【もくじ】

  • 「筋スリング(sling)」を鍛える利点は?
  • 「スリング トレーニング」の歴史
  • 挑戦すべき「スリング トレーニング」3種
     -前腹筋鞘・腹斜筋・対側股内転筋を鍛える
     -脊柱起立筋、胸腰筋膜深層、仙結節靭帯、大腿二頭筋を鍛える
     -中殿筋、小殿筋と対側股内転筋を鍛える

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 2020年2月に開催されたNFLスーパーボウル(2019年シーズンの優勝決定戦)を制覇したカンザスシティ・チーフス。そのチームで、攻撃チームの司令塔QB(クォーターバック)を務めるパトリック・マホームズ選手をご存知でしょうか…?

 マホームズ選手がロングパスを放つ姿をイメージしてください。彼は投げる前に、左足で前方にステップを踏み、背骨を弓のようにしならせ、腰を左向きに回転させています。そうすることで、力は腰と体幹を介して右肩へと移動していきます。

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 日本の読者の皆さまに関しては、アメフトに関して試合観戦もしたことのない方のほうが多いかと思います。本場アメリカの専門家たちは、“彼の強さの秘密は、その身体全体の動きにある”と理解しているようです。マホームズ選手は最も的確かつ効率のいい前方斜位で、まるで投石器のように投げている…と分析しています。投石器とは石を遠くへ投げるための紐状の道具で、古くから羊飼が羊の群を誘導したり害獣を追い払ったりするのに使用していた道具です。

現役のプロトレーナーが記事を監修

 「投げる動作というのは、一つの筋肉の働きによるものではありません。これは、『筋スリング』と呼ばれるいくつかの筋肉が連動して作用するものなのです」と説明するのは、プロトレーナーのジョシュ・ヘンキン氏(CSCS:認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。指導のため来日もしています。

「筋スリング(sling)」を鍛える利点は?

筋スリング(sling)とは、協調運動を起こす筋群の協力を指します。筋連鎖がスポーツなどで活発になると、運動の中で筋連鎖の活動で筋が変化するのです。

 この投げる動作の一連の流れのような筋スリングの仕組みは、つま先からお尻、体幹、そして腕に至るまでの筋肉が連動して動くセットになります。身体にはこのようないくつかのスリングがあり、そこを鍛えるトレーニング方法を学ぶことで、真の強さと高い運動能力へとパフォーマンスアップが大いに期待できるわけです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Anterior Oblique Sling Exercise Progression - Train Your Core Better
Anterior Oblique Sling Exercise Progression - Train Your Core Better thumnail
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 筋肉群ではなく、この筋スリングを鍛えることに取り組むことで、個々の筋肉へのストレスを軽減し、より効率的で協調性のある動きができるように全身を鍛えることができます。

 そのため、筋スリングをトレーニングメニューに組み込むトレーナーが増えてきています。「私たちは、この運動連鎖を最重要視しています。これは機能的なトレーニング以上のものでありますし、それぞれの筋肉を鍛えることをはるかに超えたものと言えるのです」と、ヘンキン氏は解説します。

 筋スリングを科学的に調べてみると、以前はそれぞれ単体の動きを生み出すユニットと考えられていた筋肉が、「筋肉・関節・腱・靭帯」を取り囲む網目状の物質である筋膜によってリンクされた長い鎖の中で、一緒に働いていることが研究によって明らかになっています。

 さらに筋スリングは、滑車のシステムのように身体を制御しながら胴体を通過し、そして重要な関節で動きを生み出してはパワーを発揮する…のです。そのため筋スリングに焦点を当てたトレーニングは、運動パフォーマンスを最適化するという観点から取り組むすべてのエクササイズにおいて、体幹を鍛えながら全身も鍛えること可能となるわけです。

スリング トレーニング」の歴史

 「筋スリング」のコンセプトは、カナダの生理学者セルジュ・グラコヴェツキー博士が、「四肢切断者は胴体を前後に振ることで股関節を使い、歩いていることに気がついた」という1980年代の研究がルーツとなっています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Anterior and Posterior Oblique Sling Assessment
Anterior and Posterior Oblique Sling Assessment thumnail
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 博士は人間の動きの基本は背骨、腰、そして腰の回転運動にあると考えていました。彼は著書『スパイナル・エンジン』の中で、「腕や脚の筋肉の動きは脊椎から始まっている」と記しています。このことから運動の専門家であるダイアン・リーさんとトーマス・マイヤーズさんも、「このような運動によるパフォーマンスは筋スリングによって形成されている」という同様の理論をそれぞれ展開していたのです。この2人の専門家のアプローチは、90年代後半にトップアスリートたちと組んでいた革新的な理学療法士たちによって採用されていたのです。

 およそ5年前の2015年には、ファンクショナルトレーニング(文字通り、身体の機能を高めるためのトレーニング)の台頭によってヘンキン氏をはじめとするトレーナーたちの間で、このトレーニング法が注目を集めました。ですが彼らは、それ以上のものを求めていたのです。

 さらに、よりスマートな動きを求める理学療法士たちも注目し始めました。例えば「バックスクワット」は、間違いなく効果的で素晴らしい筋トレです。が、全身を鍛える動きではないのです。しかし、筋スリングのトレーニング法なら、それが可能となるのです。

 とは言え、すべてのジムが「スリングトレーニング」を受け入れているわけではありません。複雑なので、受け入れられるには時間がかかっているわけです。

sling training
KYLE RM JOHNSON

 (写真のように)ケトルベルを掴むために身体を曲げながら、ボクサーがクロスカウンターを放つように腰を左に回転させ、それから腰を右に回転させケトルベルを肩へ引き寄せます。その次に、突き出すようにケトルベルを頭上に押し上げます。

■「スリングトレーニング」― どの筋肉に効くか?

