ザ・ローリング・ストーンズの
最新アルバムの内容とは

ミック・ジャガーは、いつからこんなに繊細になったのでしょうか? 1970年代あたりから自発的に禁煙家に転向し、ドラッグも一切断つなどもう数十年間は健康志向に徹しているとは聞いていましたが、メンタルまで…。

2023年10月20日(金)に発売されたザ・ローリング・ストーンズのニューアルバム『Hackney Diamonds(ハックニー・ダイアモンズ)』で私たちが最初に耳にする言葉は、「Don't get angry with me.(怒らないで)」です。他の曲では、「Why you get so pissed off/Why you bite my head off?(なぜそんなにムカつくんだ/なぜ俺に食って掛かるんだ)」と言い、「when the whole wide world’s against you.(全世界が敵に回ったらどうなるんだ?)」と問いかけています。

これは、ロック界の偉大なアウトローの一人である(あった?)ミック・ジャガーには、期待していないテーマではないでしょうか。ミック・ジャガーという人間の核は、「誰に怒られようと構わない」という精神ではないでしょうか? 60年以上前にローリング・ストーンズを結成した当初は、できるだけ多くの人を怒らせることが目的だったはずです。

Universal Music ハックニー・ダイアモンズ(通常盤)国内盤SHM-CD ジュエルケース仕様

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少し傷つき、何かを証明しなければならないと感じていることは、バンドにとって良いことなのかもしれません。なぜなら、バンドの26枚目のスタジオアルバムであり、18年ぶりのオリジナル楽曲集となった『Hackney Diamonds』は、ロックンロールの可能性の限界に挑み続けるグループによる一貫して非常にかっこよく堂々とした曲のセットになっています。

ローリング・ストーンズは何年もの間、新たな音楽を模索していました。が、空回りし、生産的な展開(ブルースのカバーだけで構成された2016年発表の『ブルー&ロンサム』)や悲劇的な出来事(2021年のドラマー チャーリー・ワッツの死)に振り回されているよう感じました。ですが、遂にジャガーは期限を定め、バレンタインデーまでにアルバムを完成させることを主張したのです。

グラミー賞を受賞した音楽プロデューサー、アンドリュー・ワットの功績も大きいでしょう。ワットはポスト・マローンやジャスティン・ビーバーを手がけたことで名前を知られるようになり、最近ではオジー・オズボーン、エルトン・ジョン、イギー・ポップなどを手がけてます。彼のタッチは、ロッカーたちのサウンドに少し艶を加えすぎることもありますが、ロッカーたちの得意な演奏にフォーカスできる力があるのは明らかです。

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The Rolling Stones - Angry (Official Music Video)
The Rolling Stones - Angry (Official Music Video) thumnail
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このアルバムは、まるでバンドのさまざまなスタイルを表現したプレイリストのようです。ダーティなグルーヴの「Get Close(ゲット・クロース)」、涙を誘う「Dreamy Skies(ドリーミー・スカイズ)」、失恋バラードの「Depend on You(ディペンディング・オン・ユー)」など…。アルバムに入っているもの全てが最高の楽曲というわけではありませんが(オープニングトラックであるファーストシングルの「Angry(アングリー)」は他に比べると弱い楽曲の一つです)、不発と言える曲は見当たりません。

ワットの努力による最大の恩恵は、あるいはジャガー自身の限りない野心の賜物かもしれませんが、ジャガーのボーカルパフォーマンスです。80歳のジャガーはセルフパロディに陥ることなく(意図的なセルフパロディは彼の際立った才能の一つです)、60年来私たちが知っている歌い方を強調し、情熱的なサウンドを聴かせています。また、キース・リチャーズが長い間「古代の織物芸術」と表現してきた、リチャーズとロニー・ウッドによるリードギターとリズムギターの演奏が壮大に披露され、若手バンドのためのクリニックのようです。

