2017年9月24日の日曜日は、米プロフットボール・リーグのNFL(National Football League)にとって非常に重要な結果をもたらす1日となりました。

この日全米の各地で、かつてなかったほど数多くの選手やコーチ陣、そして一部のチームのオーナーまでが団結し、米国の現職大統領が口にした一連の罵詈雑言に抗議する行動に出たのです。ドナルド・トランプの発言は、NFLを米国の歴史に登場する同情心にあふれた人物のような存在に変えてしまいました。

トランプは、米国が大切にする価値観を祝すために開かれたあるセレモニーの最中に、合衆国憲法修正第一条で国民に保証された「信教・表現の自由」の権利を行使して、無言の抗議を行ったプロアスリートたちを悪魔に仕立てあげようとしたのです。

トランプがやり玉に挙げた一部の黒人選手は昨シーズン、試合前の国歌斉唱の際にひざまづくという形で抗議の意思を示していました。それは、米国の価値観とはかけ離れた社会の現状に抗議するためのものでした。しかし、抗議を行った選手らを孤立させ、社会的に取るに足りない存在にしようとしたトランプの試みは、かえって彼らを勢いづかせてしまったようなのです。

24日には、まずイギリス・ロンドンで開催されたジャクソンビル・ジャガーズ対ボルチモア・レイブンズ戦で、一連の抗議行動の口火が切られました。

試合前の米国国歌斉唱の際に、両チームの選手20数名がグラウンドに片膝を付いたままだったほか、両チームのサイドラインではさらに多くの選手が互いに腕を組んで団結の意思を示していたと伝えられています。

また、レイブンズのヘッドコーチを務めるジム・ハーボーやジャガーズのオーナーであるシャド・カーンもこの抗議行動に参加していたのです(カーンが昨年の米大統領選の際に、トランプに100万ドルもの献金をしていたことを考えると、この抗議は非常に重要です)。

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団結 — Jacksonville Jaguars (@Jaguars) September 24, 2017  

各チームのオーナーらがフィールド上での出来事に自ら関与するというのは異例のことであり、政治的に重要な出来事となればなおさらです。しかしカーンは、自らの行動について「(自分に与えられた)特権」とコメントしていたのです。

「私は試合前に、我がチームのキャプテンと会って話をし、ジャガーズの選手たちやNFLの全選手、そしてリーグへの支持を表明することにしました。この支持表明は、トランプ大統領が口にしたコメントは米国民を分断させる、ケンカを売るような発言を受けたものであり、そして国歌が流れる間に選手や彼らのチームメイト、そして我がチームのコーチたちと腕を組んで団結の意思を示せたことは私にとって名誉なことでした」とカーンは語っています。さらに、カーン以外にも、多くのチームオーナーが選手による抗議を支持していたと「ニューヨーク・タイムズ」は伝えています。

フィラデルフィア・イーグルスのオーナーであるジェフリー・ルーリーは次のようにコメントしています。

「我がチームの選手たちは、より良いコミュニティを実現するために、あるいは社会に存在する不正義への注意を呼びかけるために、それぞれの勇気ある人格とコミュニティに対するコミットメントを示しましますした。私はそんな彼ら(の行動)を支持します」。

また、クリーブランド・ブラウンズのオーナー、ジミー・ハスラムも次のように語っていました。「大統領やその他の人間による、誤って導かれた、不十分な情報に基づく、国民を分断させるコメントによって、われわれの団結を目指す努力が阻害されるようなことがあってはならないのです」と。

さらに、シカゴ・ベアーズ会長のジョージ・H・マッカスキーも24日午前付けの声明のなかで、「米国を世界でもっとも偉大な国家としているものは建国の礎となった自由であり、また敬意をもって平和的なやり方で自分の信念や考えを示すことができる自由であるのです」と述べています。マッカスキーは、「国民を分裂させるこの政治的な状況」のなかでもチームはひとつにまとまっていると語っています。

トランプの親友ロバート・クラフトも批判していた

ニューイングランド・ペイトリオッツのオーナーで、トランプの親友としても知られるロバート・K・クラフト(今年初めにフロリダのマル・アラーゴで開かれたトランプと安倍首相会談の際、夕食のテーブルに同席していた人物)も、さすがに今回はトランプの発言に厳しい批判を加えています。

クラフトは声明のなかで、「22日に大統領が口にしたコメントのトーンには非常にがっかりしています。とても多くの選手たちが非常に大きな貢献を行い、われわれのコミュニティに好ましい影響を与えていますが、そんな選手たちと付き合いがあることを私は誇りに思います。選手たちのフィールド上やフィールド外での尽力は、人々をひとつにまとめ、われわれのコミュニティをより強いものとすることに役立っているのです。この国でスポーツ以上に人々をひとつにまとめるものはありません。そして、残念なことだが、政治以上に人々を分断させるものはほかにないのです」。

レイブンズのレイ・ルイスも、今回は抗議行動に加わっています。

ルイスは昨年コリン・キャパニック(当時サンフランシスコ・フォーティーナイナーズに在籍していたクォーターバック)が国歌斉唱時の起立を拒否して物議を醸した際、キャパニックの行動を激しく批判していた元スター選手です。

