米国疾病予防管理センター(CDC)は先頃、「世界の人口のうち、安全に管理された飲料水を利用できる人の割合は約74%にとどまっている」と発表しました。つまり、「推定20億人が清潔な水にアクセスできていない」ということになります。

飲み水を供給するための水道、いわゆる「上水道」は紀元前312年に、ローマ帝国時代にアピアス・クラウディスがローマに造った「アピア水道」が世界で初めてのものとされています。またその一方で、世界で最も古い「下水道」に関しては、今から約4000年ほど前に古代インドの都市(モヘンジョ・ダロ)でつくられたものとされています。ここでつくられた下水道はレンガでできており、各戸で使い終わった水を集めて、川に流すというかなりシンプルなものです。…が、その年月の経過を考えると、現状に驚きを感じざるを得ません。

そこでここでは「下水道」にフォーカスします。その発明以来、下水道は廃水の管理に不可欠な要素となったことは明確。家庭などから出された排水は、地下に張り巡らされた迷路のような下水管を通って下水処理場に運ばれ、その後、処理が施された清潔な水は自然へと戻されます。

そんな下水処理のプロセスと、社会に清潔な水を供給するために果たしている重要な役割について、知っておきたい事柄を以下取り上げていきます。

まず、廃水(下水)とは何か?

水処理施設は全て同じではなく、“処理された”水の清浄度の基準が異なります。生活用水における処理施設には、大きく分けて「下水処理場」と一般的な「浄水場」の2種類があります。まずは、この2つの主な違いを簡潔にまとめました。

  • 浄水場(Water Treatment Plant=WTP):浄水場には地下水、地表水、あるいは雨水が流れ込みます。処理された水は清潔な飲料水となり、貯水タンクに送られるか、家庭へと直接配水されます。「水道水」という用語は、「飲料水」や「飲用水」と実質的に同じであるため紛らわしいかもしれませんが、これらは全て浄水場から供給されます。
  • 下水処理場(Wastewater Treatment Plant=WWTP): 下水処理場は、浄水場に比べれば、必要とされる処理プロセスがおおまか(シンプル)なものになります。下水処理場は廃水を受け入れ、人間や植物、魚に安全な水準になるまで処理を行います。

こうしたプロセスについてさらに詳しく知りたい場合は、最寄りの水道局または国土交通省、および厚生労働省のウェブサイトを参照するとよいでしょう。次は、下水処理プロセスに焦点を当てていきます。

下水処理場の仕組みは?

asian male engineer working at factory with pipeline and pump
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確かに、どちらの処理も水を“きれい”にするものですが、浄水場が処理後の水を地域の飲料水配水システムへと供給するのに対し、下水処理場は処理後の水を河川および湖、海に戻します。さらに詳しく説明する前に、下水処理場を出入りする水について理解を深めるためのキーワードを解説します。

  • 下水 : 家庭の台所・水洗トイレ・風呂や工場・事業所から出る汚れた水。有毒化学物質や排泄物を含み、水処理プロセスの第1段階の対象となる水。
  • 中水:飲むことはできないが、人体に影響を及ぼさない形で再利用される水のこと。 水洗トイレや工業用水などに利用されますが、トイレの排水を利用するケースは感染症を防ぐなど特別な配慮が必要。
  • 上水: いわゆる「飲料水」であり、飲用として安全な水のこと。飲料水として認められるには当然、厳格な水質基準(アメリカの基準日本の基準)が設けられています。飲料水用の検査では通常、ヒ素、化学物質、鉛、銅、放射性核種(放射線量の指標)など、汚染物質のスクリーニング検査が行われます。

下水処理を行うには、まず廃水を処理場まで運ぶ必要があります。ですが、これが意外と大変な作業です。ほとんどの下水道管は下りになるように傾斜して敷設されており、重力を利用して汚水を処理場まで流しますが、上りになっているところではポンプなどを使って水を送り込むことが必要になります。

以下、アメリカの事例です。

✅ペンシルベニア州環境保護局クリーンウォーター・プログラムの環境マネージャー、ボブ・バウアー氏に下水処理プロセスについて説明してもらいました。

トイレで流した水の行方は?

ペンシルベニア州南東部で行われている下水処理事業の規模の大きさは、驚異的です。バウアー氏によれば、「フィラデルフィア市には3つの下水処理施設があり、家庭などから流されてきた下水を処理している」とのこと。これらの施設はそれぞれ、1日に2億ガロン(約7億5700万リットル、オリンピックサイズのプール400個分を上回る量)の処理水をデラウェア川に放流することが許可されています。

ペンシルベニア州南東部には、バックス郡のような農村部とフィラデルフィア市のような都市部の両方が同じ管轄区域内にあるという特徴があります。南東部では、5つの郡(バックス、チェスター、デラウェア、モンゴメリー、フィラデルフィア)を管轄していますが、この中には自家下水処理設備を所有している家が300軒以上あります。フィラデルフィアの水処理場がそれぞれ2億ガロンを放流できるのに対し、家庭からの放出は1日500ガロン(約1890リットル)に制限されています。これには、河川への放出または灌漑目的のいずれも含まれます。

水処理というのは、処理作業の規模の大小を問わず、私たちの日常生活に不可欠なものでありながら意識されることは少ないものです。次にトイレの水を流すときには、映画『ファインディング・ニモ』のように、「トイレの水がそのまま海に流れ込んでいることはない」ということをぜひ思い出してください。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です