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(写真右から)岩手県・達増 拓也(たっそ たくや)知事、ワインスタイリスト・藤﨑聡子さん
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「岩手県」と聞いて、最初に思い浮かべるものは何でしょうか…。世界文化遺産登録「中尊寺金色堂」に「南部鉄器」、スポーツと言えば「釜石ラグビー」や大谷翔平選手、佐々木朗希選手の名が挙がることは間違いないでしょう。最近では安比高原に、日本初の英国超名門パブリックスクールの系列校である英国式全寮制「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」が開校したことや、「ニューヨーク・タイムズ」紙の『52 Places to Go(2023年に行くべき52カ所)』に岩手県・盛岡市が選ばれたことでも話題になりました。

このように多面的な魅力を放つ岩手県…。では、「グルメと言えば何!?」と訊かれると皆さんいかがですか、まずは「わんこそば(椀子蕎麦)」と即答する人がかなり多いでしょう。もちろん、これは正解です。最近では、外国人観光客によるチャレンジ動画も多く見かけるようになりました。ですが、それだけではもちろんありません。

「ひっつみ」や「まめぶ汁」などの煮込み料理もありますし、「餅料理」も伝統の郷土料理として人気です。また「盛岡冷麺」も忘れてはいけません。「いわて牛」などのブランド牛肉の産地でもあり、地形に恵まれた沿岸からは牡蠣やウニやホヤ、そして鮭や秋刀魚、イカやマダラなどさまざまな魚介が水揚げされます。 そう岩手県は、海の幸・山の恵みと豊かな食材に恵まれた県なのです。

そんなグルメを追い求めるグルマンたちの望みをかなえるかのように、ワインつくりも盛んです。現在(2023年)、岩手県内の日本ワイン生産量は全国で5位。今回のインタビューを通して、岩手県の魅力を再発見し、岩手県産の“一杯と逸品”でその土地の食材の魅力を実感していきたいと思います。

ゲストとしてお迎えしたのは、岩手県知事として2007年〜現在2023年まで約16年間(4期目)在任し、被災地復興・地域振興に尽力し続ける達増拓也(たっそ たくや)知事。今回は、1)岩手県産の「茎わかめ」と「桜こあみ」の和え物2)「ひっつみ汁」で具材でつくる盛岡の温麺と、3)岩手県産赤・白ワイン、そして山ぶどうワインでのフードペアリングを考察していきます。

春グルメの提案「茎わかめの桜こあみ和え × 白ワイン」

茎わかめの桜こあみ和え
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岩手県産の「茎わかめ」と「桜こあみ」の和え物

藤﨑さん:岩手県産のワインと食材のフードベアリングを考えるうえで、まず選んだワインが『自園自醸ワイン紫波(しわ) プレミアムリースリングリオン2020(白ワイン)』です。この“リースリングリオン”というブドウは、リースリングと甲州三尺をかけ合わせた白ブドウ品種で、一般的にリースリングは甘みの強いことが印象的ですが、この白ワインは酸が研ぎ澄(す)まされていて、食材と合わせやすい白ワインだと思い、最初に選択させていただきました。

今回、達増知事には“3つの岩手県産ワイン”とのペアリングを楽しんでいただきたいと思っています。岩手県のワインは、フレッシュさを楽しむワインが多い印象でした。であれば、シンプルに海のもの(前菜)には白ワイン、山のもの(メインディッシュ)は赤ワインというのが、楽しみやすいと思い選びました。

自園自醸ワイン紫波(しわ) プレミアムリースリングリオン2020(白ワイン)
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藤﨑さん:その白ワインに合わせてみたいのが、「茎わかめと桜こあみの和え物」です。いわゆる海のものですね。茎わかめは、収穫が始まるのが春シーズンということで選びました。塩抜きをしたうえでごま油で炒めて、そこに「桜こあみ(エビ)」を足し、最後に醤油とお酒で味を整えています。和えるだけですので、どなたでも…ご多忙な知事でも(笑)簡単に一品つくれると思います。

達増知事:岩手県産の食材を、たくさんそろえていただきありがとうございます。まずは和え物をいただきたいと思います。

藤﨑さん:茎わかめは酢の物にするかお味噌汁にすることが一般的には多いと思いますが、ごま油で炒めた理由は、磯の香りと最後に足したお醤油のちょっとした甘みが白ワインとマリアージュされることで、ワインの酸が生きてくるかなと思いました。いかがでしょうか?

