2020年10月31日(土)からスタートした、テレビ朝日「土曜ナイトドラマ」枠で放送されているテレビドラマ『先生を消す方程式。』。田中圭さん主演のこの学園ドラマで、ひと際輝きを放つ役者を発見。それが今回ご紹介する、高橋 侃(たかはし・なお)です。名前の漢字「侃」が難しく、「読めないなぁ…」とそのままスルーしてしまわぬように。

 この字は、「侃侃諤諤(かんかんがくがく=自分が正しいと思うことを堂々と主張すること)」の「侃(かん)」であり、命名辞典をひも解けばその字は、「流れる水と、横から見た人と口の図が組み合わさって生まれた漢字」とのこと。

 そしてその意味は、「正しく強い」「意志が強い」を表しながらも、「やわらぎ楽しむ」という逆の位置にいるかのようなアティチュードも表現しています。そして高橋は、その名が示すどおりの「論を持して侃直(かんちょく)なり」を地で行く「漢」。さらに、どこか危ない香り(刺すような毒気?)もするところが、過去のもの未来のものか…時代を超越した輝きを感じざるを得ないのです…。

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現在25歳(2020年12月現在)にして、少年のように澄んだ瞳でインタビュアーの眼を見つめながら穏やかに坦々と、それでいて魂を込めた言葉をぶつけてくる高橋。確認するまでもなく、その瞳から発せられる力強い意志のビームに、インタビュアーそして編集部側はヤラレテしまいました…。

このドラマを、俳優・高橋 侃の
明確な始まりにしたい…

 ドラマ内で暴力的な男子生徒・剣力(つるぎりき)役を演じる彼は、今回のインタビューの中では穏やかに、そして優しい口調で『この作品は、役者・高橋 侃の明確な始まりにしたいんです』と語ります。ですが、その声の響きとその瞳の奥には、「このドラマの出演で、エンターテイメント界に確実な爪痕を残したい」という願い、そして今後その道でトップに立とうという「決意」と「覚悟」を秘めた気概がチラリと見えた気がしました。

 今作が初のドラマ出演という彼を、私(筆者)自身がインタビューして一番に感じたものは、数十年役者を続けてきたベテラン俳優にも似た「風格」と「マインド」です。彼は若干25歳にして、どのようにしてそこに至り、そう在れるのか…。さらに、その年齢で違和感なく高校生役がこなせるのか…。そんな高橋 侃の半生と思考工程から、その“方程式”をひも解こうと試みます。

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ヘアスタイリストと
モデルの二足のわらじ

編集部:高橋 侃さんは多くのヘアスタイリストが憧れるサロンで、しかも、人気ヘアスタイリストとして活躍しながらもファッションモデルとしてもミラノ・コレクションのランウェイを踏むなど、ショーモデルとしてもフロントロウに立っていました。どのような経緯で、このような二足のわらじを履くことになったのでしょうか?

高橋 侃(以下、ナオ):モデルを始めるきっかけになったのは、「ドルチェ&ガッバーナ」のコレクションです。それまでは、スタイリストとしてスナップなどに雑誌に出ていましたが、モデルとして本格的に始めたのはそのときからです。2018-19年秋冬のミラノ・メンズ・コレクションからということになります。

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「ドルチェ&ガッバーナ」のショーを日本でやりますってなったときに、たまたま知っていたキャスティング会社の方からオーディションに来て欲しいと言われまして…。いざ行ってみると、他のモデルもいるいわゆる普通のオーディションだったんですが、そこでデザイナーが会った瞬間に手を握られ、その場でイタリア語の契約書にサインさせられました(笑)。それが次のワールドキャンペーンの広告と、次のコレクションの広告。いわゆるエクスクルーシブ(期間でのモデル契約)の契約書だったんです。

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よっぽどコレクションのイメージに、ぴったりだったんだと思います。そこからコレクションでランウェイに(上のYouTube動画で14:55~登場)。さらにキャンペーンでは、オースティン・マホーンさんとご一緒させていただきました(下のYouTube動画では0:06~に登場します)。すごく良い経験でしたね。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Dolce&Gabbana Fall Winter 2018-19 Men Advertising Campaign
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その後、「ディオール」や「ルイ・ヴィトン」もやらせていただいたり、「ヴァレンティノ」のフォトグラファーのテリー・リチャードソンさんに気に入っていただいてワールドキャンペーンに参加したり、フォトグラファーのマリオ・テスティーノさんも僕を撮りたいと言って、日本で撮ってくださったりもしてくれました。いわゆる典型的な日本人ではないけれど、アジアっぽい顔がそういった著名な個人に気に入っていただけたのだと思います。

