マスクなしの観戦や
イベントがふつうに

 アメリカは2021年7月4日に独立記念日を迎え、ニューヨークでは恒例のメイシーズによる花火大会で、花火6万5000発が打ちあげられた。詰めかけた見物人たちの多くがマスクをつけていない。

ニューヨーク,黒部エリ,生声,コロナ,アメリカ,大谷翔平,東京2020オリンピック,otani
Photo by Ellie Kurobe-Rozie
独立記念日(2021年7月4日)の花火を、密集して、ほぼマスクなしで見物するニューヨーカーたち。

 ヤンキーズスタジアムでは、エンジェルスの大谷翔平選手が立て続けにホームランを放ち、歓声をあびたが、観客席にほとんどマスク姿の人は見当たらなかった。 

 いまだに地下鉄などの公共機関や病院などではマスクの着用義務が続いているものの、コロナはどこに行ったのだろうという勢いだ。

 セントラルパークのグレートローンでは8月21日に無料の音楽イベントが開催され、ポール・サイモン、ジェニファー・ハドソン、ブルース・スプリングスティーンらが出演する予定だ。このコンサートは、ニューヨーク市のコロナ禍からの復活を祝うもので、6万人の観客が期待されている。

ワクチン接種が低い地域で
デルタ株感染が爆発

 これだけ聞くと、コロナ終焉と思うが、実はニューヨーク市でも感染者数が増えている。ニューヨーク市では400人ほどの新規感染者が出ているが、これは6月末には190人台まで減っていた感染数の2倍となっている。ただし重症化して入院する患者数は減っているのだ。

 つまりマスクを外して、人々が外出すれば、どうしても感染は完璧には防げないものの、商業活動は再開できているという状態だ。

 一方、アメリカ全土でいえば、新規感染者は140%の増加となっていて、深刻なレベルで感染者数が激増しているエリアがあり、デルタ株がウイルスの主流になってきている。

 フロリダ州、テキサス州、カリフォルニア州があいかわらず多いが、ミズーリ州、ルイジアナ州、アーカンソー州、アリゾナ州などで激増しているのが特徴だ。それもルイジアナ州フランクリン郡、アーカンソー州ペリー郡といったエリアがピンポイントで感染拡大している。

 明暗をわけているのは、ワクチン接種が進んでいる地域と、そうではない地域での差だ。

 アメリカ全土でのワクチン必要回数接種が完了した割合は、48.9%。一方、もっとも接種率が低いアーカンソー州では35.2%、ルイジアナ州では36.1%、ミズーリ州では40%と大きく遅れを取っている。残念ながら、未接種者はトランプ支持者が多い州とも重なっている。

 バイデン政権のコロナウイルス対策顧問をつとめたアンディ・スラビット氏によると、アメリカにおけるコロナ感染死亡者の98%から99%はワクチン接種をしていない人々だと言及している。

 残念ながら、ワクチン接種が進んでいない州は共和党よりの州が多く、ワクチンそのものに懐疑的な人々が少なくない。

コロナウイルスの起源を
めぐって議論が白熱

  バイデン大統領は、新型コロナウイルスの発生について改めて調査するよう情報当局に指示しており、新型ウイルスの起源をめぐる議論が盛んになっている。

 公聴会で共和党のランド・ポール上院議員は、武漢ウイルス研究所から新型コロナウイルスが流出したという説を支持した。その武漢研究所には、アメリカ国立衛生研究所が研究費として60万ドルを補助していたことから、ファウチ博士がコロナウイルスの「機能獲得実験」を補助して、結果的にウイルスを流出させる原因になったと追求した。機能獲得実験とは、動物の細胞を使ってウイルスが異種間でどのように変化するかを調べる実験となる。

 ポール上院議員は、人為的にウイルスを危険なものへと変化させた手助けをしたとファウチ博士を非難。対して、ファウチ博士は「(獲得機能実験について)ポール上院議員、あなたは自分が何をいっているのか理解していない」と一蹴。「これらのウイルスは分子的に、SARS-CoV-2にならない」と説明した。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Dr. Anthony Fauci to Sen. Rand Paul at hearing: You do not know what you're talking about
Dr. Anthony Fauci to Sen. Rand Paul at hearing: You do not know what you're talking about thumnail
Watch onWatch on YouTube