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ツイート内容:

レイブンズとジャガーズの関係者が国歌斉唱の際にひざまずいたままでした。テレル・ザックスやレイ・ルイスを含むNFL選手をやり玉に挙げたトランプのツィートに対する抗議の意思表示です。 — Jessie (@JMKTV) September 24, 2017 

今年夏に契約期限が切れたキャパニックは、いまだに新しい所属先が見つかっていません。その理由をめぐる議論が巻き起こっており、彼に批判的な人間たちは、キャパニックがあまりにも多額のサラリーを要求しているためとする根拠不明の主張など、数多くの説得力に欠ける理由を挙げています。

しかし、キャパニックが才能に恵まれたクォーターバックである事実は変わらないのです。NFLには彼ほど才能に恵まれていないクォーターバックが数多くおり、なかにはそうした選手が先発を務めているチームもあります。つまり、キャパニックがいまだに仕事にあぶれているのは、彼が抗議行動を始めたせいだと…。

ESPNコメンテーターもトランプに対する立場を変えていた

ニューヨーク・ジェッツやバッファロー・ビルズでコーチを務め、現在はESPNでコメンテーターをしているレックス・ライアンも、今回の一件で立場を変えた人物の一人。レックスは昨年の大統領選の際に、トランプを支持したことを認めていたのですが、現在ではこの判断を後悔しているようです。

「みんながこれまでずっとひとつにまとまってきました。確かに自分とは違う見方もあるでしょうが、一言言わせてください:(トランプの発言には)むかついている」とライアンは述べているのです。

「正直に言います。私は(大統領選で)ドナルド・トランプを支持しました。バッファローで政治集会があった際に、トランプから紹介役を頼まれて、その役目を引き受けていました。しかし、私はいまトランプのコメントを目にして、ぞっとしています。そして、間違いなく、トランプのあの発言を見聞きして、この国のほぼすべての市民がぞっとしていると思います。またそうでなくてはおかしい」

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レイブンズとジャガーズは、トランプに対する抗議の意思をフィールド上で示したが、他のチームのなかにはそれと違うアプローチを採ったところもありました。

たとえば、ピッツバーグ・スティーラーズは、国歌斉唱の間にチーム全員がロッカールームから出ないというやり方で抗議を行っていました。ただし、ヘッドコーチのマイク・トムリンが示唆したところによると、この判断は選手たちの安全を確保するためのもので、この問題に関するなんらかの態度表明ではなかったようです。

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マイク・トムリンによると、スティーラーズ(の選手ら)は国歌斉唱のセレモニーに参加せず、その間をロッカールームで過ごすことになるという。 — Karen Civil (@KarenCivil) September 24, 2017
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ツイート内容:

われわれはチームとして、今日のゲームでの国歌斉唱に参加しないと決めました。私たちが、この国の有色人種を苦しめてきた社会的不正を許容することはないのです。国を思う気持ちから、またわれわれのためになされた犠牲を敬う気持ちから、われわれはひとつとなって自分たちの最も基本的な自由を否定する人々に反対します。あらゆる国民の平等と彼らへの正義の実現に向けた私たちの尽力は今後も変わらないのです。 — Seattle Seahawks (@seahawksPR) September 24, 2017 

NFLの試合での国歌斉唱に関するトランプ発言をめぐって、スポーツメディアが大騒ぎしている

ニューヨーク・ジャイアンツとフィラデルフィア・イーグルスでは、選手や関係者が国歌斉唱の際に腕を組み合うという形で抗議の意思表示をしていました。一部にはひざまずいたり、拳を高く突き上げた選手もいました。

このゲームでは、国歌斉唱の際に軍の飛行機が上空を飛び、フィールド上には巨大な星条旗が拡げられていたのです。ニューヨーク・タイムズによると、バッファロー、シャーロット、インディアナポリスでも同様のシーンがみられたといいます。

しかし、トランプへの抗議を行ったのは各チームの選手だけではなかったのです。デトロイトとナッシュビルでは、国歌を斉唱した歌手が最後にひざまずき、それぞれ抗議の意志を示していました。

デトロイトではリコ・ラベルという地元の歌手が抗議を行いました。

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デトロイトのゲームでは国歌を歌ったシンガーが膝まづきながら「星条旗よ永遠なれ」を歌い終えました。 — NFL Retweet (@NFLRT) September 24, 2017

ナッシュビルでも、メーガン・リンジーという歌手が同様の抗議を行っていました。

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シアトル・シーホークス対テネシー・タイタンズの一戦で国歌斉唱を担当した歌手のメーガン・リンジーは、ギターを抱えながらひざまずいて歌い終えました。— Adam Best (@adamcbest) September 24, 2017

こうした抗議に対しては、これまでにもたくさんの異論が出ていましたが、今回もまた同様で、たとえば国歌斉唱の時に抗議をするのはいかがなものかといったものから(起立拒否が)国旗すなわち軍人などへの不敬行為にあたるのではないかといったものまで、さまざまな声が聞かれました。

