岩手県陸前高田市に、新しいキャンプ場「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド(Snow Peak RIKUZENTAKATA Campfield)」が2023年9月23日(土)にオープンしました。この地は、2011年の東日本大震災後以降は仮設住宅エリアとして利用されていました。10年以上が経過したいま、その役目を終えて新たなキャンプ場として再開したのです。

それ以前は、1999年に岩手県が開設した「陸前高田オートキャンプ場モビリア」というキャンプ場でした。東日本大震災後は避難所となったあと、テントサイトや駐車場に応急仮設住宅が合計168戸が設置されていました。また、復興に携わる工事関係者および行政職員らの宿泊施設にも利用されていました。

そうして2018には、宿泊利用に関してはその減少および施設の老朽化などを受けて休止に。2022年には仮設住宅の役目も終え、全て撤去することが可能になりました。その後、岩手県はが6億円を投じてこのキャンプ場を再整備し、同年5月には指定管理者としてスノーピークが選ばれます。そうして新たに、「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」として生まれ変わったというわけです。

都会の喧騒から離れて、
いまの自分を見つめる大人の旅

岩手県・一ノ関駅前
Allan Abani
写真右は、岩手県・一ノ関駅前に到着した(本サイトでも連載をもつ)筆者クリストファー・ベリー(Christopher Berry)。左はベリーの友人であり、ファッションフォトグラファー&戦場カメラマンのロバート・スパングル(Robert Spangle)。
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今回、私(筆者クリストファー・ベリー)はエスクァイア日本版の取材クルーの協力により、このリニューアルされた「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」のオープン前に、1泊2日のキャンプ体験をする機会を得ました。

キャンプ経験は中級者くらいで、富士山の頂上到着など…本格的なアウトドアでの体験を好む私ですが、今回はテントなどキャンプ道具を準備する必要がなく、設営から撤収のアドバイスをスノーピークのスタッフが全面的にサポートしてくれる「手ぶらキャンプ」を利用させてもらうことに。そこで実際に用意したのは、食材や着替えなどの身の回りのモノのみでした。

キャンプの魅力はキャンパーの数だけあり、その人がいま何を求めているか? 何に価値を置いているのか? など、季節や時間によっても大きく左右されるでしょう。あえて不便なところに身を置き非日常を味わうため、自然の中で虫の鳴き声を聞きながら眠る、空の下で食事を楽しむ…などキャンプの魅力は語りつくせません。

マンハッタン育ちの生粋のニューヨーカーであり、現在は東京在住の私にとって、キャンプの魅力とは都会の喧騒から(身体的に)離れて自然に身を置くことです。山から吹く風のにおい、森に住む動物や鳥の声、焚火の音に囲まれることで、いまの自分を見つめ直し、自己との対話ができる機会でもあるからです。

また、大切な人や友人と一緒にキャンプにいって焚火を囲むことで、普段では話さない(話せない)ようなトピックスも、不思議と恥ずかしがらず語れる場になるということもあります。

大人になって友人と旅に出る意義

【海外からみた東日本大震災】旧友との再会。キャンプ場で共有する心地いい時間|エスクァイア日本版
Allan Abani

さて今回、1泊2日のキャンプ体験の相棒に選んだのは、 ファッションフォトグラファーであり戦場カメラマンの友人ロブ(Robert Spangle)。私は東京在住で、ロブはLA在住ですが、今回彼が日本に旅行にくるというタイミングで打診したところ、快く参加してくれることになりました。

なぜ、私がロブと旅(キャンプ体験)をしたかったかというと…、長い付き合いのある友人として彼を尊敬し、いつもインスピレーションを与えてくれるから。また、“リニューアル”された「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」のように、彼は古いモノに新たな人生を与える“リメイク”ということに価値を置いている人物でもあるため、陸前高田という現在の土地の魅力もひと際感じ取ってくれるのではないか? と思ったからです。そして、これまでアフガニスタンやウクライナと戦場カメラマンとして危険な地におもむく彼の考えや、人生の哲学を友人として改めて訊いてみたいと思ったわけです。