 若い世代にむけてワクチン接種をアピールするために、今ティーンエイジャーを中心に人気が大ブレイクしているオリビア・ロドリゴを起用。ホワイトハウスで、ファウチ博士と対談をして、「ワクチンはグッドフォーユー」と自身の大ヒット曲タイトルにひっかけて接種を若者に呼びかけた。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Olivia Rodrigo: Let's Get Vaccinated!
Olivia Rodrigo: Let's Get Vaccinated! thumnail
Watch onWatch on YouTube

 現在の日本の状況は、このワクチン接種が進んでいないエリアのような状況であり、デルタ株による感染拡大が危ぶまれる。

作曲家のいじめ問題や
ホロコースト・ギャグ問題は
アメリカでも大きく報道

 フランス・パリに本社を置く多国籍の市場調査コンサルティング会社「IPSOS」の事前に行われたアンケートによると、東京オリパラリンピックの開催について賛成するアメリカ人は52%。オリパラリンピックの試合に興味を持つ人は48%と半分にみたない。

 すでにアメリカでのスポーツイベントが正常化しているために、オリンピックが行われるに抵抗ないアメリカ人は多い。ただし日本でのワクチン接種完了率が19.79%と聞いたら、恐れおののくのではないか。

 そしてアメリカでも大きく報道されたのが、開閉会式の作曲家である小山田圭吾氏がかつて知的障害のある同級生に対するいじめをした問題で辞任した件。そしてディレクターである小林賢太郎氏が「ユダヤ人大量虐殺」をギャグのネタにしたことでユダヤ人権団体から糾弾されて解任となった件だ。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 日本国内では「いじめ」問題の方が深刻であり、今まで小山田氏の謝罪がなかったことにも憤慨する人が多かったのではなかろうか。

 一方、アメリカでは「ホロコーストを笑いに使った」という報道で、なぜ日本人がユダヤ人差別をするのかと憤慨する世論が強かった。小林氏解任について、バイデン政権が支持すると、ホワイトハウスのサキ報道官が述べたほど、国際問題としては大きいトピックなのだ。

 小林氏が人種差別でギャグに使ったのではないのはあきらかだが、「ユダヤ人大量虐殺」という言葉をコントに使って、それを聴衆が笑って聴いている時点で、やはり無知で無神経であるとしかいいようがない。

 仮に「ユダヤ人大量虐殺ごっこ」を「広島原爆ごっこ」とか「地下鉄サリンごっこ」と言い換えてみればわかるように、コントであろうが何であろうが、決して使ってはならない言葉なのだ。それを芸人も口にして聴衆も笑っていたのは、ホロコーストが遠い世界のことだからだろう。外国のことだから、自分とは関係ないと考える仲間うち社会の感覚だ。

 だが実際に、ホロコーストで多くのユダヤ人が虐殺されたヨーロッパ、いまだにユダヤ人差別もあるアメリカでは笑えないどころか、国際問題に発展するレベルの問題なのだ。

 これは五輪組織委員会前会長の森喜朗氏が女性差別発言で辞任になった件、そして開閉会式ディレクターを務める予定だった佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美氏の容姿を揶揄するような演出を提案していたことから辞任した件についても同じことだ。

 「女性差別」「容姿差別」「いじめ」「外国人差別」といった膿があらわになって、日本社会の人権意識の低さが露呈したといえる。

 それらは日本社会のなかでは許されてきたことだが、国際規準でいえばまったく許されない。これまで許されてきた人権意識の低さが、オリパラで浮かびあがったといえるだろう。オリパラをきっかけに、今こそ人権意識を変えていくべき時期ではないか。

