私のスケジュールは、常に埋まっています。友人の30歳の誕生日や結婚式、結婚前の独身お別れパーティー、ディナー、たまにヨークシャーの実家に帰ったりで大忙しです。でも、根っからの怠け者である私の普段の暮らしは、そんな煌(きら)びやかなものではありません。そもそも、そんな生活は望んでいませんでした…。

 その怠け者っぷりは、靴のチョイスにも表れています。寝転んでいるのが何より大好きなので、毎日履く靴といえばボロボロの「Reebok Classic」、ピンク色の「Adidas Originals」、ごつい「Puma Storm」の3足です。どれもいいスニーカーですが、きちんとした場所に履くにはカジュアルすぎます。

 ファッションショーのシーズンには、スーツに合わせることもできます。ですが、それ以外の場所ではとても無理です。ミーティングや入り口でコートを預かってくれるようなおしゃれなレストランには、とても履いていけません。

 でも、靴紐があるようなかしこまった靴は、面倒くさがりな私には耐えられません。ペルーの製織技術が詰まったモンクストラップシューズなんて、もってのほかです。そこで私が選んだのが、ローファーでした。

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G.H. Bass
当時のG.H. Bassのローファー。現在のカタチとほとんど同じです。

 フォーマルですがモカシンのカタチをしており、フラットなヒールと靴紐がないのが特徴となっているローファーですが、その起源は明確ではありません。

 ノルウェーで嵐の中海に出ていた漁師たちが、シンプルで控えめなスリップオンシューズの「Weejuns(ウィージャンズ)」を生み出したという説。また、旅行者が靴に注目しているのに気づいたオスロの人たちが販売するようになり、間もなく1876年に「G.H. Bass」がデザインとして正式に採用したという説などさまざまです。

 そんな中、明確なことがひとつだけあります。それは…「G.H. Bass」は現在も素晴らしいローファーを本革で手作りしているということです。

 このニューイングランドの靴が、数十年後ミラノにやってきました。1953年、アルド・グッチがイタリア人の得意技を見せます。クラシックでさらに控えめにしたローファーに、金メッキのホースビットのアクセントを付けたのです。

 ゴージャスになった「グッチ」のローファーは、この時期を「春夏」と呼ぶファッション業界の人たちと、「第二四半期の終わり」と呼ぶファッションよりも数字に関心のある人たちを結びつけることで、史上最も野心的なクロスオーバーを実現しました。

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Getty Images
オリジナルのホースビットに、アレンジを加えたグッチのローファーを履くシャイア・ラブーフ(左)とジェイデン・スミス(右)

 「グッチ」のローファーのソフトなデザインは、カジュアルな普段使いにも適しています。こうしてスタイリッシュなイベントから服装、そして暮らしに至るまで、いつでも使える靴として誕生したのでした…。

 また、シルエット(と私たちの期待)を簡素化することによって、ドレスシューズの過剰に格式張った雰囲気がなくなりました。どこへでも履くことができ、白いソックスとストーンウォッシュのクロップドデニムと合わせれば、90年代スタイルの完成です。トレンドアイテムであり、欠かせない定番アイテムでもあります。そのクロスオーバーは止まることを知りません。

 ローファーは、使い回しのきく汎用性の高いアイテムです。私服にもスーツにも合い、ファッションに気を遣っていることを表しながらも何より、気合いを入れすぎていないニュアンスを醸してくれることが大きな魅力と言っていいでしょう。

 皆さんも、これには賛同してくれるのではないでしょうか(少なくとも、リーボックやナイキアよりは…)。さらにそこには、怪しげな雰囲気も薫らせてくれます。怪しげな雰囲気こそが、スタイリッシュに着こなすことができている証拠となるのです。

 怪しげな中でも、いつもカジュアル寄りな私です(笑)。世間では、俗に言う「だらしない」という服装をしているかもしれません…。ラグビーシャツにワイドデニム、白いテニスソックスというのが定番の服装なので、その表現はぴったりだと思っています。でも、これもキーワードではないでしょうか? 最近流行りのプレッピースタイルも、だらしなさを取り入れていますし…(笑)。

 しかし、ラグビーシャツを黒のジャケットと黒のワイドパンツに合わせるには、ちょっとした上品さが必要です。自然で気張りすぎていない上品さ。“1787年のシャトー・マルゴーをいつも飲んでます”的な上品さ…、ローファーはそれを見事に実現してくれます。

 しかも、ローファーには多くの選択肢があります。

 「ルイ・ヴィトン」のメジャーローファーは、その名に恥じない紺のプリントが入ったカーフレザーのデザインです。そしてもちろん、前述した「グッチ」と「G.H. Bass」も定番です。「Manolo Blahnik」や「Church's」、「クロケット&ジョーンズ」も優れたローファーを取りそろえています。マーティン・ローズ(Martine Rose)やへリュー(Hereu)、アリクス(Alyx)といった次世代のデザイナーも、それぞれの解釈でローファーを展開しています。これが世界一簡単で、スマートで、シンプルな靴の魅力なのです。

 この私でさえ、ローファーを何足か持っており、大量のスニーカーの中に目立って並んでいます。ディナーや結婚式や仕事の重要なミーティングがない日でも、しなびた「Reebok Classic」の代わりに気取らず履くこともあります。

 私が怠け者なのは今も変わりませんが、ローファーの魅力を知らない人よりは、ずっと賢い選択をしているはずです。

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。