年始恒例のスポーツの祭典、「スーパーボウル(Super Bowl LIII)」。2018年シーズンのNFLチャンピオンを決める、この第53回スーパーボウルは2019年2月3日、ジョージア州アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムでキックオフとなりました。

 2019年1月の段階で、NFC(NFLのカンファレンスの1つ、「ナショナル・フットボール・カンファレンス」)、AFC(NFL、もう1つのカンファレンス、「アメリカン・フットボール・カンファレンス」)ともに互いのチャンピオンシップゲームを終え、NFCはNFL屈指のクオーターバックとして名高いトム・ブレイディ選手率いるニューイングランド・ペイトリオッツが優勝、AFCのほうは入団してわずか3年でチームをスーパーボウルへ導いた24歳のジャレッド・ゴフ選手率いるロサンゼルス・ラムズとの対戦になります。

 そんな熱い戦いが繰り広げているときですが、2019年1月7日に行われた「ポストシーズン ワイルドカード」の一戦を振り返ってみましょう。

 ワイルドカードとは、地区優勝を逃した中で勝率上位の2球団を指し、ディビジョンシリーズ進出をかけて1試合勝敗で決めるゲームのこと。この日、2018年シーズンでNFC北地区1位となったシカゴ・ベアーズと、同シーズンNFC東地区2位となったフィラデルフィア・イーグルスの戦いを振り返えるに値する見事な試合だったのです。
 
 結果から言えばイーグルスが、ベアーズを16対15という1点差で勝利。次の「ポストシーズン ディビジョナル」(NFCカンファレンスのNo.1を決めるための準決勝)へと進んだのでした。
 

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 それは試合終了寸前のこと。第4Qの残り56秒でイーグルスに逆転され、スコアは15対16とされたベアーズ。ですが、その限られた時間内でベアーズは見事、敵のゴール前へと前進を図ることに成功します。そして残り10秒、敵陣25ヤード付近からFG(フィールドゴール)を狙えるチャンスを得たのです。FGが成功すれば3点が入り、逆転となります。

 キックするポイントからゴールまでの距離は、43ヤード(約40メートル)。NFLのプロキッカーであれば、さほど難しくない距離です。しかも、ベアーズのキッカーであるコーディー・パーキー選手はこの試合、すでに3つのFGを決めていたのです。 約6万2000人の地元ファンが半ば勝利を確信しながら見守っています。そして主審はフォイッスルを吹いたあと、ベアーズのホルダーがコールします。そうしてセンターからホルダーへスナップされ、パーキー選手のキック! そうして見事成功し、3点が追加されたベアーズは勝利に喜ぶはずだったのですが…。

 スナップ直前に、イーグルスは権利が残っていた最後のタイムアウトを行使していたのです。これは「ファイナルスポーツ」と呼ばれるアメリカで考え出されたアメリカンフットボールならではのルールでもあります。

 「ここぞ!」という勝利を決める大一番でプレーされるFG。その場面で、このタイムアウトによる嫌がらせに近い作戦は、このスポーツにとっては「よくあること」なのです。ここでタイムアウトを取ることに、キッカーのリズムを狂わせれ、さらにその余計な時間で余計なことを考えさせて、不安に追いやろう…という作戦になります。

 通称「アイシング」と呼ばれるタイムアウトを取る作戦に出たイーグルス。まさに「妨害工作」とも言える作戦ですが、このスポーツでは正当な作戦なのです。

 「スポーツマンシップに反しない?」と言われれば、アメフトを愛する人の中にも「?」な人も少なくないでしょうが、これを有効利用してこそ、アメフトの世界では勝利できるわけです。

 そうして、1回目の成功は無効となり、パーキー選手は土壇場で2度目のFGを余儀なくされるのです。そして、このことは想定内のはずだったベアーズ陣ですが、2回目にパーキー選手が蹴ったボールは、左のクロスバーを直撃…。そしてボールは手前に跳ね返り、ベアーズの3点は幻となり、敗れ去ったのでした。

Cody Parkey
Getty Images

 その瞬間にパーキー選手は肩を落とし、フィールドでしばらく動けなくなりました。 後にこの2度目のキックは、イーグルスの選手の指先に当たっていたことが判明。完全に「蹴りそこなった」わけではなかったのです。ですがパーキー選手は、「自分のせいでチームが負けてしまった。最低の気分だ」と、敗戦の責任を1人で負うかのようなコメントを口にしています。

 勝利を期待していたファンからは、当然ブーイングを浴びせられたパーキー選手。マイアミ・ドルフィンズから移籍し、4年1500万ドル(約16億4000万円)というキッカーとしては破格の契約を締結した彼。今季はリーグで2番目に多い、FG7本の失敗という結果も彼の噂に拍車をかけました。SNSでは、「契約に見合わない成績と結末」として叩かれもしたのです。

 その一方、べアーズのチームメートはどうでしょう。このまさかの幕切れに対して、どう対応したのでしょうか?

