2009年に映画化もされているDCの人気コミック『ウォッチメン』をアレンジしたドラマ版『ウォッチメン』が放送され、いま話題となっています。日本では2020年1月から、BS10スターチャンネルが独占で放映中です。

 この製作に当たったのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』で大成功を収めた米HBO。DCコミックスの中でも、「アメコミでも最高峰」とうたわれるスーパーヒーローものが原作というわけです。つまり、ここに最強のタッグが組まれたのですから、話題となって当然のことでしょう。

 DCコミックスでの原作『ウォッチメン』は、1986年から1987年までの全12巻となります。内容は、スーパーヒーローの概念を打ち破るかのようなパロディにあふれた物語で、基本的には歴史改変SFです。1940年代と1960年代にスーパーヒーローが登場した影響によって歴史が変わり、ベトナム戦争にアメリカが勝利し、ウォーターゲート事件は暴露されなかった。そうして1985年には、アメリカ同国とソビエト連邦が徐々に第三次世界大戦に向けて進んでいく…といった内容になっています。

 そしてこのドラマ『ウォッチメン』では、原作の設定から34年後の後日譚(ごじつたん)がつづられています。

 米HBO『ウォッチメン』オフィシャル サイトに掲載されている“Peteypedia(全文英語のみの特設ページ)”について、アメコミ・エディターである柳 亨英(やなぎあきひで)氏が一部解説し、「ウォッチメン」ファンの間で話題となっている“あの”全身タイツ男の正体に迫ります。


全身タイツ男,
米hbo,
『ウォッチメン』,
ゲーム・オブ・スローンズ,
WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. © 2020 Home Box Office, Inc.
自宅でもマスクを被るルッキングラス。

 DCTVシリーズ「ウォッチメン」の魅力のひとつは、情報量の多さだろう。

 背景の看板や、新聞の見出し、言葉ひとつにも何かしらの意味が隠されていて、見ているものは気が抜けない。

 そこにさらなる情報を加えているのが、アメリカ放送のたびに更新される『ウォッチメン」オフィシャルサイト内の特設ページが“Peteypedia”である。このサイトでは本作の中で語りきれなかったことや、原作コミックの世界観とのつながりが垣間見える内容などが、レポートや記事のカタチで掲載。本作に、さらなる深みを与えている。

米国HBO「ウォッチメン」オフィシャルサイト特設ページ“Peteypedia”とは?

 例えば、第1話に関連して公開された資料「MEMO : The computer and you」では、FBIエージェントに向けた通達文が掲載されている。これを読むとFBI内でコンピュータが使用されることになった経緯や、採用されたコンピュータが(本作における唯一の超人)Dr.マンハッタンの技術を使用していないことなどが書かれている。

 というのも、本作の世界ではいまだにコンピュータが一般的ではなく、かつDr.マンハッタンが開発に携わったものへの警戒心が強い(ヒーローのひとり、オジマンディアスが流布した嘘で、ガンにかかりやすくなると噂していた)。

 このような技術に対する警戒心が強い最大の理由は、1985年11月2日の巨大イカ事件でニューヨーク市民の半数が命を落とし、多くの人々が心身ともに傷を負ってしまったからだろう。ヒーローのひとり、ルッキングラスことウェイド・ティルマンのトラウマについて描かれる第5話を見てもらえば、より理解していただけるはずだ。

 イカが発した精神波による死因が最も多かったとされており、そのせいで電磁波などへの恐怖心が人々に強く植えつけられ、我々の現世界のようなインターネットの発展やスマートフォンなどの技術革新が行われなかったのである。

ヒーローを誰よりも知る男、FBI捜査官のデイル・ピーティ

全身タイツ男,
米hbo,
『ウォッチメン』,
ゲーム・オブ・スローンズ,
WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. © 2020 Home Box Office, Inc.
捜査会議に出席するデイル・ピーティ。

 さらに我々の現世界では、プレゼンテーションソフトが捜査会議で使用されることもあるだろうが、劇中ではいまだ1枚1枚の写真を操作してプレゼンテーションが行われている。

 このスライドを操作していたデイル・ピーティは意図してか偶然か、タルサ警察署長ジャッド・クロフォード殺害事件の捜査を担当することとなったFBI捜査官、ローリー・ブレイクに相棒として選ばれる。

