ロンドンを中心に活動する覆面芸術家
バンクシーが、またゲリラ的に作品を描き話題に。
テーマは、英国のEU脱退です。

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ヨーロッパのシンボルである、縦横2:3の長方形の青地に円環状に12個の金色の星で構成される「欧州旗」がモチーフになっている作品です。ひとりの作業員が、星をひとつ削っているストーリーになっています。これを英国に見立てているようですが…、この数は加盟国数と関係なく、さまざまな協議の結果、政治的に問題のない星の数として、さらには同時に完全と無欠 (perfection and completeness) のシンボル数として「12」という数が採用されたという話があります。ま、そこまで知った上で、バンクシーは表現しているのでしょう。つまり、もう「完全と無欠」ではないと…。

 Banksy

 2017年5月7日(日)の朝のことです。英仏海峡に面したイギリス・ケント州の港町ドーバーに。

 フェリーターミナルにほど近い道を運転するドライバーたちは、覆面アーティストとして名高いあのバンクシーが描いた新しい壁画を目の当たりにすることとなったのでした。 
 

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(C)Getty Images


 作品は英国のEU脱退、通称“ブレグジット”をモチーフにしたもの。ちなみに“ブレグジット”とは、 英字では“Brexit”になります。英国が欧州連合(EU)を脱退することを意味し、Britain(英国)とExit(離脱)を組み合わせた造語になります。

 脱退するかどうかの是非を問う国民投票が2016年6月23日に行われたわけですが、離脱が51.9%、残留が48.1%という僅差で離脱支持が多数となりEU脱退を決定したことは皆さんもご存じでしょう。で、いまはどんな段階なのか? 

 2017年3月29日にテリーザ・メイ英国首相は、EUに対して正式に離脱するためのTEU第50条(2009年に発効した欧州連合(EU)についての基本条約であるリスボン条約の第50条。加盟国の離脱について手続きを定めています)を発動しました。正式に離脱するには、もう少し時間がかかりそうです。

 話は戻りますが、バンクシーのこの作品では、ひとりの作業服姿の男性がEUの旗に描かれた12個の星のうちのひとつを、ノミと木槌で削り取り、そこから亀裂が旗全体に走っている様子が描かれています。バンクシーお得意の社会的メッセージと風刺がしっかり詰め込まれているわけです。 

 こちらの作品は一晩のうちに出現しました。当初からバンクシーのスプレーアートではないかと推測されていましたが、バンクシーの代理人はその後、「インディペンデント」誌に彼の作品だと正式に認めた。そしてバンクシー本人も自身のインスタグラムアカウントに、この作品の画像をUPしています。

英国に住む6500万人のさまざまな感情が秘められている…。

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 2017年3月にはベツレヘムに、ホテル「The Walled Off Hotel」を作り上げたバンクシーですが、それに続く発表となった今回。ヨーロッパ大陸にもっとも近く、イギリスにおける欧州への玄関口のひとつとして機能するドーバーに完成させたことにも、意図があるようです。
 

 タイミングも狙いどおりで、壁画が出現したのは、ちょうどエマニュエル・マクロン氏がフランス大統領選に勝利した日になります。EU離脱の手続きをどう処理するかを決めるイギリス総選挙も、数週間後の2017年6月8日に控えているところ。 

 今回のバンクシーの行動に対するSNS上での反応は、さまざま。「天才だ」と称える人も多数いる一方、「我々の歴史における悲しい瞬間」を反映しているとする人もいます。とあるインスタグラムのユーザーが、「この壁画ひとつで、何千もの言葉を表している」とコメントしているとおり、英国に住む6500万人のさまざまな感情が、このビル3階建て分の大きさの壁画に秘められていると言えるかもしれません。 

From Esquire
Text/Katie Jones
Photograph/Getty Images