この記事をざっくり説明すると…

  • 次世代を意味する「Next Generation(通称:Next Gen)」と呼ばれるNASCAR第7世代のモデルがベールを脱ぎました。
  • 運営コストを削減し、市販車に寄せたアプローチで生み出されたNext Genのレースカーは、最新のプラットフォームと呼ぶにふさわしい仕上がりです。
  • 独立式リアサスペンション、ラック&ピニオン・ステアリング、アルミホイールなど、あらゆる部分に最新技術が用いられています。

 NASCAR第7世代となるレーシングカー、「Next Gen」が公開されました。1948年にシリーズの歴史が始まって以来、遅々として進まなかったカップカー(改造範囲が限られる同一車種で行われるレース…通称「ワンメイクレース」に出場するためのレーシングカー)の近代化が、オーストラリア・スーパーカーズ選手権(※オーストラリアを中心に開催される、国際自動車連盟公認のツーリングカーレースシリーズのこと)やGT3レーサーなどからインスピレーションを得て、ついに実現しました。

 Next Genの名のもとに出そろうシボレー「カマロ」、フォード「マスタング」、そしてトヨタ「カムリ」など、各メーカーの実力がこの次世代モデルによってさらに引き出されることとなることに、疑いの余地はないでしょう。新型車のハード面での進化はまさに目覚ましいと言えるものです。そこで今回は、新しく変更された仕様などについても詳しく検証していきましょう。

【ボディは市販車に近いデザインに】

 ひと目で分かるNext Genの新しさとは、その外観にあります。各チームのレース用車両のベースとなる市販車に近い外観として仕上げることが、NASCARの新たな方針によって可能となったのです。

 トヨタの「カムリ」、シボレーの「カマロ」、フォードの「マスタング」、それぞれが市販車モデルを象徴するシルエットやノーズの形状に忠実なデザインを採用しています。各社が提示したデザインは、まずNASCARによって厳正な空力規定などを満たしているかが検証されます。これまでのモデルは、運転席側よりも助手席側がやや突き出た形状となっていましたが、今回からボディは左右対称です。このことにより、ボディがさらに大きなサイドフォースを生み出せるようになっています。

 
CHEVROLET

 これまでカップカーのボディには、板金が用いられてきました。しかし、Xfinity(エクスフィニティ)シリーズなどのNext Gen用車両のボディには、カーボンファイバーで強化されたプラスチックパネルが用いられています。

 柔軟性と耐久性に優れたカーボンファイバー製のボディなら、接触や追突など、クラッシュの際の被害の軽減が期待できます。破損などが生じた際にも、ボディ全体を取り換えるのではなく、必要な部分のパネルだけを交換すれば良いため、各チームの修理費などの負担も軽減されることになるでしょう。

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TOYOTA

 ボディ全体のサイズは、やや小型化されています。

 ルーフラインは約120cmとこれまでより約3.8cmほど低くなり、デッキリッド(荷台のふた)が小さくなったことで全長は約15.24cmほど短くなっています。車幅は約199.6cmと約4cmほど広くなりましたが、ホイールベースは約279.4cmと変わりありません。

 ダウンフォースを抑えることによってスピードを制限しようという目的で、フロントスプリッターとリアウィングについてNASCARの厳しい審査が行われます。

 空力面においてもNext Gen車両には、大きな変化が2点ほど見受けられます。ダウンフォースの最大化を目指す各チームは、露出するあらゆるパーツをクルマの底面に集約することで、空力性能の向上を図ってきました。しかし、そのためには大きな開発コストが必要となり、小規模なチームにとってはパーツ開発の予算の確保すらままならないという状況が生じていました。

 ですが今回から、車体底面にカーボンファイバー製のアンダートレイが初めて採用されることになりました。フラットな底面によって、リアディフューザーへと抜けるスムーズな気流が生まれ、課題となっていたパーツ開発が不要となったのです。ディフューザーおよび他の空力パーツは、コースに応じてNASCARによって変更されることになります。またボンネットには、放熱を目的としたNACAダクトが採用されています。

【シャシーはより現代的な仕様に】

nascarの次世代を担う新型モデルが登場!その進化を徹底検証
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 以前であれば、パーツショップに入荷された鋼管が、一組のチューブフレームに加工されて出荷されるのが当然の流れでした。ですが、もうその必要はありません。ミシガン州に拠点を置くテクニック社が、全フレームを提供することになったのです。

 共用のセンターケージやボルトオンのフロント&リア用パーツという分割構造が採用されたことによって、クラッシュなどで破損が起きた際には、ボルトオンのパーツ部分だけを交換すれば良くなりました。チューブフレーム全体を解体したり、もしくは廃棄したりする必要がなくなり、運用コスト削減にも役立つという考え方です。

 これまで、サーキットでの高速走行時のショックを吸収するために、シングルアジャスタブル・ダンパーが採用されてきました。そんなわけでレーシングカー用の機材運搬車の中には、何種類ものダンパーなど数え切れないほどのパーツが詰め込まれていました。しかし、それももう不要です。スウェーデンの自動車部品メーカー・オーリンズ社が製造する、調整可能なダンパーがNASCARによって採用されることになったのです。このことで各チームは1種類のダンパーユニットでさまざまなサーキットに対応できるようになり、ピットレーンでの調整も容易になりました。しかも、コースによって選択が異なるスプリングの硬さなどにも対応しています。