そして最後にもうひとつ…。「ロブと同じ体験をする機会」を設けたかったことが一番の理由です。私たちは大人になると、(10代や学生のころと比べると)友人と“同じ時間を共有”しても“同じ体験をする機会”が減ってしまっている…そう気がついたからです。

例えば大人になって、友人と食事にいく頻度が多い人でさえ、どうしても近況を話したり悩みや相談事をすることに重点が置かれ、“報告会”になってしまってはいないでしょうか? もちろん、大人になるとそれぞれ別の人生と価値観、仕事や家庭があり、なかなか一緒に何かを体験する機会を設けることは難しいという現実は百も承知です。同じ時間を共有することも大切ですが、少し見過ごされてしまいがちな同じ体験をする重要性について、エスクァイア読者の皆さまにも考えてもらうきっかけになれればと思っています。

東京駅から岩手県・一ノ関駅へ「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」ヘの行き方
Allan Abani

東京駅から岩手県・一ノ関駅へ!
「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」ヘの行き方

それでは、“男旅(冒険)”の始まりです。私とロブは東京駅八重洲方面にある「八重洲中央口」にAM6:00に集合しました。東京駅から、JR東北新幹線「はやぶさ」AM7:16発の盛岡行きに乗り、岩手県「一ノ関駅」を目指します。乗車時間は2時間5分。

「一ノ関駅?」と、なじみのない方もいるかもしれませんが、この地は“伝説のジャズ喫茶”、“ジャズオーディオの聖地”としてファンを魅了し、日本国内だけでなく世界のジャズファンが足を運ぶジャズ喫茶「ベイシー(BASIE)」がある聖地です。古い町並みの中に、その伝説のジャズ喫茶がひっそりと佇(たたず)んでいる。これも、この地の成熟さを感じさせる大きな魅力でもあります。

スノーピーク陸前高田キャンプフィールド
Allan Abani

さて、一ノ関駅周辺にあるレンタカーショップで予約していた車をピックアップし、「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド(住所:岩手県陸前高田市小友町獺沢(おともちょううそざわ)155-78 )Google MAP」まで、約1時間30分(有料道路無し)。ちなみに盛岡駅からの場合は有料道路利用で、車で約2時間(有料道路を利用しない場合は2時間30-45分くらい)です。

また、一ノ関駅からJR大船渡線(気仙沼方面)を選んだ場合は、1時間10分で陸前高田駅に着き、そこから車で約20分になります。ですが、レンタカーショップの数や食料の調達、キャンプ場までの所要時間を考えると、一ノ関駅で降りて車をレンタルしたほうがベターと言えるでしょう。駅周辺のスーパーマーケットで買い物もできますし、レンタカーなら途中休憩の中でその土地の雰囲気に触れることもできますので。

新しい息吹をもたらす
「リニューアル」と
「リメイク」の魅力

途中休憩と道に迷った影響により、一ノ関駅から車で約2時間30分で「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」に到着。初日は霧が濃く、たまに小雨が降る程度。少し時間が経てば、雲の中に青い空が見えるような日でした。

observer collection
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私(ベリー)のギアリスト:時計「Tornek Rayville Paradive」、財布&カメラバッグ「Observer Collection」(ロブのオリジナルブランド)、カメラ「Leica M10」、懐中電灯「Surefire」、スカーフ「RAF Scarf(ウクライナでカスタマイズしたもの)」、バンダナ「FAST COLOR(ヴィンテージもの)」、マルチツール「Victorinox and Leatherman」、カップと食器「Snow Peak」、グローブ「Mechanix」

このキャンプ場はスノーピークとしては全国9拠点目の直営キャンプ場で、約6.8万坪の広大な敷地内にテントサイト数は145、電源付き区画サイトもあります。新潟県にあるスノーピーク本社併設のキャンプ場に次ぐ規模になるそうです。キャンプ場には自動販売機やシャワールームにトイレ、炊事棟・洗い場、ランドリーまでありますので、キャンプ初心者でも気軽に使用することができるでしょう。

