ロシアによるウクライナ侵攻は、間違いなく今年もっとも世界が大きな衝撃を受けた事件だ。国連安保理による決議も、常任理事国のロシアが否決したことで、まったく抑止力にならなかった。
例えロシア側にいかなる理由があったとしても、他国にいきなり侵攻するというのはあってはならない。たちまちニューヨークでも戦争反対の声がわきあがった。
ニューヨークには約15万人のウクライナ系住民が住み、これはアメリカ国内で最大規模のコミュニティとなる。
さっそく国連前やロシア大使館前、タイムズスクエア、イーストビレッジのウクライナ教会前、ワシントンスクエアなど、複数のロケーションで「戦争反対」の抗議運動が起こっている。エンパイアステートビルディングもブルーとイエローのライトを点けてウクライナ支持を表した。
26日の土曜日にタイムズスクエアで行われた抗議集会に参加してみると、プラカードやブルーとイエローの国旗を掲げた人たちが数多く集まっていた。
ウクライナの象徴ともいえる花輪を頭に飾りつけたマリア・ムドラさんは、「こんなことはあってはならないこと。ウクライナはロシアに攻撃をしていないのに、なぜ」と憤（いきどお）る。親戚はウクライナにいると言い、心配をあらわにする。
｢NATOよ、私たちの領空を守って。あとは私たちの英雄が闘う」というプラカードを持っていたのは、ニューヨークに留学中のダーリアさんだ。家族がキーウ（キエフ）にいて、避難はしたので少し安心したが、居場所はハッキリとはわからないと言う。
｢これは一方的に仕掛けられた戦争。ウクライナはどこの国にも戦争をしかけていない。ウクライナにはプロテクションが必要、NATOに入れることを望みます」と加えて語ってくれた。トルコ人のダフネさんも、「ウクライナを支持します」とプロテストに参加した。
一方、ニューヨークにはロシア系住民も古くから多く住んでいて、今回の戦争反対運動にはロシア系の人たちも参加している。
ブルックリンから来たというロシア系住民のアレキサンドラさんは、「ウクライナとロシアは敵ではない」と言い、「戦争をしているのはプーチン（大統領）の思惑であって、ロシア国民が望んでいることではないはず」と語る。
プーチン大統領をヒットラーに喩（たと）えたプラカードも見られ、「ロシアはウクライナをファシスト呼ばわりするがとんでもない、それはプーチン（大統領）のほうだ」と看板を持っていた男性は怒る。
その場にいる人たちもウクライナ人だけではなく、ジョージアの旗を掲げる人や、ポーランド系の人もいて、東ヨーロッパ系の人たちにとっては人ごとではないことがひしひしと伝わってくる。
コロンビア大学に在学中だというウクライナ系青年は、「直接の家族はカリフォルニアにいるが親戚はウクライナにいる、心配だ」と言い、一緒に参加していた同大学の学生はイタリア系だが「同じヨーロッパ系として連帯したい」と言う。
ウクライナのゼレンスキー大統領はコメディアン出身ということで、当初揶揄もされていたが、逃げずに交戦する姿勢を見せてから、リーダーとしての尊敬を集めているようだ。
ウクライナ支持の表明は、レストランのサポートにも表れていて、イーストビレッジにある老舗レストランの「ヴェセルカ」には長蛇の列ができていた。
イーストビレッジはもともとウクライナ系移民が多かった場所で、ウクライナ正教会やウクライナ民族博物館がある。「ヴェセルカ」は第二次大戦後、ウクライナ難民によってつくられたレストランだ。
これほどヴェセルカが混んでいるのはめずらしく、店内ではウクライナに対する寄付をバーコードで読みとってできるシステムを取っている。
バイデン大統領はロシアを批判して、欧州連合（EU）と共にロシアをSWIFT（国際銀行間通信協会）から排除することになった。一方、プーチン大統領のほうも核をチラつかせて引いてはいない。が、想像以上に持ちこたえているウクライナによって経済的打撃も大きくなっている。一刻も早く、戦火が収まることを祈りたい。
このウクライナ侵攻は、まさにアメリカではコロナ感染がようやく減ってきたところで起こったことで、パンデミックが終わったとたん戦争が始まるというのが残念すぎる。
