ニュースになるような飛行機搭乗中のトラブル(機内でのマスク着用をめぐって乗客が反発するといったパンデミック下で起きていた騒動は、今はなくなりましたが…)で増えているのは、激しい乱気流との遭遇です。

激しい揺れを体験した乗客が、飛行機を降りた後に待ち構えていた取材カメラに、突然機体が揺れた後に身体が浮いたという体験や、不運にも怪我や入院という事態になったことを語る様子を目にしたこともあるでしょう。乱気流による事故で死亡するケースはめったにないとされていますが、米運輸安全委員会のデータによれば2009年以降、乱気流が関連した事故が原因で死亡した乗客の数は40人未満という数字です。

乱気流トラブルはできれば遭遇したくないものですが、それでも定期的に発生していることがわかっています。そしてそこで問題なのは、「発生の頻度が“定期的”という間隔ではなくなりつつある」ということです。

それを裏づけるように、英レディング大学の科学者らは2023年6月に、「乱気流の中でも最も激しい『severe(強)』レベルの晴天乱気流(CAT=Clear-air turbulence)の北大西洋上空での発生数が、1979年以降55%増加している」と発表しました。そして、その原因は「気候変動だ」というのです。気候変動を原因とする悪いニュースは、実にとどまることを知りません。科学者らは次のように述べています。

「人工衛星による大気観測が始まって以来、航空機の巡航高度において、世界各地でCATが大幅に増加していることを示す明確な証拠を発見しました。われわれの研究は、過去40年間に乱気流が増加していることを示す最も信頼性の高い証拠であり、予測されていた気候変動の影響と一致しています」

では、乱気流とは正確にどのようなものであり、乱気流発生の増加と地球温暖化にはどのような関係があるのでしょうか? そして今後の飛行機の航行には、どのような影響が見込まれるのでしょうか?

フライトの悪夢
4つの乱気流

地球の大気には、風向きや風速が急変している「ウィンドシアー」(風向や風速の急変)やジェット気流、サンダーストーム(雷を伴う暴風雨)など多様な状態がありますが、これらの現象が混じり合うことでさまざまな悪天が発生します。それを考えると、乱気流の中に「山岳波乱気流」や「近雲乱気流」、「雲中乱気流」、「晴天乱気流」などの種類があることも不思議ではありません。離着陸時にも、横風や空気の渦(後方乱気流)などの乱気流が発生しますが、巡航高度(ざっくりと言うと、ジェット旅客機の巡航高度は1万メートル近辺)でよく見られるのは主にこの4つです。

commercial aeroplanes queuing up to land
Greg Bajor//Getty Images
飛行機が着陸に向けて降下する際に発生する後方乱気流。

こうしたさまざまな乱気流の名称は、その発生メカニズムに関係したものになっています。山岳波乱気流(「メカニカル」な乱気流とも呼ばれる)は、風が山脈を越える際に大気が山にぶつかって強制的に上昇させられることで発生し、危険な強風状態を引き起こすもの。雲中乱気流(熱乱気流)は、積乱雲(対流雲とも呼ばれ、周囲の冷たい空気の柱の内部で暖かい空気が上昇している状態)の中で発生するもの、近雲乱気流は積乱雲の外縁付近で発生するものになります。晴天乱気流は意味としては広義的で、文字どおり晴天時の乱気流なのですが、実際は雲が見えないだけに他の乱気流よりも少し複雑です。

レディング大学で高解像度気候モデルを用いて、乱気流の発生予測研究を行っているイザベル・スミス博士は『ポピュラー・メカニクス』誌に対し、「晴天乱気流の問題は、乱気流があまり発生しないとされている飛行ルートを航行していても遭遇する恐れのある、基本的に機内のレーダー機器では検知できない乱気流であるということです」と語っています。

「乱気流の予兆のないところで、乗客が突然乱気流に見舞われる可能性があります。それはつまり、シートベルトを外しているとき、しかも通路を歩いていたら最悪と言えます。身体が投げ飛ばされる恐れがあるということなのです。このことがまさに、晴天乱気流が危険とされる理由です」

