2019年7月23日(火)、猛暑の襲来に揺れていた英国ではボリス・ジョンソン氏が保守党党首選に勝利し、新たな首相となることが決まりました。
 
 この発表からわずか10分後、ドナルド・トランプ米大統領はボリス・ジョンソン英首相の支持を表明し、「素晴らしい首相になるだろう!(He will be great!)」とツイートしました。 
 
 その日の夜、トランプ氏はワシントンD.C.で保守派の高校生が集まった会合に出席。壇上でジョンソン氏指名のニュースに言及し、聴衆から歓声を浴びました。

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 トランプ氏はジョンソン氏が「英国のトランプ」と呼ばれていることに触れ、「英国民は彼を『英国のトランプ(Britain Trump)』と呼んでおり、英国民はそのことに関して『いいことだ』と言っているようだ…」と述べています。「Britain Trump」という英文法的センスに欠けるあだ名(正確には『British Trump』)は、多くの人々の笑い種となりました。ですが、ここで新たに選出された英国の指導者について、トランプ氏が嬉しそうに語った話はあまり笑えません。 
 
 フランスのマリーヌ・ル・ペン国民戦線党首からブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領まで、トランプ氏の名前は明らかに欧州やそれ以外の地域の指導者との比較の中で使われてきました。このため、どこかの政治家を「〜のトランプ」と呼ぶことは、その政治家たちがグローバルなポピュリズム(公民主義)の波に乗る右翼的政治家であることを端的に表現する方法となったわけです。 
 
 とは言え、ジョンソン氏の新たなあだ名は、不安になるほどしっくりくるものです。この独りよがりで失言まみれの英国首相は、粗野なトランプ氏の従兄弟にも思えるほどです。

 例えば、2人はいずれも極端な特権の恩恵を受けてきたにもかかわらず、自分たちを「市民の味方」と表現します。ポリティカル・コレクトネス(性・民族・宗教などによる差別や偏見, またそれに基づく社会制度・言語表現は,是正すべきとする考え方のこと)に対する憎しみや滑稽な無能さという煙幕を利用し、強硬な右派のアジェンダを覆い隠している点も同じです。どちらもずんぐりむっくりしたブロンド男性であり、常に虚勢を張り、笑いも誘っていますので…。

Boris Johnson
Getty Images

 また、どんなスキャンダルでも失脚に追い込まれる様子がないという点でも、共通しています。トランプ氏は女性蔑視発言の録音テープや、ロシアの選挙介入スキャンダルなどで非難されてきました。一方でジョンソン氏の失言は、イランで投獄された英国市民の刑期延長につながったともされており、党首選終盤には恋人との口論で警察が呼ばれたこともありました。 
 
 2人はこれらのスキャンダルやその他、次々に報じられるニュースが巻き起こした論争を、無視して相手にしませんでした。また、どちらも明らかな人種差別で何度も非難されています。

 2019年7月14日(日)に、トランプ氏はアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員ら有色人種の女性議員グループ(通称「スクワッド(Squad)」)に「出身国に帰れ」と発言。その一方ジョンソン氏は、2018年の「デイリー・テレグラフ」紙のコラムの中で、ブルカをかぶったムスリム女性について「郵便ポストのよう」と書き、以前には黒人の子どもを差別語で呼んでいたり、「スイカのような笑顔」と評したこともありました。 
 
 2019年7月23日(火)、保守党はジョンソン氏の力強い演説の後に、同政権が取り組む「6つの計画」をツイッターで明かしました。実際のところ挙げられたのは5項目でしたが、NHS(国民保険サービス)や警官に関する政策以外に加えられたのはわずかで、計画というよりはクリスマスのウィッシュリスト(欲しいものリスト)のようでした。

President Trump Returns To The White House After Day Trip To Camp David
Chris Kleponis//Getty Images

 トランプ氏はかつて、「(ニューヨークの)5番街のど真ん中に立って、誰かを撃ち殺しても票を失うことはない」と言いましたが、ジョンソン氏はまだこのレベルにはありません。

 ですが、現時点での話です。ジョンソン氏は間違いなくトランプ氏が巧みに実行してきた目くらましの政治を学んできており、次から次に話題をつくることで失言が水に流されることを知っています。ですから彼は、これまでも人々の注意をそらすことができているのです。 
 
 これもまた、2019年7月23日(日)のことですが…。

 ジョンソン氏は保守党党首選のステージに立ち、ブレグジット(EU離脱問題)について曖昧に約束しました。その後に報じられた重大な話題の1つは、彼の残念なジョークについてでした。彼は自らの選挙運動のキーワードである「Deliver(ブレグジットの実現)」、「Unite(保守党の統一)」、「Defeat(労働党のジェレミー・コービン党首の敗退)」に「Energize(英国の活性化)」を加え、「DUDE(奴)」という頭文字を取って聴衆を笑わせたのです。そして、「この国を活性化するぞ」と彼は言いました。

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`Dude! We Are Going to Energize the Country': Boris Johnson
`Dude! We Are Going to Energize the Country': Boris Johnson thumnail
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 アメリカ国民は手遅れとなる段階まで、トランプ氏の問題性を真剣に受け止めないという重大なミスを犯しています。このままでは英国でも、ボリス・ジョンソン氏の就任を笑い事としている場合ではないことを知っておくべきではないでしょうか 。ジョンソン氏が今後「ブレグジット」をはじめとする外交をどのように行うのか、彼の様子を見届けましょう。 

 

 
 
From Esquire UK
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。