2016年は、音楽愛好家にとって余りにも多くの偉大なミュージシャンたちが、天空のスタジオへと籠ってしまった年でした。
しかし、後に残された人々が彼らに捧げる惜別(せきべつ)の秀作や、ボン・イヴェールやレイディオヘッドなどのように長きにわたって隠れていたバンドからのリリースなどによって、その埋め合わせできたのかもしれません。
ジュリア・ジャックリン(おすすめです!)やジャック・ガラット(これもまた!)のような、有望な新人たちのデビューがあったほかに、予想に反して過去12カ月の音楽界には、皆さんの気に入るものがたくさんあったのです。まだ、全部聴きいっていない方も多いこでしょう。それでは今回、2016年にリリースされたベストアルバム20枚のなかから、Part 1として10枚をご紹介いたします。
ぜひハミングしてください!
LET THEM EAT CHAOS - KATE TEMPEST
アーティスト名/
ケイト・テンペスト
アルバム名/
Let Them Eat Chaos Import
国の厳しい現状を嘆く曲「Europe Of Lost」から、イカれた感じで肩をすくめて見せる快楽主義的曲「Whoops」まで、ケイト・テンペストの孤独なロンドン育ちの物語は、実にウィットと智慧、そして美に溢れています。
ロンドンで、「ラップ」という形で社会の不平等さなどの問題に挑む女性、それがケイトです。-その作品は、賞を得た作家による戯曲、さらに詩人のささやき以上の存在ではないでしょうか。その秀逸なストーリーを見事なビートに乗せて我々の耳に、そしてハートにアプローチしてくるのですから。
「LET THEM EAT CHAOS」をクリエイトしたケイト・テンペストは、同じく鋭い視覚と感性により、日々の暮らしを見事に綴り続けるラッパー、The Streets(ザ・ストリーツ )のマイク・スキナーの貴重な継承者であることは確かなのです。
ヘビーローテーションで聞くリスナーたちの欲望に対し、必ず報いてくれる1枚です。その歌詞はまさにDope!です。…ということで、2016年にリリースされたベストアルバムの1つにプッシュします!!
LEMONADE - BEYONCÉ
アーティスト名/
ビヨンセ
アルバム名/
LEMONADE
「ヴィジュアル・コンセプト・アルバム」と謳われ、60分のビデオがついているビヨンセの6枚目のアルバムはメッセージ性が強いことで、最初はマイナスのイメージでスタートするかと思ったのですが…、これは完全な勝利となりました。
このアルバムに収録された12曲のなかには、ポスト・ダブステップの寵児として名高いジェームズ・ブレイクとコラボした「Pray You Catch Me」(一度聴いたら耳から離れない…)や、現時点のウェストコーストを代表する最高のラッパーと称されるケンドリック・ラマーと歌った「フリーダム」("I'm a riot through your borders call me bulletproof"私は「暴動」をスルーなんかしないわ、私を防弾チョッキと呼んで…)があります。この他、「Hold Up」や「All Night」のようなパワーポップの曲も収録されており、「LEMONADE」は完璧なバランスでグッと心に迫る作品になっています。
THE COLOUR IN ANYTHING - JAMES BLAKE
アーティスト名/
ジェイムス・ブレイク
アルバム名/
THE COLOUR IN ANYTHING
2000時代前半にイギリスのロンドンで誕生したエレクトロニック・ダンス・ミュージックの一種である“ダブステップ”で、2011年大胆にデビューしたジェームズ・ブレイクが2016年に発表したアルバムがこの「THE COLOUR IN ANYTHING」。これを聴いて分かるのは、今回のリリースには十分に時間をかけたということが推測できる仕上がりになっています。なんと17曲76分の収録時間。ちょっと長いと思うかもしれません。「もう少しポイントを絞るべきだったのでは?」と思う方もいることでしょう。
とはいえ、彼の感傷的な自己憐憫(じこれんびん=自分を哀れに思うこと…など)になりがちな傾向であるにも関わらず、フランク・オーシャンとのコラボ「My Willing Heart」のようなシングルでは、彼が他の追随を許さないニュアンスとエレクトリックの挟間で、本領発揮しているのです。
「Forever」では自らの声のパワーを見せつけ、「Limit To Your Love」ではピアノのバックだけで忘れがたいメッセージが心に刻まれることでしょう。ジェイムズらさしさが見事に表された、誰もが(特にファンの…)望んでいる楽曲が集められているのです。
BLACKSTAR - DAVID BOWIE
アーティスト名/
デヴィッド・ボウイ
アルバム名/
BLACKSTAR
もし自分を、自分の中にある“弱さ”ではなく、“バイタリティー(活力)”で印象づけたいのなら、このアルバムを聴いてみてください。デヴィッド・ボウイからファンへのお別れの贈り物と言えるかもしれません、それがこの「ブラックスター」なのです。
「ジギー・スターダスト」はケンドリック・ラマ―にも影響を与え、LCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィーもパーカッションでフィーチャーしていることが分かります。
「月曜日はどうだったの?」とリフレインされる曲「Girl Loves Me」は目まぐるしいパーカッション演奏の集合体になっています。そして最後の曲「I Can’t Give Everything Away」は、痛いほどの率直さで語りかけてきます。最初から最後まで、完成度の高い傑作中の傑作なのです。
A MOON SHAPED POOL - RADIOHEAD
アーティスト名/
レディオヘッド
アルバム名/
A MOON SHAPED POOL
従来型マーケティングのやり方を避けるためでしょうか、レディオヘッドはアルバムをリリースする1週間前まで、なんとプロモーションを行いませんでした。ただの寄せ集めのようにも思えるのですが、フロントマンであるトム・ヨーク率いるクィンテットによって、それぞれには意図がこめられているのです。そしてさらに、綿密に考えられた構成のもと、一枚のアルバムとして仕上げられているのです。
