※本記事は、映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の内容に関する記述があります。

オーストラリア出身の超人気双子YouTuberが手がけた“今年最も怖い映画”

2012年に設立され、アメリカ・インディペンデント系エンターテインメント企業として新進気鋭ながら世界的評価も高い「A24」。2016年には『ムーンライト』がアカデミー賞作品賞を受賞するほか、2017年には『レディ・バード』、2019年には『ミッドサマー』(2019年)、直近では2022年に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がアカデミー賞作品賞・監督賞を含む最多7冠を獲得しています。

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Meet the Artists 2023: Danny Philippou and Michael Philippou on “Talk to Me"
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そんな現代の審美眼に最もマッチする映画会社のひとつとして名高い「A24」が、このほど北米での配給元となって公開されたホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、かなりの騒々しさの中から始まります。

日本では2023年12月22日から公開されている本作は、SNSで話題の「#90秒憑依(ひょうい)チャレンジ」に参加するティーンエイジャーたちの物語。呪(のろ)われているという“手”のかたちをした置物を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が憑依(ひょうい)するというゲームめいた儀式が物語を展開させていきます。

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今作の監督を務めたのはオーストラリア出身の双子、ダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウの2人。彼らは登録者数682万人(2024年1月5日現在)を誇るYouTubeチャンネル「RACKARACKA」で世界的に知られる超人気YouTuberでもあり、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は長編映画デビュー作です。

2023年のサンダンス映画祭で話題を呼び、A24が本作の北米配給権を獲得。北米では「A24」ホラー史上最高興収を記録し、アリ・アスターやジョーダン・ピール、サム・ライミ、スティーヴン・スピルバーグら名だたる名匠たちも絶賛するほどの新世代ホラーです。

とは言え、『へレディタリー/継承』や 『X エックス』のような怖いシーンやグロテスクな描写を期待して『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を観てしまうと、がっかりする人もいるかもしれません。本作は、エモーショナルなドラマの先にある…最高潮のスリルへと導かれていく流れになっていますので。

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『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』本予告 12.22
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その“手”を握り「トーク・トゥ・ミー」と唱えることで霊が憑依する「#90秒憑依チャレンジ」

冒頭シーンは、物語の意図を伝えるようなリズム感があります。

ある日のホームパーティの会場にて、コール(アリ・マッカーシー)は兄のダケット(サニー・ジョンソン)を探しています。ダケットが「奥の部屋でキマってる」と聞くと、コールはその部屋へ向かいます。そうしてコールは、鍵のかかった部屋からダケットを見つけますが意識不明。暗号めいた不気味なフレーズを唱えており、そしてコールはiPhoneを持ったティーンエイジャーたちの猛攻から兄を守ることに…。

そこにいるティーンエイジャーたちは、彼を救うことよりも録画することに夢中です。ようやくコールは彼を連れて帰ろうとするのですが、ダケットは突然コールを刺し、その後自分の顔にもナイフを刺して自殺してしまうのでした。

このようにコールがダケットを救おうとする一方で、ダケットは悪魔の怒りに勝ってしまう…この兄弟間の理解しがたい暴力行為により、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は単なる憑依物語から、深い悲しみと孤独で心を痛める物語へと昇華していきます。

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やがて主人公ミア(ソフィー・ワイルド)が登場。そこから別の家族にまつわる悲劇へと話は移ります。彼女は母親の突然の死と、父親の鬱(うつ)に苦しんでいます。ミアの孤独は画面からにじみ出ており、彼女が友だちのジェイド(アレクサンドラ・ジェイセン)とライリー(ジョー・バード)と一緒に過ごすときだけ明るさを示します。

3人はある日パーティーを訪れるのですが、そこではゲームが行われているようです(それがゲームと呼べるかどうかはわかりませんが…)。それは、磁器製(?)の手*をつかんで「トーク・トゥ・ミー」と話しかけることで霊を自らの身体に招き、とり憑(つ)かれるというものでした。しかし「#90秒憑依チャレンジ」というだけに、憑依は90秒を超えてはいけませんというルールなのですが…。

映画の中で語られる説明によれば、それ手は亡くなった霊能者か悪魔崇拝者(映画の中で若干の議論がある)から取り出された本物の手で、「防腐加工を施した剥(はく)製にし、その後、人々が死者と話せるようにするために磁器に包んだ」というような会話も展開されますが、明確な説明なありません。おそらく、続編のために温存しているのでしょう。

やがてミアがその手を握ると、彼女の顔は歪(ゆが)み、彼女の瞳孔は開いてその肉体にも異変が起こります。そうして霊に接触した後のミアは、喜びにあふれます。この役を演じたソフィー・ワイルドは、壊れやすく、悲嘆に暮れている冒頭のミアから、このスリル満点のゲームに夢中になるまでの変化を実に巧みに演じているのです。

そう、誰もがそんな彼女から目を離せないでしょう。そんなわれわれの関心を作品内で描写しているかのように、他の登場人物たちはミアの様子を熱心にiPhoneで録画し続けています。ミアはついにここで、現実逃避方法を見いだしたことをわれわれに投げかけてくるのです。

降霊術×ティーンエイジャーのホラーは数多あるけれど…真に怖いものは?

 
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

「こっくりさんのような降霊術で、危険な遊びをするティーンエイジャーたち」には、決して新しさは感じないでしょう。それでも、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、若いキャストたちの感情に根ざした演技と、フィリッポウ兄弟のキャラクター描写力によって、新鮮な感覚を与えてくれるのです。

死者と交信する高揚感を追い求めることで、主人公ミアは母親の死に対する痛ましい真実と父親との和解を避けていきます。そうして彼女はついに、自分が母親だと思っている霊と接触すると(憑依したライリーを通じてコミュニケーションをとる)、その時間は90秒を超えてしまうのでした…。

真の恐怖とは、心の中にあるキズにある?

まとめるなら、この『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』最大の恐怖は暴力シーンでも、ミアの鬼気迫る毒母の様子でも、病院で昏睡(こんすい)状態にあるライリーの魂を屍(しかばね)がいじめるといったミアが見た悪夢の描写ではありません。

本作の中にある恐怖の神髄は、孤独と絶望の中にいるミアが「自分を愛し気遣ってくれる人たちを傷つけろ」という声を実行してしまう、ある種「未必の故意 」にも近い、やるせない大罪を目の当たりにするところではないでしょうか。

血と内臓の映像は、多くの人を興奮させるかもしれません。ですが、フィリッポウ兄弟は知っているのです。皆さんが夜も眠れないことの大方の原因は、「心の奥にある秘密の傷のせい」ということを…。そして彼らは喜び勇んで、あの呪いの手をあなたの心の中に差し込み、その傷をさかなでることでしょう。

From: Esquire US