アメリカでは昨2021年末のホリデーシーズンから2022年1月中旬まで、オミクロン波が襲って過去最大の感染者数を出した。1月10日には、なんと新規感染者数が140万人を超えるという凄まじい数となり、2月末でようやく新規感染者数が2万人を切った。
そのため、2月中旬に行われたNYファッションウィークもデジタルの発表に留まるブランドが多く、リアルなランウェイは限られたものとなった。ところが実際に行われたランウェイに行ってみると、フロントローではマスクをしていない観客ばかりで、すでにコロナ禍が終わったかのような感覚でいる人も多いのには驚いた。
2月末現在のコロナ陽性率はニューヨーク州で1.9%、マンハッタン市内では1.42%とまで落ちている。
ニューヨーク市でマスク着用が義務づけられているのは、地下鉄やバスなどの交通機関や老人ホームや病院、保育所、シェルターといった密度の高い室内だ。また、スーパーマーケットやストア内でも人々はマスクをつけているし、レストランの従業員も着用を続けている。
一方、それ以外での室内でのマスク着用は義務ではなくなったので、オフィス内やジムではマスクをしていない人も多いし、コンサートやライブではマスクをしていない人がほとんどだ。
メトロポリタン美術館の服飾研究所が5月から新たに展示する、「イン・アメリカ」展にともなって行われる予定のファッションの祭典「メットガラ」は、5月2日に行われる予定だ。果たして、新しい変異株に邪魔されることなく、このままファッションやビジネスが再開できるか期待をしたいところだ。
さて、今後の話題と言えば、3月27日に行われる予定のアカデミー賞だろう。
アカデミー賞にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』だが、すでに数々の賞に輝いている。昨年のカンヌ国際映画祭で日本作品初の脚本賞を受賞、ゴールデングローブ賞で「非英語映画賞（海外映画賞）」、全米映画批評家協会賞では4冠を獲得した。
｢ニューヨークタイムズ」紙では、「『ドライブ・マイ・カー』は観客に忍び寄り、つむがれる語りが複雑であるのと同じほど、率直なビジュアルで癒すだろう」と評している。一方で「ガーディアン」紙は、「5つ星中の5つ星」と絶賛して「夢中になり、昂揚（こうよう）する体験」と評している。
村上春樹の短編小説を原作にしてあるのも、欧米のインテリ層に受けが良いところだろう。
一般の劇場でヒットしているというわけではないが、YouTubeには『ドライブ・マイ・カー』の解説が多くアップしていることからも人気がわかる。この手の作品解説が多いことは、視聴者の好奇心をそそる作品であることの証拠だ。
アカデミー賞では2020年に、『パラサイト 半地下の家族』が作品賞と監督賞を獲得、21年には『ノマドランド』が作品賞と監督賞を受賞したが、女性として二人目の監督賞に輝いたクロエ・ジャオ監督は中国籍だ。
つまり2年に渡ってアジア系が取りあげられるダイバーシティを見せてきたわけだが、『ドライブ・マイ・カー』のノミネートも当然、このダイバーシティへの気配りが働いている。
アメリカ市場においては、日本映画か韓国映画かといった違いは意識されず、おおまかに“東アジア映画が熱い”といった捉えられ方だ。これは多くの日本人にとっても、「南米文学」といったときに“コロンビアの文学者”と“チリの文学者”を区別することができないのと似ている。
つまり、『ドライブ・マイ・カー』は今年のダイバーシティ目玉作品であるわけだが、映画自体も多言語による芝居をあつかい、多国籍の登場人物が登場する。俳優の家福は、脚本家の妻・音（おと）と暮らしているが、家福夫妻は幼い娘を亡くした過去がある。妻の音はセックスをするときにストーリーが湧いてきて、それを語るという習慣があった。ところが、そんな音が急死する。