今回は「手ぶらキャンプ」利用だったので、オールインワンテントが既に設営されていました。小雨がやむまで私たちは荷解きと焚火台の準備をし、広田湾を見下ろしながら静かなひとときを過ごすことに。

observer collection
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ロブのギアリスト:水筒、酒筒、軍用セラミックコーティングでカスタマイズされたチタン製のドリンクカップすべて「Snow Peak」、チタン製のドリンクカップ、ベルト、帽子、財布すべて自身のブランド「Observer Collection」、腕時計「OMEGA Speedmaster」、スイス製のアーミーナイフ、カメラ「Leica」、懐中電灯「Muyshondt

リニューアルして生まれた「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」ですが、リニューアルの魅力は「現存するこれまでの魅力を引き継ぎながら、アップデート(更新)していくことにある」と思っています。過去と現在が共存し、絶妙なハーモニーを奏でるというわけです。

スノーピークのアイテムを好むロブは、この旅に幅広い素材にコーティング剤を施工を可能にする「セラコート社(Cerakote)」とコラボレーションし、スノーピークのカップや水筒をカスタムカラーで自らリメイクしたものを持参していました。 そこで私は、「日本語には 『リメイク』という言葉があって社会に浸透しているんだけど、それはロブの経験や制作意欲にどのような影響をもたらすのかな?」と質問してみました。

私にとってその『リメイク』というのは、『古いものを再び新しくするプロセス』って考えているよ。このリメイクという言葉の中には私の場合、『トリクルダウン(trickle down)』と『アップサイクル(upcycling )』と――大きく2つのスタイルがあるんだ。トリクルダウンっていうのは、『富裕者がさらに富裕になると、経済活動が活発化することで低所得の貧困者にも富が浸透し利益が再分配される』と言う経済理論。アップサイクルというのは、『廃物や使わなくなったものを、新しい素材やより良い製品に変換して価値を高める』という行為だよね。ファッション業界に焦点を当ててみるなら、トリクルダウンという視点ではその時代にあった服へとつくり直すことかな…。そしてアップサイクルという視点なら、ヴィンテージと古着を組み合わせて新しいものをつくり出すことになると思うよ。日本は確かに後者…アップサイクルを先んじて着手した国で、私の目から見ても常に優れていると思っている。常に、それに関して刺激を受けているんだ」と、ロブは答えてくれました。

会話を楽しみながら夕食に向けて準備を進めていると、少しづつ日が暮れてきました。

未曾有の経験から、
どう前向きに生きるか

未曾有の経験からどう前向きに生きるか
Allan Abani
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焚火を囲んでいると、夜も深まってきました。

私はこの土地に足を踏み入れてから、2011年3月11日に発生した東日本大震災について考えずにはいられませんでした。地震発生の前日(2011年3月10日)までの私は、あることで期待と興奮でいっぱいだったのです。当時私はペンシルバニア大学での学部を卒業したばかりで、2011年の夏に開催予定だったプリンストン大学、ハーバード大学やデューク大学の学生たちが石川県国際交流協会で日本語と日本文化を学ぶ8週間の夏期集中講座「プリンストン in いしかわ(PII)プログラム」に合格していたからです。当時の私にとって、それは日本へ行く初めての機会だったのです。そして東日本大震災が発生した影響により、日本での夏期留学プログラムは全てキャンセルとなりました。

震災の悲劇的なニュースを、私はアメリカで映像を通して観ていました。荒れ狂う波が重機や建物を押し流す様子は、世界貿易センターの倒壊(911アメリカ同時多発テロ)をテレビで観ていた当時と同じような感情を呼び起こしました。私の記憶の中でどちらも、言葉にできないほどの恐怖を感じさせる惨状だったのです。

私はロブに質問をしてみました。「未曾有の災害…知っていると思うけど、私たちが滞在しているこの素晴らしい景色のキャンプ場は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災者たちが避難して暮らしていた場所なんだ。未曾有の事態…目をおおいたくなる現実に直面したとき、ロブならどう立ち向かう?