達増知事:おいしいです。白ワインの酸味がとてもスッキリしているので、和え物の味ともぶつからず、それぞれを楽しめると感じます。ほんのり茎わかめの磯(いそ)の香りも感じられるのが心地いいですね。

藤﨑さん:他にアレンジとしては、この和え物に油揚げとか入れたりすると、もっと“おつまみっぽく”印象が変わってくると思います。

達増知事:茎わかめは、ほどよいコリコリ感がとても好きです。

藤﨑さん:おっしゃる通り、茎わかめの偉大さに改めて関心しました。茎わかめは育てるのがとても大変だと聞きましたが…。

達増知事:そうですね。茎の太い状態から、剣山引きして裂いていく作業もとても手間がかかっています。少し前にわかめの葉を茎から採る作業を体験させてもらったのですが、その作業だけでもそう簡単ではなくて…大変でした。そういった意味でも、海の幸を白ワインと楽しめる“おつまみ”を提案していただき、とてもうれしいです。

藤﨑さん:春シーズンを意識して「茎わかめ」と「桜こあみ」を採用しましたが、読者の皆さまも気軽に簡単に参考しやすいおつまみで、岩手県の食材を身近に感じていただけたらとも思いました。

達増知事:私は普段、こういった食材は日本酒でいただくことが多いのですが、白ワインと合わせるのは日本酒と違った表情があることに気がつくことができました。

フルーティな香りがありますし、日本酒と決定的に違うのはやはり酸味ですよね。酸味があることで、茎わかめも違った味わいに感じられて新鮮でした。

藤﨑さん:ここからさらなるアレンジ方法としては、お酢を少し掛けたり、レモンを少し絞ったり、柑橘系を加えることでもっと味わいが広がると思います。他の白ワインとも一段と合わせやすくなると思いますので、ぜひ試してみてください。

岩手県産ワインの魅力

藤﨑さん:岩手県産のワインは現在では種類も多く、ワインの生産量は増えてきているのでしょうか?

達増知事:増加傾向にあります。数年前までは、岩手県内では5本の指で数えられるほどのワイナリー数だったのですが、2023年現在では、16ワイナリーがあります。つくり手の熱い思いも感じ、行政としての支援もさせていただいていて増え続けていますので、今後もとても楽しみです。

藤﨑さん:ワインは通常苗を植えてから4年間は収入がほとんどなく、難しいと言われている世界で、ここまでの味わい深いワインを生産していることを考えると、ワインをつくろうという岩手県の生産者の強い想いが感じ取れますね。“生産者の情熱・哲学”が味わいにのってくるのも、ワイン産業の魅力のひとつだと思っています。

達増知事:「日本ワイン」の制度も整ってきたおかげで、その土地の特色を出せるようになってきたと感じています。岩手県内でも地域によって特色があり、色々なコンクールにも出してワインの王道を目指すワイナリーもあれば、“山ぶどう”にこだわるワイナリーもあったりと…多種多様になってきていますね。関連記事:「日本ワイン」と「国産ワイン」の違いとは?

藤﨑さん:将来に期待ができる楽しみな…ワクワクする市場ですね。

達増知事:先日(2023年2月)、「いわて牛といわてワインを楽しむ夕べ」という企画を盛岡駅のメトロポリタンホテルで開催しました。いわて牛のみならず、海鮮に合わせて、ワインは赤・白・ロゼ、9ワイナリーが参加し、34銘柄が提供され、評判も良かったですね。

藤﨑さん:自分の好みを理解するという点で、ワインとのフードペアリングを体験できるということはとても大事ですよね。日本のワイナリーの魅力のひとつは、ワイナリーそれぞれの生産者の好みが強く反映されていることにあると思っています。

例えばフランス・ボルドー地方の有名なブドウ品種(赤ワインを生み出すブドウ)と言えば「カベルネ・ソーヴィニヨン」の名が挙がると思いますし、フランス・ブルゴーニュ地方が原産のブドウ品種「ピノ・ノワール(黒ブドウの一種)」を使用して、またイタリアは地方ごとに赤ワイン用のブドウ品種が違うという面白さがあります。

同じように「日本ワイン」も、つくり手自身が挑戦したいブドウ品種をその土地に合わせようという努力をなさっています。つまり、同じブドウ品種でも日本の土地で育った独自の味わいが出てくるワケです。つくり手の思いが鮮明に見えてきますね。

知事は、普段ワインを飲まれる機会は多いのですか?

