記事のポイント

  • 2023年8月23日(水)、月面探査車「プラギャン」を搭載したインド宇宙研究機関の着陸船「ヴィクラム」が、月の南極地域に軟着陸しました。
  • 着陸船「ヴィクラム」には月地震活動観測装置(ISLA)が搭載されており、この装置に「プラギャン」が初めて月の表面に降り立った様子と予期せぬ“自然現象”が記録されました。
  • これは恐らく、50年以上前のアポロ計画以来で月の地震活動をとらえた初の記録となる可能性があります。恐らく…

インドの月探査機が
月の南極地域に
世界で初めて着陸

インドは長年にわたり、宇宙計画へのミッションを遂行してきました。その結果、つい先日インド宇宙研究機関(ISRO)は月面に着陸した(旧ソビエト、アメリカ、中国に次いで)史上4番目の国となり、月の南極地域に着陸した国としては初となりました。

リスキーな部分であった逆噴射ロケットと軌道力学に関する問題が解決された現在は、科学が本当の始まりを迎える時代となったと言えるでしょう。そんななか、無人月探査機「チャンドラヤーン3号」の着陸船「ヴィクラム」は、その先陣を切る偉業を成し遂げたようです。

月面探査車「プラギャン」も搭載している着陸船「ヴィクラム」には、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS<メムス>。微小電子機械システム)技術に基づく月地震活動観測装置(ILSA)が搭載されており、すでに月面で微小な地鳴りを検知しています。インド宇宙研究機関(ISRO)の声明によると、明らかな振動は月面で「プラギャン」がミッションを開始した時に発生したそうですが、「8月26日(土)には、“自然現象と思われる事象”を記録した」とのこと。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Chandrayaan-3 Mission Soft-landing LIVE Telecast
Chandrayaan-3 Mission Soft-landing LIVE Telecast thumnail
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人類が月で新たな地震現象を検出したのは、1969年から1972年のアポロ計画間に月の内部構造を解明することを目的に行われた探索以来、初めてのこと。

isro
ISRO
ISLA実験が明確に表示された着陸船「ヴィクラム」の画像と、月の表層の温度プロファイルを測定するチャンドラの表面熱物理学実験(ChaSTE)が行われたときの画像。

アポロ11号計画は実験的な性格を持つミッションであったため、初期アポロ月面実験パッケージ(EASEP)が搭載されましたが、それは「わずか2つの実験装置のみ」という状態で月面に到着しました。

その後のアポロ計画(有人飛行中に事故によってミッション中止となったアポロ13号を除く)では、より進化したアポロ月面実験パッケージ(ALSEP)を搭載して月面に到着。そのALSEPに搭載されていたのは、宇宙飛行士が出発してから1年間、月面を監視するために設計された地球物理学機器でした。そしてこの実験機器は、1977年9月30日に最後の実験が終了するまで8年間にわたってその役割を果したとされています。

驚くべきことにALSEPの地震計は、月の振動を1000万倍に増幅することができたそうです。天候や人為的な騒音の影響を受ける地球では、この感度で計測するのは完全に不可能なこと。まさに「偉業」と言えます。

ほとんどのアポロ計画では、月全体を観測するための受動的な科学実験が行われましたが、アポロ14号と16号には月周辺を監視するための能動的な地震実験が含まれていました。また、最後の有人月ミッションであるアポロ17号には、表面付近にある月の物質の物理的特性に関するデータを収集するために設計された、月震動プロファイリング実験が含まれていました。

アポロ計画以来の50年間、豊富なデータがありながら科学者たちはより多くのデータを求めてきました。今回の「ヴィクラム」のデータは、その中でも特に貴重な価値を持つでしょう。なぜなら、これまでに月面着陸機が月の南極地域を訪れたことがないからです。

月の南極地域は、月面基地を設置しようと考えている人々にとって重要なリソースである氷の堆積物があるため、非常に興味深い、魅力的な地域です。その証拠に、アメリカと中国は将来的にこの地域でのミッションを計画し始めています。

「チャンドラヤーン3号」の月でのミッションは、探査車と着陸船が太陽電池で動くため、「14日間しか持たない可能性が高い」としていました。なぜなら、軟着陸した8月23日の地球時間14日後、月の南極付近は以降14~15日間ほぼ夜が続くから…。このため、着陸船「ヴィクラム」と月面探査車「プラギャン」はその間、月環境で活動することはほぼ不可能となります。

そんなわけでISROは、「ヴィクラム」と「プラギャン」を月にとっての夜の間はスリープモードになるよう設定。9月22日(金)頃に再起動し、地球唯一の天然衛星がもつ地震の秘密をさらに明らかにする準備を整えていました。ですが…9月27日(水)時点の発表によれば、通信は確立されていない…「応答せず」とのこと。 10月に入ってもなお、休眠からの復帰したとの発表はありません。ISROの「チャンドラヤーン3号公式ページ」の報告も、9月22日の「現在、着陸船と探査車との通信を確立するための努力が行われている」を最後にいまだ更新されていません。

月面では、2週間ごとに昼と夜を繰り返すとされています。そして月の夜間は、マイナス170度になるとのこと…。そんなわけで「チャンドラヤーン3号」は、その極低温に耐えられなかった可能性が示唆されています。しかしながらこの2週間の探査活動によってチャンドラヤーン3号は、月の南極付近の地表面温度の直接観測に成功したほか、硫黄の発見、月の地震の観測など多くの実績を残しました。この功績をたたえ、あきらめず吉報をいましばらく待ちたいと思います。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Yumi Suzuki
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です