 アメリカでも若者のカリスマといえるビリー・アイリッシュが先頃、炎上した。

 これは彼女がローティーンの時にラップを歌っていた映像が流出して、そのなかでビリーが「チンク」というアジア系に対する差別表現を口にしていたことが問題視されたのだ。

 彼女が歌っていたのは、タイラー・ザ・クリエイターの「フィッシュ」という歌で、そもそも猥褻な内容の歌詞であって、彼女自身がよく歌詞を理解して歌っていたとは思えないが、この場合、「子どものやったことだから」という言い訳は通用しない。

 ビリー自身は、「その言葉を知らず、家族にも使う人がいなかった。この歌の時だけ聞いた単語だった。当時の年齢や無知さはまったく言い訳にならない。知らないで使った自分に吐き気がする」として全面的に謝った。

 キャンセルカルチャーといわれ、過去の言動ですら批判の対象となる時代において、人権を無視した発言や行動をすることは、本人にとってもキャリアの死となりかねず、意識を変えていかなくては生き残れないのだ。

アメリカを魅了する大谷選手、
ロールモデルとなる大坂なおみ選手

 一方、明るいニュースに目を転じてみると、なんといってもアメリカ中の熱狂を集めたのはロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の活躍ぶりだ。

 アメリカでは、打者でも投手でもあったベーブ・ルースが伝説のヒーローだが、大谷選手はレジェンドを越えると手放しで賞賛されている。

 プロ野球界では「スティッキースタッフ」、すなわち粘着性のある物質をボールに塗りつけて投げることで回転数を増加させる不正が問題となっている。その抜き打ち検査をされた大谷選手が、『不正を疑うなんて』と憮然とするどころか、にこやかに対応して、「サンキュー」とまでいう態度に、「大谷選手は本当に天使なのかもしれない」とメディアも絶賛している。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 ゴルフの松山秀樹選手がマスターズで優勝した時にも、早藤将太キャディがピンを返した後にコースに一礼したことが、アメリカのメディアでも絶賛された。当たり前のことだが、アメリカのスポーツ界ではなかなか見られない、礼節をわきまえた態度は、賞賛されるのだ。

 ロサンゼルスタイムズは、他にも八村累選手や、サッカーの久保建英選手らを含めて、「日本はスポーツのゴールデンエイジに突入した」と記事を掲載した。

facebookView full post on Facebook

 さらに大坂なおみ選手はアスリートだけに留まらない、ロールモデルになってきている。 大坂選手は、「ESPY最優秀女子アスリート賞」を受賞。全仏オープン以来、初めて公の場に登場して「ここにいるのがふしぎ」と笑顔を見せた。

 『タイムマガジン』には、”It’s O.K. not to be O.K”(大丈夫ではなくても、大丈夫)という記事を寄稿。メンタルヘルスについて語り、アスリートと精神の健康についてのアウェネスを広めた。

 『スポーツイラストレイテッド』誌の恒例人気特集「スイムスーツ」号では、ブラックのアスリート、そして日本人のアスリートとして、初の表紙を飾った。

 大坂選手のバービー人形も発売され、『ヴォーグ』誌にも登場して、まさにスポーツ界における「時の人」となっている。

 彼女が2020年にブラックライブズマター運動で、犠牲者たちの名前が書かれたマスクをつけて抗議を続けたこと、アジアンヘイトクライムに対して声をあげたこと、そして今回のメンタルヘルスに対するアウェアネスを促したことで、オピニオン・リーダーともなっている。

 ネットフリックスでは、大坂選手のドキュメンタリーが放映された。このなかでは、大坂選手がアメリカ人としてではなくて、日本人としてオリンピックに出場することについて、アメリカでは批判が起きたことについても触れている。

 「黒人としての立場を破棄するのか」といわれたというが、大坂選手は自分が14歳の時から日本人選手として試合に出場していること、そして「多くの国籍と民族の違いを区別していない」と語っている。

「ブラジルにも黒人はたくさんいますが、彼らはブラジル人です」

 大坂選手は自分が日本選手としてオリンピックに出場することに「特別な感情を抱いていた」といい、彼女にとっての大きな夢であったことがわかる。

 アメリカで活躍する日本人選手たちが今、スポーツ界で大きな存在になっていることは、頼もしいことだ。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Naomi Osaka | Official Trailer | Netflix
Naomi Osaka | Official Trailer | Netflix thumnail
Watch onWatch on YouTube