故郷のマリブ(カリフォルニア州ロサンゼルス郡西部)が大規模な山火事に見舞われたとき、名づけ親が私に『災害は常に、未曾有(これまで一度たりとも起きなかったような極めて稀な事態)であることを忘れるな』と言ってくれたのを覚えている。私はいま、『人生における唯一の不変的なこととは…“変化である”』ということを受け入れるように努めているんだ。つまり政情不安であれ、武力紛争であれ、戦場カメラマンとしてその変化を記録すること…。現地に足を運んで直接関わって、そして観る。そのことは物理的な距離を置きながら受け入れるよりも、その現実をより理解することができるものだろ?」と、前漢王朝時代の中国の将軍 趙充国(ちょう じゅうこく)が残したとされる言葉のごとく、直視することの大切さを語ってくれたのです。

robert spangle
Allan Abani

戦場カメラマンとして、ロブがウクライナで取材をしていたときの唯一の食料は「ホットドッグ」だったと言います。ロブや他のジャーナリストたちは、これを「前線部隊」を意味する「first line of troops」の頭文字をとって『FLOTドッグ』と名づけており、「Cheers!!」と乾杯のようにして食していたそうです。

私と取材クルーも、その儀式をオマージュさせてもらいました。なんせまだ誰もいなく暗い開業前の「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」を、誰よりも先に体験することができたわけですから…、ある意味で私たちは「前線(first line)」にいたわけです(ちょっと無理やりですね笑)。

空腹は最高の調味料と言いますが、薪の炎と楽しい仲間がいれば、どんな食事も本当に美味しくなります。一日中、陸前高田の美しい風景が見わたせるキャンプ場を探検したあと、私たちはスーパーマーケットで買ってきたパンとソーセージを網で焼き、ケチャップとマスタードをかけ、今夜唯一の夕食であるこの最高の“FLOTドッグ”にがぶりつきました。暗い森のほうからは、聞いたことのない動物のうめき声のような不気味な鳴き声が何度も響きわたっていました。私たちは、いつ襲ってくるかわからないこの不気味な声を発する動物!?を「モンキーベア」と名づけ(笑)、その声におびえながら“FLOTドッグ”を堪能したのでした。

ハプニングは、最高の思い出を生む

preview for Snow Peak Negroni Sbagliato

私とロブには、再会したときに行う定番のような習慣があります。それは葉巻を吸いながらカクテル「ネグローニ」で乾杯することです。葉巻に関して言うと…、今回のキャンプ場で吸うにはナンセンスかと思いましたので、1878年イタリア・トリノ創業のチョコレート・ジェラート専門店「Venchi(ヴェンキ)」のチョコレートシガーを変わりに持ってきました(笑)。キューバ産とデザインされたパッケージは、まるで本物の葉巻と見間違えるほどで、独創的で遊び心があるので会話のきっかけにもなります。

前回、一緒に乾杯したのは2022年1月にミラノで再会したときでした。今回もこの習慣を実施すべく、事前にカンパリ、ドライジン、オレンジを準備してきました。ですが、いざ作るとなったときにベルモットを持ってくるのを忘れたことに気がついたのです。

なので、私たちは必要に迫られ…ちょっと工夫して新たな「ネグローニ」を作らなければなりませんでした。そして近くの自動販売機で売られていた150円の「三ツ矢 クラフトコーラ(缶350ml)」を手に、新しいカクテルレシピを完成させたのです。その名も「スノーピーク・ネグローニ・スバリアート(Snow Peak Negroni Sbagliato」。「スバリアート(Sbagliato)」とはイタリア語で、「間違った・失敗した」という意味。つまり、「スノーピークのキャンプ場で作った間違ったネグローリ」というカクテル名にしました。

