楽天が過去最大の赤字
苦しい現況のワケは

2022年11月11日に発表された楽天グループの第3四半期の決算発表数字が芳しくありません。

問題は二つあって、一つは営業赤字2870億円と過去最大の赤字を記録している点。もう一つは最近の楽天グループに改悪が目立つことです。特に目につくのは楽天モバイルが無料プランを廃止したことと、楽天ポイントの改悪が相次いだことです。そのことで「経営が苦しいのではないか」という臆測も呼んでいます。

楽天グループの中でも好調な楽天証券にみずほFGが800億円の出資をしたり、同じく収益源である楽天カードが個人向け社債を発行して500億円を調達していたりするといったことは、表向きには良いニュースなのですが、グループ本体の巨額の赤字とセットで考えると不安が頭をよぎります。

コロナ禍の引きこもり需要でライバルのアマゾンはグローバル業績を伸ばし、日本でもインターネット通販業界での存在感を大幅に増しています。それと比べて、2019年以来赤字が続く楽天が「オワコンなのか?」と心配されるのは根拠のない事ではないでしょう。

楽天グループがこの状況から復活するかどうか、そしてお祭り騒ぎでふんだんにポイント還元される楽天市場のイベントが以前のように最高潮ににぎわうかどうかは、間違いなく楽天モバイルが成功するかどうかにかかっています。

お荷物の「楽天モバイル」に
求められていること


ざっくりと構造を説明すると楽天グループのセグメント別収益は、楽天市場などで約580億円の黒字、楽天カードなど金融事業で約740億円の黒字をたたき出していながら、楽天モバイルが約3800億円の赤字を出しているのです。

足元の構造としては、楽天本体の業績は実は堅調なわけですから復活するかどうかは、楽天モバイルが大幅な黒字化することができるかどうか次第です。

「なぜ大幅な黒字が必要なの? 赤字がなくなればいいじゃない」と思うかもしれませんが、インターネット通販と金融の黒字を投資しているのですから、当然投資家からはその投資を回収して巨額の利益が上がるレベルに育つことが楽天モバイルには要求されます。

別の尺度を出しますと、ライバルである携帯3社の親会社はそれぞれ3社とも企業価値として10兆円前後の時価総額に到達しています。それに対して楽天の直近の時価総額は1兆円台まで落ちてきています。楽天の復活が「携帯参入前の時価総額を上回ること」を意味するとしたら、復活した時の時価総額は、4兆円は欲しいでしょう。だとすればインターネット通販、金融とモバイルの3事業合計で4000億円ぐらいの営業黒字は稼いでもらう必要があります。

ということで決算発表の数字をもとに、楽天モバイルが大復活するためにはこの先、どのような展開が必要かを考えてみましょう。

楽天モバイル復活の鍵を握る
二つの数字

楽天
SOPA Images//Getty Images

実は今回の決算発表で楽天グループは楽天モバイルについて非常に重要な数字を二つ発表しています。一つは、ARPU(アープと読みます)が1472円だという数字です。

ARPUはサブスク系のサービスを提供する会社にとって重要な指標で、一契約者から1カ月あたりでどれだけの収入が入ってくるかを示す数字です。携帯電話大手のドコモ、au、ソフトバンクのARPUはだいたい4000円台なのですが、携帯市場の民主化を掲げる楽天は安価なプランで参入しました。

楽天のプランは3GBまでが980円、そこから20GBまでが1980円、それ以上なら2980円という価格設定です。日本人のスマホのデータ利用量は、ざっくり言うと2GB未満が約半数、2GB以上から20GB未満が4割、20GB超が1割といった構造なので、楽天のARPUが1472円だというのは、ほぼ妥当な水準です。今後オプション契約を増やすことでARPUを上げにいったとしても、楽天のARPUは1800円ぐらいが限界かもしれません。

もうひとつ重要な数字は、無料プランがなくなったことで逆に課金ユーザー数が増えたという話です。楽天モバイルの契約者数は9月末時点で518万件と、0円プラン廃止前の6月末から28万件減っているのですが、逆に言うとこの518万件はまるまる課金ユーザーになっています。楽天の資料のグラフに定規をあててみると8月の課金ユーザー数がだいたい320万件ぐらいだったところから一気に増えているわけで、この数字が意味することは、「0円プランを廃止しても思ったほどユーザーは減らなかった」ということでしょう。

完全復活のシナリオ
黒字化するための
数値を試算してみた

さて、このように課金ユーザー中心となった直近の第3四半期の3カ月間の決算数字でみると、単純に計算すると1カ月の赤字は約400億円となります。これを出発地点の構造だと仮定します。

実は楽天によれば、今後、基地局のカバー率が増えることで他社に払っているローミング費用が大幅に節約できるようになるといいます。その試算数字は開示されていませんが、説明会の資料のグラフに定規をあててみると、概念図としては4割ぐらいコストが下がることになりそうです。

なので、将来は同じ518万ユーザーでも基地局開発が終われば、赤字幅は200億円程度になると仮定できそうです。では、ARPU1800円で200億円の赤字を解消するのにあと何人新規ユーザーを獲得すればよいでしょうか? 単純計算してみると楽天モバイルの契約者数が1600万件を超えると単月で黒字化しそうです。

