話題の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」…その舞台となるのは鎌倉。そこで今回の登場人物とゆかりのお寺など、日本舞踊家として活躍する、藤間流の「名取」藤間蘇女華(ふじまそめか)さんにお着物で、花の寺を中心に鎌倉案内をしていただいた。また若い女性の間では、着物や浴衣で古都鎌倉を散策するのがブームのよう。実際に街中でちらほらと目にする。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
第十一回蘇女丸会の「名取」お披露目。港区青山の能舞台にて。

日本舞踊は歌舞伎や能から派生し、踊りは拍子にのったリズムカルなもので、能からくる「やわらかさ」と、歌舞伎からくる「活発な動き」が組み合わさり発展していった。

また藤間流(ふじまりゅう)とは、日本舞踊における五大流派の一つ。1704年頃に藤間勘兵衛が創り、「家元」勘右衛門派と、「宗家」勘十郎派の二派に大別される。300年以上の伝統を持つ、歴史の深い流派なのである。

藤間流から多くの有名人がおり、九代目松本幸四郎(二代目 松本 白鸚 /本名藤間昭暁)さんもその一人。娘の女優として有名な松たか子さんも、藤間流から派生した松本流の名取(日舞の段位)として「初代・松本幸華(まつもとこうか)」を名乗っている。

現在、日本舞踊の藤間流として活躍する藤間蘇女華さんに、私(写真家の高橋福生)が今までの経緯など、いろいろとお尋ねしてみた。


Q1.

まず始めに、
日本舞踊を始めたきっかけを
お聞かせください…

祖母や両親の影響で小さい頃から演歌や歌謡曲、時代劇が好きな子どもでした。そして父が昔、反物屋を営んでおりましたので、幼少の頃から着物に触れる機会が多く、素晴らしい着物の染めや美しい刺しゅうなどを見て、ずっと着物に憧れておりました。

いつか着物を自分で着られるようになりたい、時代劇の古き良き風景のような着物を着た方が町にたくさんあふれる光景が見ることができたら、とても素敵だと夢に描いておりました。

その後、学校卒業後に所属させていただいておりました芹川事務所の芹川社長のご紹介で、今の師匠 藤間蘇女丸先生をご紹介していただきました。蘇女丸先生には踊りや稽古を通じ、日本の伝統文化の大切さや日本舞踊の深さをたくさん教えていただいております。

たくさんのご縁に感謝しかございません。

未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
妙本寺のハナカイドウ…日蓮宗最古の寺。この地は「鎌倉殿の13人」のひとり、比企一族の聖地。

Q2.

「Japan Expo パリ」公演や
ロサンゼルス公演の模様などの
思い出をお話しいただきませんか?

「Japan Expo パリ」は、蘇女丸先生率いる日本舞踊団 舞女~maihime~としてSAKURAメインステージに出演させていただきました。日本舞踊の古典、「櫓(やおや)のお七」、「藤娘」、メドレーとして「千本桜」、「オーシャンゼリゼ」などを日本舞踊で踊りました。日本の古典文化をパリの地でお伝えできたことは、本当にうれしかったです。

そして一つの夢でもあったエッフェル塔や凱旋門、シャンゼリゼ通り等の素晴らしい街並みを着物で歩くことができました。うれしいことに、道行くパリジェンヌに本当にたくさん声を掛けていただき、私たちも驚くほどに着物や日本文化を喜んでいただきいき光栄の極みでした。

そんな中、一人の女性がこちらに走って近づいてきまして「JAPANが本当に大好きで、いつかJAPANに行くのが私の夢だったの! だから着物を着ているあなたたちに会えて日本を感じられて私はとてもうれしい! 今日という日は私の生涯の宝物」と、大粒の涙を流しながら手を握って喜んでいただいたときは、日本人としても舞踊家としても本当にうれしく、パリのたくさんの方が「好き」と言ってくれる日本の文化をこれからも大切に、しっかり伝えていかなければと改めて感じました。

そして、現地の子どもたちも着物姿に大変興味を持ってくれ、着物の帯を不思議そうに見ているので説明をしてあげたり、一緒に折り紙を折ったり舞扇子の使い方を教えてあげたりと、国境を越えて、言葉の壁を越えて、子どもたちとの文化の触れあいをできたことも本当にかけがえのない経験でした。

未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
段葛の桜…頼朝が妻の政子の安産を祈願して造ったというここは、桜の名所でもある。夜のライトアップも美しい。

ロサンゼルス公演は、「花園直道 with 華舞斗」の華舞斗としてアームストロングシアターの公演に行かせていただきました。日本の歌『さくらさくら』やレディー・ガガさんやマイケル・ジャクソンさんの曲を日本舞踊ショーで踊らせていただき、日本の古典ならではの着物の衣装の早変わりの七変化も海外の方に大変喜んでいただきました。踊りや着物などの日本文化を海外の方にも広めていきたいと思います。


Q3.


舞踊家として一番大切に
していることや本番前の
ルーティンはありますか?

