先日、世界で最も高額な車の新記録が打ち立てられました。

2022年5月5日(木・現地時間)、ドイツ・シュトゥットガルトにあるメルセデス・ベンツ博物館で開催されたRMサザビーズのプライベートオークションで、世界に2台しかない極めて希少なメルセデス・ベンツ「300SLRウーレンハウト・クーペ」の1台がオークションで落札。「ある個人コレクターの手に渡った」と、メルセデスが発表しました。落札金額は驚きの1億3500万ユーロ(約182億円)に上ります。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
RM Sotheby's—The Most Valuable Car in the World
RM Sotheby's—The Most Valuable Car in the World thumnail
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ちなみにこれまでの世界最高額の車は、2018年にウェザーテック社の創業者デイビッド・マクニールCEOが7000万ドル(約8億9000万円)で購入したとされる1963年型のフェラーリ「250GTO」です。

メルセデスは「300SLR」の落札者の名を明らかにしてはいないものの、自動車専門メディア「Hegarty」によると、「落札者はイギリスの自動車業界を代表する人物で、希少車の有名コレクターの1人」であると報じています。メルセデスによれば、「落札者は特別イベントへのこの車の貸し出しに同意している」とのことです。

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MERCEDES-BENZ
「300SLRウーレンハウト・クーペ」と、その生みの親である当時のチーフ・エンジニア、ルドルフ・ウーレンハウト氏。

貴重な車を売却。その理由は…?

しかし、ここである疑問が浮かびます。

なぜメルセデスが、これほどまでに歴史的価値を持った貴重なクラシックカーをオークションに出品したのでしょうか? 2台しか現存しない内の1台です。 高額とは言え、落札金額は同社の年間予算と比べてもごくわずかとも言える額のために、競売にかけることになったのでしょうか?

その答えは、落札後まもなく明らかになりました。

現地時間の5月19日(木)、この落札劇に関してメルセデスが声明を発表しました。その中で売却益を基に、環境科学を研究する大学生および青少年に対する支援を目的とした基金「メルセデス・ベンツ基金」を創設するということ。そして、世界中の若者を対象とした「環境科学分野および脱炭素化研究の分野における教育・研究のための奨学金」として活用されることを明らかにしました。

さらなる詳細については、年末に発表される予定とのことです。

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MERCEDES-BENZ
「300SLRウーレンハウト・クーペ」はガルウイングを採用。

メルセデス・ベンツ・グループのオラ・ケレニウスCEOは、次のように声明を発表しました。

「この『300SLRウーレンハウト・クーペ』こそ、スポーツカー発展の歴史においてマイルストーンと呼ぶべき名車です。現在に至るまでの当社のブランドの確立に、大きく貢献した貴重な歴史的証拠です。

現存するこの個性際立つスポーツカーの2台のうち、その1台を競売にかける決断を下したのは慈善事業への寄与という正当な理由あってのことでした。メルセデス・ベンツ基金として、ルドルフ・ウーレンハウト(編集注:ダイムラー・ベンツ時代の伝説的技術者)の革新的な足跡をたどり、未来を支える驚くべき新技術、特に脱炭素と資源保護という人類にとって最重要な課題を支える新技術に携わる新しい才能の後押しをしたいという目標があるのです。今回そのことで史上最高額での落札となったことは特筆すべきことであり、われわれはそのことを謙虚に受け止めたいと考えています」

これまでメルセデスが所蔵してきた2台の「300SLRウーレンハウト・クーペ」は、その生みの親である当時のチーフ・エンジニア、ルドルフ・ウーレンハウト氏が手掛けたことに由来し、その名を冠した名車です。ハードトップ仕様の「300SLR」は1955年に2台のみが製造され、ウーレンハウト氏を筆頭とするメルセデスのエンジニアチームによるレーシングカーの開発技術促進のための、重要な足掛かりとなりました。

メルセデス・ベンツ博物館にはもう1台のオリジナル「300SLRウーレンハウト・クーペ」を含む、1886年の自動車発明の当時から今日に至るまでを彩った1100台以上の名車の数々が収蔵されています。

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Thomas Niedermueller//Getty Images
メルセデスのお膝元、ドイツ・シュトゥットガルトにある、メルセデス・ベンツ博物館。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です