記事のポイント

  • 新しい研究で、定期的な運動と不眠症のリスク低減の関連性が示されました。
  • これは、運動が睡眠の質を向上させることを実証する証拠が増えたことになります。
  • 医師たちは、「運動を行う時間によって、違う結果がもたらされる可能性がある」と述べています。

運動と睡眠の関係を示す
新たな研究が発表

定期的に運動することは心臓機能の健康状態を良くし、がんを含む多くの病気のリスクを軽減するのに役立つことが知られています。ですが新しい研究*1では、定期的な運動が不眠症の軽減と睡眠の質の向上に関連していることが判明しました。

この研究は医学ジャーナル『BMJ Open』に掲載されたもので、10年にわたって39歳から67歳までの4300人以上のデータを分析し、身体活動量と不眠症の症状、夜間の睡眠時間、日中の眠気に関する質問を照合した結果として報告されました。

データによれば、定期的に運動している人(週に少なくとも1時間以上運動している人)はそうでない人に比べて、「寝つきが悪い」「睡眠時間が6時間未満」と答える人が少ない傾向にありました。研究者らはまた、定期的に運動していた人は6時間から9時間の睡眠をとる確率が55%高いということも発見しています。そして研究者らは、次のように結論づけました。

「身体的に活発な人は、一部の不眠症の症状や極端な睡眠時間(長すぎたり、短すぎたりすること)に陥るリスクが低い」

アメリカ国立心臓肺血液研究所(NHLBI)*2によると、不眠症は一般的な睡眠障害であり、入眠や睡眠維持、良質な睡眠を得られないという症状が現れます。たとえ十分な睡眠に適した時間と環境があったとしても不眠症が起こる可能性があり、日常生活に支障をきたす可能性もあります。

「不眠症は、ストレスやスケジュールや環境の変化によって引き起こされる短期的な場合もあれば、週に3晩以上の状態が3カ月以上続き、他の健康問題では説明できない慢性的な場合もある」とNHLBIは述べています。

ですが、定期的な運動が睡眠の改善に役立つのはなぜでしょうか? また、不眠症に対する最善の方法は何なのでしょうか? これらの疑問に対して、睡眠の専門家が解説します。

なぜ運動と睡眠の間に
関係があるのでしょうか?

寝ている男性
Tim Kitchen//Getty Images

運動と睡眠の関係を発見したのは、この研究が初めてではありません。しかし、定期的な運動と質の高い睡眠との関連性を示すことで、これまでの文献に新たな知見を加わりました。

2021年に発表された22件のランダム化比較試験のメタ分析*3(過去の複数の研究結果を統合し分析すること)では、身体的に活発な人は「睡眠の質が良い」と報告される傾向が高く、不眠症の症状が「ほとんどない」または「全くない」と回答する確率が高いことが示されました。また、彼らは昼間に眠気を感じる傾向が低いとも報告されてます。

また34件の研究を分析*4したところ、そのうち29件が、運動は人々の睡眠時間の長さだけでなく睡眠状態の改善にも役立つと結論づけていることがわかりました。また、23件の研究を対象とした2023年のシステマティックレビュー*5(網羅的に研究論文を収集し、体系的に分析すること)では、定期的な身体活動と睡眠の質の向上との間には関連性があることが判明。研究者らはまた、身体活動が不眠症のような睡眠障害の管理に“有望”であることも発見しました。

朝にカーテンを開ける男性
Tara Moore//Getty Images

最新の研究結果について、「驚くほどではないですが、この結果がジムに通う必要性よりも、身体を動かすこととの関連性を示しているのはいいことです」と、シャーロッツビル神経科・睡眠病院の神経内科医で睡眠医学の医師であるW・クリストファー・ウィンター医学博士*6(睡眠に関するトピックのディスカッションを行うポッドキャスト「Sleep Unplugged*7」のホストでもあります)は述べています。

「運動には非常に強力な睡眠補助効果が期待されるため、患者に対して『よく眠れていないなら、運動しなきゃいけない。そして、すでに運動している人は、もっと運動する必要があります』と、冗談交じりに言うことが多いです」

さらにウィンター博士は、「運動が睡眠に効果的な理由はいくつかある」とも述べています。例えば、運動することで、単純に身体を疲れさせるからということです。 激しい水泳のトレーニングをすると、寝る時間にはかなり疲れているはずということ。彼はまた「一緒に仕事をしているプロ野球選手も、シーズンに向けてトレーニングを始めると、あまり運動していないオフシーズンよりもよく眠れるようになる傾向があります」と指摘しています。