最初シングル「Burn The Witch」は2000年にバンドのために書かれた曲ですが、アンチ反権威主義的。歌の中心のパーカッシブなストリングの音で完璧なサウンドになっています。
「Daydreaming」は、それ以上のものとは感じられませんが、「Present Tense」と「Glass Eyes」には病的な歌詞やピアノの繊細な調べ、さらにギターによるストリングのさざ波が揺れ動くはずです。このアルバムはすべてがピッタリ合致しているというわけではありませんが、まさしく意図した通りのものになっているかと思いますよ。
YOU WANT IT DARKER - LEONARD COHEN
アーティスト名/
レナード・コーエン
アルバム名/
YOU WANT IT DARKER
2016年に旅立った、偉大なる音楽家をもう一人ご紹介しましょう。レオナード・コーヘンです。彼もまた、お別れの贈り物をファンへ残していきました。
「You want It Darker」の歌詞は、詩的で濃密。叙情的で緻密な哲学をもった歌詞になっています。また「On The Level」では、"Your crazy fragrance all around, your secrets all in view(あなたの狂気の香り、あなたの秘密をすべて見ている)"や"They ought to give my heart a medal, for letting go of you(彼らは私の心に、メダルを贈るべきさ。君から去っていったことで)"と暖かなフォークの調べで届けてくれるのです。
そしてタイトルトラックである「YOU WANT IT DARKER」は予言ともを思わせるように、ハスキーな声で聖書にあるような言葉を語りかけます。“I'm ready, my lord.(準備はできている、神よ)”と歌っているのです。
AIM - MIA
アーティスト名/
M.I.A.
アルバム名/
AIM
催眠術にかけるような重量感のあるサウンドで、大胆でモダンなメロディで歌いあげるM.I.A.。まさしく今のミュージックシーンで最も愛される、独創的なミュージシャンです。
ラブソング「Ali r u OK」では、 “Ali, I haven't even seen you since we left Calais…(Ali、カレー(フランスの街)を出てから、私たちは会えていませんね...)”と、あまりにも忙しい恋人への歓喜を描いた楽曲となっています。そして、友への抒情歌とも言える「Foreign Friend」もあります。
狂気じみたカッコー、鷲、七面鳥など、その他大勢との交友をほのめかす「Bird Song」では、脅しのように“Watch the sky(空を見ろ)”と綴られ、比喩的に戦争への思いを明らかにしています。
この「AIM」は、実にスマートに挑発的な主張が述べられた作品です。その中には、まさにサッカリンのように最初は甘く感じることでしょう。でも、最後にはヒ素のような毒気が襲ってくるのです。
THE MOUNTAIN WILL FALL - DJ SHADOW
アーティスト名/
DJシャドウ
アルバム名/
THE MOUNTAIN WILL FALL
DJシャドウのニューアルバムは、もちろんサンプリングを活かしたサウンドの楽曲で始まります。例えばチッパー、スタイラスオンビニルのスクラッチをバックにした“Hi!”という言葉でエコーイングするなど…。DJシャドウの楽曲はサンプリングに始まり、そしてサンプリングに終わるのです。
彼の偉大なスキルは、古い音楽を採掘すること以外にもあります。その点で最大の魅力となっているのが、その編成方法。ムードとジャンルを変え、驚ろくべきほど完璧な構成によって、アルバムはさらなる輝きを放つのです。
ほとんどがインストゥルメンタルで構成されている「Three Ralphs」もおすすめですが、ドイツ人名プロデューサーであるニルス・フラーンをフィーチャリグしての「Bergschrund」は秀作です!
しかしこのアルバム、さまざまな要素が入り乱れているのですが、間違いなく1人の指揮官による統率のとれた作品であることが理解できるでしょう。それだけ期待を裏切らない作品なのです。
DON'T LET THE KIDS WIN - JULIA JACKLIN
アーティスト名/
ジュリア・ジャックリン
アルバム名/
DON'T LET THE KIDS WIN
ジャックリンは、アルトな声域で心地いいカントリー・ミュージックを歌います。彼女は元々、アパラチア音楽を歌うインディーなフォークバンドで歌っていました。「Don't Let the Kids Win」はアメリカの文化に、さらに愛着があふれることになる作品です。特にプロムの後の静けさのようなシングル「Pool Party」と「Leadlight」は、アメリカの文化にピッタリな曲と言えるでしょう。
しかし、このアルバムがもつ本当に強みを見せるのは、ジャンルとサウンドの巧みな実験であるのです。激しいインディーポップの「Coming of Age」は、タイトルトラックの眠たい残響と美しい対比で魅せつけてくれます。
FAMILIAR TOUCH - DIANA
アーティスト名/
DIANA
アルバム名/
FAMILIAR TOUCH
カナダのシンセポップトリオが初めて絶大な喝采を浴びたアルバム、「LPパーペチュアル・サレンダー」の発表から早くも3年が経ちました、波を起こしてから、我々にとって大いに喜ばしいことに、彼らは帰ってきて、以前よりも更に良くなっています。
このセカンドアルバム「Familiar Touch」は、80年代スタイルのアルトポップとソウルのキラキラしたブレンドからなり、ジャンルの堅苦しい制約を超越しています。そして決して場違いではない、ジョン・ヒューズのサウンドトラックもフィーチャーしているのです。
By Esquire Editors on November 17, 2016
Photos by ESQUIRE UK
ESQUIRE UK 原文(English)
TRANSLATION BY Spring Hill, MEN'S +
※この翻訳は抄訳です。
編集者:山野井 俊