(マーベル・コミックの出版物に登場するキャラクターに基づいて、マーベル・スタジオが制作したスーパーヒーロー映画とテレビシリーズのグループである)マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ4の最新映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』。マーベル映画の熱烈なファンにとってこの作品は、ポール・ラッド主演で2015年に映画化された『アントマン』のような、可能性を秘めた(変化球的)2番手キャラ作品だという位置づけかもしれません。ですが、多くの一般の人々の中には、この映画にワクワクするような期待を抱いている人もいるかもしれません…。それはどんな人かと言えば、ブルース・リーや米ABC系で放送されたドラマ『燃えよ! カンフー』などが登場した70年代に、(まさに)燃え上がった「カンフー・ブーム」の再来を予感している人たちです。

それもそのはず、『燃えよ! カンフー』とブルース・リーは、シャン・チーの生みの親(モデル)とも言えるからです。正確に言えばこのキャラクターは、現在マーベル・コミック編集委員でありマーベル・メディア名誉会長でもあるスタン・リーが、カンフーブーム真っ只中に彼の知る最高の作家2人(スティーヴ・エングルハートとジム・スターリン)に依頼してできあがったものなのです。

michelle yeoh y simu liu en shang chi
©Marvel Studios 2021

当時はブルース・リーが企画し、(2004年公開の映画『キル・ビル』で、ビル/スネークチャーマーを演じた)デビッド・キャラダインが主演したテレビシリーズ『燃えよ! カンフー(Kung Fu)』がアメリカのお茶の間を大いに賑わせていた時代であり、マーベルはその権利をどうにかして手に入れることができないかと奮闘しました。そして、そこで小説や映画で人気を博した悪役キャラクター『フー・マンチュー博士』の漫画化ライセンスを取得。当時、シャン・チーはマーベル版『フー・マンチュー博士』の息子という設定だったのです。ですが後年、ライセンスを巡る問題からシャン・チーの父親には新たに正体の設定が追加され、フー・マンチューとの関係は曖昧になったままでした…。

その間にスタン・リーは、スティーヴ・エングルハートとジム・スターリンに、同様のキャラクターの開発を新たに依頼。それから、そのアイデアをマーベルの編集者ロイ・トーマス(後に『アイアン・フィスト』を生み出す)に提出し、トーマスはキャラクターに植えつけた口ひげを取り除いてフー・マンチューを彼の親という位置づけにしました(マーベルは『燃えよ! カンフー』の権利を諦めた後に、このキャラクターの権利を獲得しました)。そうした経緯で、シャン・チーは誕生したのです。

そしてスタン・リーは、マーベル・シネマティック・ユニバースよりもずっと前から、「シャン・チー」のコミックをテレビシリーズや映画にしたいと考えていたのです。1980年代には、ブルースの妻リンダ・リー・キャドウェルや彼の息子で映画界でのキャリアをスタートさせていたブランドンとも会い、彼がシャンチー役に適しているかを見極めてもいました。スタン・リーはマーベル・コミックが映画で大きく花咲くことを証明する方法は、「他のどのキャラクターよりもシャン・チーにある」とそのとき確信していたというわけです。

つまりシャン・チーは、アントマンのような脇役であっても、単なる間に合わせのキャラクターではないのです(アントマンが、「間に合わせのキャラ」と言っているわけではありません)。そう、シャン・チーにかけた期待を前に、アントマンがそれを挑戦したことで大きな心の支えになっているのは言うまでもありません…。

1970年代のマーベル・コミックでは、白人でありながら黄色のマスクをかぶったカンフーの達人であるアイアン・フィスト…本名ダニエル・ランド(愛称ダニー)と言うNYを代表するスーパーヒーローも誕生していました。ですが、同時代である1973年にカンフーブームによってシャン・チーが登場すると、その影に隠れてしまったのです。

シャン・チーのストーリーのほうが、アイアン・フィストよりもエキサイティングだったのです。「犯罪組織のボスである父親に反抗し、ホテルマンになった主人公が一撃でヒーローになる」ということで、シャン・チーのストーリーのほうが視聴者をよりワクワクさせたというわけです。ですがひとつ問題がありました。当時としては、大きな問題です。それは彼が、アジア人のキャラクターだったということです。当時は、人種差別が根強く残っていましたので…。

それから約半世紀が過ぎて、2021年には状況は大きく変わりました。観客の大多数が、より多様なキャラクターを求めるようになったのは明らかです。言うまでもなくNetflixのTVシリーズ「アイアン・フィスト」(2017年から2018年に配信)は、ブルース・リーの映画や1970年代の原作コミックから生まれたカンフーへの熱狂を復活させることはできませんでした…。

そして5年余りで、大きく社会情勢も変わった中で公開となった今回…。2021年9月3日(金)から劇場公開がスタートした『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は、果たしてゲームチェンジャーとなるでしょうか? そして、あのカンフーブームは再来するでしょうか?

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Source / ESQUIRE ES

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