舞台の上というのは、神聖なものだと思っております。なので、舞台に立たせていただくときは、「舞台に立たせていただけること」「踊らせていただけること」自体に感謝することを忘れず、初心を大切にまっすぐな気持ちで舞台に上がらせていただくよう心がけています。

常に感謝の気持ちを忘れないこと、日々の積み重ねの一歩一歩の大切さを日本舞踊の精神から学ばせていただき、大事に心に刻んでおります。

また、本番前には身体をほぐすため、そして集中をするため、大きな深呼吸を三回してから舞台に上がるようにしています。高校時代弓道部だったのですが、道場に上がる前も同じことをしていました。緊張感のある中で深呼吸をすると、集中力・精神力がアップする気がいたします。

未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
浄智寺…鎌倉五山第四位。絵になる鐘楼門(後ろ)と石階段が魅力。

Q4.

愚問かもしれませんが、
他のバレエやダンスと
1番の違いはなんですか?

日本舞踊にはバレエやダンスのような1、2、3、4のようなカウントがありません。三味線と長唄の間(ま)で踊ります。これが本当に難しく、三味線の音を何度も何度も聞き、長唄を自分の中でも歌いながら三味線の音で踊れるように稽古をしています。

四季の情景や風や波などの繊細で美しい自然の風景や情景を、踊りで表現したりするのも日本舞踊ならではのものかと思います。演目や役柄によって歩き方から首の振り方、踊り方、全てが違うのも日本舞踊の面白さ、魅力だとも思います。

日本舞踊は知れば知るほどその深さに驚き、ますます好きになり、探求をしたくなる…代々受け継がれてきた素晴らしい日本の伝統文化だと思います。

未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
長谷寺 …「花の寺」としても有名で、四季折々の花が咲き誇る。木彫仏としては日本最大級(高さ9.18m)の十一面観世音菩薩像がある。

Q5.

鎌倉のお寺の印象は
いかがですか?
また、古寺で踊るという
気分はどうですか?

鎌倉はとても好きな町です。お寺には歴史と共に日本古来の良さがつまっており、お寺に行くと本当に心から癒され、浄化される気がします。情景も季節によってさまざまな顔があり、本当に素晴らしい日本の風景のある場所だなと思います。

木や花たちから生命のパワーも感じ、先人たちが築き上げた歴史、今までここへ訪れた人たちへの思いを馳せながら、日本を感じられる場所だとも思います。そんな素晴らしい古寺で踊らせている時間は、瞬間にタイムスリップして鎌倉時代に来てしまったようなそんな錯覚さえもおきるほど、その場所から歴史を感じ、この上なく幸せな時間でございました。

この素晴らしい日本の風景を、これからも大切にしていきたいです。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
宝戒寺の枝垂れ梅と梅(右) 鎌倉幕府執権の北条氏の屋敷跡地に建てられたといわれている寺。大きな8角形の石畳が魅力で、別名ハギ寺と言われている。

Q6.

「日舞deエクササイズ」
というものを最近取り入れ、
仕事終わりのOL中心に
脚光を浴びているそうですが…

私の師匠 藤間蘇女丸先生監修・指導によって取り組んでおられます「日舞deエクササイズ」ですね。〝心・脳・身体に働きかける伝統舞踊で、若さと健康を維持しましょう!〟をテーマに、 筋力アップ! 体力増進! 正しい姿勢の保ち方、足腰の鍛錬、指先つま先まで神経を使うことによって脳の活性化、日本舞踊の基本の型を取り入れたカリキュラムで、 やさしい古典日舞~エクササイズ舞踊~季節の舞踊~でエクササイズを実践しております。

日本舞踊では常に腰を落として踊るのが基本ですので、それだけでも足腰や体幹を鍛えることができますし、日本舞踊の精神性から内面の美も鍛えられるので、身体の中からそして内面からも元気と美を楽しくエクササイズしていただけるとっても素晴らしい取り組みだと思います。

ぜひたくさんの方に、楽しく実践していただけたらうれしいです。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
光則寺の参道の桜…隠れた花の寺として知られ、境内には200種類のアジサイや樹齢約150年のカイドウが楽しめる。

Q7.

今お話が出た蘇女華さんの
師匠の藤間蘇女丸さんは
どのような方ですか?
また、踊りの魅力についても
ぜひお教えください

私の師匠の蘇女丸先生は日本の伝統文化を本当に大事に考え、日本舞踊を幅広いどんな世代の方にも楽しんでもらえるよう、日本舞踊のあり方についても常に考えていらっしゃる尊敬できる方でございます。今の私がありますのも先生、両親のおかげだと感じております。

日本の古き良きものを大事にし、そして大切な文化だからこそ後世に残していくことの大切さを教えていただきました。踊りの師匠でもあり、人生の道標の師匠でございます。

日本舞踊の魅力は数えきれないほどございますが、日本舞踊の所作は本当に美しい限りです。着物での仕草、袂や裾を使っての仕草、流れるような舞はどこを切り取っても日本画のように美しいです。そして、日本舞踊道の精神性も素晴らしいです。この日本舞踊の味わい深い魅力を、たくさんの方に伝えていけたらと願っております。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
鶴岡八幡宮…源頼朝が幕府を開き鎌倉武士の精神的団結の拠点である。

Q8.


