「ルル」「パブロン」「ベンザブロック」…
市販の風邪薬で副作用発生リスク

風邪をひいたとき、気軽に市販の風邪薬を飲んではいけないことをご存じだろうか。

風邪の原因となる病原体は約8~9割がウイルスで、残り1~2割が細菌とされている。溶連菌感染症など細菌による風邪には抗生物質が効くが、通常のウイルス感染による風邪に根本的な治療はない。そもそもウイルスは単独で増殖できないことが大半のため、普通の風邪なら「放っておいても治る」のだ。

えっ、それなら「ルル」は? 「パブロン」は? 「ベンザブロック」は意味がないのか? と驚く読者もいるだろう。それらは風邪の“症状”を軽くしてくれるだけであることを知ってほしい。市販の風邪薬を連用することは副作用発生リスクを高めるし、一時的に症状が消失するため、服薬を続ければ肺炎などの重い疾患を見落とすことにもつながる。

米国心臓協会は「市販の風邪薬の中には、心血管に悪影響を及ぼすものもあることを理解し、使用する際には慎重に判断するように」と注意喚起している。どういうことか。

心筋梗塞の発症リスクを
3.4倍に増加させるケースも

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多くの風邪薬にはプソイドエフェドリンのような鼻づまりの症状を緩和する成分や、これらのような交感神経を活発にさせる交感神経興奮成分が含まれる。そのため血管収縮作用が起こり、高血圧や心疾患を有する人は病状を悪化させるのだ。

非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs:解熱鎮痛成分)についてはこんな怖い報告もある。「Journal of Infectious Diseases」(米国感染症学会の学術誌)に掲載された研究論文で、NSAIDsを使用した人は、使用しなかった人と比べて心筋梗塞を発症するリスクが高まるという。特に、急性気道感染症を患っていてNSAIDsを服用すると、心筋梗塞の発症リスクを3.4倍に増加させる。

東邦大学名誉教授で平成横浜病院の東丸貴信医師が説明する。

「NSAIDsは感染症の症状軽減によく使いますが、注意が必要です。細菌やウイルスに感染すると、心臓血管など全身に炎症が広がり、NSAIDsの服用でより血栓ができやすくなります。感染に体が抵抗して心拍数も上がり、尿中への塩分や水分の排泄量も減り、血圧がより上昇する可能性があります」

これらの成分は国内の風邪薬でも普通に含まれる。薬箱の中に入っている添付文書を見れば「高血圧、糖尿病、心臓病、甲状腺機能障害、前立腺肥大、緑内障」を患う人は、「飲んではいけない」か「薬剤師に相談を」に該当するパターンが多いはずだ。

どんなにつらくても
「できる限り選択するべきでない薬」とは

風邪の症状にはのどの痛みや発熱、頭痛、関節痛、鼻水、鼻づまり、せき、たんなどさまざまなものがあるが、一般的な風邪薬(総合感冒薬)には一つの薬に多用な症状を抑える成分が入っている。だから“良くない”のだ。あらゆる症状を抑えるために多用な成分を飲むことが副作用発生リスクを高める。

どうしてもつらい症状を緩和したいとき、熱やのどの痛みなら解熱(消炎)鎮痛剤、せきなら去痰薬、鼻水なら鼻水止め薬、もしくは点鼻薬というように、自分が最もつらい症状のみ、それを重点的に抑える、単一の成分である薬を選ぶことが大切である。実際に医療機関であれば、風邪に対してはそのように症状別に対症療法薬を処方している。

読者には、本来風邪には薬が必要ないケースが多いこと、つらい症状を緩和するために薬を服用するときも「総合感冒薬」という複数の有効成分を組み合わせた「配合剤」は、できる限り選択するべきではないことを理解してほしい。

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「飲むと逆効果」になる
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さらに、たった一つの症状を抑えるために使う薬も、デメリットがある。特にお世話になることが多いであろう「解熱剤」について取り上げよう。

そもそも風邪をひくとなぜ熱が出るのか。市販薬に詳しい薬剤師の堀 美智子氏(医薬情報研究所/エス・アイ・シー)にメカニズムを聞いた。

「体内の細胞はウイルスによって攻撃を受けると、細胞膜からアラキドン酸という物質が切り出されます。アラキドン酸はプロスタグランジンという物質を作り出し、これが炎症反応を起こし、脳に“熱を上げなさい”という指示を出すんですね。

人間の脳には体温の調節をする機能があり、普段は平熱に保つように働いていますが、プロスタグランジンによって指示を受けると、体は筋肉を震わせて熱を生み出し、熱が体外に逃げるのを抑えるため皮膚の血管が縮みます。風邪をひいたときに悪寒がしたりブルブル震えたりするのはこのためです。この生み出された熱によって体の免疫活動は活発化し、ウイルスを排除することができるのです」

つまりは風邪を治すには体温が高いほうが良い。堀氏が「葛根湯」を例に挙げる。

「よく風邪のひき始めには葛根湯を飲みなさいと言うでしょう。葛根湯の成分には葛根、麻黄、ショウガ、桂皮などが入っています。これらは全て体を温める効果があるもの。ですから風邪のひき始めに葛根湯を飲むと、体も熱を上げようとしているタイミングですから、そのサポートになります」

だがウイルスが体内から排除されると、細胞膜からアラキドン酸が切り出されなくなり、脳へ体温を上げる指示も出なくなる。縮まっていた皮膚の血管が開き、汗を出して気化熱によって体内の熱を平熱に下げていく。この汗が出ているとき、つまり体が熱を下げようとしているときに「葛根湯を飲むと逆効果」という。

解熱剤を早めに飲むと
病気が長引いてしまう

一方で、早めに解熱剤を飲むこともまた悪影響を及ぼす。

「体温が高いほうが良いときに、たとえば解熱剤によって体温を強制的に低くしてしまうと、まだウイルスが活発に増殖しているのに、体の免疫力を弱めてしまう可能性もあります。そうすると一時的に熱は下がったとしても、病気を長引かせてしまうことになりかねません」(同前)

それを裏付ける研究はいくつかある。60人の健康なボランティアの鼻腔内にライノウイルスを感染させ、解熱剤(アスピリンとアセトアミノフェン、イブプロフェン)とプラセボ(偽薬)の4つの治療群のいずれかに割り当てたところ、解熱剤投与群はプラセボ群と比較して中和抗体(ウイルスを失活させる作用のある抗体)の抑制が確認された。ほかにも解熱剤を投与すると炎症反応が強まったという報告もある。

国内では京都大学保健管理センターが貴重な研究を行っている(2007年、「Internal Medicine」に掲載)。全国23施設の協力を得て、風邪を発症して2日以内の患者を対象に、ロキソプロフェンを含む抗炎症薬(解熱剤)か、プラセボ(偽薬)を服薬してもらい、治癒までの日数を観察したのだ。

その結果、「解熱剤を使ったグループ」のほうが発症後3日目までの重い症状は少なく、日常生活に制限があった期間が短くなった。ところが、「解熱剤を使わなかったグループ」は、4日目以降になると感染者の割合が少なくなったのだ。全ての症状が消えるまでの期間も解熱剤を使ったグループが8.9日だったのに対し、プラセボグループは8.4日と半日短い。

解熱剤は高熱のために食事も取れないようなとき、どうしても仕事をしなければいけないから一時的に熱を下げたいときの服用にとどめたい。「なんとなく調子が悪いから」と、市販の風邪薬を服用するのが最悪のパターンだ。そこには大抵、解熱鎮痛成分が入っているのだから、かえって治りが遅くなる。

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