東京駅から新幹線に乗って、およそ40分で到着する熱海。一時は落ち込んだこともありましたが今や活気を取り戻し、多くの人でにぎわう人気の温泉地となっています。

この熱海駅から車で約7分のところにある伊豆山温泉の地に、「熱海・伊豆山 佳ら久」はオープンしました。「佳ら久」とは、「からく」と読みます。「めでたいこと、 佳(よ)きことが、久しく続くように」という想いを込めて名づけたということです。

この地、伊豆山温泉は古くからの温泉地であり、高級ホテルや旅館が点在しています。その中で「ラグジュアリー旅館リゾート」を謳(うた)う「熱海・伊豆山 佳ら久」は、どのような魅力を放っているのでしょうか?

相模湾を望む圧巻の眺望

「『熱海・伊豆山 佳ら久』は、相模湾を一望できる眺望が自慢だ」という話を訪れるより前に耳にしていました。「一体どれほどのものだろう…」と想像していたわけですが、思っていた以上にそれは圧巻の、素晴らしい眺望が広がっていました。

駅から車で向かうとまず目にする「熱海・伊豆山 佳ら久」の姿は、シックで落ち着いた外観で、その後ろに広がっているはずの景色…つまり海が見えません。車を降りて建物に入り、エレベーターでロビーのある8階まで上がりますが、このときもまだ海を目にすることはできません。そしてエレベーターに降りてロビーに向かう後方の通路を進もうとすると、ようやく青い海が視界に飛び込んでくるのですが、それがまた壮麗さを極めた景観でした。

天井いっぱいまでとられた大きなガラス窓の先に広がる雄大な海、青空が映り込んだ水盤、澄んだ空が織りなす眺望はため息が出るほど美しく、どこまでも青の世界が続いていくように見えます。「熱海・伊豆山 佳ら久」はこの絶景を “水天一碧(すいてんいっぺき)の情景”と称していますが、それも納得です。旅の始まりを彩るにふさわしい、絶好の演出に心躍る思いに…これには気持ちが高ぶらずにはいられません。

熱海・伊豆山 佳ら久の足湯
特にこの日は好天で、一面青の眺望に目を奪われます。テラスには、この景色を見ながら浸かれる足湯も。ちなみに伊豆山温泉納涼海上花火大会のときは、「熱海・伊豆山 佳ら久」の目の前で花火があがるそうです。

大浴場にある展望露天風呂も、もちろんその眺望を生かした設計に。海や空に続いていくようなインフィニティ温泉で、その深さは縁にもたれかかって景色を眺めるのにぴったり。泉質は「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉」で、「切り傷や冷え性、皮膚の乾燥にいい」とされています。温泉は柔らかく、浸かったあともしばらくは暖かさが続いて少し汗もかくぐらいでした。

存在しない画像
遠くに見える小さな島は、リゾートアイランドとして人気の初島。大島がうっすら見えるときもあるそうです。
熱海・伊豆山 佳ら久の休憩所
大浴場のフロアにある「湯上りサロン」からも、眺望を楽しむことができます。ここにはミネラルウォーターやデトックスウォーター、ビールが用意されていて、いつまでもいられるぐらい快適でした。

全ての客室が
温泉露天風呂付き

57室ある客室全てが相模湾向き。高層階は先ほど紹介した景色を存分に眺めることができ、低層階でも豊かな緑が広がります。また箱根・強羅にも佳ら久がありますが、「熱海・伊豆山 佳ら久」にはスイートルームが設けられているのが特徴です。

熱海・伊豆山 佳ら久のスイートルーム
スイートルームは客室露天風呂も、他の部屋に比べて広めにつくられています。

また箱根・強羅の佳ら久と同じく、佳ら久ブランドの象徴として設えられているのが、「佳ら久ルーム」という部屋タイプ。一番多い「デラックスルーム」と家具が異なっていたり、6階(スイートルームを除くと客室としては最上階)に位置していたり、チェックイン時間が1時間早く、さらにチェックアウト時間も1時間遅く設定されています。この部屋は“滞在”自体がおもてなしになるようこだわり尽くした、プレミアムな癒やしが楽しめるようになっています。今回泊まらせていただいたのが、幸いにもこの「佳ら久ルーム」でした。