オリンピックで増える
コロナ感染と熱中症、
「日本は誘致でウソをついた」
という批判も

 オリンピックの開幕式は、アメリカでの視聴数は1700万ビューワーで、リオ五輪に比べると30% の減少となった。2012年のロンドン五輪開幕式が40700万ビュアーであったのと比べると激減であり、過去30年間で最低の記録となった。 

 これは東京五輪が行われるのが最後まで未知数だったため、ふだんであれば開催前から放映される花形選手たちのクローズアップ番組などがなく、人々の関心が五輪に向かなかったためだと考えられる。

 開幕式自体も地味だったために、アメリカで話題に上ることもなかったが、オリンピックを放映するNBC系列の番組、ジミー・ファロンの「トゥナイトショー」では、選手村のベッドが段ボール製であるのがネタに使われていた。

ニューヨーク,黒部エリ,生声,コロナ,アメリカ,大谷翔平,東京2020オリンピック,otani
Ellie Kurobe-Rozie
ジミー・ファロンのトゥナイトショーで、ネタにされる選手村の段ボール製ベッド

 また、MISIA氏が着用していたトモ・コイズミ氏の手によるフリルドレスはLGBTQコミュニティもサポートするレインボーカラーだったが、これが「NBCユニバーサルのロゴ、ピーコックに似ている」とSNSで話題になった。

 コロナも大きな影を落としていて、アメリカの女子体操チームの代替選手であるカラ・イーカー選手が、千葉県印西市で、そうそうにコロナ陽性判明した。

 その後、米女子体操チームは「選手村では選手たちの安全を確保できない」と自己判断でホテルに移動。そうした動揺もあってか、金メダル確実視されるシモーネ・バイルズ選手も初戦でふるわなかった。

 コロナ感染はワクチン接種しても完璧には防げないので、これからコロナ感染が増えていくのは確実だ。そして前述のように、アメリカではコロナ感染で死亡している人の99%近くがワクチン未接種者だということを思い出して欲しい。日本での未接種者が多いままでは、感染爆発も起きかねない。

 そしてまた聞こえてくるのは、選手たちにとって東京の暑さが想定外のレベルですさまじいことだ。

 男子世界ランキング2位のメドベージェフ(ROC)は夕方からの試合開催を提案して、ランキング1位のジョコビッチもその意見に賛同。真夏の戦いになれているテニス選手たちでも音を上げている。

 その理由は当然ながら、気温のみならず湿気が高い、日本の夏特有の暑さによるのだが、YAHOO! SPORTSでは「日本のオリンピック組織委は日本の気候について、ウソをついた。おかげで今苦しむのは選手たちだ」という厳しい糾弾意見を載せた。

 これはオリンピック誘致の時に、「この時期の日本は温暖で、晴れている日が多く、選手たちがベストのパフォーマンスができる天候である」とアピールしたことを踏まえていて、「日本はウソをついたことを知っている、なぜならここに住んでいるからだ。東京在住者であれば、誰一人として温暖であるとか、理想的であるとはいわないだろう」と批判する。

 それは東京在住者であれば、たしかに誰もが知っていることで、さんざん1964年時のように秋に開催すべきだという世論が出たのに実現しなかったのが残念だ。その理由は放映するNBCにとって、夏期はNFLやカレッジフットボール、NBAや大リーグのワールドシリーズなどと競合しないためだが、それで実際に苦しめられるのはアスリートたちだ。多くのアスリートが熱中症に倒れるのは確かだろう。

 コロナ感染が増えることも、猛暑もわかっていながら押しきった東京五輪。日本の金メダルが増えるのは確実ではあるものの、命にかかわるような「呪われた五輪」にならないことを切に願う。


face, photograph, brick, beauty, pattern, snapshot, wall, brickwork, design, photography,
写真提供:黒部エリ

黒部エリ
Ellie Kurobe-Rozie

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。『Hot-Dog-Express』で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYに移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続けている。著書に『生にゅー! 生で伝えるニューヨーク通信』など。