そして二年後、家福は広島の演劇祭で「ワーニャ伯父さん」を演出することになり、車をドライバーである渡利みさきに任せることになる。家福はドライバーの渡利みさきに、毎日運転してもらっているうちに徐々に話をするように…。
この映画のおかげで、日本の書籍では『ワーニャ伯父さん』の売上が上がったと言われているが、実際、映画を観たら原作を読みたくなるものだし、こうした他言語による舞台を観たくなるものだろう。
チェーホフの戯曲というのは、特別な事件が起こらないような静かな展開、細やかな心理の動きというのが日本の新劇でも好まれてきた。当然ながら、韓国語や中国語でもチェーホフは演じられるわけで、多言語の芝居でもやはり伝わるものは伝わり、手話で演じる女優の迫力ある演技は強い印象を残す。
ワーニャ伯父さんの舞台は、ロシアの田舎だ。長いこと荘園経営に人生を費やして、親戚の教授に仕送りをしてきたワーニャ伯父さん。今まで支えてきた教授が実際には俗物であることに落胆して、彼は人生を棒に振った無力感にとらわれる。身を粉にして会社のために働いてきたり、家族のためにつくしたりしてきたけれども報われず、「人生が思うようにはいかない」ことは多々あるものだ。
ワーニャ伯父さんと、姪であるソーニャの関係は、そのまま家福とみさきの関係となり、家福とその失った娘、みさきと消えた父の関係にも重なる。ワーニャは終盤でソーニャに、「私はつらい、このつらさがわかってくれたらなあ」と呟くのだが、ソーニャは「仕方がないわ、生きていかなければ」と慰める。
｢運命を辛抱づよく、じっとこらえて生きていく」というこの戯曲のテーマは、まさにパンデミックの時代のメッセージのようだ。そして「運命に耐える」「辛抱する」というメッセージが、世界の人たちにとっても今、心に響くものとなっていることが非常に興味深い。
もうひとつアカデミー賞本命と言われるノミネート作品が、ジェーン・カンピオン監督作品『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だろう。1967年に発表されたトーマス・サヴェージの小説を下敷きにした作品だ。2021年第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、銀獅子賞（最優秀監督賞）を受賞。
舞台は、1920年代のモンタナ州。圧倒的なリーダー性と、高圧的な態度で恐れられている兄のフィルと、大人しくきちんとした恰好を好む弟ジョージのバーバンク兄弟は、大牧場を共に経営して暮らしていた。
ある日、ジョージが未亡人のローズと結婚することになり、家に越してくることになるのだが、フィルはローズを財産狙いと蔑み、ローズやその息子のピーターに執拗なイヤがらせをする。
そんなフィルがあることをきっかけにピーターに親切になっていくのだが、物語は意外な結末に導かれる。
このカンバーバッチが演じるキャラクターが「男らしさ」を掲げ、荒くれカウボーイたちのホモソーシャルな男集団のトップに君臨する。弟のジョージに対しても、支配的にふるまう。
近頃よく話題になる「トクシック・マスキュラニティ（Toxic masculinity）」、すなわち「有害な男らしさ」の問題を含んでいるキャラクターなのだ。
｢トクシック・マスキュラニティ」とは、伝統的に「男はこうふるまうべきだ」とされる行動規範のうち、負の側面があると考えられるものを差す。例えば、「男は強くタフでないといけない」という意識や男性優位の考え、あるいは「男は性的に放埒（ほうらつ）でいい」とか、「偉そうにふるまっていい」といった意識などが挙げられる。
フィルはイエール大学卒業者というエリートであり、知性派のカンバーバッチが演じるために、決して単純無知な人物ではない。明らかに、ローズに対するミソジニー（女性嫌悪）や、弱々しいピートに対するホモフォビアが見てとれる。
下手なピアノを練習するローズに対して、フィルが同じ曲をバンジョーでもっとうまく弾いてイヤがらせをするところなど、今どきの言葉で言えば「マンス・プレイニング（Mansplaining）」だ。