この瞬間を忘れないように、オリジナルのカクテルを作ろう。次に会うときも同じカクテルで乾杯だ

失敗から生まれたカクテルですが、私たちにとってはこの瞬間を思い出す世界にひとつだけのオリジナルカクテルになりました。私とロブそして取材クルーは、また同じメンバーで再び「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」で集結して、この「スノーピーク・ネグローニ・スバリアート」で乾杯する日を誓ったのでした…。

改めて“友人と同じ体験をする”ことで、偶然的な瞬間が特別な体験になることも知りました。そこで私はロブに、「年齢を重ねるにつれ、旧友とのつながりを忘れてしまうのはなぜだと思う? そうなっていた場合、それにどう対抗する?」と質問してみました。

私たちの生活はより忙しくなって、友人たちも同様に時間も相対的にどんどん早く過ぎていくことを実感しているだろうね。新しいテクノロジーによって、物理的なつながりがなくても、近くにいるような感覚を与えてくれるわけだけど…私は可能な限り、友人と(現実空間へと)出かける計画を立てるようにしているよ。それは旅行の経験と友情の両方を豊かにすることができるから…。それに加えて、友人の誕生日や記念日をスケジュールに入れるように努めているんだ。連絡を取り合うきっかけになるし、時間の経過を把握するのに良い方法だからね」と、彼は答えてくれました。私と同様にロブも、友人と体験を共有することに価値を置いていることが知れてうれしかったのです。23時近くまで語り合ったのち、私たちは寝床に就きました。

朝、目覚めるための活力

キャンプ場での朝に、コーヒーを飲む
Allan Abani
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夜が明けるとテントには光が差し、目が覚めました。

ロブは「JABS」のパジャマに「Baudoin & Lange」のスウェードのローファーを合わせた“キング(王)”のようなモーニングスタイルで、すぐに“朝の仕事”に取りかかっていました。彼はアメリカ海兵隊に従軍していた経験もあり、そのとき母親に頼んで携帯用コーヒーミルとフレンチプレスを送ってもらい、派兵中のチームメイトにコーヒーを淹(い)れていたくらい大のコーヒー好き。今回のキャンプでも、ロブはいつものようにコーヒー好きの私と取材クルーに一杯ずつ丁寧に淹れてくれてくれました。そして、自分は最後に飲むようなやつなのです。

キャンプ場での朝に、コーヒーを飲むのは大変なことです。都市に住む多くの人にとって一日の最初の一杯を手に入れるには、目を半分閉じたまま靴を履(は)き、近くのコンビニに流れ着くことで簡単に手にすることができるでしょう。ですがキャンプ場では、朝のコーヒー一杯を手に入れるのは意図的かつ主体的な行為となります。

ガスコンロをつける代わりに、昨夜の炭で火をおこします。交代で豆を手挽きするのは時間がかかり、カフェインと同じくらいこの時点ですでに目が覚めているのです。そんな作業を終えた最初のひと口はより甘く感じられ、まるで大自然に同調しているかのような時間が流れ始めるのです。

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「キャンプは平凡な日常や、ますます忙しくなる日常からの幸せな逃避」

コーヒーを淹れるためにこの日の朝は、スノーピークのミルとカップを使いました。私たちは本当に、プライベートでもスノーピーク商品を愛用しているのです。海と山、広大な自然に囲まれたスノーピークのキャンプ場で私はロブに、「スノーピークの製品が好きな理由と、ロブの生活でどのように役立っていますか?」を訊いてみました。

彼は次のように答えてくれました。

自然の中に身を置くという私の考えは、これまでのキャリアと経験から“偵察”の観点から生まれたもので、自然の中に溶け込むこと、そして観察することを好んで行動しているかな。その観点からスノーピークのデザインをいくつか熟視してみると、アースカラーと天然素材であること、そしてその中にもエレガントさが宿っていることがお気に入りのポイントかな。スノーピークは私がこれまで見慣れていた、ある意味でまぶしいテクニカルなキャンプ用品とは一線を画していると思っているんだ。それにスノーピーク商品のデザインの多くが、自宅でもアウトドアでも同じように使えることも魅力的。例えば、旅先でも自宅と同じようにコーヒーを淹れれば、どこにいてもいつも通りにくつろげるわけだから…」。