 この敗北によって、12シーズンぶりとなるスーパーボウル進出への可能性を絶たれたベアーズですから、「ショックがない」と言えばウソになるでしょう。しかし彼らは、パーキー選手を非難したり、疎外感を味合わせるようなことはしなかったのです。

 キックが外れたあと、オフェンス・ガードのカイル・ロング選手は崩れそうになっていたパーキー選手の体を支えました。そして、「お前はチームの全得点(15点)のうち半分以上(9点)を1人で稼いだんだ。恥じることはない」という言葉を投げかけています。オフにレイダースから移籍してきたラインバッカーのハリル・マック選手も、「顔を上げろよ。お前はオレの友だちじゃないか!」と、パーキー選手の肩をたたき、頭を抱えていた傷心のキッカーを支えたのでした。

  「全員が、こんな自分に気を遣ってくれた」とパーキー選手。負けて悔しいのはファン以上に選手のほうだったはずですが、この日のベアーズは“敗者としての誇り”をスタジアムを去っても決して捨ててはいなかったのです。今季から指揮を執っているマット・ナギー監督も、「ロッカールームで選手が見せた気配りは、きっと次につながるはずだ」と敗北の中から何か偉大なものを掴んだことを明かしています。大リーグやNBAなどでは、ベンチで仲間割れする場面が時々見受けられますが、NFLのベアーズが見せた大人の対応は、とても印象的でした。

 1986年1月26日。この記事の著者であるジョシュが書いた最初のスーパーボウルの原稿は、その日にペイトリオッツを46-10で下し初優勝を遂げたベアーズについてでした。

 当時のベアーズには152キロの巨体を生かして、通常はディフェンスタックルを守りながら、相手ゴールラインの手前になるとランニングバックとして起用されていたウィリアム・ペリー選手(愛称はリフリジレーター=冷蔵庫)、さらに当時の歴代最多ラッシング記録を樹立したリーグ屈指のランニングバック、ウォルター・ペイトン選手、米国がボイコットした1980年のモスクワ五輪の陸上男子110メートル障害で米国の代表でもあったワイドレシーバーのウィリー・ゴールト選手、そして口が達者で人気者だったクォーターバックのジム・マクマーン選手など、個性的なスターがズラリと揃っていました。

 その当時と比べると、現在は随分とチームカラーは変わったことが確認できます。それでもシーズン最後の試合には、グサリと胸を突き刺すような場面をつくってくれました。敗者に起こった小さくも感動のドラマは、スポーツの世界としてだけでなく、人間社会の中でも考えさせられる題材ではないでしょうか…。

 言うまでもなく試合に臨み、負けることを望んでいる選手などいません。それは選手ばかりではなく、チームのスタッフも運営側も、もちろんファンたちだって、選手の両親および親戚だってそうなのです。しかし、勝ち負けがあるから勝負なのです。勝利に歓喜するものがいれば、敗戦に涙するものもいるわけです。勝者側の失敗は喜びで薄れていくでしょうが、敗者側の失敗はそれが原因の一つだと浮彫りにされていくものなのです。

 その心理状態に打ち勝つことも、基礎体力とともに技術をアップしていくのと同様にトップアスリートにとって重要な資質であると言えるのです。ニューイングランド・ペイトリオッツで、ピークパフォーマンスコーチを務める心理学者のリサ・M・スティーブン博士は、失敗したときの自分との向き合い方を次のように述べています。

  「自分が感じていることのすべてを…それは不安や怒りに関しても、自分ばかりでなく他の人たちと一緒に感じるようにしましょう。これに関して、合理的である必要はないのです。皆さんとの共感があったうえで、あなたが次にやろうとしていることを見てください」 とのこと。また、自身のメンタルプレイブックを取り出して、そこにいくつかメモを取ることも大切だと言っています。


もしあなたがプレーヤーだったら…
 
アスリートの中には「自らが直面した苦痛に対し、当たり前のように乗り越えることができる選手もいれば、その不安や憂鬱な感情に苛まれ、ネガティブな考え方に陥ってしまう選手もいる」とスティーブン博士は述べています。