面白いことにバーバンク兄弟の親は東部に住んでいる富裕層で、社交界に出入りしているらしい。兄弟も母親のことを「おふくろ」と呼ばずに「オールドレディ」（老婦人）と呼び、良家の子息を感じさせる。
このフィルの極端な「荒くれ男ぶり」は、カウボーイのメンターであった伝説の男ブロンコ・ヘンリーにあり、ブロンコに異常に心酔しているフィルに、「なにか秘密があるらしい」とわかってくる。
今の時代であれば、「モラハラ」「パワハラ」といった表現をされるフィルの行動なのだが、決してフィルを悪役として責めたてているのではなく、兄弟、妻と息子という4人の緊迫した関係性そのものがドラマの主旋律となっている。
主要登場人物たちをどれかに絞ることのない、中立的な視点から描いているために、人間心理のドラマとして緻密に組み合わせられたプロットが進み、最後に驚きの結末が待っている。
なんとも言えず強い印象を残す作品であり、作品賞の本命とされている。
一方、最多10部門でノミネートを受けたのが『DUNE/デューン 砂の惑星』だ。
フランク・ハーバードの原作が膨大な長編であるため、映画化が困難とされる「デューン」だが、1984年にデビッド・リンチが監督した『デューン/砂の惑星』では、一作にまとめていたために何がなんだかわからない展開になっていた。
しかし、今回ドゥニ・ドゥルヌーヴ監督が前編後編に分けために、混乱を招くような作りにはなっていない。
なによりもすばらしいのが、プロダクションデザインだ。砂の惑星アラキス、アトレイデス家の館や宇宙船、ハルコンネン男爵側の武器や軍装など、すべてのデザインがすばらしい。
アトレイデス公爵家の若き後継者、ポールをティモシー・シャラメが演じているのだが、まだ少年に見える設定がとても合っている。
また小説でも人気のキャラクター、勇士のダンカン・アイダホをジェイソン・モモアが演じ、また教母役のシャーロット・ランプリングも、彼女でなくては出せない不気味な存在感を出している。
また、砂の民であるフレメンたちのデザインが、原作のアラブ風のイメージを色濃く残し、ベドウィン族ら砂漠の遊牧民の文化を取りいれて、すばらしい。
ただし文化は極めてアラブ的であるのに、中東系あるいはムスリム系の俳優を使っていないことは、キャスティングの批判対象ともなっている。
ドゥルヌーヴ監督はフランス系の苗字からも想像がつくように、カナダのケベック州出身。SF映画の『メッセージ（Arrival）』、『ブレードランナー2046』を監督しているが、毎回美術セットがすばらしい。
『ブレードランナー2046』でも出てきた、乾いて荒涼とした光景、寂寞とした思いになるオレンジ色の光、ウルトラモダンな建物など、同じ美意識がつらぬかれている。ドゥルヌーヴ監督の住居とインテリアを、『エスクァイア』誌で取材してくれないだろうかというほど、美意識を感じさせる監督だ。
最多10部門でのノミネートだが、美術賞、視覚効果賞、衣装デザイン賞、メイクアップ＆ヘアスタイリング賞、撮影賞のあたりは取るのではなかろうか。
このように今回のオスカー賞も映画好きにとっては見逃せない作品がノミネートされているのだが、視聴率となると話は別だ。
オスカー賞の人気は凋落していて、20年の視聴者週23.6ミリオンが、21年には9.85ミリオン人と、59%近く落ち込んでいる。
今ではオンラインのストリーミング番組やYouTubeが幅を利かせていて、実際に人々が映画館に足を向けるとなれば、大型アクション映画が中心になっているのが現状だ。
では、実際の興行成績を見てみよう。21年にアメリカのボックスオフィスで好成績を叩き出した圧倒的なトップは、『スパイダーマン・ノーウエイホーム』で興行成績は$572,984,769だ。2位の『シャン・チー』が$224,543,292なので、大きく水をあけている。
参考までに言うと、全世界での興業成績でも『スパイダーマン』が1位だが、2位は中国映画の『長津湖（ちょうしんこ）』だ。これは朝鮮戦争における中国人民志願軍の戦いを描いた物語で、ほぼ中国市場しか需要がないと思われるのに、莫大な売上を叩き出したのだから驚くしかない。