キャンプは、平凡な日常からの、そしてますます忙しくなる日常からの幸せな逃避でもあります。ですが、このキャンプ場を体験することで、単に充電するという概念がより再生にふさわしいものに再定義することができました。多くのことに耐えながらも自らを改革し続けるこの日本という国の中で、あまり頻繁に訪れることのない地域…この陸前高田市を体験したことで、私たちは精神的かつ感情的なインスピレーションで満たされたのです。

このタイミングで私は改めてロブに、「日本に興味を持ち始めたのはいつ?」とたずねてみました。

私が幼い頃、祖父がよく仕事で日本に訪れていたんだ。そんな彼の日本からの土産物が、外の世界への想像力を初めて刺激してくれたのさ。その後、父が日本映画、アニメ、そして日本のファッションを見せてくれた…。ポップカルチャーやファンタジーを通してこの国を学んできた私は、この国を訪れるたびに宙に浮いたような気分にさせてくれるよ

最後の焚き火が風にゆられながら、私たちは満足げにコーヒーを飲み干しました。きっとその場にいる全員は、岩手県・陸前高田市までの曲がりくねった細い山道と自らの人生を重ね合わせていることでしょう。

日本を旅する

日本を旅する
Allan Abani
キャンプ場からの眺めには、地元で牡蠣の養殖が行われている様子や、最近建設されたダムが見える。
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コーヒーを飲み終えて、名残惜しくもこのキャンプ場を後にすることに。

掃除と身支度を終えて、帰る前に私たちはもう一度、このキャンプ場を少し散歩することにしました。感傷に浸ってると…、まだオープン前とういうことで、土木作業員の方たちが作業をしていました。

そのとき私は、ある現実的な問題があることに気がつきました。「あ! 昼飯どうしよう笑!?!?」。午前10時くらいにはこのキャンプ場を後にしなければならず、かといって一ノ関駅発、東京行きの新幹線は夕方です。私にはこれに関するポリシーがあります。それは、「現地のウマイ飯は、トラック運転手の方や現場作業員に聞く!!」というもの。ということで、作業をしていた(株)長谷川建設の土木作業員の方々に、陸前高田市でおすすめのチカラ飯(パワーランチ)をうかがったところ、「中華食堂 熊谷」という食事処を教えてもらいました。陸前高田駅から近い、そこの担々麺が絶品とのこと。

仮設住宅だったときのこのキャンプ場のことや、今年はホタテが不作であることなど…作業員の方々に実情を教えていただいた後に御礼をし、キャンプ場をあとに私たちは陸前高田駅を目指しました。

安全運転でキャンプ場から陸前高田駅まで、約30分の道のりでした。作業員の方々の言うように、「中華食堂 熊谷」の白と黒の2種類の担々麺は格別な味でした。お腹も満たされ少し周辺を散歩することに。現在の陸前高田駅周辺はユニーク建築物が点在しており、隈 研吾氏や伊東豊雄氏が設計された交流施設や、内藤廣氏による公園など、地域の人々が日常的に利用し集う場所として開放されています。

看板の地図をみていると、地元の男性がフレンドリーに英語で話かてくれ、震災の津波にによって流された実習船「かもめ」の話をしてくれました。2013年に約8000km離れたアメリカ・カリフォルニア州のクレセントシティの海岸で見つかったその船は、陸前高田市に返還され、クレセントシティと陸前高田市の交流と友情のシンボルとして、駅の近くにある陸前高田市立博物館に展示されているということです。

カリフォルニア州出身のロブがいたので、何かのご縁とも思い訪館することに。その後、博物館近くの「東京屋カフェ」でコーヒーを買って一ノ関駅に戻ることにしました。すると、そのカフェの店主もまた、私たち取材クルーに英語でフレンドリーに話しかけてくれ、陸前高田の魅力について語ってくれました。私たちのキャンプ場での素晴らしい体験と今回の取材の意図を店主に説明すると、率直に笑顔でこう話してくれました。

