睡眠不足の及ぼす悪影響は、なにも運転中の不注意や思考力の低下ばかりに留まりません。確保すべきとされている7~9時間のお休みタイム(米国疾病予防管理センターが推奨)に、脳や身体の内部ではさまざまな回復プロセスが行われているのです。睡眠を怠ることで心臓病、勃起不全、免疫力の低下などのリスクが高まってしまうことが分かっています。

◇質の高い睡眠とは?

質の高い睡眠とは、睡眠時間のみによってもたらされるものではありません。睡眠とは、いくつもの段階の組み合わさった複雑なシステムなのです。「深い睡眠」の段階にこそ本当の魔法が起きているのだ、というのが専門家たちの見解です。

「深い睡眠」とは、一体どのようなものを指すのでしょうか? 専門家が解説

深い睡眠は入眠後20~30分後という比較的早い時間に始まり、そのまま夜の前半を支配するという研究も報告されています。1回ごとに1時間ほど継続し、そしておよそ90分ごとに一度の頻度で繰り返されると言われています。

「これが、最も回復に適した睡眠サイクルと言えるでしょう。私たちの成長ホルモンの大部分は、その時間帯に生成されているのです」と解説しているのは、神経学と睡眠を専門領域とするW・クリス・ウィンター博士です。

子どもが成長して大きくなっていくのは、この成長ホルモンの効果によるものです。これは大人にとっては回復に必要なホルモンということになり、若々しさを保つのに欠かせません。「徐波睡眠(short-wave sleep)」とも呼ばれる深い睡眠(deep sleep)は、私たちの免疫システムの機能を保ち、骨や筋肉を強化し、ケガなどの予防と回復とを助け、その他にも多くの必要な身体機能の維持に寄与していることも報告されています。

■徐波睡眠(じょはすいみん)とは?

一般的に睡眠は、大きく「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分類され、「ノンレム睡眠」のうち出現する脳波の特徴として周波数の低い成分(=徐波成分)が中心となる睡眠を「徐波睡眠」と呼ばれています。

◇「深い睡眠」とは、どの程度必要なのか?

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まずは一般的な話として、8時間程度(7~9時間)の睡眠をとっている人の場合には、一晩に4~5回程度、睡眠のサイクルを循環させているものと考えられています。

「まず入眠後、90分のサイクル内の“深い”睡眠が2度繰り返されます」と言うのは、コーネル大学心理学部の学部長を務めたジェームス・マース博士です。『Power Sleep, Sleep for Success(パワー・スリープ、スリープ・フォー・サクセス)』、そして『Sleep to Win!(スリープ・トゥ・ウィン!)』など睡眠に関する著作でも知られています。

マース博士は、「“深い”睡眠と言うより、“熟睡”としたほうがいいでしょう」と言います。

厳密に言えば、レム睡眠は一般に「深い睡眠」と呼ばれる段階よりもさらに数段深いレベルの睡眠だからというのがその理由だそうです。どう呼ぶにせよ、この段階の睡眠も、そしてその他の段階の睡眠も、等しく重要なものであり、それぞれ特定の機能を果たしていると言えるでしょう。

◇睡眠の段階:ステージ1~4を解説

一般的にノンレム睡眠は、睡眠の深さ(脳波の活動性)によってステージ1~4(浅い→深い)の4段階に分けられます。

  1. まず、うとうとと微睡(まどろ)みはじめる「ステージ1」で、身体と脳の働きが低下していきます。
  2. 「ステージ2」は軽度の睡眠ですが、ここで体温の低下、筋肉の弛緩、心拍数の低下などが起こります。
  3. そして「ステージ3」が、マース博士の言う「深い睡眠=熟睡」の状態です。ここで脳や身体の回復、記憶の定着、細胞の修復、脳にある毒素等の排除が行われ、この段階で目覚めてしまうと疲労感が残ったり、また現実感の欠如などを感じることがあるということ。
  4. 「ステージ4」がいわゆるレム睡眠(REM=Rabbit Eye Movement/休息眼球運動)と呼ばれる段階で、鮮明な夢を見たり、筋肉が麻痺したりといった状態を体験する場合もあります。

深い睡眠を経た翌日は、ゆっくりと身体を休ませることができたということで、十分な回復感が得られるでしょう。また日中、眠気に邪魔されることもないはずです。「例えば、『いや~、昨夜はかなりぐっすり眠れたよ!』などと言う場合、それは大抵、深い睡眠の量と質とが関係しているのです」と、ウィンター博士は説明します。

「私はしばしば『深い睡眠』とは、『実感を伴う』ものだと言っています。だからもしあなたが、朝になって目覚めたものの『あまり休んだ気がしない…』などという実感が少しでもあるなら、『もしかしたら、深い睡眠が十分に足りていないのではないか?』、と疑ってみるべきでしょう」と、さらに言います。

深い睡眠がどの程度必要なのか? それを示す具体的な数値は存在しません。また、より深い睡眠を得るために何が効果的か? についても、研究は未だ分かっていない部分も多いと言います。

ですが、入眠後の3時間こそが約2時間分の深い睡眠を得ることのできる時間帯である、ということを知っておくことは役立つはずです。また、「この時間帯にこそ、最も深い睡眠を得ることのできるのだ」というのが、ウィンター博士の考えです。「深い睡眠のサイクルは、睡眠時間が長くなるにつれて小刻みになっていくのが一般的です。睡眠サイクルは個人により、またその時々によって異なります。さらに、薬やアルコールなどの要因も影響します」とも。

◇深い睡眠が足りない状態で、なにが起きるか?

深い睡眠が不足した場合、短期的に起こる現象としては翌日、日中における眠気ということになりますが、そこで「深い睡眠を恒常的に欠くようになれば、この問題は大きくなる」とウィンター博士は言います。そして、「老化が早まることになるでしょう」と続けます。

「また、病気やケガの頻度が増え、日々消耗する肉体が回復する能力も低下してしまうでしょう」と、博士はさらに警鐘を鳴らします。どうすればより多くの深い睡眠を得ることができるのか? については、未だその法則は発見されていません。ですが、毎晩十分な睡眠をとることを意識するのは、無意味でないことは確かなことだと言えます。

Source / Men’s Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。