編集部:名だたるブランドのショーに出演するほどってことは、言うならばグローバルで活躍するスーパーモデルみたいな(失礼な言い方ですが…)もの。 これでよく、厳しいと言われる名門サロンでヘアスタイリストが両立できましたね? 海外に出ることも多かったのでは?

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ナオ:はい、それはそうですね。

スタイリストの仕事っていうのは週休2日になるのですが、サロンワークに支障が出てしまってはダメ、と自分でも決めていたのでモデルとしての仕事には、自分の休日を使うか、もしくは営業前・後にするしか選択の余地はありませんでした。ですので僕は、休める日に全部モデルの仕事を入れて、営業後にもオーディション行ったりしていましたね。半年に1回ぐらいしか休みがない…そんな生活でした。

ドルチェ&ガッバーナのコレクションのときも、自分の有休を使用させていただいて行っていたので。僕の中ではモデルの仕事というのはとても楽しくて、ある意味、モデルをしているときが「レジャーを楽しんでいる休日」といった感覚で過ごしていました。ロケバスに乗って、撮影場所に向かっているときなんかワクワクで、休日を感じる瞬間でもありましたね…。

編集部:そんなにキャリアをヘアスタイリストとモデルで積みながら、なぜ全てを捨てて俳優になろうと思ったのですか?

ナオ:もともとSHIMAにいるときには、「3年以内で(ヘア)スタイリストになって、そのタイミングでモデルの仕事を辞める」と決めていたんです、スタイリスト1本でいくと…。ですが結局、スタイリストになった3カ月後の2019年9月に退社することにしました。

それはなぜかと言うと、スタイリストとして3カ月働いて気づいたんです。そこで自分が30歳40歳になったときの自分の将来の姿に…。きっぱりとイメージできました。将来の自分がどのくらい成長した生活をしているか、その規模感が想像できました。つまりそこで、自分の限界が見えてきたんです。そんな見え切った将来が、つらくなったのかもしれません。

SHIMAのヘアショーに1年目から抜擢してもらい、モデルのブッキングからスタイリング、そして音響まで担当させてもらって、ショーを自体の制作にも携わることができたんです。そこで美容学校にいた頃の夢だったものが、すごく身近に短時間のうちにかなえることができたからでしょうね。SHIMA時代は実に幸運だったと思います。

そして、ある意味調子にのってしまったのです。生意気にも「自分にはもっと、チャレンジすべきものがあって、それを成功させる可能性もある」と思っちゃったんですね。それでスタイリストをきっぱり辞めた次第です。ただこの時点で、「役者をやる」とまでの強い思いはありませんでしたね。

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いろいろ手をつけてしまうと
全てが70%、60%に…なので、
役者100%の道を決める

編集部:なるほど、いわば成功の人生をおくっている最中、それをすべて捨て去り、皆目見当のつかない「役者」という道を選んだわけですね。

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ナオ:一度、スタイリストを辞め、自分自身を見つめ直す時間もありました。モデルの仕事をしていたので、「ファッションの仕事をしたいな」だとか「ヘアメイク、スタイリストやらカメラマンやDJ、いろいろ学んでさまざまなことができたら…」と、思っていたんです。けれど生きていく中には、いろいろなものに対し、同時に手をつけてしまうと全てがそれぞれ70%・60%になってしまう…と思ったわけですね。「こいつ結局、何やっているやつなんだろう?」って思われるのも嫌だったので。

「ひとつの仕事にチャレンジしたい…、打ち込めるものをひとつ1つにしよう!」と決めたときに、役者だけ捨てきれなかったのもありますね。チャレンジしたこともなくて、自分が一番気になっていた世界でもあったので。

編集部:そこには不安はなかったのですか?

