、最後のステートメントを発表したのはアルバム「Abby Road」でした。ドラムソロ、デュエットギターソロ、そして「In the end, the love you take is equal to the love you make.(最後に、あなたが受け取る愛は、あなたがつくりだす愛と等しい)」という詩で、『The End』というまさに最後の曲は締めくくれられています。こうしたステートメントを出すことは、その後もずっと続いていました。

例えば1980年のレノンの死後、ハリソンとマッカートニーは時折過去に足を踏み入れ、仲間に敬意を表したり、ビートルズ全体をちゃかして見つめ直したりしています。私(筆者トム・ニコルソン)は、メンバーとしてかつて在籍していたバンドをテーマにした曲をヒットさせたバンドというのは、ビートルズ以外思い当たりません。ハリソンは単独で、3曲もヒットさせているのです。

そして、1995年から1996年にかけて未発表の音源や映像、デモ音源などをリリースした歴史的な「アンソロジー・プロジェクト」の中では、オリジナルの『Now and Then』の音源からジョンが歌っている声だけを抽出することが技術的にできなったことから、この曲を発売しないという決断を下しました。

ですが30年を経た今、再び『ビートルズ』はここにその姿を現したのです。彼らの広報担当であるデレク・テイラーが、ビートルズ解散後に発表した言葉が今の状況にぴったり当てはまるでしょう。

「彼らの世界はまだ回転しており、私たちも、そしてあなたも回転しています。この回転が止まる時、それこそが心配するときです」

Living the Beatles Legend: On the Road with the FAB Four – the Mal Evans Story

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この言葉こそ、ビートルズの拡張ユニバースがスタートして以来のテーマの一部ではないでしょうか。

ビートルズには実に、奇妙な偶然がたくさんあります。まずひとつは、4人が一緒に写っている最初の写真と最後の写真は、ちょうど7年違いの同じ日に撮影されたということ。またマッカートニーは、両親が戻ってくるように懇願する家出少女についての新聞記事を読んで『She's Leaving Home(1967年発売)』を書きましたが、実はその3年前マッカートニーは彼女に会っていたということ。そして彼らが、「Apple」と呼ばれるレコード会社を立ち上げたことも今では奇妙なことのひとつです。さらにレノンが、日本のコンセプチュアルアーティストであるヨーコ・オノと結婚したことも…。

そしてこの最後の曲である『Now and Then』と、最初のアルバム「Please Please Me」(1963年発売)のオープニング曲である『I Saw Her Standing There』は、どちらもマッカートニーの「ワン・ツー…」というカウントで始まっていること。

ここで再び俯瞰(ふかん)して見直せば、1960年から1970年までの約10年間は、彼らは事件の連続と言っていいでしょう。まずは1960年8月に、ビートルズにとって最大に奇妙な時空のしわ寄せがありました。それは、当時ビートルズはまだ若者としてドイツ・ハンブルクの汗臭いクラブで活動しており、そのときハリスンはまだ17歳でした。この時期のビートルズにとって、ハンブルクのクラブでの演奏は成長と経験を重ねる大切な場でした。ですが、ハリスンが未成年ということでドイツの法律違反とみなされ、ハリスンは国外退去の処分を受けることになります。

以降、1970年4月にマッカートニーがバンドの解散を発表するまでの10年間に、人生数回分に相当するほどの事件が起こっています。一つの記念日が終わると、すぐにまた一からやり直しが始まるようなものだったに違いありません。

ビートルズの物語は
終わってしまうのか?

そして『Now and Then』を、バンドのフル・ストップ(活動の完全終了)と銘打っているにもかかわらず、彼らの世界は回転が止まるとは思えません。Spotifyでこのシングルを聴いてみると、『Now and Then』は新たにムーディーでド迫力のサウンドに仕上がったビートルズのファースト・シングル「Love Me Do」のリミックス・バージョンへとつながっています。それは新曲のタイトルを映し出す鏡のようなもので、この先のビートルズが進む方向を指し示しているようにも思えます。

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

新曲『Now and Then』はまさに、ビートルズという物語のエンディングのように聞こえるサウンドです…。しかしながらこの発売によって、多くの若者が90年代半ばのビートルズの再結成とそれにまつわるエピソード、もちろんこの『Now and Then』自体を知る偉大なる機会になったのです。

そうして現在、TikTok上ではさまざまなエピソードが浮上するようになっています。レノンが「For Paul(ポールのために)」と書き残したテープが、何本も残っていることや…。これは皆さんにも知ってほしいエピソードですが、レノンの死後、カール・パーキンスがマッカートニーのために書き上げた曲『My Old Friend』をその翌日、本人の前で演奏したときにマッカートニーは思わず泣きだしてそのまま部屋を出ていってしまったというエピソード。

マッカートニーはその曲中の歌詞 、「Think about me now and then, old friend.(たまには僕のことを思い出してくれ、わが友よ)」に心打たれたということ。なぜか? それは当時の妻リンダがその歌詞を指し示し、こう教えてくれたそうです。 「この歌詞は、レノンと最後に会ったときにマッカートニーへおくった最後の言葉なのよ」と…。

ビートルズ・ストーリーの多くのストーリーが、今もここにあるのです。それは、他のヒーローたちと同時代を生きるZ世代のファンの中に。彼らはビートルズに関してもファンサイトをつくったり、コメントを交換し合ったりして、レノンとマッカートニーを結びつけています。最も重要なのは、ビートルズという伝説は今でも若きファンたちを引き込んでいるという事実です。

ビートルズの曲は
心を打つ小説のよう…

私は数カ月前、ロンドンから来た20歳のビートルズファンに、「なぜビートルズが好きなのか?」と 尋ねたことがあります。

すると彼女は、次のように答えてくれました。

「まるで、小説から飛び出してきたような話を曲にしているから。彼らがつくった物語には美しい部分がたくさんあれば、同時に悲痛な部分もある。なので、それに夢中になるのはとても簡単なことよ」

存在価値が感じられる物語、そしてそんな物語が伝承され続けることこそ、本当に心に残るものに違いありません。ビートルズの新曲の初披露を聴いた若いファンの世代は、最後のビートルズ ファンから一世代は確実に経ている年齢です。が、こうして確実に存在していることがこの新曲の登場に明らかになったのです。

ジャクソンが2021年に制作したドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』に登場するレノン、マッカートニー、ハリソン、スターは、実に愉快で自意識過剰でもあり、なにより活気に満ちていて…それは、現代のヒーローのようにも見えます。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
「ザ・ビートルズ:Get Back」|予告編|Disney+ (ディズニープラス)
「ザ・ビートルズ:Get Back」|予告編|Disney+ (ディズニープラス) thumnail
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そんな映像の魔法も加わって、この2年間でビートルズは新たなバージョンへと進化したようにも思えます。ビートルズの間で時折繰り広げられたトゲトゲした不機嫌な雰囲気は、今でははるかにオープンで手触りが良く、2023年らしい印象的なものに置き換えられたというわけです。

こうなったこと自体も彼らの偉業であり、彼らが尊敬されるだけでなく、再び愛されるようになった理由でもあります。最後にもう一度言わせてもらうなら、『Now and Then』はビートルズのエンディングのように聞こえるかもしれませんが、本当は彼らはdon’t really want to stop the show--演奏を止めたくはないのです。

そして日本版スタッフの中には、Now And ThenどころかGet back Jojo, Get back Gegeとかなうはずのない願いをとなえる者もいます。

Good one.

Translation / Yumi Suzuki
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire UK