ノースカロライナ州に住む40代の建築家で、偽名を使うという条件で洗いざらい話してくれました。その男性の名はバレットさん。「2019年は、200人以上の男性とセックスした」といきなり告白してくれました。しかしながら2020年となると…、3月にパンデミック対策が始まり、6月にオンラインで一緒にマスターベーションをした以外は何もしていないということ。

 「それまではまるで、ピザを頼むかのようにセックスを注文していましたね。20分後には、好きなものを好きなだけトッピングして食べていたという感じです」と、バレットさんはパンデミック前の生活について語ります。「肉体的にも感情的にも精神的にも、身体に悪いことをしている気分ではありました。でも、自分では歯止めが効かなくなっていた状態だったので、このパンデミックが起きてくれたことに実は感謝してもいます。自分では、きっとそのクセを止めることはできなかったでしょうから」と、言います。

 ある研究によると、35歳から39歳までのゲイ男性たちは、「生涯平均67人の性的パートナーがいた」と報告しており、ストレートの男性の平均12人をはるかに上回っていました。また、ゲイのアメリカ人の男性約半数が独身であるのに対し、ストレートのアメリカ人男性は29%という数値になっています。

 これまでゲイ男性たちの生活は、常にアクティブ(またはアグレッシブ)であり、その生活はセックスに根ざしていたと言ってもいいでしょう。ですが、このパンデミックはそれを覆(くつがえ)し、ゲイ男性、その中でも独身のゲイ男性は、(割合で言えば、想像以上に膨大な数字で)窮屈な世界で自分ばかりを見つめることを強いられているのです。空っぽのベッドで性的な隔離までされたゲイ男性たちは、カミングアウトしてから(おそらく)初めて、アクティブなセックスライフのない自分自身を、見つめ直さざるを得なくなったというわけです。

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 33歳のブルックリンの写真家コートニー・ハヴィエルさんは、隔離に対して激しく反発しました。「セックスをしない生活に対して、かなりの拒絶反応がありました。セックスができないなら、自分の動画を撮影してネットで中継しようとか、お尻やあそこの写真をInstagramでいいなと思った人に送りつけようかとまで考えました」と話すハヴィエルさん。「これがまず自分が感じた、性的にアクティブでいられないことに対する本能的な抵抗だったというわけです」とのこと。

 サンフランシスコのコミュニケーション戦略家である28歳のダニー・ウェインさんは、混乱したそうです。「非常に高かった私の性欲は、崖から転げ落ちたような感覚でした。ジムやバーなど、相手探しをするのが習慣になっていた場所まで閉まってしまったので、とても不安な気分にもなったのです」と語ります。

 両親が彼の性的指向について周囲に公開していないため、偽名を使うことを希望した39歳のショーンさんは、ボストンにいる婚約者とのオープンな関係であるため、他の相方とのセックスも楽しんでいました。ですが、「ロックダウンで、そうもいかなくなっていました」と明かしています。

 「成人したゲイ男性の多くが、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスに移り住み、そこのコミュニティーと物理的な空間をうまく共有しています。そして、ゲイ地区における政治的プロジェクトを遂行することによって、カタルシスを得ているというわけです。それがなくなってしまったら、すべてが危うくなってしまいます。息抜きにサウナで自慰行為をしていたころが、懐かしいです」とのこと。

 2020年4月に発表された、1051人のゲイ男性を対象としたアメリカ国立衛生研究所の研究では、69%がパンデミックの影響で生活の質が低下したと報告し、73%が不安の増加を示すといった報告がなされました。

 歴史的な失業率、ロックダウンや旅行制限、産業が崩壊したり足踏みする中で、救済措置に無関心な議会やホワイトハウス、何百万人ものヘルスケアを廃止することになるかもしれない最高裁、そして、全国的に新型コロナウイルス感染症の悪夢が広がり続けているのですから、当然とも言えます。ゲイ男性の68%が、セックスの機会の減少を報告しているように、おそらくそこには、これらとは別の、より原始的な原因もあったのでしょう。

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「肉体的にも感情的にも精神的にも、体に悪いことをしているような気分でした。歯止めが効かなくなっていたのです」

 ここで話を聞いたゲイ男性たちこそが顕著に、いつもの習慣から初めて体験することばかりの日々になったように、急進的な生活様式の変化がこのパンデミックによってもたらされたと言えるでしょう。

 冒頭で登場のバレットさんは、7年ぶりに自慰行為を始めました(「以前は必要なかったんです」と言っています)。またハヴィエルさんのほうは、「最上の快楽主義」を追求し、オーガズム(イクこと)にエクスタシー(イキまくること)を求め始めたそうです。

 一方、ウェインさんは、ロックダウンの初日には3年間想い続けていたマッチングアプリ「Tinder」のマッチ相手とデートをし、その後2カ月間、自称「政略結婚」とも言えるステイケーション(つまり、相手の家に居座る)することにしたそうです。

