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▼ 氷震が起きるメカニズムは?

▼ 氷震場所の特定は難しい

▼ 冬になれば、あなたの街でも起きるかもしれない

▼ 氷震に対する防災の心得は?


2013年のクリスマスイブ、真夜中のトロント近郊で何かがひび割れるような轟音(ごう音)が鳴り響き、住民たちを慄(おのの)かせました。倒木が建物を直撃したのか? それとも、変圧器が爆発を起こしたのか? あるいは、隕石(いんせき)の墜落か、それとも…? 大きな揺れを伴う衝撃に、慌てふためいた人々の通報は途絶えず…また、X(旧Twitter)も一時騒然となりました*1

気象学者*2により事件の原因が突き止められたのは、それから数日後のことでした。気温の急激な低下によって地下水が凍結し、それが局地的な地震現象を引き起こしていたのです。

トロント市民を襲ったのは、「氷震(ひょうしん)」あるいは「フロストクエイク(Frostquake)」と呼ばれる現象でした。地震とよく似た揺れが起こりますが、地殻変動に起因する地震と比較すると「危険度は低い」とされている気象現象です。

歴史的に見ても、発生頻度はそう高くありません。ですが、「気候変動の影響によって頻発するようになるかもしれない」と危惧する研究者もいます。

氷震が起きるメカニズムは?

氷震の発生条件は通常、地面を水浸しにしてしまうような大量の降水を伴います。そして、気温が華氏0度(約マイナス18℃)付近まで急激に低下することで、地下水が凍結し膨張するという現象が起きます。冷凍庫に入れたままのビール瓶が粉々に砕けてしまうことがあるように、凍(い)てついた地下水の圧迫により、地面に亀裂が走るというわけです。

その亀裂によってごう音が生じ、地上が揺れるというわけです。

氷震の発生確率が高まるのは、気温が急速に低下する深夜から未明にかけての時間帯です。また、地上と地中との間で断熱層の役割を果たす積雪がない、あるいは、ほぼない状況下でも発生しやすくなるそうです。

氷震場所の特定は難しい

エドワード・ヒッチコック
Getty Images
エドワード・ヒッチコック(1793-1864)。アメリカの地質学者。マサチューセッツ州で地質調査を実施。古生物学ではコネチカット渓谷の恐竜の足跡化石に関する論文を発表。

1819年に初めて氷震の観測*3を行ったのが、エドワード・ヒッチコックというアメリカ人地質学者です。ヒッチコック氏は米国の科学雑誌『American Journal of Science(アメリカン・ジャーナル・オブ・サイエンス)』に寄せた手記の中で、マサチューセッツ州ディアフィールドの自宅付近で午前1時ごろに何かが爆発したような音が轟(とどろ)いたと書いています。「地域を流れる小川の氾濫と、気温の急激な低下によって引き起こされた気象現象ではないか?」と、ヒッチコック氏は推察しました。

その記事の掲載から200年の間に、スカンジナビア、アラスカ、五大湖周辺といった極寒地域で、この気象現象の観測が行われるようになりました。氷震は珍しく、また局地的な現象であるため、科学的な文献はほとんど書かれていません。研究者でさえ氷震がどこで起きているのかを把握するのが困難なため、情報収集*4はSNSに挙げられてくる報告を頼らざる得ないほどです。

冬になれば、あなたの街でも起きるかもしれない

通常であれば、氷震が発生するのは地球上の寒冷地帯に限られます。

ですが、気候変動がこの先どのように影響していくのか? 科学者たちはその解明を急いでいます。そしてそこに、「氷震がより広範囲で発生するようになっていくのではないか」という見方が、最新の科学調査によって出てきたのです。

地震記録装置
Photo by Kari Moisio
凍土地震の新しい研究で使用された地震記録装置。

「気候変動が引き起こす気象パターンの急激な変化によって、氷震に対する世間の関心は高まりつつあります。今後、さらに広く認知されていく可能性があります」と指摘する*5のは、フィンランドのオウル大学の上級研究員カリ・モイシオ氏です。

2016年、フィンランド北部で7時間に26回の氷震が発生した際、設置した地震モニターを駆使して氷震の応用研究を行った研究チームの一員です。建築物の構造部や道路に被害が及ぶほどの大きな揺れも観測されました。

「年間降雪量の減少が継続的に起こることで、地下水が飽和し凍結しやすい状態となり、それが氷震の発生確率を高める」という仮説がこの研究チームによって立てられ、去年、ヨーロッパ地球科学連合(EGU)が刊行する専門誌『EGUsphere(EGUスフィア)』で発表されています。

氷震に対する防災の心得は?

2016年にはフィンランドの都市オウルのタルヴィカンガス地区で巨大な氷震が起きています。同地区から9マイル(約15km)離れた地震観測所でも感知された*6ほどの大きな揺れでした。被災地の道路は破壊され、近隣の家屋では壁に亀裂が入るなど大きな物理的被害が発生しました。「トラックがリビングルームに突っ込んできたかのようなごう音が響いた」という証言もあります。

氷震によってこれほどの被害が生じるのは、「極めて、非情に、ものすごく珍しいことである」と語るのは、国際的な災害復旧サービスでCEOを務める異常気象の研究者シェルドン・イエレン氏です。

ミシガン州とミネソタ州で2度の氷震を経験したイエレン氏はその体験から、「家が倒壊したかと思うような音がする」と説明しています。「まず爆音が響き、それから何かが砕け散るような音がするのです。どちらもものすごく寒い夜でした」というのがイエレン氏の記憶です。

そして、「気候変動が及ぼす氷震の増加は、一般市民が特に心配しなければならないレベルの話ではない」と、イエレン氏は述べています。もし被害が生じるとしても、道路や地下の構造部に限られると考えられているためです。

そのうえでなおイエレン氏は、氷震の可能性を十分に意識しながら、「他の自然災害に対する備えも、怠るべきではない」と注意も促します。

「あらゆる自然災害が、氷震のように小さな被害にとどまるわけではありません。ですから、防災計画を常に立てておくことが重要となるです。少なくとも毎年2回は、防災グッズの確認をしておくべきでしょうね」と、イエレン氏は話しています。


【脚注】

*1:Mysterious Christmas Eve ‘boom’ heard and felt around GTA

*2:Christmas Eve ‘boom’ heard due to frost quake

*3:ProQuest

*4:Frost Quake Events and Changing Wintertime Air Mass Frequencies in Southeastern Canada

*5:Frostquakes: a new earthquake risk in the north?

*6:Predicting the Next Big Frost Quake

Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics