※この記事は、2022年2月28日(月)に公開した前編に続く後編です。

「Netflixなどの頑張り、
加えてあと現状のドラマ・映画における
韓国ブームを目の当りにしていると
刺激を受けますね」と福澤氏

山本/昨年、『全裸監督2』や『浅草キッド』といった作品が国内でも話題になりましたが、今後、日本が世界配信で世界のコンテンツに伍していく際には「埋もれないためのマーケティング戦略」も必要になるのではないかと考えています。

一つ簡単な切り口を挙げるならば、今私は、ディズニー+に注目しています。今のところ、Netflixの登録者は世界で約2億人と推定されていて、それに比べればディズニー+は現在のところその半分の約1億人の加入者数です。ですが5年後の2026年には、あるリサーチではディズニー+の加入者数がNetflixを逆転すると言っています。私もその意見には同感で、調べてみるとディズニー+には「マーベル」「ピクサー」「スター・ウォーズ」といったブランド(カテゴリー)に新たなストリーミングブランドとして「スター」が2021年2月から追加されています。ラテンアメリカではDisney+やスターとは別の動画配信サービスである「スター+」も開始しています。さらにディズニー系列のスポーツ専門チャンネル「ESPN」からスポーツ中継も供給される予定となっているので、この成長を阻む要因はないと捉えています。

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Yohei Fujii

ディズニー+はNetflixと違い、これまで、こども向けの印象が強かったと思いますが、ここに来て大人向けのビジネス展開を加速させています。ただ今はまだ、世界的にみてもNetflixほど存在感がある訳ではなく、加入者もNetflixの半数規模なので、いわばコンテンツ・ブルーオーシャンな状況であると。一方で「ひとつの家庭にひとつのアカウントがあれば十分」と思う人はどうやら万国共通の様で、そんな状況を汲み取ると、国内でも一挙にディズニー+が浸透してくるはずです。

なので、一旦ビジネス制約がないと仮定した場合、Amazonプライム、Hulu、NetflixなどのOTTサービスのどれか一つに優先的に“強いコンテンツ”を出すのであれば、ディズニー+に妙がある…というマーケティング的な考え方もありますね。ジャイさんならご自身の自信作品ができた場合にはどちらに出されますか?

福澤/高く買ってくれるほうに出します(笑)。

山本/でも、多くの方々にご覧いただきたいですよね?

福澤/そりゃそうです。ただそこの判断は、私にはできないのが現状なので…。

山本/多くの方に見て頂ければ(ヒットすれば)、次作品を売る際には、単価交渉を仕掛けることができますから、結局は「より多くの人に観てもらえる方を選ぶ」と、「結果として高く売れるようにもなる」いうのがマーケティング視点でもあります。

つまり、少し長期的に世界戦を考えたとき、今今どのOTT(Over The Top=インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービス)にベットするのが得策なのか? という考え方もあったりします。最もビジネスの取引において契約時に制約を受けるケースも多々ありますので、それらも包含しての戦略は必要ですが、いずれにしても「コンテンツ・イズ・キング」だと思いますので、私は「作れる会社」に、選択肢もある様にも感じています。

TBSを退職後、外資系の企業を経験して、いかに日本の企業がお人好しだったのかを知りましたが、世界で戦うためには、世界標準の「したたかな交渉力」も日本のエンタメ企業に不可欠と感じる様になりました。弊社の様な小さい会社でも、海外の会社と契約書を一つ締結するにも物凄くエネルギー使っています(笑)。

ドラマ作りに
マーケティング分析は不要
ドラマを届けるためには、
マーケティング戦略は
不可欠な時代…

福澤/(少し話は変わって)ドラマ作りに関するマーケティングの話ですが、ドラマに関する調査アンケートでいつも「どんなドラマ観ますか?」と訊いて〇をつけてもらって、そして「次はどういうドラマが観たいですか?」って質問に丸をつけてもらうわけですが、結局のところ視聴者の、皆さんも私自身もそうなんですが、次どんなドラマを観たいかなんて分からないものですよね。わかんないけど、とりあえずそのアンケートが選択式だから〇をつけちゃうという感じではないですかね、実際は。

「こういうドラマが観たいんです!」なんて言える人は、いないと思いますよ。

山本/私もドラマ作りそのものに対して、データや分析などは不要と思っている派です。よく「韓国ドラマがなぜヒットしたのか」と分析している記事を目にしますが、その分析から応用できるものは無いと思っています。作品性に分析の視点を入れても説明がつかないはずですから。ゴッホは死んでから売れましたし。ゴッホのひまわりは何が良いのか、と分析したところで答えは出ないはずです(笑)。逆に、そういった「作品の分析」をしている方には、「ではNetflixで「テラスハウス」がヒットすると先に予言しておいてくれ」、とツッコミたくもなります。

作品だけは、蓋を開けてみないと分からない領域だとも思っています。自分が書いた本もそうでした(笑)。

福澤/そうですよね。ドラマ作りの段階で、マーケティング的な数値を照らし合わせて物語を作っていったら不自然な世界感になりますね。  

山本/はい、不自然を助長する行為の様な気はします。マーケティング分析で活用する数値は、過去の情報なので「純エンタメ」には不向きなのかなと。商品ではなく作品ですから。純エンタメの世界でデータが活用できるのは、「もの作り」に対してではなく、作品の最適な「届け方(広め方)」、あるいは「それを届けるための形態」を考えるときだと思います。つまり「良質なコンテンツが埋もれないため」にはマーケティング的視点は使えるし、むしろそちら側で担うスキルセットだと思います。

福澤/じゃあどうやって届けていくといいのですか?

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山本/ケースバイケースと正直に答えます(笑)。

福澤/それってなんかずるくない?

山本/すみません、ずるいです。ただ正直言って作品の内容と外の状況変化を読みながらになるのでやはり、ケースバイケースかと。

ただ、何もしない訳ではなく、ケースによって実行するマーケティング施策も繊細にかつ柔軟に変えていくべきだと思います。

例えば、世界中に同時一斉配信という手法もありますが、事前に日本でヒットしたという前例がある作品なら、日本人の感性に近しい国の人たちをターゲティングして、まずはその国(あるいは人)にだけ配信する方法もあります。「類似性の活用」を行います。さらに、そのターゲットに、それが同じ様にヒットしたならば、今度は、その「ヒットしたという事実(FACT)」に着目し、そのFACTを点火させて、さらに類似性の強い国へと広げていく手法もあります。

最初から一発で狙わない戦い方です。徐々にオセロを返すように。

福澤/そんなやり方もあるんだね?

山本/そうですね。いろんな「届け方」はあります。試してダメだったら、すぐ作戦を変更すればいいんです。クリエイティブほどではありませんが、マーケティングの世界も実は繊細な作業のトライアンドエラーを繰り返して成功に導く地道な作業だったりします。

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福澤/日本のテレビ局は「マーケティングに弱い」というイメージが強いかもしれませんが、その理由として考えられるのは、テレビ局に入ってくる人ってほぼ全員が何かをクリエイトしたくて入ってくるから…とも言えますね。

みんなジャーナリストになって、世の中に新たな道を切り開きたい、バラエティを作ってみんなを笑顔にしたい、ドキュメンタリーを作って隠れていたものにスポットライトを当てたい…そういうクリエイティブ魂の熱い人たちがいっぱい入ってくるからですね。

山本/TBSにいたときにそれは感じました。むしろ良い意味で。何と言っても「作品を作れる会社」がキングですから。

ところで、そろそろジャイさんも世界に照準を絞った作品作りをされていくのでしょうか?

福澤/これは難しいところですが、作るとしても、海外でウケるように媚びた作品は制作しませんね。個人的に一番みっともないと思うのは、洋風なゴージャスな部屋でアジアの人が生活している様子を描いてもサマにならないですよね。私たち日本人が観ているのならいいですが、それを欧米の人が観たらどうでしょう。

日本なのだから、ドーンと畳の部屋にして「どうだ?」って感じで作りますね。要するに欧米の人にとって新鮮なもの、日本オリジナルのもの、日本風にこだわりたいと思っています。日本人が畳で話していても、違和感ありませんね? それを目指したいです。食べ物もそうです。映像の中にガンガン納豆出したりして、「なんだあの食べ物」って思わせたい。欧米の人の生活に合わせて、こうやったらウケるだろうって寄せにいくのは良くないと思います。そうするとむしろ、媚びている雰囲気が出て逆に突き返されるでしょうね。

山本/早く見たいです。

これまでの福澤作品の中で、2015年にTBS開局60周年特別企画2夜スペシャルドラマとして放映された『レッドクロス〜女たちの赤紙〜』は世界でヒットしやすいコンテンツだと感じましたが、いかがでしょうか?

福澤/あれはすごく人気でした、中国の人にも。

山本/戦争ドラマ、終戦ドラマというコンテンツは「命の尊さ・儚さ」「戦争の悲惨さ」という、先ほどの言葉でいう「類似性」が共通に潜んでいます。一方で国境を超越した平等な視点での戦争ドラマでしたので度肝を抜かれました。これまで、なぜ『レッドクロス』が世界に出ていかないのかはずっと不思議でした。

福澤/TBSも、世界配信に向けた新しい会社を設立して躍進しようといています。Netflix向けにはすでに、番組制作も決まっています。他にも、ハリウッドの大手制作会社との共同制作など。さまざまな方面からコンテンツ強化することを目指しています。他が縮小していく中で、TBSは大きくしていこうと邁進している感じだから、山本もぜひやってくれよ。

山本/私でお役に立てることがあれば、もちろんです。私にとってのジャイさんは人生を教えて下さった方ですから。あのときTBSを辞める決断に至ったのもジャイさんにアドバイスを頂いたからですから…。

福澤/そんな相談受けたっけ?

山本/はい。退職後、『陸王』でお手伝いさせていただいた際に再会して「何で辞めたの?」と言われたときは驚きましたが、今日は驚きません(笑)。

福澤/(苦笑)

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山本/話を戻しますが、世界で日本のコンテンツを今から広める上ではシャープな戦略は要ると思います。「情報過多の時代」に見合った工夫が要ると思います。映像作品も、スマホの浸透で “本屋化現象”の時代に突入していますから。今本屋に行くと、目立たない所に置かれた隠れた名著を探すのが大変で、それと同じ壁が日本の映像作品にも必ず立ちはだかります。

出版業界では、出版社も「数打ちゃ当たる」の様な書籍制作策になってきていますし…。私の書籍は運良く生き伸びましたが、リアルな体験談です(笑)。

福澤/数を打つ方が良いと思っていました。どんどん作った作品を世界に出していくべきだと。

山本/もちろん、それも一つの考え方(手法)だと思いますが、それだとやがて消耗してしまいます。なので、そこで見極めが必要となります。これが一押しだという作品が福澤チームで出来上がったときに言っていただければ。それを最大限世界へ広げるような戦略を練りますので。

また、先ほど述べた手法はあくまで一例なので、それこそ「手法の組合せ」でヒットさせる(埋もれさせない)ことはできると思います。ただ、私にはジャイさんの様に質の高い繊細な映像作品を作る能力は一切ありませんが(笑)。私も純粋に恩返しできればいいなあと思います。その延長線上にトヨタとTBSを退職した理由の実現もあると、なんとなく感じていますから。

福澤/そうですね。今後は制作側と作品を届ける側ががっちりスクラムを組んで、多くの皆さんに観てもらうことを一番大切にしていくべきですね。そしてその次に忘れてはいけないのが、後見人を増やすことですね。やはり今学生の人たちが、「僕もああいうところでドラマ・映画が作りたいな」って思ってもらえるように私たちが行動して、結果を出していかないといけませんね。それも、世界的な結果をね…。

山本/そういう利他の心を緑山でも今日も、お会いさせていただくたびに教えて頂いて感謝しています。私は慶應出身ではないですが福沢家の哲学までも緑山で教えて頂いて、人生を進めるにあたって大切にしています。

私自身大学生の頃、交通事故で1度死にかけた経験があるので、今が2回目の人生ですから、なんのために生まれてきたのかとかも、また教えて頂いた「仕事感」も教訓にしていますし、出会いやご縁を大切にして生きていこうと思います。

福澤/どこの場所でもいつの時代でも、人と人がつながることが大切ということです。そのためにもより多くに人にジャパニーズコンテンツの代表として、テレビドラマや映画で世界をつないで次の世代にもつなげていきたいですね。

— おわり—