ナオ:僕は『今まで培って積み上げたもの』に対しては、次第に興味が薄くなっていくタイプなのです。安定が嫌いで常にチャレンジしていたく、得たものはすぐにでも全部脱ぎ捨ててしまいたくなるタチなので、そこに不安など全くありませんでした。自分がどの程度できるのか? 自分には限界があるのか? そんなゴールに向かって自分を賭けて進んでいく…そんな生き方が好きなんですね。

編集部:昔から強い意志を持って、直感で動くタイプだったのですか?

ナオ:ちなみに僕の名前は、結構難しい漢字なんですが、この名前の由来は「自分が正しいと思ったことを、堂々と主張する生きざま」という意味だと理解しています。その名前のとおりの性格で、自分自身生きてきた実感を持っています。

自分が思ったことに対してまっすぐに向き合うことを信条に、そして前に立つ壁は自力で乗り越えよう頑張ろうと努力しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。


「日々学びです」という高橋。
理想を目指すのでなく、
向上の積み重ねを大事にする

編集部:そうして現在、初出演作品の『先生を消す方程式。』という壁にぶち当たっているというわけですね。いざ初めて役者としてドラマに出演してみて、自分が思い描いていた役者像と現実に、ギャップは感じたりしましたか?

ナオ:どんな職業でも、理想と現実のギャップはあると思うのですが、役者に対しては正直、そんなギャップはなかったですね。それは役者への理想像を、具体的に描いていなかったから…というのもあるのですが(笑)。すべてが初めての体験で、「こういうものなんだなぁ」というのがほとんどで、そこで苦しんだりとか悲しんだりすることもなく、ただただ日々学びだと思って進んできました。

理想を持たずに、日々現場を体験しながら自分自身をレベルアップさせていきたい。そういう気持ちを持っているからこそ、ひとつひとつを受け入れて自分なりに噛み砕いてお芝居ができるようにしていました。

編集部:今回の役柄は、ヤンチャな生徒である剣 力(つるぎ・りき)ですが、剣の親族はゼネコンの社長であったり政治家であったり、特異なバックグラウンドを持っていますが、キャラクターと高橋さん自身のギャップにやり辛さはなかったですか?

ナオ:そういった背景は、極力気にしなかったですね。背景に囚われすぎて、『キャラクター』を演じてしまうのが嫌だったので…。それよりも剣自身のそのときそのときの心境の部分…「彼が田中 圭さん演じる担任の義澤先生に、どのくらいの熱量でぶつかっているか?」を一番大事にしています。

僕のプライベートの日常生活で起きたことも、剣だったらどう考えてどう行動するか? 彼の『心』ならどう動くか? それを常に意識して考えているという感じです。中でも、一番気をつけていたのは、彼自身が持つパワーバランスでしょうか。何に苛立って、何に悲しむのか? その沸点は常に意識しています。

たくさんナイフから名刀を1本…
唯一無二の演技力で勝負したい
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編集部:ヘアスタイリスト・モデルとしての経験は、今の役者業に活きていると感じますか?

ナオ:スタイリストであったときは、普通に生活をしていたら関わらないぐらい、幅広い世代のさまざまな方々と一定の時間ではありますが、深く関わることができます。そこでお客さまの表情などから、そのときの気持ちを推し量って対応することも仕事のひとつになります。自分もそうして、さまざまな方々の「人間性」を読み解くことに努力してきたのですが、その経験はいま大いに活きています。心持ちと表情の関係性の実例がたくさんファイリングできた感覚です。

そしてモデルとしての経験では、ときに表方、ときに裏方…といった感じで両方を経験させていただいていたので、「人はどう見ているのか? 人は何を見たいのか?」を俯瞰で考えることを大切にすることができるようになりました。それによって、自分自身を客観視できるクセができていたので、演技の改善にすごく役立っている感じです。

編集部:役者として活動し始めてから、高橋さん自身のアイデンティティは変わりましたか?

ナオ:知人・友人のみんなからは、「スタイリスト感やモデル感がなくなったね」って言われます。それは「トゲがなくなって丸くなった…」という意味をこめて。確かに、自分でもその実感はあります。以前は内面がすごく尖っていたので、そこが良い意味で丸くなった…と自分でも思うというか、思うようにしています(笑)。

今までは小さなナイフをたくさん持っていて、それをみんなに投げつけていたんですけど、今は頼りになる剣を1本持とうとしているので、余計なナイフ、余計なプライドがなくなったという感じです。

「高橋 侃のように」と
理想とされる
役者像をつくりたい

編集部:現在は暴力的な生徒役を、生き生き(笑)演じていますが、将来的に演じてみたい役、出たい作品などありますか?

