「獺祭」の蔵元が
日経新聞に意見広告

 日本酒「獺祭(だっさい)」の蔵元である旭酒造(代表取締役社長・桜井一宏氏)が、5月24日(月)の「日本経済新聞」(朝刊)に一面全体を使った意見広告を出した。「飲食店を守ることも日本の『いのち』を守ることにつながります」「私たちは日本の飲食店の『いのち』と共にあります」という大見出しが打たれている。

 本稿の主旨はこの意見広告への全面的な賛成に尽きるのだが、まずは読者に、飲食店を守ることの重要性と、あの獺祭の蔵元が意見広告を出してくれたことを知ってほしい。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 折しも、緊急事態宣言は、6月20日程度までの延長が有力視されている。この機会に、飲食店に対する規制のあり方を全面的に見直すべきではないだろうか。

 筆者は、緊急事態宣言の対象地域である東京都に居住し、職場も東京都内だが、現在の緊急事態宣言下の飲食店に対する規制のあり方は合理的だとは思えない。「いじめ」などという感情的な言葉は使いたくないが、飲食店およびその関連ビジネスに対して、加えて飲食店を利用したいと思う顧客・生活者に対して非合理的な面が多い。

時短によって生じる“密”!
「間引き運転で満員電車」と同じ

 まず営業時間の短縮だが、顧客側にあって著しく不便であり、同時に短時間に食事客が集中することによって、いわゆる「密」が発生している。電車の間引き運転が、通勤客を減らすことよりも、電車の満員状態をもたらした愚策に似た現象だが、早急に改めるべきだろう。

crowded railway station at rush hours
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※写真はイメージです。

 人の密集を避けるためには、むしろ顧客側に食事時間を分散化してもらって、席の間を広く取るなどの対策を講じる方がいい。

 加えて、「20時」といった終業時間では、サラリーマンは安心して残業もできない。特に、一人分の食事の自炊が不便で採算も合いにくい単身者にはあまりに不便だ。

 働き終わって、「おいしいものを食べたい」と思う時間に、コンビニエンスストアの弁当やチェーン店のテイクアウトだけしか食べられないのでは、かわいそうではないか。食文化としても貧しいし、こうした日々が続くことは多くの人の人生にとって大きな損失だ。

 また、飲酒を伴うか否かを問わず、一人で静かに飲食する客や、せいぜい二人連れで控えめに会話する客が、飛沫を飛ばして感染拡大の加害者になる確率が大きいとは思えない。問題なのは、政治家の会合のように多人数でどやどや集まって、でかい声でしゃべるがさつな客だろう。こうした客を丁寧に排除するルールを作るといい。

「禁酒法」を廃止せよ
問題は大声の会話であって
飲酒ではない

 加えて、飲酒が大声につながりやすいという問題はあるが、問題は大声の会話であって飲酒そのものではない。例えば、バーのカウンターで一人静かに飲む客に問題があるとは思えない。

 人によって好き嫌いがあることは承知しているが、憩いや趣味としての飲酒そのものを禁止する必要はない。そして、家で飲むお酒と、外の店で飲むお酒は、決して同じ意味のものではない(どちらも大切だ!)。

 さらに、西洋料理にはワインを合わせたいと思うように、食事とお酒は味覚、習慣、文化さまざまな面から不可分一体であるし、飲食店のビジネスを考えると、酒類の提供を禁じられたら採算が取れない。

closure announcement of sushi restaurant under the state of emergency
DigiPub//Getty Images
※写真はイメージです。

 先般、「酒類提供は19時まで、営業は20時まで」から「酒類の提供は禁止」とルールが変更されたときに、筆者の周囲では、すし、焼き鳥、和食などの多くの店が、緊急事態宣言期間中の全面休業を決めた。すっかりやる気を失ったのだろう。20時以前も含めて、飲食の選択肢は一気に狭まった。「外では、禁酒」という、いわば禁酒法は即刻やめる方がいい。

 短時間できれいに飲み食いして、飲食店を支援したいと思ってなるべく高いお酒を注文する――。そんな「良い客」の好意を封じることに積極的な意味があるとは思えない。

兵庫県の感染経路別患者数では
飲食店はわずか2.9%

 また、多くの飲食店の経営は、いわゆる常連客の存在に支えられている。閉店が長く続き、店と常連客との関係が切れ、常連客の側の生活習慣が変わることは飲食店の経営にとって大きなリスクだ。

 このままでは、今後宣言が解除されても、経営状態を元に戻すことができない飲食店が多数出るだろう。店と客の関係を切るような、乱暴な規制を行うべきではない。政治家には、後から食事クーポンを配ればいいだろう、というようながさつな考えで飲食ビジネスを見てほしくない。

 旭酒造の意見広告に、「例えば兵庫県の感染経路別患者数のパーセンテージを見ても、家庭52.1%、職場16.2%、福祉施設7.5%などに対して、飲食店は最下位のわずか2.9%です」とある(※データは兵庫県のホームページ)。飲食店経由の感染が少ないことには、これまでの対策の効果も反映されているのだろうが、これからさらに飲食店を対策の的とすることの効果の乏しさは明らかだろう。

 飲食の現場は感染がイメージしやすいし、業界としてまとまった政治力がないこともあって、政府や自治体が「やっているふり」をするに際して、格好のターゲットにされてしまっているのではないか。

お酒と食事の楽しみを
取り戻す日を願って
飲食店向け規制「6つの新ルール案」

 緊急事態宣言の延長に当たって、政府と自治体には、飲食店向けの規制ルールをぜひ見直してほしい。

 飲食店に対して、以下のように要請するのはどうか。

  • (1)営業時間は拡大し、食事時間の分散化を図る
  • (2)席間を空ける
  • (3)酒類の提供を認める(ただし、大声の酔客には退店を促す)
  • (4)来店客は原則として1人ないし2人単位まで
  • (5)換気の徹底、検温、手指消毒、店側のマスク着用
  • (6)店内に「会話はお静かに」と表示する

 アクリル板などの設置やマスク会食などを追加すべきなのかもしれないが、筆者にはその有意性の有無が分からない。印象では、アクリル板は「気休め」程度にしか見えないし(より大事なのは換気ではないか)、マスクの付け・外しは、手をマスクに頻繁に触れることがかえって不衛生であるようにも思える。これらの点も含めて、専門家の検討を待ちたい。

 ちなみに、筆者のオフィスの近くにある焼き鳥店(現在閉店中)は、酒類提供が禁止される前まで、上記の(1)以外の、(2)(6)を実施して、席間が空いて客数が減った分を値上げによる客単価の向上で補って(顧客の支持の高い店は値上げが可能なはずだ)、うまくやっていた。

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 おいしいお酒と食事の楽しみを取り戻す日が早く来ることを期待したい。

 さて、ネットの酒屋に「獺祭」を注文しようかな!

ダイヤモンド・オンライン