達増知事:岩手県産のワインを知るうえで、飲む機会はよくあります。最近では葛巻(くずまき)町に行ったときに、新しい葛巻町のワインを買いました。他にも、日本にある大使館からクリスマスシーズンとかにワインをいただく機会も多いです。

例えば、ワインの発祥の地と言われているジョージアの大使から古代ワインをいただいたり、スロベニア大使館やスペインの方からもワインもいただきました。それぞれの国柄がそのワインに現れているので、面白いと感じました。

藤﨑さん:普段からも、各国の大使とは交流があるのでしょうか。

達増知事:ジョージア大使は地方の工芸品がお好きで、岩手の漆塗りに興味を持ってくださり、岩手に来ていただいたこともあります。そしてスロベニアはスキージャンプとスポーツクライミングが盛んな国なのですが、実は岩手県もこの2つの競技が盛んです。最近ではスキージャンプの岩手出身の小林陵侑選手がスロベニアの国際大会で銀メダルを獲ったこともあり、スロベニアとの友好関係も自然と深まっていきました。

岩手県産・赤ワインに、ほんのりピリ辛が相性抜群

岩手・海の幸、山の恵み
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藤﨑さん:次はユッケジャン風の盛岡の温麺に、せんべい汁の具材をあんかけ風にとろみを加えてアレンジしてみました。こちらも市販されているモノを組み合わせているので、どなたでもサクッとつくれると思います。知事が葛巻町に訪問されたことは存じ上げなかったのですが、マリアージュには2種類の岩手県産の赤ワイン、岩手くずまきワインの『山ぶどうワイン・赤』と『澤登ブラックぺガール・赤』を選びました。

ブドウの果実味を感じられる岩手くずまきワインに、ユッケジャンの辛味が程よく絡んでよく合うのではないかと考えました。

岩手くずまきワインの『山ぶどうワイン・赤』
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達増知事:まずは、『山ぶどうワイン』からいただきます。

独特な酸味が特徴的で、ブドウ本来の果実味の濃厚さや奥深さを感じます。ユッケジャン風の温麺の辛味にも合います。私は辛いものを食べるときはビールと合わせるので、赤ワインとともにいただくのは今回もとても新鮮に感じました。ビールは、のどごしで飲むのであまり香りを意識しませんでしたが、ワインですと香りが料理の味を支えてくれますね。舌の上で辛味は残りつつ、『山ぶどうワイン』の優しさが包み込んでくれるのを感じます。

藤﨑さん:『山ぶどうワイン』は、余韻にブドウの甘み(果実味)を感じられますよね。辛いものから甘いものが来るので、相性がよいと思います。次は、『澤登ブラックぺガール・赤』とも合わせてみてください。いかがでしょうか。

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達増知事:『山ぶどうワイン』のほうは辛味との共存というイメージですが、『澤登ブラックぺガール・赤』は辛味を程よく和らげてくれる感覚があります。

藤﨑さん:『澤登ブラックぺガール・赤』は、温度によっても味わいが変わってくると思っています。冷やすと味がシャープになり、辛味をアシストしてくれていますね。

食事をしているといろいろな味覚が口の中に包括されてしまうので、それをどうやってまとめ上げるかが決め手になってきます。その役割を果たすのがワインであり、ワインの個性の一役だと思っています。『山ぶどうワイン』も『澤登ブラックぺガール・赤』も、日本ワインとしてすごいポテンシャルを秘めているなと思います。

達増知事:山ぶどうは、日本古来のもので原生している品種。海外にはない品種です。岩手県ではワインづくりが盛んにはなりましたが、「山ぶどうジュース」は昔からありました。私も幼少期から飲んでいましたが、酸っぱいジュースのイメージがありました。