一般的にジャガーとリチャーズのチームは、作詞家として過小評価されています。正直に言えば、『Hackney Diamonds』全体を通してジャガーが「お前は俺の写真を友だちみんなに見せたじゃないか」と嘆くような、間抜けなセリフや投げやりなセリフがたくさんあります。最も興味深いのは、「今、俺は死ぬには若すぎるし、(大切な人を)失うには年をとりすぎている」「俺の未来は全て過去にあるのだろうか」など、自分たちの年齢や経験を認める瞬間です。

steel wheels tour
Paul Natkin//Getty Images
1989年に開催された、ザ・ローリング・ストーンズのツアーでの1枚。

「Live by The Sword(リヴ・バイ・ザ・ソード)」の歌詞は、ありきたりに感じられるかもしれません。ですが、ベーシストのビル・ワイマンとドラマーのワッツのオリジナルリズムセクションを含めて、この曲でローリング・ストーンズがロックンロールの先駆者 チャック・ベリーを受け継ぐような特徴的なブギを披露し、ゲストのエルトン・ジョンのバレルハウスピアノが「It's Only Rock & Roll(イッツ・オンリー・ロックン・ロール)」をアップデートしたような魅力的なタッチを加えているのを聴くのは楽しいものです。

『Voodoo Lounge(ヴードゥー・ラウンジ)』や『A Bigger Bang(ア・ビガー・バン)』のような後期のローリング・ストーンズのアルバムが期待外れとされる理由の一つは、CD時代の犠牲となり、1時間を超える再生時間になってしまったこと。今回の『Hackney Diamonds』はLPで48分と長めで中盤で少しもたつくものの、決して長引かせることはありません(ただし、アルバムタイトルのひどさは相変わらずです。『Hackney Diamonds』は、自動車強盗で壊れたフロントガラスの破片を指します)。

そして、アルバム最後の3曲。「Tell Me Straight(テル・ミー・ストレイト)」はリチャーズにフィーチャーしていて、しゃがれ声による瞑想的なバラードです。80年代以降のストーンズのアルバム(『Thru and Thru(スルー・アンド・スルー)』『The Worst(ザ・ワースト)』)におけるバラードと、多かれ少なかれ互換性があります。

真のフィナーレは、レディー・ガガがジャガーのボーカルとスティーヴィー・ワンダーのキーボードで対決する、「Sweet Sounds of Heaven(スウィート・サウンズ・オブ・ヘヴン)」でしょう。「Shine a Light(シャイン・ア・ライト)」や「You Can't Always Get What You Want(ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ワット・ユー・ウォント)」のようなローリング・ストーンズの壮大な楽曲を思わせる素晴らしいゴスペルチームとなり、このバンドがまだ到達できるとは思えなかった感情と探求が伝わってくる、ただただ見事な楽曲です。

この曲は5分後に終わります。ですが、ドラマーのスティーブ・ジョーダンは叩き続け、ガガはジャガーをマイクに押し戻し、彼のファルセットをより高くすることに挑戦し、バンドは再び演奏を始めるのです。この流れが自然と生まれたものなのかどうか? を気にする必要はないでしょう。

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The Rolling Stones | Sweet Sounds Of Heaven (Edit) | Feat. Lady Gaga & Stevie Wonder | Lyric Video
The Rolling Stones | Sweet Sounds Of Heaven (Edit) | Feat. Lady Gaga & Stevie Wonder | Lyric Video thumnail
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そのピークを迎えた後はコーダが続き、ジャガーとリチャーズがバンド名の由来となったマディ・ウォーターズの曲「Rolling Stone Blues(ローリング・ストーン・ブルース)」を演奏します。それは静かで親密な瞬間で、ギターのリズムとハーモニカ、そしてシンプルで不滅の言葉があり、どんな困難にも負けずこの2人はまだ立ち続け、自分たちにインスピレーションを与えてくれたブルースの巨人たちに恥じない生き方をしていることを示しています。

最後の歌詞はというと…、

Well, my mother told my father(母は父にこういった)

Just before I was born(俺が生まれる直前に)

She said “I got a boy child coming(「男の子が生まれるのよ」)

He’s gonna be a rolling stone(「この子は転がる石(常に活発な活動をしている人は慣習にとらわれず、時代に取り残されることがないという意味)になるわ」)

Gonna be a rolling stone”(「転がる石になるのよ」)

ザ・ローリング・ストーンズは長い間、未知の領域に身を置き、誰もが想像し得なかったほど長い間バンドを続けてきました。60年以上もの間、ロックンロールグループであり続けるための設計図などはありません。

彼らは、「これが最後のアルバムではなく、すでに次のアルバムのほとんどを完成させている」と言います。そして私(筆者アラン・ライト)は彼らの健闘を祈り、「彼ら自身が望み、活動できるのならあと20年は続けてほしい」と願っています。ですが、もし『Hackney Diamonds』の最後の数分が本当にザ・ローリング・ストーンズの最後になったとしたら、これ以上に素晴らしい終わり方ないかもしれません。

source / ESQUIRE US
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です