 また、人生で最も長いセックスレスに苦しんでいる、ニューヨーク地域の医師アリさん(43歳)に関して言えば、感染を避けるために夫と別の部屋で寝るようになり、少なくとも1日2回はシャワーで自慰を行うそうです。バイブレーターを3台購入し(彼にとっては初めてのことです)、変態フェチに目覚め、ハンズフリーでオーガズムに達する方法を身につけました(彼は仕事の関係で偽名を使っています)。

 パンデミックが長引くにつれ、驚きの展開はさらに続きました。

 「セックスフレンドに、本物の友情が生まれたと言っていいでしょう。『私が無事でいるか』を確認するため、セックスフレンドたちが連絡してくれたんです。そこで私は、奇妙とも言える優しさに包まれたのです。私には大きくて逞しい“パパ”がいるのですが、いつも私のことを気にかけてくれています。このように私のことを心配してくれている人の半分以上は、セックスフレンドだった人たちなんです」と、アリさんは話します。また、こうも言います。「私には夫がいますが、その夫との関係はセックスよりもはるかに複雑な関係なので、(そうした気遣いに関しては)理解できます。ですが、マッチングアプリで知り合った人たちと、このような会話をすることになるとは夢にも思っていませんでした。こうした関係というのは、時間の経過とともにより深いものになっていくということを再確認できました」とのことです。

 ウェインさんの話をしましょう。彼は最終的に2カ月間の同棲に疲れ、性欲が低下する中、本当に渇望していたのは抱擁だったことに気づきました。そこでボーイフレンドとは別れ、その代わりに保護犬のテリア、ビリーの里親となりました。

 シカゴのオペレーション・スペシャリスト、32歳のロバート・ラヴァーンさんに関しては、『一歩先を行っている』と言っていいでしょう。2020年3月に世界一周の休暇予定がキャンセルされるとすぐに、フレンチブルドッグのオリーを飼い始めました。パンデミック中に2回半のデート(3回目はすっぽかされたそうです)をすると、彼の中で何かが切り替わりました。そこで、投稿したコンテンツ(画像や動画)を閲覧したいと考えるファンから、毎月一定金額を支払ってもらえるようにできるアプリOnlyFansアカウント(18歳以下は使用できません)に性欲を注ぎ込むようになったのです。最初の24時間で彼は、225ドルを稼いだそうです。「動画をつくり、インターネット上に公開するためにOKボタンを押したとき、私の中で眠っていた新しい面が突如現れた感覚におそわれました」と、彼は語ります。「多くのものが奪われた一年の中で、私は間違いなく世界に貢献し、ある意味、自分自身の安全を確保していたとも言えますね」とのこと。

 貞操観念というものは、誰にでもあるものではありません。アトランタマイアミニューヨークなどの場所で行われたパーティーなど、露骨に安全を軽視した行為もありました。公衆衛生当局も、ある程度予想していたようです。ニューヨーク市の保健省は、ゲイ男性のみを対象にしたともとれる勧告を発表しています。

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Joe Raedle//Getty Images

 「あなた自身が最も安全なセックスパートナーです」と人々に刷り込むことによって、「可能な限りパートナーの数を少なくする」よう提案していました。オランダ政府は、専用の自宅隔離できる“セックスフレンド”をつくるよう推奨しています。ウェインさんはマッチングアプリ「Tinder」で出会った相手と2カ月過ごしましたが、これは言うはやすし、行うは難しでしょう。

 禁欲の3カ月を経て、ハヴィエルさんは自分自身のセックスとの関わり方に変化が訪れたことに気づきました。「私は快楽に、保証が欲しくなったのです。そのため、相手は非常に意図的に選んだ、限定された数人に絞りました」と彼は話します。「コロナ以前には初めての相手に対して、過去の恋人遍歴まで批判的な目で推察するようなことはなかったのですが…」と言います。

 冒頭で登場したバレットさんの性生活も落ち着いてきました。「今は過去20年間で感じたことがないほどの平穏を楽しんでいます」と話します。「今は出会い系アプリのテンポとボリュームのペースではなく、自分の性欲のペースで生きられるようになりました。アプリはとても捕食的であり、そこでは取引がベースになっているので、私が辞めたときには多くの人がプロフィールに送金アプリのアカウントを載せていたほどです。それは、私が望んでいたものではありません。カミングアウトする前の16歳のバレットも、そうは望んではいないはずです」ということです。 

 空っぽのベッドを前に、子どもが巣立ってから親が経験する「空の巣症候群」にも似た感覚に襲われるこれらの男性たちは、それぞれの現在に生活における「自己認識の改善」と表現しています。

 2020年、なおも続くこの惨状の中で、ゲイ男性たちが、この事態が良くなるという確証以上に望むことはあるのでしょうか? もし、それがあるとするなら…医師のアリさんが「何よりもまず、他人に害をなすことなかれ」と誓って目覚めた、新たな優先的習慣が今後もずっと継続できることかもしれません。「パンデミックが終わっても、バイブレーターは手放さない」と言っていたように…。

Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。