地震は最も予測が難しい自然災害のひとつです。台風などと違って、地震の早期予測システムはまだまだ開発の初期段階と言っていいでしょう。

 しかし、アメリカ・ニューメキシコ州にある米エネルギー省所管のロスアラモス国立研究所が新たに発表した研究によれば、「地殻応力(プレート運動や地形の起伏などに影響する、地下の岩盤にかかる力)をより正確に把握することができた」という研究成果が発表されました。

 「大型地震は頻度が少ないので、現状、その引き金となる原因を解明するのはとても難しい状況です。が、多くの小さな地震から得られたこの新しい情報を用いれば、断層内でどのように応力が変化していくのかを把握することができるでしょう」
と、ロスアラモス国立研究所の博士研究員ダニエル・トゥルーグマン氏は、『サイエンス』誌に掲載された論文内で公表しました。

 「地震の誘発構造と隠れた前震に関する新たな情報が得られたことによって、我々は大型地震がどのように始まるのか?についてを説明するための基盤ができたと言えるでしょう」
と、トゥルーグマン氏は話します。彼は2019年4月に発表されたこの『サイエンス』誌とともに、同年7月に『Geophyiscal Research Letters』誌で発表した論文の共同筆者になります。

 4月の論文では、南カリフォルニア地震ネットワークから得た、私たちが気づくこともない日々に起こる無数の小さな揺れについてデータ分析をしています。このデータから研究者たちが見つけたのは、なんと181万回もの地震です。これは標準的な方法で測定した場合と比べ、10倍の数10倍の頻度の地震でした。

 チームはこの揺れを、特徴領域の位置関係で整理するQTM(Quake Template Matching)分類によって、南カリフォルニアに特化したデータベースを作成。このデータベースによって、研究者はカリフォルニア地震断層と挙動による詳細なマップをつくることができるようになります。そうして可視化することで、早期兆候がどのように発生していくかを考察できるということ。

 「研究所では、大きなスリップ(プレートのすべり)の前兆と思われる活動を見ることができます。ですが現実世界では、一貫して見ることはできていませんでした。しかし、このQTMによる分析のビッグデータが、その溝を埋めてくれるはずです。今後は、これまでノイズとして無視されてきた揺れをも発見することができ、その特徴についても多く学ぶことができました。リアルタイムで同様の前震を確認することができれば、大型地震を予測できる可能性がかなり高くなります」と、トゥルーグマン氏は論文内で話しています。

 7月の論文では、トゥルーグマン氏のチームはQTMを使って、大型地震をより正確に予測する方法について説明しました。その説明によると、「予測のコツは地震を天気のように扱うことだ」と言っています。

 「地震の統計的予測に向けて、人類は確実に進歩しています。ですが、白黒はっきり予測できるわけではありません」
と、『Geophysical Research Letters』誌に掲載された論文内でトゥルーグマン氏は説明しています。そして、「現在のカタチになるまで、何百年もかけて少しずつ進歩してきた天気予報の歴史に少し似ているのではないでしょうか…」とも説明しています。

 論文では、通常大きな揺れである本震の前に起こる、前震と呼ばれる(皆さんもご存知の余震とは逆に、地震の前に起こる揺れのことです)と呼ばれる小さな揺れに注目しています。研究者たちは地震の72%に、先行して前震が起きていることを発見しました。この結果は、これまで考えられていたよりも大きな割合になります。

 これらの前震に関して、地表ではほとんど感じられないものが多いのが現状です。地震波形の視覚的分析を通して発見するのも困難であり、高度な信号処理技術が必要なのも地震予測を難しくしている理由のひとつでもあります。完全なライブラリに必要なデータを得るため、QTMには200もの最先端データセンターアクセラレータであるNVIDIA Tesla-P100をGPU(Graphics Processing Unit=3Dグラフィックスなど画像描写を行う際に必要となる計算処理を行うプロセッサ)として使用しました。

 この方法には課題もあります。

 ここでQTMは相当量のライブラリをつり上げましたが、波形履歴の解析と、その情報をリアルタイムで使えるかどうかはまた別の話となります。前震は密集して同じ場所で、しかも、近いタイミングで起こる傾向にあります。なので、どの前震が大型地震の前兆なのかを判断するに難しい状況も多々あるのです。ですがトゥルーグマン氏は、「それでも、地震予測ツールとなる可能性はまだまだあります」と、語っています。

 今後も地震研究者たちは、地震予測に関してさらなる努力を続けることでしょう。ちなみに、この予測のヒントとなる可能性として考えられるのは、「前震」ばかりではありません。各国の研究者がそれぞれのテーマと仮説をもとに、日夜研究に励んでいるのです。例えば日本の首都大学東京の研究チームであれば、地球の磁場の変化から予測することはできないか鋭意研究中です。

 そうしていつの日か、天気予報が進化していったように地震予報も進化していくに違いないでしょう。

Source: NatGeo
From POPULAR MECHANICS
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。