行動睡眠医学の専門家であり、ニューヨーク州ホワイトプレーンズで開業している公認臨床心理士であり、睡眠に関する情報やレビューを届ける「Sleepopolis*8」の睡眠健康ディレクターでもあるシェルビー・ハリス医師は、「活動的であることは疲れさせるだけでなく、質の高い睡眠をもたらす可能性もあります」と述べています。

「リラックスさせ、体内時計を整え、ストレスを軽減し、気分を高めるのに役立ちます。より深く安らかな睡眠をもたらし、体重管理に役立ち、総合的に健康維持につながります」

身体活動を
睡眠に活用する方法は?

ストレッチをしている男性
Westend61//Getty Images

不眠症は複雑な症状です。1日の身体活動を増やせば魔法のように、全ての不眠症が解消するわけではありません。「しかし、運動は入眠への意欲を高める可能性があります」とウィンター博士は述べています。

「複雑で難しい不眠症の場合、運動が有効な場合もあれば、そうでない場合もあります。それでも1日の運動量を増やすことは、間違いなく効果があるでしょう

どのように運動を取り入れるほうがいいかを? 考える基準として、アメリカの睡眠医学の専門家は、「アメリカ人の活動ガイドライン*9」に従うことを推奨しています。このガイドラインは中強度の運動を週に少なくとも150分以上、または激しい強度の運動を週に少なくとも75分以上行うことを提案。また週に2日以上、筋力を強化する運動(筋トレ)を行うこともすすめています。

日本でも厚生労働省から身体活動・運動分野のガイドラインが発表されており、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023*10」では、成人の場合は歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上行うことを推奨しています。また、筋力トレーニングを週2~3日行うこともすすめられています。

バーベルを持つ男性
jacoblund//Getty Images

しかし、より良い睡眠を得るために運動をする際には、留意すべきニュアンスがいくつかあることもわかっています。ある分析*11によると、定期的に中強度の身体活動を行うことが睡眠の質を高めるうえでとても効果的ということですが、逆に高強度の身体活動を特に夕方や就寝時間近くに行うと、睡眠障害を引き起こす可能性も高いこともわかっています。

ウィンター博士は、「いつでも運動できるのであれば、朝一番に運動することが睡眠にとって効果的です」と述べています。

「遅い時間(夜)に運動すると、リラックスするべき時間に興奮したように感じてしまう可能性があります。一方、朝に運動すると、身体に目覚めるサインを送ることができると言われています」

ただし、「夜のトレーニングが誰にとっても悪いわけではなく、最終的には自分の身体次第です。一貫性が重要ですので、自分のスケジュールに合った時間を選び、それに従ってください」

「夜のトレーニングの後にリラックスできる人もいますが、寝るまでに気持ちと身体をリラックスさせるのが難しいと感じる人もいます。運動することに自分の身体がどのように反応するかに注目し、できればより良い睡眠をとるために就寝直前の激しいトレーニングは避けてください」

しかしながらウィンター博士は、「朝に運動するのがつらい場合は、できるときに運動するのがベスト」と述べています。

「ほとんどの人は運動をした激しい(忙しい)一日の終わりには、より深い眠りにつくことができるでしょう」

[脚注]

*1:『BMJ Open』に掲載された「Association between physical activity over a 10-year period and current insomnia symptoms, sleep duration and daytime sleepiness: a European population-based study」を参照

*2:アメリカ国立心臓肺血液研究所の公式サイトに掲載されている「What Is Insomnia?」を参照

*3:科学や技術、医学等の分野の科学ジャーナル『Frontiers』に掲載されている「Effects of Exercise on Sleep Quality and Insomnia in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials」を参照

*4:アメリカ国立医学図書館のデータベース「PubMed」で公開されている「Interrelationship between Sleep and Exercise: A Systematic Review」を参照

*5:「PubMed」で公開されている「The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review」を参照

*6:W・クリストファー・ウィンター医学博士のプロフィールサイト

*7:ポッドキャスト「Sleep Unplugged」の紹介ページ

*8:「Sleepopolis」の公式サイト

*9:アメリカ合衆国保健福祉省が発行する「Physical Activity Guidelines for Americans 2nd edition」を参照

*10:厚生労働省が作成した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を参照

*11:「PubMed」で公開されている「The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review」を参照

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Translation /Yumi Suzukii
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Prevention US