ですから、最初に山ぶどうを使用した赤ワインと聞いたとき、「あの酸っぱさでワインに昇華できるのだろうか…」と少し半信半疑でしたが、実際に飲んでみると果実味をしっかりと感じることができ、固定概念が覆(くつがえ)されました。

岩手県外の人からすると、山ぶどうは普通のブドウジュースのように甘いイメージを持たれる人も多いかもしれませんが、実際はすごく酸っぱくて、蜂蜜を入れて甘くすることもあるくらい飲みづらいジュースです。ですから、山ぶどう原液はドリンク剤の感覚で飲むこともありますし、二日酔い対策で飲んだりする岩手県民もいるくらいです。

藤﨑さん:酸味があるので、ワインとして熟成の面白さも期待できます。岩手県は食材が豊かでフードペアリングの選択肢も多いので、とても迷いました。

達増知事:岩手県の“豊富な食”は、県の魅力の一つです。

食がテーマのミラノ万博で、震災復興支援もあり東北経済連合会と被災三県が一緒になって、日本酒や県産の食に関連するものを出展しました。そのときに、イタリアでバルサミコ酢の老舗で働く人とお話する機会がありました。イタリアのレストランでは、半径数km圏内の食材しか使わないというのが基本理念だとおっしゃっていました。つまりは地消地産ですよね。イタリアでは各地に地元ワインがあって、地元の食材を合わせる…岩手県もそういう形の地域づくりを目指していきたいと考えています。

そういう意味でも今回のフードペアリングは、ワインから食材まで岩手県のものでまとめていただいて、私自身がイメージしたものを形として体験できました。

藤﨑さん:ありがとうございます。そう言っていただけるととてもうれしいです。

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岩手県・達増知事にインタビュー

エスクァイア編集部(以下、編集部):今しがた、イタリアでの経験から地域づくりについてお話をされていましたが、現在の知事の活動内容の中で、これから特に力(チカラ)を入れていきたいこと、将来のビジョンについて教えてください。

達増知事:やはり「ニューヨーク・タイムズ」紙の「2023年に行くべき52カ所」に岩手県・盛岡市が選ばれたこともあり、早速岩手県の今年度の補正予算として約1億円の予算をつけました。

盛岡の注目度を岩手県全体に広げられるように、年度内から来年度に掛けて動いていこうと決めています。来年度のインバウンド振興予算が約6000万円ですので、それを上回る予算を投じるほど、今回の「ニューヨーク・タイムズ」紙の記事はインパクトがあったワケです。最近では岩手県のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」で、岩手県知事と盛岡市長がそろって“わんこそば”を食べるイベントを開催しました。2分間で私は43杯、盛岡市長は36杯も食べまして…(笑)。そういったことも含め、いろいろな発信や宣伝を自ら動いてしていけたらと思っています。

編集部:地方の魅力をどう伝えていくのか、難しい面もありますね。

達増知事:日本では、東京に一極集中が続く傾向があり、地方が衰退するばかりと言われている中で、世界的なメディアで盛岡市が選ばれたということは光栄に思っています。盛岡市や岩手県が先陣をきって世界に発信していくことで、他県や他の地域にも注目が集まり、多くの魅力を持っている国だと世界の人が気づいてくれればと思います。

インバウンド誘致:地域の人と同じ体験を

編集部:インバウンド誘致には、メリットとリスクが内包しておりますが、知事として県の魅力(食べること・泊まること)をどのように発信していきたいですか? また、地元に住む人と観光客、両者の合点(妥協点)はどこにあると思いますか?

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達増知事:「ニューヨーク・タイムズ」紙に寄稿してくださった、クレイグ・モドさん(Craig Mod)流の発信を目指したいです。モドさんの旅のスタイルの提案から学べる点は、地元の人が普段歩くような道を歩き、普段行くようなお店を訪れ、その土地に住む人とともに生活をするような体験を提示していることにあると感じています。

編集部:地元の人からすれば、それは日常かもしれませんが、海外の人からしたら新鮮で非日常を感じる体験だということに気づかれた…ということですね。

「お互いの趣味や好みを高め合って…、より良い街に成長していく」--達増知事

達増知事:こういった“ニュートラルな”自然のスタイルから、インバウンドの誘致をしていきたいです。例えば、外国資本の免税店に団体客が来て買い物をして行く…、観光バスで通りすがら景色を眺める観光…、それも素敵な経験かもしれませんが、残念ながら地元に暮らす人との接点がないですよね。それでは、少し味気ない。

