現地時間2022年6月12日午後4時、ル・マン24時間レースがゴールを迎えました。結果は過去4年間と代わり映えなく、優勝の栄冠を手にしたのはトヨタでした。他の実力派ファクトリーが不在という中、実にすんなりと5年連続となる総合優勝を果たしました。

5連覇は歴史的な記録。快挙と呼ぶべき数字ですが、どのレースも見どころに乏しく、そのことが微妙な印象として残っています。いずれにせよ、特筆すべき実績であることに変わりはありません。

繰り返しとなりますが、驚異的な記録であることは間違いないのです。過去に5勝以上を挙げているのはベントレー、ジャガー、フェラーリ、アウディ、ポルシェの5チームしかありません。今回の優勝で、トヨタもファクトリーとしてそうそうたるファクトリーがそろう歴史にその名を刻むことになりました。

その中でも5連勝となると、ポルシェ、フェラーリ、そしてアウディが2度目の挑戦で達成したのみです。このことを考えてみれば、現在のトヨタはすでにレース界のレジェンドと呼ぶべき存在に違いありません。

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JEAN-FRANCOIS MONIER//Getty Images

主だったライバル不在の中での5連覇をどう評価すべきか? という声も

しかしながら、多くの主要ファクトリーが参戦を見送った中での勝利に過ぎないという声があるのもまた事実。果たしてトヨタが、かつてル・マンを制したファクトリーに匹敵するか否か? まだ何とも言い切れない疑問が残るのもまた事実かもしれません。

トヨタ「TS050」の後継車であり、今年のル・マン優勝車となった「GR010ハイブリッド」は、2017年を最後にレースから撤退したポルシェの「919ハイブリッド」やアウディ「R18」よりも優れた車と言えるのでしょうか? 昨シーズンのレース目前にキャンセルとなった「ヴァルキリー」がベースとなったアストンマーチンのハイパーカーよりも、「GR010ハイブリッド」のほうが速いと断言できるのでしょうか? 

GAZOO Racing(ガズーレーシング)が、プライベーターなど歯牙(しが)にもかけない存在であることは間違いありません。ですが、その真の実力については、文脈に沿ってきちんと読み解いていく必要があります。今回トヨタが成し得た快挙の偉大さを正しく称えるためにも、チームとして、また車としての実力に改めて注意の目を向けなければならないでしょう。

来シーズン、絶好のライバルの参戦が見込まれています

その機会となるのが来年、2023年です。トヨタのライバルとして、最低4つのファクトリーチームがル・マン参戦の意思を示しています。現在、唯一のファクトリー参戦のハイパーカーである「GR010ハイブリッド」ですが、ポルシェ、キャデラック、フェラーリ、そしてプジョーに対しても変わらぬ優位を見せつけることができるのでしょうか? トヨタにとっては、実力を示す絶好の機会となります。

来年のル・マンの結果次第で、トヨタのこの5連覇に対する世界の見方が一変することになるでしょう。あのアウディも2004年から2006年まで、ファクトリーチームとしての有力なライバル不在のレースを戦わざるを得ませんでした。ル・マンにおけるアウディの実力が評価されているのは、それ以前そしてそれ以後の真剣勝負によるところが大きいのです。キャデラック、プジョー、トヨタ、ポルシェといった名だたる競合相手とのバトルを制したことで、勝利の意味と価値が高められたのです。

ル・マン以外のFIA世界耐久選手権のレースでは、トヨタはアウディやポルシェを凌(しの)ぐ結果を出しています。トヨタが5連覇の意味を再定義するための、またとない出発点に立っていることは確かです。その評価を確固たるものにするためには、有力なファクトリーチームを相手に総合優勝して見せる必要があると言えるでしょう。

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JAMES MOY PHOTOGRAPHY//Getty Images

いずれにせよ、ル・マン24時間レースを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)は、トヨタに深く感謝しなければならないでしょう。

LMP1(編集注:「ル・マン」プロトタイプ1。FIA世界耐久選手権の4つに区分されたカテゴリーの一つ。車両は屋根のついたクローズドカーで、全長4650mm以下であることなど各種規定がある)時代の終焉から、ハイパーカー時代の幕開けという一筋縄ではいかないこの5年間の過渡期を通じてレースにコミットし続けたトヨタの堅実な姿勢があったからこそ、ル・マンの総合優勝チームのリストの格調が損なわれることなく保たれたのです

それゆえ、いくつもの主要自動車メーカーが来年のレースに参戦したいと強く希望するに至ったのです。それらのチームを打ち負かすことで、トヨタのこの5連覇の偉業に本当の輝きが宿されることになるはずです。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です