「スクルージから学んだことは、『他者にはやさしく。クリスマスを楽しみなさい』ってことかな」

そう笑って話してくれたルーク・エヴァンズは、繰り返し映像化されてきたディケンズの名作『クリスマス・キャロル』の最新アニメーション版、Netflix映画『スクルージ:クリスマス・キャロル』(2022年12月2日日本配信)で、英語で “吝嗇(りんしょく)・守銭奴(しゅせんど)”の代名詞ともなっている、エベネーザ・スクルージを演じています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Scrooge: A Christmas Carol | Official Trailer | Netflix
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現在発売中のアルバム『A Song for You』がUKのオフィシャル・アルバムチャートで5位を記録しているルーク。そんな彼が「東京で開催されるチャリティイベントで、アルバム曲の1つ、“You Raise Me Up”の歌唱パフォーマンスをする」とのことを聞き駆けつけると、舞台に上がる直前にインタビューと撮影に応じてくれました。

ルーク・エヴァンズ
Maciej Kucia

奉仕の精神は、両親から継承されています

俳優ルーク・エヴァンズは、今でこそハリウッドスターですが英国ウェールズの小さな町の、決して豊かとは言えない厳格なクリスチャン家庭に生まれました。遊ぶはずの時間を教会と奉仕活動に割きながら、それでも歌への情熱を絶やさず、放課後にアルバイトで稼いだお金をレッスンにつぎ込み、奨学金を獲得してドラマスクールに入学。ロンドンのウエスト・エンドで『レント』『ミス・サイゴン』など、名だたる名作に出演し、ミュージカル俳優として地位を固めたのです。

しかし、そのまま順風満帆とはいかず、映画界に進出。すると、アクション俳優としての存在感を極め、『タイタンの闘い』(2010年公開)、『インモータルズ』(2011年公開)、『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年公開)などの出演により、いつの間にか「肉体派俳優」…しかも、悪役のイメージが強くなってしまいました。

それでもめげずに地道に俳優活動続けた結果、エマ・ワトソン主演『美女と野獣』(2017年公開)でガストン役を獲得。本来のミュージカル俳優としての姿が、世界的に知られることになりました。そうしてガストンが主役のスピンオフ・シリーズの製作も発表されています。 

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アレックス・ラミレス元・横浜DeNAベイスターズ監督が主宰する、ダウン症の子どもを支援する団体「Vamos Together」が開催した交流イベントにて。
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ジャン・レノら(中央奥)と

自助努力で成功した人の中には、「他の人には自分のような苦労はしてほしくない」と後続のため障壁を取り払うべく努力する人も少なくありません。ですが中には、「自分ができたのだから他の人もできるはず。助けてなんかやるものか」と自助努力・自己責任を主張する人もいます。それに照らし合わせると、直近の作品で彼が演じたスクルージは完全に後者――他人を踏みつけにするタイプと言えるでしょう。ですが本人は、前者のようです。

「子どもの頃、両親はいつも奉仕活動に私を連れて行きました。常に他人のために何かしたいという姿勢は、自分の知名度が上がってからも変わらず継承されています。残りの人生にもずっと影響し続けるでしょう」

「チャリティ」とは富の再分配の話ではありません

このたび、特別な支援を必要とする女性と子どもたちのための財団「Global Gift Foundation(グローバルギフトファウンデーション)」が各国で開催している世界最大級のチャリティイベント「Global Gift GALA(グローバルギフトガラ)」のアンバサダーとして東京にやってきた彼は、「有名になったから慈善活動を始めたのか?」という少し意地悪な問いにも清々しく答えました。さらに、「日本でチャリティはまだまだ一般的ではなく、欧米ほど経済的格差が広がっていない日本では、富裕層による富の再分配が行われにくい…」という話をすると、それはきっぱり否定します。

「『チャリティ』とは、富の再分配の話ではありません。自分以外の他者に貢献する姿勢です。それは、その人の裕福さに関係しません。それぞれできることを行動に移すことなのです。ではなぜ私たちがレイズ(資金集め)をするかというと、ニーズが多様だから。ウクライナの戦争被害者、難民で衣食住が不足している人、家庭内暴力に遭った女性、障がいをもつ子どもたちでは、それぞれ医療、教育など必要とするものが異なります。お金はリソースとしてどの場でも価値を持ち、分配しやすい…。そのために資金集め(found-raise)は有用なのです。それに(たとえば海外の戦争被害者などのもとに)個人的に訪れて援助しようとしたら非常に難しいけれど、企業単位、団体単位で実施すると規模が大きいので、より効果的な社会的インパクトを与えられます。個人はそういった団体に自分の『代理』をしてもらうことで、自分では直接差し伸べられなかった手を、間接的に届けることができるわけです」