こうした突然の揺れはジェット気流、特に北半球の寒帯前線ジェット気流がつくり出すウィンドシアーによって引き起こされるということ。寒帯前線ジェット気流は地上約3万フィートの上空にあり、極域と亜熱帯域の温度差によって存在するもの(他のさまざまなジェット気流も同様)。この気流は対流圏界面(比較的温度の高い対流圏と逆に温度の低い成層圏の境界)を通り、西から東に向かって吹いています。風速は時速200マイル(約320キロ)に達することもあるため、航空会社は東に向かうフライトでこれらの気流を追い風として利用し、時間と燃料を節約しています。

map of polar and subtropical jet streams
NASA

しかし、地球上の川や海と同じようにジェット気流も波を発生させます。不運な乗客が突然、機内で予期せぬ晴天乱気流現象に遭遇することがあるのはこの気流の波が原因というわけです。

✈️ 飛行機で揺れを感じにくい座席は?
ある民間航空会社のパイロットと客室乗務員によれば、マイレージポイント情報サイト「Upgraded Points」が報じているように、ベストな場所は「翼の上」とのこと。2番目に望ましいのは飛行機のなるべく前方で、飛行機の後方は“尻振り現象で揺れが大きい”ため、座るには最悪の場所だそうです。

テキサスA&M大学の大気科学部長を務めるラマリンガム・サラバナン教授によると、「これらは海の波のようなものですが、海の波の動きは主に水平方向なのに対し、この波は3次元、特に(水平面に対して垂直であること。重力方向線上となる)鉛直方向に動く」のだそうです。サラバナン氏は『ポピュラー・メカニクス』誌の取材に対し、「海の波が浜辺に打ち寄せるときに砕けるように、気流の波も上昇時に砕けることがあります」と語っています。

そのため、ジェット気流の中で高速で動いている大気が、その上下の低速の大気とぶつかると、鉛直方向のウィンドシアーが、雲ひとつない空に乱気流をつくり出すことがあるのです。冬の強風や夏の温度勾配の大きさもCATの発生を増加させるため、季節的要因も関係するというわけです。

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低いところの層雲と高いところの積雲が反対方向に動いている「ウィンドシアー」。Credit: Science Photo Library/Getty Images.

“翼のあるブリキ缶”のような機内で、身体を上下に揺さぶられるのはどう考えても楽しい(あるいは特に安全な)時間とは思えませんが、晴天乱気流に関して良い知らせもあります。それは、この乱気流を抜け出すのは比較的容易だという点です。

スミス氏によれば、「晴天乱気流で幸運な点は、これが空に浮かぶ大きなパンケーキのようなものであり、幅は広くても厚さが薄いこと」ですが、「そのため、パイロットはすぐに上昇し、かなり効率よく脱出することができることが実証されています。ただ、最初の衝撃がかなり危険で、運が悪ければ死者が出るような事態になることもあります」ということです。

温暖化と乱気流の増加

人間が対流圏に二酸化炭素(CO2)を排出し続けているため、「世界の平均気温は徐々に上昇し、暴風雨の激化や干ばつの長期化、洪水の増加が起きている」とされています。そして、このような気象現象の異常は、飛行機の巡航高度の領域でも起きているということになります。

ジェット気流は地表に近く、もともと比較的気温が高い(上に、さらに温暖化が進んでいる)対流圏と気温が低い(上に、さらに寒冷化が進んでいる)成層圏に挟まれており、こうして温度差が拡大していることはウィンドシアーの増加を意味します。気候変動によって対流圏では温度差が小さくなり、ウィンドシアーが減少しています。が、成層圏下層では逆に増えているのです。ですが航空機は大気抵抗を避けるため、その成層圏下層を飛行しているのです。

サラバナン氏は、「対流圏では温暖化、成層圏では寒冷化が進んでいます」と指摘し、「CO2の増加は成層圏を冷却し、鉛直シアー(鉛直方向のウィンドシアー)が増加します。そしてその成層圏は、航空機の巡航高度であることが多いのです」と述べています。