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 フロントタイヤは引き続き、ビレットアルミニウム製のコントロールアームによってホイールが固定されることになりますが、リアタイヤには待望の、そしておそらく最大の変革が起きています。これまでの後輪部分には、2本のアームで固定された回転車軸(ライブアクスル)が採用されていました。それがNext Genでは、独立式リアサスペンションへと変更されています。

 マルチリンク構造により調整の幅が広がり、NASCARに新たに加わる各コースへの対応も可能となります。ドライバー自らトラックバーの調整をすることはなくなりましたが、ウェッジ(リアスプリングのテンション)はピットでの調整が可能です。

 それにしても、現在に至るまでボールナット式ステアリング・ボックスが採用されていたという事実には、私たちも耳を疑わざるを得ませんでした。

 これは、ストックカーレース黎明期からの化石のような技術で、今も採用しているのはジープの「ラングラー」か「グラデイエーター」くらいではないでしょうか? NASCARのギアボックスがジープのものより緻密であることは間違いなく、今回いよいよラック&ピニオン式ステアリングシステムへと移行することで、現代の標準にかなった仕様が実現することになりました。

【駆動系】時代の変化に対応したプラットフォームに

 ありがたいことに、NASCARは各チームの心臓部には変更の手を加えていません。

 排気量は358立方インチが上限とされ、リストラクター(モータースポーツ競技においてエンジンの出力を制限する目的で取り付けられる部品のこと)を条件としたレースでは550馬力、それ以外では670馬力とパワーは制限されています。ですが、ボンネットの中には、シボレー、フォード、トヨタ、各社製のプッシュロッドV8エンジンが積まれています。

nascarの次世代を担う新型モデルが登場!
その進化を徹底検証
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 クロスオーバーパイプが採用されていたこれまでであれば、8つのシリンダー全てが観客席に向けて輝かしい音色を響かせていました。ですが、新たなアンダートレイが採用されたことで、排気経路の変更が余儀なくされています。つまりスタンドには、直列4気筒の音しか届かないかもしれません…。その判断は、実際に音を聞いてみるまで保留となります。

 トランスミッションはどうでしょうか? 4速ギアボックスに取って代わったのは、X-Trac社製の5速トランスアクスル(※トランスミッションとデフを一体化した動力伝達機構のこと)です。NASCARのエンジニアリング部門のコメントによれば、高速オーバルサーキットでのダウンシフトが必要になることはなさそうですが、ロードコースでのレースでは、シフトチェンジの回数が増えることになるかもしれません。

 時代の変化に対応したプラットフォームを開発することが、NASCARの使命の1つでした。そんな中、今回のトランスアクスルの採用はその使命にかなったものだと言えるでしょう。ただし、実際どのタイミングで運用が開始されるのかは、まだ発表されていません。

【ホイール、タイヤ、ブレーキ】ピットワークのドラマ性は減少?

 ピット作業は、NASCARレースの大きな魅力の1つです。

 高回転のエアレンチで、ホイールごとに5つのラグナットを一瞬で脱着する完璧なまでの演出のなされたタイヤ交換は、レースの行方さえ左右するほどの意味を持っています。これまで採用されてきた15インチのワゴンホイールはNext Genへの移行に伴って、BBS製の18インチ鍛造アルミホイールに変更されています。

 
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 センターロックホイールへの変更ということとなり、各チームからの反発も小さくなかったようですが、毎分1万回転という強力なエアガンがアルミホイールに叩きつけられる度に破壊してしまう恐れがあるとこで、仕方ない変更となりました。NASCRのカップレースと他クラスのレースとを比較しても、センターロックホイールへの移行は納得のいくものです。レースの走行スピードと車重を考えれば、必要な締付力は他のレースよりも大きいと言えます。ただし、この変更によって、ピットストップの時間は短縮されることになり、ドラマ性が大幅に減少してしまうことは間違いないでしょう。

 そしてホイールの大型化に伴い、タイヤも一新されています。グッドイヤー製「イーグル」のレース用タイヤはこれまでの305セクションから365セクションへと幅を広げ、サイドウォールは縮小されています。

 18インチホイールの採用によってブレーキも大型化され、現在の12.7インチからフロント15インチ、リア14インチへと変更となります。直径は同じですが厚さが異なる2種類のローターが用意されており、薄いローターは高速のオーバルコースで使用され、厚いローターは高い熱負荷の生じるショートトラックやロードコースで使用されることになります。フロントには6ピストン、リアには4ピストンのキャリパーが搭載されることになります。

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その進化を徹底検証
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 新聞や各種メディアに掲載されている写真などを見る限り、新型車の見栄えは壮観です。あらゆる点で新しくなったレーシングカーのインパクトは、「強烈」の二文字につきます。ですが、これらのクルマが一体どのようなレースを繰り広げることになるのか? という最大の疑問は残ります。

 2022年にデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで予定されているデビューを実際に観ないことには、この点について明言することは不可能と言えます。NASCARはモータースポーツであり、エンターテイメントとしての価値はその次となります。なによりも、エキサイティングなレース展開を期待しましょう。

Source / CAR AND DRIVER
Translate / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。