ルーク・エヴァンス
Maciej Kucia

慈善活動は結果が命

奨学金で境遇から抜け出し、演劇学校に通うことができたエヴァンズならでは説得力。スターの慈善活動への積極的な参加は、特にハリウッド俳優ではキャリアを左右するほどに重視されています。「知名度には責任が伴う」という社会通念が背景にありますが、その分、慈善団体からの依頼は山ほど届いているはず。数多ある依頼をどんな基準で精査しているのか? なぜ「Global Gift Foundation」を選んだのか? を訊いてみると、自己満足や自己利益のための慈善活動やらSDGsやらを実施している団体には耳の痛い言葉が出てきました。

「第一には活動実績。『これまで具体的に何をしてきたのか?』は丹念に確認します。そしてそれ以上に、『その活動が本当に対象となる方たちにどう役立ったのか?』を“見られるように”しているか(という透明性)を確認することは重要です。活動だけでは『やったふり』で済んでしまいますから…。第二に、財団を実際に管理している人との緊密なやりとりです。話を聞くと、創設者が語った情熱と、実際に運用されているチャリティの数値的な基盤に大きな違いを見つけるときもあります。何のためにチャリティを立ち上げたのか、団体の真の目的をそれによって知ることができます。今回判断したうえでも、これらは重要視しました。ですが最終的には、マリア・ブラヴォー(基金の発起人・代表)の存在です。彼女の人間性は実に温かく、人間味あふれるキャラクターですから…」

日本、特にメディアでは何の役に立っているのかわからない、統合報告書すら作成しない形だけのSDGsコンテンツがあふれる現在、彼らスターたちの姿勢から学ぶことは多そうです。

luke evans in esquire japan
Maciej Kucia

ルーク・エヴァンズ (Luke Evans)
1979年生まれ。南ウェールズにある小さな町アベルバゴイト(人口約9000人)で育つ。17歳でカーディフ(ウェールズの首都)に引っ越し、奨学金を得て演劇・舞踊学校ロンドン・スタジオ・センターに入学。2000年に卒業し、“演劇の聖地”ウエスト・エンドで『レント』『ミス・サイゴン』『アヴェニューQ』などに出演。舞台『Small Change』のヴィンセント役、『Piaf』でのイヴ・モンタン役がアメリカで成功し、30歳のとき『タイタンの闘い』(2o10年公開)でメジャー映画デビュー。ポール・W・S・アンダーソン監督『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011年公開)、「ホビット」シリーズのバルド役など、肉体派のアクション俳優として多数の作品に登場。ディズニー『美女と野獣』(2017年公開)でのガストン役として知られ、2022年はロバート・ゼメキスの『ピノキオ』や、主演したNetflix映画『スクルージ:クリスマス・キャロル』、アップルTV+のドラマ『エコー3』が公開に。待機作にはテレビ版『美女と野獣』、『Our Son』、ダン・レヴィ監督初の長編映画作『Good Grief』などがある。

グローバルギフトファウンデーション
(Global Gift Foundation)

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スペイン俳優マリア・ブラヴォーが発起人となり、2003年に設立。主に数多くあるNPOの資金づくりを担う財団として活動し、メキシカン=アメリカンのハリウッド俳優でアクティヴィストとしての実績を持つエヴァ・ロンゴリアとの連携により拡大。主催するグローバルギフトガラは、「世界でも最大級の資金調達パーティー」と語られる。アジア初開催となった今回のガラは、観光庁などが後援。日本で最も知られる仏俳優のひとり、ジャン・レノや『戦場のピアニスト』(2002年公開)で当時最年少オスカー主演男優になったエイドリアン・ブロディなどが参加。そのほか、財団のアンバサダーにはデビッド・ベッカム、クリスティアーノ・ロナウド、ハル・ベリー、リッキー・マーティン、ジャン=ポール・ゴルチェ、マライア・キャリー、ジェーン・フォンダ、アントニオ・バンデラスなどが名を連ねています。

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