ドナルド・トランプ大統領は、独裁者や独裁主義的なリーダーが大好きです。

 彼がロシアのウラジミール・プーチン(近隣諸国に侵入したり自分に批判的な人間や政敵を葬り去るといったことを、日常的にやっている人物)やフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ(ドラッグの売人の殺害を、超法規的措置として裁可した人物)、あるいはトルコのレセップ・エルドアン(自国の民主主義と人権に攻撃を仕掛けまた、そのことに抗議した人たちを配下の軍隊や警察を使って攻撃したとされる人物)といった国家指導者のことを褒めそやす姿に、私たちはすっかり慣れてしまいました。そして、今ではそんな彼の言動を見聞きしても、特に驚いたりすることはなくなってしまったことほど恐ろしいことはありませんね。
 
 しかしながら2019年2月下旬にベトナムであった、北朝鮮の核ミサイル開発をめぐる2度目の米朝首脳会談を前に、この米国の大統領が前回のシンガポールでの会談の際、金 正恩に対して言ったというお世辞のことが報じられていました。 
 
 「ドナルド・トランプ大統領は、シンガポールで新たに友人となった北朝鮮の金正恩国務委員長を褒めるネタを探していて、実に変わったお世辞を思いつきました」と、CNNのカイリー・アトウッド・リプタクは伝えていました

 「大統領は金 正恩氏に向かって、自分は社会的に大きな力を持つ豊かな家庭で生まれ育った人間をたくさん知っている」と語り、さらに「リッチな家の子供の中には、どうしようもない大人になる人間も多い。ですが、貴君はそんな人間ではない」と、彼はつけ加えたそうです。ご存じのとおり金 正恩氏は北朝鮮の横暴な独裁者で、彼の父親と祖父もやはり国家の指導者でした。

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AFP//Getty Images

 これは、「金 正恩がろくでもない人間に育ったことには、疑問の余地はない」ということにほかなりません。

 トランプ大統領がそうではないと思っているというのは、トランプの世界観とそして彼自身の育ちに驚くべき欠陥があることを示すものです。金 正恩氏には権力や支配、冷酷さ、お金といった彼が価値を感じるものを示す特質が見られると同時に、トランプが考える金持ちの家の子どもに見られがちな弱さはひとつもないように見えます。そして残念ながら、この話はトランプ氏自身が生まれ育った家庭や、アルコール中毒に苦しむ彼の兄のことを思い出させます。トランプ氏は、この兄に同情を示すときもあれば、それを弱みとしてつけ込むこともあります。 
 
 今回の首脳会談が、トランプ氏が金 正恩氏を褒めそやす最新の場であったことは改めていうまでもありません。ふたりの関係は、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射実験を続ける中、互いを侮辱し合うというひどいカタチでスタートしました。

 トランプ氏は国連総会での演説で、金 正恩氏を「ロケットマン」と呼んでバカにしたこともありましたが(あれは米国にとって誇らしい瞬間でした)、そんな二人が今では、「恋に落ちた」ような関係だとトランプ氏は話しているのです。ことが核兵器の関わる争いですので、ツイッターを使って喧嘩しているよりは、話し合える関係にあるほうがいいに決まっていますが、だからと言って人類に対する犯罪を常習的に犯している人間に向けて、そんな見え透いた褒め言葉を繰り出す必要はありません。

 トランプ氏は、私たちの同盟国である欧州の民主主義諸国に対して批判的な言動を続けてきており、また金 正恩氏以外の独裁者も褒めてきていますので、そうした言動と合わせるとトランプ氏の金 正恩氏へのお世辞は、世界に対して誤ったメッセージを送ることになってしまいます。

North Korean Leader Kim Jong-un Arrives In Vietnam Ahead Of The U.S.-DPRK Summit
Linh Pham//Getty Images
2019年2月26日、中国との国境に近いベトナムのランソンにあるドンダン駅に列車で到着した後、乗り換えた自動車から手を振る金 正恩氏。

 
 さらに、金正恩氏と彼の取り巻きたちがこれ(トランプ氏のお世辞)を真に受けるとは思えません。トランプ氏がその直前に行った国連演説で、北朝鮮首脳部による人権侵害にはゾッとすると話していたからです。トランプ氏は前回の会談で、ほとんどに何も成果を挙げなかったと大半のアナリストが見ていました。が、それでも金 正恩氏は今回本当に譲歩することになるのでしょうか。

 米国の諜報機関の責任者たちは議会で証言し、北朝鮮には完全非核化を実行する意図はまったくないと述べ、トランプ氏を悔しがらせていました。トランプ氏が前回の会談以降、どんな交渉の圧力材料をつくり上げたかははっきりしません。狡猾なディールメーカーを自認するトランプ氏なら、行儀よくしているだけではどうにもならないくらいわかっているはずです。 
 
 金 正恩氏はダメ人間ではありません。

 大量破壊兵器に分類される神経ガスを使って、自分の異母兄を殺すように彼が命じたと韓国の私たちの仲間が言っているとしてもです。韓国の諜報機関の元長官が書いたある書物には、金 正恩氏が自分の叔父の処刑を命じた際に、とても強力な対空兵器を使うよう指示したことから処刑された叔父の体は粉々になり、さらに、その後火炎放射器で焼かれたと書かれています。

 この張 成沢氏(チャン・ソンテク、金 正恩氏の叔父)の処刑の前には、張 成沢氏の二人の部下も同じ目にあっていました。部下が処刑されるのを目にして、張氏は気を失ったそうです。さらに、約50人の政府高官も「追放」されていましたが、その理由は汚職や韓国のメロドラマを観ていたことまでさまざまです。 
 
 金正恩氏が国家指導者になってからの北朝鮮は、人権問題に関して悲惨な状態になっています。政治犯として投獄されたり、強制労働キャンプに送り込まれた国民の数は何十万人にも上ります。また、飢饉が何年も続いたせいで、飢餓状態になる国民が大量に発生、食糧不足のために死んだ人の数は数十万人から最大300万人に達するそうです。ちなみに、金 正恩氏が犯した「人類に対する犯罪」として国連が挙げているものの中には、「奴隷化、皆殺し、強制堕胎、収監、殺人、レイプ、その他の性的暴行、拷問」が含まれています。 
 
 2019年3月1日現在、ベトナム・ハノイで行われた米朝首脳会談では、最初こそ二人とも笑顔で話していたのですが、マスコミ立ち入り禁止の会談で何らかの異変が起こったようで、トランプ氏が招待した食事会に金 正恩氏が姿を現すことなく、中止となりました。はたして何が原因で二人の仲が引き離されたのか、世界中の人々が注目していることでしょう。 

 
 
 

From Esquire US 
Translation / Hayashi Sakawa 
※この翻訳は抄訳です。


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