私たちは散々泣いて、もう泣き疲れた。いまの元気でポジティブな陸前高田を伝えていきたいし、みせていきたい。外国人や他県の人たちがこの地を訪れて楽しんでくれることが、とてもうれしいんだ

私たち取材クルーは、この言葉に少し救われた気がしました。なぜなら、そのときまで私たちは「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」のキャンプ体験やこの旅自体がとても感動的で素晴らしいものであっただけに、「外部の人間が楽しさだけを味わって」と思われるのではないか…という、少し負い目のような罪悪感を抱いていたからです。新しく整備された陸前高田駅の周辺には大きな防波堤があったり、震災を思い起こす痕跡もあちこちにあったりする中、複雑な思いにかられていたのです。

「当時、現場にいなかった外国人である君たちには分からないだろう」「外野はひっこんでろ」など、厳しい言葉を受けることもあるかもしれません。ですが、少なくとも私たちにとっては、この陸前高田市という土地を思い浮かべたとき、その名前を聞いたときには、真っ先に友人ロブと取材クルーと体験したこの忘れられない楽しい思い出が脳裏に浮かぶのは間違いないでしょう。

この土地に住むヒトと歴史に敬意を払いつつ、ぜひ読者の皆さまもこの地に足を運んで素敵な体験をして、楽しい思い出でいっぱいの地にしていただきたいと私は思います。

スノーピークが手掛ける
「地方創生事業」

スノーピークが手掛ける「地方創生事業」
Allan Abani

スノーピークは、「人生に、野遊びを。」をコーポレートメッセージに自然と人をつなぎ、大自然や都市空間などあらゆるフィールドで野遊び心を大切に、新たな価値をプロデュースする「地方創生事業」に取り組んでいます。

地方創生事業においては都市圏人口集中による地方衰退などを解決することを目指し、その土地の自然や文化、産業など地域の魅力を発信するキャンプフィールドを中心としたアウトドア拠点の運営と体験ツアー「LOCAL TOURISM」を実施。また、現代生活における人間性の低下への解決策として、 2021年より全国47都道府県で当社運営のキャンプ場パートナーの募集を開始し、各行政や地方企業との連携をより進めることで地域資源を活用した新たなアウトドア拠点や体験コンテンツの開発を推し進めています。

2023年には、現在までに全国3カ所でキャンプフィールドを開業。その一つがこの「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」というわけです。2024年には宮崎県都城市、栃木県鹿沼市での開業も予定。スノーピークの担当者は「今後も全国により多くの魅力的なフィールドをつくり、自然と人をつなぎ、野遊びの価値をより多くの方々に知っていただく、体験いただくことでより多くの方々の人間性を回復していきたいと考えています」と話します。

🏕️2023年新たに開業したキャンプフィールド

スノーピーク油山福岡キャンプフィールド


  • スノーピーク油山福岡キャンプフィールド

福岡の中心市街地から車で30分圏内という立地で、自然豊かなことに加え、福岡の街並みや夜景を一望可能。来春にはヴィラ・コテージ・テントの3タイプを用意したラグジュアリーなアウトドア施設「Snow Peak YAKEI SUITE」も開業予定。公式サイト

スノーピーク白河高原キャンプフィード
  • スノーピーク白河高原キャンプフィールド

標高約700mの高原に位置し、那須五峰の北の麓に広がる森に囲まれたキャンプフィールド。愛犬と楽しめる施設・サービスが充実するほか、国内最大級の管理釣り場を備え、キャンプをしながら釣りをする「CAMP FISHING」も楽しめます。公式サイト

Photograph / Allan Abani
Cooperation / Robert Spangle
Interview / Christopher Berry
Edit / Hikaru Sato

ギャラリー|スノーピーク陸前高田キャンプフィールド