この数字、多いとみるかどうかは微妙ですが、私は楽天グループが乗り越えるべき妥当な目標だと思います。そもそも日本の携帯電話の加入者数はドコモ8600万件、auが6200万件、ソフトバンク&ワイモバイルが4900万件です。2006年ソフトバンクがボーダフォンを買収した時点の契約者数が1500万件だったので、そこからソフトバンクは3倍以上に膨らませたのです。

今の楽天モバイルの518万件という数は、実力から考えると非常に少ないと捉えるべきでしょう。基地局が増えたことで楽天モバイルは、サービス開始当初よりもつながりやすくなってきたことは事実です。圧倒的な安さという武器もあるわけで、つながりやすい都市部のスマホのギガ数をよく使うユーザーがその強みに気づけば、流れは変わります。

同時に戦略発表でも強調されていたように2年後にプラチナバンドが獲得できることや法人契約に本腰を入れていくことも契約数の増加に寄与するでしょう。この1~2年で1600万件を達成すれば、5年後に3000万件超の契約数を獲得する可能性も見えてきます。

他の3社から1000万件ずつ加入者を奪い契約者3000万件の携帯電話会社になることができれば、規模としても堂々とした携帯4強の一角に到達します。そして、この3000万件の契約者から入ってくるARPUを概算すると、楽天モバイルだけで年間3000億円台の営業黒字をたたき出すようになることが推定される――。つまり、楽天グループは時価総額で完全復活というシナリオになるわけです。

楽天が狙う次の展開
カードとスマホが両輪となって動く

rakuten optimism 2019 conference in yokohama
Tomohiro Ohsumi//Getty Images

さて、決算発表の戦略資料によれば楽天グループが復活するシナリオを補強するであろう強みがいくつか数字で示されているので、それも紹介しましょう。

ちょっと見慣れない表現かもしれませんが、資料には楽天モバイルではCAPEXを40%削減、OPEXは30%削減という数字が出てきます。もう少しわかりやすい日本語で書いていただけるといいのですが、意訳すると楽天モバイルの通信網は仮想化、自動化、オープンアーキテクチャーなど最新のデジタル技術を活用することで、他の携帯電話会社よりも設備投資が40%、運営費用が30%低いというのです。

これは、後発の携帯電話会社にとって非常に大きな優位性になる点です。しかも面白いことに、その技術を楽天では楽天シンフォニーという新会社を作って世界の携帯電話会社に提供しています。ドイツの1&1やイギリスのヴァージンメディアO2などを相手にすでに31億ドル(約4300億円)を受注しているというのですから、なかなかポテンシャルのある「次なる展開」が見え始めているのだと思います。

もう一つ、楽天グループの戦略資料には「エコシステムARPUアップリフトを加えるとARPUは2588円」というARPUについての別の説明があります。これは、「楽天モバイルのユーザーは楽天の他のサービスでお金を使うのでそれを加えるとARPUは1472円ではなく実質的に2588円になる」という話です。ただ、もともと楽天市場や楽天カードの収益をモバイルに注ぎ込んでいるので、ダブルカウントにならないようにさきほどの試算の際に意図的に無視させていただきました。

この点について経済評論家として補足説明させていただくと、実は楽天経済圏というエコシステムでは楽天モバイルよりも楽天カードのアップリフト力の方が大きいのです。楽天市場を中心とする楽天の国内EC流通総額が1.3兆円なのに対して、楽天カードのショッピング取扱高は4.6兆円です。楽天カードは楽天ポイントとともに楽天市場の約3.5倍の消費に使われているのです。

この楽天カードの発行枚数が2751万枚。その約半分にあたる1303万口座が楽天銀行に開設され、約3分の1にあたる836万口座が楽天証券に開かれています。このように楽天市場と入り口にポイント、カード、決済そしてポイント投資から実際の投資へと経済圏を広げられるのが楽天の本来の強みです。

そして楽天モバイルに入って1年で契約者の楽天経済圏での利用サービス数はそれまでの5~6の水準から8サービスに増えるそうです。つまりこの先、楽天モバイルの加入者が増えるとこの楽天経済圏のエコシステムはさらに強固になります。

そうなると先ほど出した「楽天モバイルの加入者数を5年で3000万人に持っていく」という私が勝手に出した数字は、実は楽天グループの戦略的に大きな意味があることも理解していただけると思います。

つまり、狙いとしては、楽天カードの会員数とほぼ同じ規模に楽天モバイルの契約数が増加する未来を目指すという数字です。

なぜ私がこの数字を重視するかというと、それがそもそも楽天グループがモバイルに参入した当時に描いていたであろう、カードとスマホが両輪となることで、楽天市場を中心とする楽天経済圏を回していく新しい未来につながるからなのです。

現実的にはそのゴールに到達するためには毎月50万件ペースで4年間、加入者が純増し続ける状況が必要になります。今の延長線上のペースではなく、どこかで強い風が吹かなければその状況は起きないでしょう。しかし、ポテンシャルとしては風を吹かせる下地は作られている。それを念頭に、楽天グループの復活を楽しみにこれからの推移を見守らせていただきます。

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