熱海・伊豆山 佳ら久の佳ら久ルーム
こちらが「佳ら久ルーム」。訪れた日はこの時期にしては暖かいほうでもありましたが、客室露天風呂が近くにあるからか、テラスは夜になっても外で過ごすのが耐えがいほど寒くはなく、海から聞こえる波の音をBGMにコーヒーを飲んでくつろぐにはちょうどいいぐらいでした。

個人的に快適だったポイントは、外のテラスにあった身体を包み込むようなゆったりしたチェアと、足を伸ばせるオットマン付きのソファ。肩の力を抜いてくつろぐのにぴったりの家具たちです。また、コンセントや充電用のUSBポートも豊富で、「ここで充電したい」と思う場所に見事にあったのも、うれしいところでした。

特に個人的に惹かれたのは、やはりテラスにある客室露天風呂。これは全ての客室に付いています。温泉旅館に滞在するなら、温泉を存分に楽しみたいものです。客室からすぐ入れる客室露天風呂があるのは、大きな魅力に感じられました。

7階に位置する展望露天風呂も見事ですが、今回滞在した6階からの眺望も素晴らしいもので、滞在中に何度も入っていました。

熱海・伊豆山 佳ら久の佳ら久ルーム

フリーフローで楽しめる
2つのラウンジ

「熱海・伊豆山 佳ら久」の施設で見逃せないのが、フリーフロータイムが設けられたラウンジ。食事の前後やちょっとした空き時間にくつろげるラウンジがあることは、旅に特別感や快適さをもたらしてくれるものではないでしょうか。個人的に宿泊先を探すときの一つのチェックポイントでもあるのですが、「熱海・伊豆山 佳ら久」では宿泊する部屋タイプに関わらず利用できるのが有り難いところです。

ここには「間(AWAI)」と「刻(TOKI)」という2つのタイプのラウンジがありますが、それぞれ違った良さを持っていました。

熱海・伊豆山 佳ら久のラウンジ
熱海・伊豆山 佳ら久
左が「間(AWAI)」で右が「刻(TOKI)」。

「間(AWAI)」はロビーと同じく最上階にあり、アルコール各種とソフトドリンク、フィンガーフードとスイーツが楽しめます。こちらも海と空が美しい眺望が楽しめるようになっていて、テラスにある足湯にもドリンクや軽食を持っていってOK。フリーフローは19時までで19時半からはバータイムになり、フリーフローの時間帯とはまた違った上質なひとときを過ごせます。

コーヒーとスイーツ
アイスコーヒーはクレマもつくれるサーバーで注ぎます。アルコールはビールやワイン、日本酒などがあり、軽食もラインナップが充実していました。

一方「刻(TOKI)」のほうは、山側を望む眺望。ここではコーヒーや紅茶、ソフトドリンク、スイーツが味わえます。コーヒーと紅茶に関しては、コーヒー豆と茶葉が8種類ずつ用意されており、その中から選んだものをフレンチプレスで用意してくれます。淹れるカップは、ラウンジ内に飾られているものの中から好きに選べるというスタイル。豆・茶葉を選ぶ楽しさに加えて、自分好みのカップで飲める特別感があります。

コーヒー
紅葉した木々を目前に、鳥のさえずりを聞きながら飲む朝のコーヒーは格別でした。

地元食材を取り入れた
心安らぎ活力を生み出す食

旅の醍醐味には、食も外せません。街に繰り出すのもいいですが、宿泊先のレストランもその施設や土地の個性が表れるものです。「熱海・伊豆山 佳ら久」にはダイニング「六つ喜(MUTSUKI)」と鮨「藍寿(AIJU)」があり、今回「六つ喜」の食事を体験させていただきました。