  • 大臀筋
  • 腹筋

 「この動きを、左右それぞれ5回の繰り返します。肩、大臀筋、腹筋を限界まで鍛えることができ、さらに回数以上の価値をもたらしてくれるのです。この動きは走ったり、ジャンプしたり、投げたりするときのように、何十もの筋肉が同時に作用することを思い知らせてくれるのです。もちろん心拍数も上がり、カロリーも消費されます」。

 では、知識を身につけたところで、そろそろ「スリングトレーニング」を試してみたくなったのではありませんか? それでは、実際に行ってみましょう。

挑戦すべき「スリング トレーニング」3種

 スリングトレーニングに関する権威であるトーマス・マイヤーズ氏によると、筋スリングは体中に十数カ所存在しているそうです。

 まずは次に紹介する動きを、日々行なっているトレーニングメニューに追加してみてはいかがでしょうか。 

■セット数は?

 それぞれ3セットずつ実施することで、スリングを動力として全身を鍛え上げていきましょう。

【1】前腹筋鞘・腹斜筋・対側股内転筋の部位を一緒に鍛える(アンティリアァ・オブリーク・サブシステム)

 胴体の前面を斜めに横切って配置されている筋肉で、身体を引き下げたり巻きつけたりすることに役立っている筋群です。例えば、テニスのサーブや友人にハイタッチをする動きを思い浮かべてみてください。これには内斜筋と外斜筋、股関節の伸筋が含まれています。

■やり方:「ハーフニーリングバンドプレス」

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KYLE RM JOHNSON
  1. 背部の腰の高さに抵抗バンドを取りつけ、右手でバンドをつかみます。
  2. 左ひざでひざまずき、右足は前面の床に平らに置き、ダンベルを左肩にのせます。
  3. 右腕を前に押し出し、体幹を引き締めます。これが最初の姿勢です。
  4. 次に左手でダンベルを頭上に押しあげます。そして元の位置に戻します。これが1回です。左右それぞれ8~10回繰り返しましょう。

 左右それぞれ8~10回繰り返しましょう。

【2】脊柱起立筋、胸腰筋膜深層、仙結節靭帯、大腿二頭筋の部位を一緒に鍛える(ディープ・ラーンジャトゥードゥナル・サブシステム)

 首から背中に沿って足まで、垂直に配置されている筋群です。腰と背骨を伸ばし、まっすぐ立つために役立っているものになります。

 例えば「デッドリフト」をしているときは、この筋肉のグループをトレーニングしていることになります。大臀筋、腰部の筋肉は、このグループの一部です。

■やり方:「スナッチ」から、「リバースランジ」

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「スナッチ」から、「リバースランジ」へ。
「スナッチ」とは、全身の筋肉を使ってダンベルやバーベルを頭の上まで一気に持ち上げるトレーニングです。

「リバースランジ」とは、一歩前に踏み出して行う基本のフォームとは逆に、足を後ろに引く方法で行うトレーニングです。
  1. ダンベルを両脇に抱えて立ちます。背中をフラットにした状態で、腰を中心とし、お尻を後ろに押し出し、ダンベルがひざの高さになるように、ひざを少し曲げます。これが最初の姿勢です。
  2. ダンベルを一気に上に持ち上げて、頭上に押し出します。
  3. 次に、左足を後ろに踏み込んで、左ひざを地面に突けます。
  4. 右足を後ろにずらしてひざまずきます。そして元の位置へ戻します。

 これが1回です。左右それぞれ5回繰り返しましょう。

【3】中殿筋、小殿筋と対側股内転筋の部位を一緒に鍛える(ラテラル・サブシステム)

 骨盤と鼠径部(そけいぶ=足の付け根のややくぼんだ線より上にある三角状の部分)の小さな筋肉、大臀筋正中筋と小腸筋、大腿部とひざの筋肉が含まれています。

 片足でバランスを取ったり、突き出したり階段の上り下りなど片足の動作に役立っている筋群です。体幹に大臀筋、股関節外旋筋もこちらに含まれています。 

■やり方:「ラテラルランジ」から、「ロウ」

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「ラテラルランジ」から、「ロウ」へ。
  1. ダンベルを両手で持ち、両足を開きます。
  2. 胴体が地面と平行になるように腰を前方に曲げ、ひざを少し曲げ背中を平らに保ちます。
  3. 右側の腰を下げながら右ひざも一緒に曲げます。このときには、ダンベルも下げましょう。これが最初の姿勢です。
  4. 次にダンベルを胸に当て、左ひざを曲げて体重を左に移動しながら右ひざをまっすぐにします。

 これが1回です。左右それぞれ8回を左右交互に繰り返しましょう。

Source / Men's Health US
Translation / Kazuhiro Uchida
※この翻訳は抄訳です。