地元の人と交流しながら、喫茶店やバーのマスターと会話を楽しみながら観光していただく…、そうすることで訪問客から刺激を受けた地元の人々も成長できますからね。そうやって、お互いの趣味や好みを高め合って、より良い街になっていく気がしています。好きな野球やコーヒー、自然の景色…観光で来た方も、そこで生活している人にとっても同じ趣味をもっているので、そういったものを共有して交流してもらいたいです。

地元の人も、外国のお客さん向けに新しいメニューを開発してみたり、新しい取り組みへのヒントをもらったり、そうして観光客も街づくりの一員として参加しているようなインバウンド誘致をしていければと思います。

編集部:観光で訪れた人と、地元の人が一緒にその地域をつくっていくという構想は素敵ですね。

達増知事:大谷翔平選手や佐々木朗希選手のような岩手県出身で活躍されている野球選手がいて、彼らが地元で食べていたものを食してもらうことも、その誘致の一環として取り組んでいます。

例えば、盛岡の福田パンもその一つですし、花巻のクレープを大谷翔平選手が食べていて、マルカンビル大食堂では「大谷クレープ」と呼ばれています(笑)。陸前高田市に生まれ、大船渡高等学校に通っていた佐々木朗希選手は「酢の素」という明治時代創業の水野醤油店が約50年前から販売している度数の高い酢を愛用していて、彼がSNSで発信したと同時に「いわて銀河プラザ」にあったものがすぐに売り切れることもありました。そういった活躍されている選手のバックグラウンドから掘り下げていただいて、岩手県を楽しんでもらう…そんな体験もしていただきたいです。

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「危機に直面したときこそ、
逃げずに向き合う」--達増知事

編集部:これまでのキャリアで、最も印象深い出来事はありますか? その経験から学んだことを Esquire読者、特にビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

達増知事:東日本大震災の経験から多くを学びました。この出来事は、人々が極限状態の中に突如として放り込まれたわけです。「The moment of Truth(真実の瞬間・ここが正念場だ)」という言葉がありまして、災害や戦争などの危機に直面して、極限状態になると普段わからなかったこと、「真実」がわかるという言葉です。

東日本大震災時では、その言葉が文字通りであると感じました。危機に瀕(ひん)したときは、それが深刻であればあるほど逃げるという選択肢はなく、危機の実態を正面から見つめ、向き合わなければならないと学ぶことができました。すると、モノゴトが非常にクリアに見えてくるんです。人命最優先から始まり、避難した方の食べ物の確保など現場本位に考えればやらなくてはならないことが必然と次々に見えてくるのです。

それには、自分本位ではなく、周りの人を巻き込んで協力して作業をしていく必要があります。それが知事である、私のするべき使命でもあると再確認した瞬間でもありました。

震災直後は携帯電話が全く使えず、警察や消防の無線しかつながらなかったので、命に関わる情報しか入ってきませんでした。避難所の中がどうなっているのか?そこに市町村職員はいるのか? 食べ物は? 衛生上大丈夫なのか? そういった情報が全く入ってきませんでした。ですので、急遽職員を派遣しました。情報が入らないと手が打てない、しかも待っていても情報は入らないので、取りに行くしかないのです。

これらの経験から学んだ教訓は、「危機に面したときに事態が深刻なほど、その渦中に飛び込んでいき目をそらさずに見つめる必要がある」ということ。また、「自分だけではなくて他の人も巻き込む必要がある」ということです。

編集部:どんな場面でも、そういった姿勢は大切になってきますね。

達増知事:震災ほど極限状態ではない場面でも、日常で壁にぶつかったり、追い込まれたりしたときに、まず逃げないで向き合う…そうすることでおのずと見えてくること、やるべきこと見えてくると思います。そういったことを、読者の方にお伝えしたいですね。難しいかもしれませんが、逃げたり、腰が引けたりすると返って事態が悪化して、より苦しくなっていきますから。

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「知的好奇心を失わず、
自分にはない着眼点から学び続けたい」--達増知事