「六つ喜」の名前には、「五感とここならではの体験といった6つの要素を満たしたい」という想いが込められているとのこと。確かに見た目にも美しく意外な素材使いをしているメニューが多い印象で、佳ら久の創意工夫が詰まった料理でした。ですが、単に創作に徹し奇をてらっているというわけではなく、素材の味が活きていたり旨味が深い出汁がきいていたりと、どこかほっとするような味わい。ゆっくりと自分の中にエネルギーが満ちていく感覚を得ることができました。

刺身盛り合わせ
お造りは盛り付けが豪勢で、テーブルに置かれたときには気持ちが高揚しました(写真は2人前で、1人前はアフタヌーンティーのようなお洒落な器で運ばれていました)。
朝食
朝食は箱に入っていて、その品数の多さやこれぞ旅館の朝ごはん。心もお腹もいっぱいです。

「藍寿(AIJU)」は檜の一枚板でつくられた大きなカウンターと、半個室が4卓。そのときの新鮮な海の幸を使ったおつまみと、お寿司が提供されるとのこと。海の幸が豊富な土地柄ということもあり、メニューの詳細が気になるところです。

熱海・伊豆山 佳ら久の鮨
カウンターでは職人の方と会話を楽しみながら、半個室では家族でゆっくりと食事を楽しむことができます。

社長と総支配人が語る
「熱海・伊豆山 佳ら久」、
そのビジョン

オリックス・ホテルマネジメント取締役社長と 熱海・伊豆山 佳ら久総支配人
熱海・伊豆山 佳ら久
写真左/オリックス・ホテルマネジメント取締役社長 似内隆晃氏 1989年にオリックスに入社。高知支店、横浜支店で支店長を務め戦略営業部長、グループ広報部長を経て、2017年にオリックス不動産 専務執行役員に。その後グループ執行役員(現任)、オリックス不動産 取締役副社長を務め、2020年1月オリックス不動産 専務執行役員(現任)を経て2020年4月に現職に。 写真右/熱海・伊豆山 佳ら久、箱根・強羅 佳ら久 総支配人 藤井育郎氏 京都のすし店で修業後、京懐石「吉泉」へ。1995年に「新浦安オリエンタルホテル(現オリエンタルホテル東京ベイ)」に入社後は和食調理を担当し、和食料理長、グループ内ホテルの「なんばオリエンタルホテル」の総支配人などを務める。その後、オリックス・ホテルマネジメントの「箱根・芦ノ湖はなをり」「箱根・強羅 佳ら久」の総支配人を務め、現職に至る。

今回、オリックス・ホテルマネジメント取締役社長の似内隆晃(にたない たかあき)氏と総支配人の藤井育郎(ふじい なるお)氏にも話をうかがうことができました。「熱海・伊豆山 佳ら久」の一番のポイントを尋ねると、やはり2人とも「眺望」という回答がありました。では、宿泊施設としてのハード面が整った今、「熱海・伊豆山 佳ら久」としてこの先目指すところをうかがうと、似内氏は「この熱海・伊豆山エリアを活性化していきたい」と語ります。

「『伊豆山』というと伊豆エリアを思い浮かべるほうも多く、 “熱海の伊豆山”ということやこの土地の魅力がまだまだ世の中に知られていないと考えています。ですが、ここは歴史のある地域で、例えばこの土地に縁のある源実朝の歌を伊豆山神社で詠む会が古くからずっと続いている。こうしたまだよく知られていない文化やイベントに、スポットライトを当てていきたいと思っています」

そこで「熱海・伊豆山 佳ら久」では旅館内に地域担当者を常駐させ、地域とのつながりを密なものにして、体験型のコンテンツとして落とし込もうとしています。

「宿泊プランにそういう体験を組み込んだり、期間限定のイベントを開催したりしたいですね。また、旅館に泊まってゆっくりするだけでなく、どこかに寄って帰りたいというお客さまも少なくありません。なので、コンシェルジュのように近隣のスポットや体験をご案内できるようにすることも考えています。