レディング大学が2023年発表した研究は、この気象学上の疑いを裏づけるものでした。科学者たちは40年以上にわたる気候データを精査した結果、最も激しい「severe(ひどい、猛烈な)」レベルの乱気流が55%増加していることを発見したのです。幸いにも、負傷者が出るような「severe」レベルの乱気流の割合は巡航高度の大気の0.1%にとどまっています。が、それよりも遭遇する頻度が高い「light(弱)」レベルの乱気流は17%、「moderate(並)」レベルの乱気流は34%にまで増加しているのです。

passengers aboard united airlines flight 826 sit u
AFP via Getty Images//Getty Images
1997年12月28日、東京発ホノルル行きのユナイテッド航空826便(ボーイング747型機)が太平洋上空で激しい乱気流に遭遇し、機体が1000フィート急降下する事故が発生。乗客1人が死亡、102人が負傷しました。写真は、壊れた手荷物収納棚とその下に座る乗客たち。

スミス氏は次のように指摘しています。

「『severe』レベルの乱気流は、急増していると言ってもまだ稀なケースです。それほど急増していないものと判断できますが、『light』レベルの乱気流を経験する確率が上がっているということにもなります。そのため今後の主な問題は恐らく、増加している『light』レベルの乱気流への対応ということになるでしょう。航空会社は乱気流をできるだけ避ける方針を取る可能性があります」

とは言え、航空会社は目に見えない大気中の“敵”と一体どのように戦うのでしょうか?

乱気流に関する今後の展望

遠隔の気象レーダーでは、晴天乱気流が発生している場所を特定することはできません。が、それでも技術者たちは、解決策を考え出すことを諦めていません。

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、最大11マイル(約17.7キロ)先にある乱気流を検知するドップラーライダー(レーザー光を発射し、エアロゾルからの散乱光を検知して風向・風速を計算する)システムを開発しました。JAXAはこうした技術の導入で、「乱気流による負傷を60%減らすことができる」と見込んでいます。ですが、航空機にさらなる重量物を搭載するというのは、ほとんどの航空会社にとってかなりハードルの高い条件となるでしょう。

飛行機に晴天乱気流を検知できるドップラーライダーを搭載することは、長期的な解決策かもしれません…が、現時点でパイロットも手をこまねいているわけではありません。飛行機が突発的な晴天乱気流に遭遇した場合、パイロットは観測報告(PIREP)でウィンドシアーの異常について詳細を報告し、同様の軌道を航行中の飛行機に警戒を促すようにしてします。

safety sign in airplane, fasten seat belt
Jose A. Bernat Bacete//Getty Images

国際航空運送協会(IATA)も、航空機のアビオニクス(操縦・運行管理機器)に搭載された米国大気研究センター(NCAR)のソフトウェアを使用した「タービュランス・アウェア」データベースを構築しています。このソフトウェアでは、対気速度や迎え角などのパラメーターから計算した飛行機のエネルギー消散率(EDR)が一定の閾値を超えた場合にデータベースに報告されます。そしてテストリポートには、EDRの値と航空機の位置、高度、風のデータ、気温が含まれており、参加している航空会社はこれらのデータを共有するようになっています。

パイロットが最も激しい乱気流を回避するのに、リアルタイムのデータが役立つのはもちろんですが、飛行機の機体自体もこうした予期せぬ乱気流に対処する能力を十二分に備えています。飛行機というのは安全のマージンを大きくもって設計されており、主翼は飛行中に機体に加えられる制限荷重の1.5倍、「150%荷重」に耐えられるようになっています。ほとんどのパイロットは現役中に、翼が曲がるほどの激しい乱気流を経験することは(これまでの報告の中で)ありません。

もちろん、飛行機が晴天乱気流と遭遇しても強度的に耐えられるからといって、航空会社は乱気流中の飛行を日常的なものにしたいわけではありません。むしろ、温暖化によって成層圏下部の乱気流がますます激しくなっている現在、航空会社は可能な限り気流の安定したルートを航行するために、一定の調整に迫られる可能性があります。

スミス氏は「乱気流を確実に避けようとすれば、フライトの長時間化や複雑化が発生する…つまり、より多くの燃料を消費するようになり、さらに空港での待ち時間も増えることになるのです」と指摘しています。「残念なことに現状、最も効率のよい飛行ルートは最も乱気流が多いルートでもあります。効率を取れば危険性も伴う…となれば、どうすべきでしょうか?」

どういう答えを出すとしても、変わらないのは「シートベルトは締めておくべきだ」ということですね。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です