全身タイツ男,
米hbo,
『ウォッチメン』,
ゲーム・オブ・スローンズ,
WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. © 2020 Home Box Office, Inc.
捜査会議に出席する、(女優ジーン・スマートが演じる)FBI捜査官のローリー・ブレイク。

 そのピーティが集めた資料ファイルという体(てい)で、基本まとめられているのが“Peteypedia”だ。ピーティは大学で歴史を専攻し、博士号を取得。アメリカ史上のヒーローやマスクをしたヴィジランテ(自警団)、ミニッツメンやクライムバスターズが専門で、特にロールシャッハが残した日誌、“ロールシャッハ・ジャーナル”について詳しい。

 ロールシャッハはかつてクライムバスターズの一員で、巨大イカ事件に至るまでの悲劇のきっかけとなったヴィジランテである。この事件が起きる前、コメディアン=エドワード・ブレイク(ブレイク捜査官の父)の謎の死から、当時の仲間たちへ危険が迫っていることを警告するのだが、その過程を主に記していたのが “ロールシャッハ・ジャーナル”である。

 ロールシャッハは、ヴィジランテとしてかなり手荒な活動が目立ち、自警行為が規制された原因の1人でもあるが、真実への探究心の強さはどのメンバーよりも強かった。

 ストーリーの鍵となる白人至上主義の過激派集団、第7機兵隊のメンバーは、ロールシャッハのマスクを模したものを着用しているが、ロールシャッハがヴィジランテであったことを考えると、なぜ彼のようなマスクをしているのか疑問に思えてこないだろうか。

 そういったことへの推察や、劇中に度々登場するドラマ「アメリカの英雄:ミニッツメン」が歴史的にどう間違っているかなど…各話にひもづく、さまざまなレポートが “Peteypedia” には掲載されている。

 ピーティの所属は対自警団の部署だが、ここまで深い研究をしているのなら、ただ調べるだけで気が済まなくなるのではないだろうか。自分自身でも、ヴィジランテを“体験”してみようとする可能性もあるのではないか…。

 “Peteypedia”最後のファイルにはFBI副長官からのレポートとして、ピーティの辞職が報告されている。また、デスク周りから大量のキャノーラ油も発見されたらしいのだが、これは果たして…。

―柳 亨英


◇ローリー・ブレイクとDr.マンハッタンがEsquireの表紙に!?

存在しない画像

 「神は細部に宿る…」とも言われますが、柳氏が指摘するように「ウォッチメン」の魅力は映像に登場するすべてのモノに意味を有していること…。そして、「エスクァイア」編集部として、やはり見逃せないのが…このシーンです。

 帰宅したローリー・ブレイクはDevoの「モンゴロイド(Mongoloid)」を流し、アタッシェケース持ってベットに座ります。ケースのなかには、何やら(Dr.マンハッタンを彷彿させる)青い棒状の“モノ”と、ボール状の“モノ”が入っています。

 そして、ケースの反対側には「SILK SPECTRE TAKES MANHATTAN」とタイトル付けされた『Esquire』の雑誌が。

 そして、表紙を若きローリー・ブレイク(=原作コミックの2代目シルク・スペクターことローリー・ジュスペクツィク)と、たくましい背中をもつ青い男性の後ろ姿…が飾っています。

 そう、ローリー・ブレイクとDr.マンハッタンは、かつて恋仲にあったこともあり、1933年に米シカゴで創刊された世界初の男性ライフスタイル誌である『エスクァイア(Esquire)』が彼らに注目しないワケがないですものね…(笑)。

全身タイツ男,
米hbo,
『ウォッチメン』,
ゲーム・オブ・スローンズ,

■『ウォッチメン』
デジタルセル/レンタル先行配信中!(字幕/吹替)R-15
本作には、一部に15 歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています。
2020年6月3日(水)ブルーレイ・DVD発売、DVDレンタル開始(字幕/吹替)R-18

ウォッチメン 無修正版 ブルーレイ コンプリート・ボックス(3枚組)1万3000円(税込)
ウォッチメン 無修正版 DVD コンプリート・ボックス(3枚組)1万1000円(税込)
DVD レンタル Vol.1~Vol.5 (各2 話収録/全9 話/各話約55 分)※Vol.5 は1 話のみ収録
※ブルーレイ・DVD(セル・レンタル)は本国放送の映像(無修正版)を収録しています。
【R-18】本作には、一部に18 歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています。
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
Amazonで購入する