すると、地域全体が健全な形で潤っていくことはもちろん、お客さまにとって新たな発見やいい経験となって楽しい思い出づくりにつながるはずです。『眺望がいいラグジュアリーな旅館』というだけにとどまらず、地域色のある付加価値を高めていきたいと思います」

こうした好循環を生み出していくためには、「熱海・伊豆山 佳ら久」が熱海・伊豆山に訪れる目的そのものになることも欠かせません。「熱海・伊豆山 佳ら久」の個性を、これからどのようにつくり上げようとしているのか? を藤井氏に訊くと、料理と接客に力を入れていこうとしているようです。

「これまでの経験やお客さまのご意見から、料理の重要性を認識しています。ここの料理長やスタッフはさまざまなキャリア・料理経験を持っていて、私自身も以前は和食の料理長を務めていました。『熱海・伊豆山 佳ら久』では、料理長一人がメニューを決めるわけではなく、キャリアが異なる料理人たちが意見を出し合ってつくり上げるメニューとなっていますので、本当に面白いものが出来上がっていると実感しています。

熱海・伊豆山には、海の幸や野菜など豊かな素材がたくさんあります。これらの素材を『熱海・伊豆山 佳ら久』の味としてお客さまに提供することが、今後の目標です。オープン後もお客さまのご意見を受け止めながら、常に変化していきたいと思っています」

献立
この日の献立でも、地元の食材が取り入れられていました。メニューは季節や仕入れ状況によって異なります。


「また接客面に関しては、『佳ら久』ではお客さまが思い思いの時間を過ごしていただけるよう、接客ではつかず離れずの“間(ま)”を大切にしています。『箱根・強羅 佳ら久』はその接客も含めて高く評価していただき、おかげさまで日々のお客さまのおよそ15%の方々がリピートでお越しになってくれています。

『熱海・伊豆山 佳ら久』も同じような時間を提供しようとしています。ここは癒やされるために訪れ、ゆっくりと過ごし日常ヘの活力をリチャージしてもらう場所。そのサポートとなる接客・サービスをすることを心がけています」

実際、基本的にいい意味で放っておいてくれ、「ちょっと聞きたいな…」と思っていると自然とスタッフの方が気づいてくれる…という場面が何度もありました。宿泊客それぞれにとって居心地がいい対応をするには、カスタマイズされた接客・サービスが必要になります。ですが、それを実現するカギは、「最低限のルールしか設けないこと」ということになるでしょう。

「言うことやることを細かく決めてしまうと、ルールを守ることに強く意識がいってしまって柔軟な対応がとりづらくなると思っています。さまざまなお客さまに寄り添った接客をしようとすれば、そうはいきません。なので、スタッフには個人の判断で動いてもらうようにしています。現状、スタッフ同士もよくコミュニケーションをとり、情報共有の盛んに行って互いを高め合ったりしているようです。

私の役目は、環境や風土づくりをすること。『その先は、君たちが主役だ』ということをいつもスタッフにも話しています。以前にブランディングの経験があるのですが、そのときに感じたのは、『一人一人がそのブランドである』という意識を持つことが大事ということ。ここでも、それぞれが『熱海・伊豆山 佳ら久』というブランドを体現する人であるという意識とプライド、責任感を持って接客するようにと伝えています」

ますます磨きがかかっていくことを予感させる「熱海・伊豆山 佳ら久」。高級感がありながら自然体で過ごせるほど居心地がよく、一度訪れたら再訪を誓いたくなるに違いない旅館でした。今後もどのようにパワーアップしていくのか、目が離せません。

◇「熱海・伊豆山 佳ら久」概要
住所/静岡県熱海市伊豆山630番地1
客室数/57室
館内施設/大浴場(2カ所)、レストラン(2カ所)、ラウンジ(2カ所)、テラス、足湯、スパ、ジム
宿泊料金/デラックスルーム 一人 5万8300円~、佳ら久ルーム 一人 6万9300円~
※2024年1月31日(水)宿泊分までで販売されている開業宿泊記念プランの場合
※2名1室利用時(夕朝食付き)
※消費税込み、入湯税別
電話番号/0557-55-7900

公式サイト