編集部:では最後に、少し趣向を変えた質問をさせていただきたいと思います。仕事を含め、各地を旅されて機会も多いと思いますが…、もしプライベートな旅行に3人だけ連れていけるとしたら、誰を選びますか? その理由も教えてください。

達増知事:そうですね…(笑)。まず一番に頭に浮かんだのは、藻谷 浩介(もたに こうすけ)さんでしょうか。この方は地域振興の専門家で、もともと日本政策投資銀行の社員だったのですが、平成の大合併を行う前は日本の市区町村が3300ほどあり、その3300の市区町村の全てを訪れたことがある方です。日本の町々のくらしに、一番詳しい方と言っても過言ではないのではと思っています。日本各地での実体験があり、さらに地方に関する統計の分析が得意で、地域振興関連の公演を多数行っています。その藻谷さんの旅行記が、すごく面白いんです。

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海外旅行記も出しておりまして、特にそれが気に入っています。もし、一緒に旅をするとができたら、自分では気づかない着眼点に気づけたりすると思うのです。

そして、旅に関してプロフェッショナルな藻谷さんに加えて、2人目に選びたいのは…やはり「ニューヨーク・タイムズ」紙で盛岡を推薦してくださったクレイグ・モドさんです。訪問先でこだわりのある趣味の良いところを見つけてくれますし、その体験をともにしてみたいです。

そして3人目には、ドラマ『あまちゃん』の主役をしていた俳優・のんさん(能年玲奈さん)です。彼女らしい感性を旅の中での体験を共有できたら、より深みのある旅になるかと思いました。

藻谷浩介さん、クレイグ・モドさん、のんさんの3人と一緒に旅をすることで、どこの地域に訪れても発見に次ぐ発見で、普通の人では気がつかないような視点で感動も味わえる旅になるのではないかと思い、選ばせていただきました。とても楽しめると思います。

編集部:自分の知らない視点で、その地域を見てみたいという知事の人柄が見て取れました。ちなみに、(お立場的に難しい質問かもしれませんが…)旅行先はどこを選びたたいですか?

達増知事:今、パッと浮かんで行けるとしたら…、スロベニアなんて良いのではないでしょうか。スロベニアのスキージャンプ場とかスポーツクライミングを見てみたいですし、旧ユーゴスラビアの中でもイタリアやオーストリアにも近く、食べ物がとても美味しいと聞きました。ワインも美味しいですし…。山口県の秋吉台(あきよしだい)に代表されるカルスト地形と言われる鍾乳洞の地形があるのですが、その語源にもなっている「カルスト」という地域がスロベニアにはあります。自然も面白くヨーロッパ文化も相まって、ニッチなスポーツも盛んな国…、人口も岩手県に近いので、非常に親近感を感じるので行ってみたいですね。

《Profile・経歴》
藤﨑聡子(Satoko FUJISAKI)
ワインスタイリスト

…1997年ワイン専門誌「ワイン王国」創刊、編集・作家担当・広告業務を担当。2003年ワインスタイリストとして独立。以後、男性ファッション誌、女性ファッション誌でシャンパン、ワイン、料理制作、スタイリング、レストラン紹介などを連載・執筆。

世界的に発刊されているワイン漫画『神の雫』では、シャンパン女番長としてワインと食材のマッチングコラムを2年半にわたり執筆。これはフランス、上海、北京、香港、台北、ソウル、アメリカで翻訳され現在も発売中。単行本では24巻から36巻まで収録されている。

レストランのワインリスト作成、メニュー開発、またスタッフに対するワインセミナーもジャンルを問わず手掛ける一方、ファッション撮影ではインテリアコーディネート、フードスタイリングなども担当構成。2014年12月、シャンパン100種類、メインディッシュは餃子、唐揚げをリスティングするラウンジ・Cave Cinderellaを東京・西麻布にオープン。

フランス・シャンパーニュ生産者組合団体・シャンパーニュ騎士団より2007年シュヴァリエ・ド・シャンパーニュ、2009年ジャーナリスト最年少でオフィシエ・ド・シャンパーニュを叙任。シャンパン、餃子、唐揚げ、ポテトフライ、ゴルフをこよなく愛する。

Photograph / Cedric Diradourian
Hair and make-up / BOTAN