華道家として有名な
假屋崎省吾氏に「和の共演」を
テーマにお会いしたそうですが、
どんな印象でしたか?

假屋崎省吾さんにお会いしたとき、エネルギーいっぱいの大きなパワーを持っていらっしゃる方だと思いました。そして、假屋崎さんの作品のお花からもそのパワーを感じ、作品から元気と癒しをたくさんいただけました。お花を見た方たちを元気にする、素晴らしいお力だなと本当に思います。

假屋崎省吾さんの著書『自分の世界をもちなさい』を読ませていただいたのですが、少年時代から会社員時代のたくさんのご経験が、あの素晴らしいお花の作品作りにつながっているのだと感じました。何か機会があればまたお会いしたいです。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
覚園寺…この寺の奥にある茅葺屋根の薬師堂は、今回の大河の北条義時ともっともゆかりが深い。

Q9.


最後になりますが、これからの
日本舞踊家としての夢や
お知らせあればお教えくだ
さい

私は苦しいとき辛いときにこそ、踊りを踊ることによって、そして踊りを見た方に喜んでいただいたことによって、自分が救われたことが何度もあります。コロナ禍の今を経験してからこそ、さらに踊りのあり方にも見つめ直すことができ、舞踊家として踊りを通して皆さまに少しでも癒しや楽しさ、楽しい一時、元気をお渡しできる、そんな舞踊家であり続けたいと思います。

そして踊りの原点は、祈りだとも思います。

神様へ捧げる舞、見ているかたに捧げる踊り、自分を見つめ直し成長させてくれる踊り、そんな踊りに出会え、携われている自分は本当に幸せだと思います。この日本の伝統文化の古き良き精神性を後世にもどんどんつなげ、日本舞踊の奥ゆかしくも深い素晴らしさ、着物の美しさ、礼節、感謝といった見えない心の一端や楽しさを、世代を越えて…さらに国の境界線を越えてたくさんの方に伝えていきたいです。

そのためにも日本舞踊をもっと身近に、着物をもっと身近に感じてもらえるよう努力し続けていきたいと思います。

日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi
荏柄天神社の梅…学問の神様、菅原道真をまってあるため多くの受験生が祈願に訪れる。

かつて伝説の世界ヘビー級王者モハメド・アリは、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という表現を残した。

こちらは刺すことは無いけれど、藤間蘇女華さんの舞踊の姿を見ていると、ヒラヒラと蝶のように舞う。そして、そのしなやかな動き伝説の龍のよう…。

そこには日本人の忘れかけそうな「懐かしい暖かみ」と、「心の癒し」の世界がある。
 

撮影協力/荏柄天神社覚園寺、光則寺、浄智寺鶴岡八幡宮宝戒寺長谷寺妙本寺かさぎ画廊 


日本舞踊家,藤間蘇女華,鎌倉,高橋福生,ポートレート,未来に残したい光のアーティスト
Tomio Takahashi

藤間 蘇女華

小学2年から高校卒業までNHK東京放送児童劇団に所属し、毎年劇場公演に出演。その後、藤間流 の藤間蘇女丸に師事。舞踊集団「華舞斗」に入団し、ロサンゼルス公演他、明治座(東京)、中野サンプラザ、渋谷公会堂、目黒雅叙園等に出演。2016年舞踊団 「 舞女」を結成。フランスの「Japan Expo パリ」を始め「東京着物ショー」、七社神社(宵宮秋祭)などに出演。「藤間蘇女華 」の名取を取得し、蘇女丸にて古典「傾城」「女伊達」「藤娘」などを披露。しなやかな舞に定評があり、現在幅広く活躍中。

藤間蘇女丸(藤間流)公式ホームページ|三軒茶屋 日本舞踊教室

* * * * *

写真家,カメラマン,高橋福生
Tomio Takahashi

写真・文/高橋福生(たかはし・とみお)

撮影スタジオ勤務中の23才のとき、カメラ誌に載ったグラビアが、報道写真界の草分け三木 淳氏に高く評価される。それが転期となり、写真家を志すためにフリーとなる。メーカ-フォトサロンをはじめ、数多くの写真展を開催。雑誌や広告などでも活躍中。「癒しの水の情景」「美しい光の情景」をテーマに、水と光の情景写真家として媒体などで作品を発表。テレビ朝日系『人生の楽園』に出演し、癒しの水風景「水園」の作品が紹介される。これらの「水園」シリーズは東京都写真美術館でも展示された。現在もライフワークとも言うべきプロジェクト、著名アーティストを光で演出した情景「未来に残したい光のアーティスト」を継続している注目のフォトグラファー。現在、高橋作品を使用した「癒しの水の情景」のデジウォールを「壁紙のトキワ」と、オリジナルプリント「WePhoto高橋福生 | 写真家別 | WePhoto | 日本を代表する写真家の作品(オリジナルプリント)販売」をそれぞれ販売中。撮影した写真集に華道家 假屋崎省吾の「メディカルフラワーセラピー」や、癒しの水風景「水園」による「空間演出プロジェクト」(草加市立病院がある。

公式サイト