ところで、そんな異論を口にする人々がよく見落としているのは次のようなことです。

つまり、国歌斉唱の際の抗議行動はそもそも、抗議の対象である問題を現実の問題もしくは差し迫った問題とみなしていない人々に向けたものであり、そんな人間にとってこの抗議は不都合で、居心地がよくなく、不人気なものとなるように考えられたものだということなのです。

さらに、クレイ・トラビスもこの問題に首を突っ込んでいました。

トラビスは、今月に入ってCNNの番組中で、合衆国憲法修正第一条の下での言論の自由を守るためと称して「まぬけな人々」について喋っていたあの大馬鹿野郎のことを…。

トラビスは今回、もはや手垢にまみれた感のある「メディアの連中だけが大騒ぎ」という考えを口にしていました。つまりトランプの発言に気分を害されたのは、本当のアメリカ人の気持ちや彼らの置かれた状況がわかっていないメディアの人間だけ、という見方なのです。

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NFLゲームでの国歌斉唱に関するトランプ発言をめぐってスポーツメディアが大騒ぎしています。しかし、大多数のNFLファンはトランプと同じ意見です。ファンとスポーツメディアとの間でとても大きな乖離がみられています。 — Clay Travis (@ClayTravis) September 23, 2017

しかし、トランプのコメントは普通ではなく、簡単な説明で済まされるものでもありません。

国際社会がほんものの危機に瀕しているこの時期に、そして米国が冷戦終結後初めて核攻撃の能力を有する外国勢力との対決に近づいているように見える今というときに、トランプは尋常ではない時間を割いて、特定の黒人選手の解雇を求めたり、スポーツメディアに登場して自分を批判した人物を社会的に無視するように呼びかけていたのです。

トランプはまた人種差別や社会的な不正に抗議した選手たちを「ろくでなし」とも呼んでいました。そんなレトリックは、先週金曜日に行われたアラバマ州での集会だけでなく、その後のTwitterでの発言でも使われ続けているのです。

NBAのスター、レブロン・ジェームズとステファン・カリーもトランプを批判

さらに、トランプはプロフットボール選手以外の人間にも矛先を向けていました。

23日(米国時間)には、NBAのスーパースター、ステファン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)を標的にして、ホワイトハウスへの招待を取り消す旨のツイートをしていました。

ウォリアーズは昨シーズンの覇者であり、NBAの優勝チームは毎年ホワイトハウスへ優勝報告を兼ねた訪問を行うことになっています。この招待取り消しは、映画『ミーン・ガールズ』を思わせる意地の悪い仕打ちとも思えますね。トランプの招待取り消し発言を聞いたカリーはさっそく「一国の指導者の発言とは思えない」などとコメントしていましたが、この件についてとどめを刺す発言をしたのは、NBAを代表するスーパースターのレブロン・ジェームズでした。

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ツイート内容:

ステファン・カリーは前からホワイトハウスには行かないと言っていました。つまり、招待状などあってもなくても関係なかったのです。ホワイトハウス訪問が大きな名誉なのは、実際に行ってみるまでの話。 — LeBron James (@KingJames) September 23, 2017 

レブロンのこのツィートは、トランプの攻撃が彼を非常にいらつかせていると思われる抗議行動を大いに活気づけたことを物語るもっとも確かなサインです。

人種差別への抗議行動をめぐる問題は、すでにコリン・キャパニック個人、あるいはNFL選手に限った問題ではなくなっています。この問題は国歌斉唱を務める歌手らも巻き込んでいるのです。この問題はNFLチームのオーナーらも巻き込んでいます。彼らは自分の懐にお金が転がり込み続けている限りは、何かを問題視するということがほぼない人種です。そして今、この問題はフットボール以外のスポーツ選手たちも巻き込んでおり、そのなかには世界のバスケットボール界でいちばん顔の売れた選手やブランドも含まれているのです。

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「サンフランシスコ・クロニクル」のサンティアゴ・メヒアによると、アスレチックスのルーキー、ブルース・マクスウェルが国歌斉唱の際にひざまづく最初のMLB選手になる見通しだといいます。— Susan Slusser (@susanslusser) September 24, 2017

ドナルド・トランプという容赦なく世論を分断しようとする政治家には、自分に反対する人々を団結させるという不思議な能力があります。

とりわけ、一片の良識を持ちあわせている人間や米国での人種に関する正義の歴史について初歩的な理解を持ちあわせている人間であれば、トランプに対抗して団結しようとするでしょう。

このムーブメントが今後どんな展開をみせるかは時間が経ってみないとわかりません。しかし、9月24日が特別な1日だったことは間違いないのです。この日の出来事を通じて、米国での正義を求める長い闘いのなかで、コリン・キャパニックが重要な人物として記憶されてもおかしくはないということがたしかに証明されました。キャパニックは黒人に対する不当な扱いに抗議した最初のNFL選手であり、彼はいまその勇気に対する代償を支払っているのです。

Source / ESQUIRE US
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。