 あなたが自身の失敗に対し、どのように対応するかによって、運動能力の高さには関係ない心理的な面で、短期的にも長期的にもその競技のパフォーマンスとともに自身の健康面の両方に悪影響を与えることになると言っています。

 最も成功したアスリートとは、①失敗した場合も、自身正常化する方向へナビゲートする手段・手順を知っている。②将来の成功に備えて、自らをセットアップすることを知っている。そのことによって、さまざまな障害を自分の成長の糧にしていくのです。

"自分が感じていることを素直に受け入れてから、自分が次にやろうとしていることに立ち向かって見てください。"

1. 現在の失敗
 失敗に陥ったとき、多くの選手はその失敗を悲劇的なストーリーにしようとしています。 「このことは、いかなるプレーヤーにも起こる可能性があります」とスティーブン博士は言います。「まずは、周りに展開する非建設的な批判を聞かないようにする。代わりに、信頼できる仲間の意見に包まれるようにすることが大切です。
 
 これに対し、『失敗から逃げているのでは?』と不安に思うかもしれません。ですが、間違った行為ではないのです。重要なのは、否定的な認識と自分自身の思いを識別することです」とも語ります。そして最後に、 「本当のデータを見るようにするのです」と、スティーブン博士は言います。より現実的な評価を探し当ててください。そこに次なる鍵があるようです。

失敗の知見をルール化する必要はない。失敗とは変則的なものであることを頭の中で認識しておく。

 真実の言葉を見極めることは、失敗を変則的であるとみなすのにも役立ちます。「失敗を防ぐためにルールなど必要ではない。失敗とは変則的なものなのです」とスティーブン博士は言います。

Divisional Round - Philadelphia Eagles v New Orleans Saints
Chris Graythen//Getty Images


2. 今後の成功
 シーズン最終戦で失敗した場合、そのアスリートは立ち直るためにかなりの時間待たなければたなければなりません。アスリートとは試合結果の良し悪しで自分を判断するものです。だからこそ、失敗で落ち込むわけであり、勝利で過去の失敗の悲しみも忘れることができるのです。

 しかしトップアスリートは、その失敗を次なるステップへの足掛かりにすることもできるのです。 「ミスにおける情報を収集することで、オフシーズンにすべき新たなトレーニング方法を見つけることができるのです。今の自分に足りないことが認識でき、そして、それを次のシーズンまでに獲得する道順ができるわけです」とも言います。

失敗を誤魔化してはいけません。その失敗の原因を究明し、その克服法を構築すべきなのです。

 
 アスリートにとって、次へのステージアップは敗北を経験してこそ得られるものなのです。その敗北で経験した失敗を、いかに克服するかを課題に鍛錬していくことがアスリートにとって永遠のテーマなのです。

 その一方で、ここで誤った方向づけをした場合にはストレスが募り、不安は増す一方となるでしょう。そうして、その失敗を克服することの妨げとなることでしょう。

  「脳は動揺すると、学ぼうとする準備もできないのです」とスティーブン博士は言います。

 このように、「まずは落ち着くこと」があらゆる運動改善のための最初の必要条件になるのです。しかし、それ自体が失敗を防いでくれるわけではありません。冷静であってこそ、その失敗を分析でき、それを文脈化することによってその対策が構築できるからです。そうして理解すれば、不安にさせるストレスを自分から遠のかせることもできるのです。
 

Arizona Cardinals v Seattle Seahawks
Abbie Parr//Getty Images

 ここで気をつけてほしいことは、「非難」というものは簡単に伝わってくるということです。しかし、ほとんどの失敗は複合的な要因から生まれているということを認識してください。
 
 つまり、さまざまな段階で成功と失敗は積み重なっているわけです。勝利側にも数々に失敗があり、敗者側にも数々の成功もあるのです。その組み合わせが問題となり、勝ちと負けが決まるのです。これは単に救命できるものでもありません。そして、非合理的なものなのです。

 ですので、失敗に捉われ続ける必要もないのです。しかしながら、無視しても次のステージに立つ自分が想像できなくなります。なので、その失敗にきちんと向き合って文脈化し、そこで足りない部分を克服する…それを次なる自分の目標にするよう励んでください。その失敗を嘆いているだけでは、精神衛生上から悪影響を及ぼしかねないということを忘れずに…。

 このことはスポーツの世界だけでなく、ビジネスの世界でも言えることではないでしょうか? 皆さんもビジネス界のトップアスリートなのですから…。


from Men's Health US
Translation Kaz Ogawa
※この翻訳は抄訳です。


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