今回、海外ドラマ評論家でアメリカのエンターテイメント業界にも詳しい池田 敏氏が、アメリカのドラマ制作のトレンドや注目ポイントと合わせて本作について徹底解説してくれました。
以下、池田氏の声を…
「どいつもこいつも型破りで、見方によってはイタいところが独自のユーモアを醸す…。なおかつ、実業界の熾烈な裏側が垣間見られるのが面白さがある」と話す池田氏のコラムを読めば、このドラマをもっと面白く観られるはず。
“成功”に興味がない米国人は、けっして少なくないはずだ。たまに米国に行くと職業柄、必ず書店をのぞく筆者(池田氏)だが、初めは伝記本(バイオグラフィー)のコーナーの広さに驚いた。 “成功”を獲得した者に興味津々な米国人が多いと、たちまち痛感させられた次第だ。
米国の映画・ドラマでも、成功者を描く作品は実に多い。映画に関して古いところでは、実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストを主人公のモデルにした、鬼才オーソン・ウェルズによる1941年公開の名作『市民ケーン』がある。
ドラマに関しては、全米地上波の各ネットワークで平日のお昼に放送されているソープオペラ(連続メロドラマ)で題材になることが多い。そんなソープオペラの手法をゴールデンタイムに応用し、大富豪一族の争いを描いた『ダラス』(78~91)『ダイナスティ』(81~89)が国民的な大ヒットに。ちなみにこれらは近年、続編やリメイク版が生まれた。
21 世紀に入ってから全米TV界では、フィクションよりも実物のセレブリティのほうが面白いとばかりに、リアリティ・ショーに本人たちが登場。人気ロックバンド、ブラック・サバスのカリスマ的スター、オジー・オズボーンとその家族(出色だったのは次女ケリー)を追った『オズボーンズ』、世界的ホテルチェーン、ヒルトンホテルの創業者の曽孫娘パリス・ヒルトンと人気歌手ライオネル・リッチーの養女ニコールをダブルヒロインにした『シンプル・ライフ』は、出演陣の非常識ぶりを茶化したがむしろ、彼ら彼女らのセレブ度は高まった。
つまりセレブとその一族は、米国では“鉄板”ともいうべき面白い存在。だが、そんなストライクゾーンを意識しつつ、世界の頂点に立つ、とびきりデンジャラスなセレブ一家を描いた、全米TV界の雄“HBO”による、シニカルでオフビートな最新ヒットドラマが、『メディア王~華麗なる一族~』だ。
本作『メディア王~華麗なる一族~』のロイ一族は、多数のメディア・娯楽企業からなるコングロマリットを支配する一族。一番のモデルは、オーストラリア出身ながら米国や英国の世界的メディア企業を多数手に入れたルパート・マードックだろう。ただし子どもは、マードックのほうが6人と多く、しかもマードックは84歳のときにミック・ジャガーの元妻のジェリー・ホールと再婚している。
そして本作のロイ家は娯楽産業も経営していることから、映画会社を次々と傘下に収めているディズニーもモデルだろう。
ちなみにディズニーを弟ウォルトと創業したロイ・ディズニーのファーストネームも、同じスペルのロイ(Roy)。
ヘリコプターに乗って家族で草野球をしに行ったりと、破格の金持ちであるロイ一族だが、どいつもこいつも型破り…というかハチャメチャで、見方によってはイタいのが独自のユーモアを醸す。なおかつ、実業界の熾烈な裏側が垣間見られるのがお楽しみだ。
本作の第1話を監督し、全米で人気のコミカル派男優スティーヴ・カレルらと製作総指揮も務めたのはアダム・マッケイ。監督もした映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年公開)で第88 回アカデミー賞の脚色賞に輝き、カレルも出演している最新作『バイス』(2018年公開)は第91 回アカデミー賞(R)で8部門にノミネート、1 部門受賞。リアルな題材をブラックユーモアたっぷりに味つけする手腕を、この『メディア王~華麗なる一族~』でも発揮している。
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