ナオ:『役柄』というより、ストイックな役づくりをしていきたいですね。演じるまでのプロセスを大切にすることが、演技を磨くために必須のことだと思っているので。それは内面的なことはもちろんです。そればかりでなく、例えばボクサー役をいただいたのなら、身体つきや身振り素振りだけでプロのボクサーだと匂わせるようにしたいんです。そのためには、心技体とももっと進化させないといけません。

今共演させていただいている山田裕貴さんと、撮影の合間によくお話をさせていただくのですが、そこで山田さんが出演した映画『あゝ、荒野』(2017年公開)での裏話が印象的で…。この映画は寺山修司さん唯一の長編小説を映像化したもので、ボクシングを核に散文的にストーリーをすすめていきますが、そこで山田さんもボクサー役です。そのときの食事制限の厳しさや、そればかりでなく、あらゆる欲を制限しなくてはボクサーの役づくりはできない…という姿勢と共に、それを山田さんがそんな役づくりを実践してしたことに感銘を受けました。

そんな状態で減量して筋トレして、そして走って...。それを自分に置き換えて想像してみたとき、「やってみたい!」って思いました。ストイックに役づくりをすればするほど、その作品に対する思いは強くなると思いますし、終わったときの達成感も凄そうなので、それを味わいたいんです。

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「70年代末にね、『気をつけろよ、刺すような毒気がなけりゃ、男稼業もおしまいさ』ってな宣伝文句を掲げた好きな映画があったのよ…」と、このインタビューを終えたときに担当編集者がつぶやいていました。「なるほど、そのラインですね!」と私(筆者)…それだけで会話は成立しました。

編集部:ヘアスタイリスト時代のお話から、プランを立てて前へと進むタイプかと思うのですが、役者として今後のプランはありますか?

ナオ:今までになかったような、僕自身が新しい役者像になりたいですね。なので、お芝居を自分の主軸として生きていきます。ですが、それに加えて自分の持ち味だと思うファッションや美容面など他の事にも自分として可能性を感じているので、ただのいち役者で終わりたくと考えています。

役者さんが音楽をやっていたりすること、またはその逆もありますが、既に誰かがつくったレールの上に乗ることはやめたいと思っています。自分自身で、その新しいレール…新しいムーブメントを創出して、革新的な役者という在り方をつくっていけたらいいなぁ…って考えています。

ですが、これは自分にも言い聞かせていることですが、それを目指すのは、役者として地に足ついた演技ができたことを自分自身が納得でき、共演者から制作側、さらに視聴者の皆さまから確かな信頼を得てからの話になります。今はただただ、ひたむきに役者として日々勉強し成長していきたいと精進する毎日です。そうして歩んだ道すがらで、自分らしい全く新しい役者像がつくれれば…、そう願っています。

おわり


高橋侃
テレビ朝日のテレビドラマ『先生を消す方程式。』で、好き放題に暴れている一番厄介な生徒の剣 力(つるぎ・りき)役を熱演する高橋。そこで剣が通う名門私立高校、「帝千学園」の制服姿にて。

高橋 侃
Nao Takahashi

1995年10月31日生まれ。福島県出身。恵比寿ビューティカレッジ卒業後、ヘアサロン「SHIMA(シマ)」に入社し人気ヘアスタイリストになる。そして同時に、ファッションモデルとしても活躍。モデルとしては、2018-19年秋冬のミラノ・メンズ・コレクションの「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のショーに出演し、また同ブランドの18-19年秋冬のワールドワイドキャンペーンのモデルにも起用されるなど、日本を代表するモデルとしても注目を集める。が、そんな高橋は2019年9月をもって、「SHIMA(シマ)」を退社。今後は骨太の俳優を目指しながら、さまざまなクリエインション活動を行っていく予定とのこと。そんな高橋 侃は現在、テレビ朝日『先生を消す方程式。』に出演中。

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