この記事をざっくり説明すると…

  • 「火星への移住計画を考える際には、暗号通貨の使用が検討されることになるだろう」と、イーロン・マスク氏が語っています。
  • お金に価値を持たせるためには、購入できる商品が必要ということになります。
  • しかし、嗜好品はおろか、生活必需品の火星への輸送など、その手段も分かっていないのが現実です。

火星でもキャッシュレス!?

 日本時間2020年11月16日、初の商業宇宙船となる「クルードラゴン」の発射に成功したアメリカの民間宇宙ベンチャーであるスペースXのイーロン・マスクCEO。彼によって同年12月25日にインターネット上でなされた発言が、議論を呼んでいます。

 その発言の内容とは、「火星への移住計画を検討するに当たり、そこには暗号通貨、つまり仮想通貨のシステムが必要になるかもしれない」といった趣旨のものになります。「それはつまり、“マーズ(火星)コイン”のようなもの?」というフォロワーからの質問に対し、マスク氏は「その通り」と答えています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 火星への移住者にとって、暗号通貨はどのような意味を持っているのでしょうか? そもそも、火星移住者が使おうと考えている伝統的な通貨というもの自体が存在するのでしょうか? マスク氏が思い描く火星移住の夢は壮大です。彼は、「火星においては、直接民主主義のシステムが採用される」か、もしくは「法の概念すら存在しない社会になる」とも言っているのです。

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 しかしながら、そのいずれの考えも荒唐無稽なもののように思えるかもしれません。なぜなら、火星に移住するとなると、人が生活するための資源を厳密に管理する必要が生じます。そして、生活必需品をマスク氏がいかにして火星への輸送を行うのかすら、現時点では明確になっているわけではありません。

 そういった現状を考えてみると、現時点で火星で用いられるべき通貨について論じることなど、現実より遥か先をいく絵空事のようにさえ思えてしまうかもしれません。

火星における暗号通貨にはメリットも

 ところで暗号通貨には、いくつかの大きな利点があることも確かです。

 火星への移住者にとっては、地球基準の紙幣などより、仮想の口座を利用することのほうが理に適っているのかもしれません。火星に現金を移動させるのは非現実的なことに思えますし、その先で行なわれる取り引きを円滑に行うための合理的な方法など想像もつきません。移住者たちは火星への長旅の間、そして到着後の生活が始まった後、どちらでも共通して使うことのできる移住者専用の取引口座を持つことになるのでしょう。

 果たして口座を用いることで、地球上との取り引きも可能になるのでしょうか? この点については、さほど難しくないかもしれません。専用電波を使って送受信を行えば、取り引きのデータは最大約20分程度で地球へ届くものと考えられます。すでに銀行や取引決済業者に用いられている「ACH(Automated Clearing House)送金」のシステムは、強固なインフラを備えています。そして多くの銀行が取り引きに用いるデータは、可能な限りシンプルなカタチとなっています。例えて言うなら、「プレーンテキスト」によるデータ処理に限りなく近いカタチです。つまり、小さなデータサイズであれば問題なく処理できるというわけです。

 火星移住者が暗号通貨を用いて取り引きをするためには、地球上の私たちが使っているような携帯端末が必要になるでしょう。それさえあれば、ピアツーピア取引(サーバーを介さずクライアント(pcやスマホなど)の端末同士がつながることで取引の処理を行う通信形態のこと。P2Pと表記されることも)は可能になります。クローズドな経済空間の中では、各個人が資産を保持するための口座さえ持っていれば、取り引きを行うことができるはずです。

 しかし、もしマスク氏の言う直接民主主義が可能になるほどの小さなコミュニティということであれば、そもそも通貨が必要となるのか、その必要性さえ現時点ではわかりません。ただ、通貨を用いることを前提として考えるなら、そこには買うことのできる、もしくは買わないという選択を可能にする、なんらかの嗜好品の存在を思い描くことができます。

 紙幣の流通が限られている地域では、例えば小さなキャンディーなどが「小銭」の役割を果たすことがあります。火星生活においては小型のハードウエアや、さらには塩やスパイスなどを「代用貨幣」として用いることになるのかもしれません。

 今回のマスク氏の発言にあった、火星で使用されるかもしれない、いわゆる“マーズコイン”のような通貨は、例えば大きな取り引きには有用かもしれません(それが一体どのような取り引きを指すのか、現時点では想像できませんが…)。しかし、特に需要のある物品が管理下におかれているような環境においては、人々はやはりシンプルな価値交換に立ち返っていくのではないでしょうか。

Source / POPUAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です