アメリカ国内では、そこから3位『ヴェノム』、4位『ブラック・ウィドウ』、6位『エターナルズ』と、マーベル映画が独占している。
5位に食いこんだ『F9ワイルドスピード/ジェットブレイク』、7位の『007/ノー・タイム・トゥダイ』、8位の『クァイエットプレイス 破られた沈黙』は健闘しているが、大まかに言うと、アクション映画のシリーズ物が圧倒的に強いということになる。
さらに見ていくと、鳴り物入りで公開された『デューン』は13位、『鬼滅の刃 無限列車』が25位。ミュージカルの『イン・ザ・ハイツ』が36位。むしろ、これは健闘した順位と言えるだろう。
スティーブン・スピルバーグ監督によるリメイク版『ウエストサイドストーリー』は38位と振るわず、これも大型予算をつぎこんだリブート版『マトリックス:リザレクション』は39位と惨敗。
昨年の注目作『ミナリ』は94位、『ノマドランド』は115位という成績だ。これだけ見ると、アカデミー賞を取っても順位が低いようには感じるが、全くアクションがない文芸映画で100位前後にランクインすることのほうが凄いと言える。
今回ノミネートされた『ベルファスト』は74位、『ドライブ・マイ・カー』は21年11月に公開されたので、ボックスオフィス売上自体は少なく、173位に留まっている。
オスカー作品と、人々が観ている作品とはかなり乖離しているのだ。
2022年のSAGアワード（全米映画俳優組合賞）を見ると、最高賞にあたるキャスト賞に『コーダ』が受賞。テレビ部門では『イカ・ゲーム』が、男優賞、女優賞、スタント・アンサンブル賞の3冠に輝いた。
オンライン・ストリーミングの部門がないアカデミー賞は、ますます人々が観ている番組とノミネート作品がかけ離れてしまうわけだ。
アカデミー賞はボックスオフィスの成績とは違って、作品に対する評価として意義がある。だからといって、視聴者を呼べるかというと話は違う。
アワード番組の凋落はアカデミー賞に限ったものではなく、エミー賞もグラミー賞も軒並みダウンしている。
2000年には、視聴者が46.3ミリオンに達していたオスカー賞においては、なんと4分の1の落ち込みだ。誰もがテレビを観ていた時代から変化していて、当然の流れとは言える。
アカデミー賞は近年、選考委員会が「白人」「男性」中心という批判を受け、ダイバーシティに気を配り始めていることは明確だ。今回の司会者は3人とも女性、しかもそのうち2人がブラックという人選であり、司会もダイバーシティに目配りした形となっている。
また放映時間を短くする試みがされていて、今年のオスカーでは8部門の受賞が放映されない予定だ。ABCでの放映開始前に会場で授与されるのが、編集、プロダクションデザイン、サウンド、メイクアップとヘアスタイリング、オリジナル音楽、そしてドキュメンタリー、ライブアクション、アニメの短編映画となっている。
しかし、これには「アカデミー賞は陰の功労者を讃えるためのもの」という本来の意図からずれていると、業界から反発の声も聞かれている。
果たして放映時間が短くなれば、より多くの人が観るかと言えば、おそらくそうではないだろう。受賞者じたいはツイッターで即時に分かるし、YouTubeやTikTokでまとめを観るほうが手っ取り早い。
一体、何が人々に「オスカー賞を見たい」と思わせるのか？ その根本的な意義が問われている。 本番は3月27日だが、エンタテイメント業界も移り変わる今、どういう選考結果になるのか期待したいところだ。
黒部エリ
Ellie Kurobe-Rozie
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。『Hot-Dog-Express』で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYに移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続けている。著書に『生にゅー！ 生で伝えるニューヨーク通信』など。
