※本記事は『エスクァイア』US版の2020年冬号の特集記事で、編集主幹のデイブ・ホルムズが2020年10月にBTSのメンバーに行った長編インタビュー記事です。「エスクァイア」日本版では、ノーカットでお届けします。


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HONG JANG HYUN

 アメリカの「サンクスギビング(アメリカでは11月の第4木曜日)」に似た祝日が、韓国にもあります。2020年ならば9月21日(火)。この日は、韓国で一番重要な年中最大の祝日「秋夕(チュソク)」と呼び、当日を含めて前後3日間が祝日となります。いわば韓国の収穫祭であり、BTSのメンバーもふだんなら、家族と一緒に伝統的な餅入りのスープである「トックク」を食べて過ごしていたことでしょう。

 ですが、BTSのメンバーにとって2020年の「秋夕」は、ある意味、その祝日が意味することと同様またはそれ以上に、大切な収穫を祝う準備の期間だったと言えます。ジン(28歳 1992年12月4日生※2020年12月時点、以下同)、SUGA(27歳 1993年3月9日生)、J-HOPE(26歳 1994年2月18日生)、RM(26歳 1994年9月12日)、ジミン(25歳 1995年10月13日)、V(24歳 1995年12月30日)、ジョングク(23歳 1997年9月1日)の7人メンバー全員は休息をとらず、ステージでの振り付けに磨きをかけていました。

 もはや、世界で最もビッグなグループBTSはこのとき、世界最大のミュージカルアクトとも言えるライブ・ストリーミング・コンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』(2020年10月10日<土>と11日<日>の2日間)を目の前に控えていたのです。このライブ・ストリーミング・コンサートは、彼らが2020年上半期のほとんどの時間をそのリハーサルに費やしていた大規模な世界ツアーの代わりとなるものです。

 そうして現在(インタビューの当日)彼らは、ソウルにあるビッグ・ヒット・エンターテインメントの本社オフィス内で座っています。そして、ほとんどのメンバーがモノトーン系の服に身を包んで待ち構えてくれました。そう、ありがたいことに彼らは、これから私(筆者ホルムズ)の質問に答えてくれるわけです。へとへとに疲れているはずなのに…。

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 この記事作成のために私がまだ取材を重ねているとき、10月17日付のアメリカbillboardチャート「Hot 100」では、リミックスとして参加した「Savage Love」が1位となります。そして重ねて2位に、最新シングルである「Dynamite」がランクイン。見事に12フィニッシュを飾りました。

 これは60年以上におよぶビルボードの歴史の中でも、ほんのひと握りのアーティストしか達成していない快挙です。次のアルバム『BE(Deluxe Edition)』がリリースされるまで、あと数週間残されています。ですが既に、インターネット上ではこのアルバムに対する期待や曲目へのコメントが駆け巡っています。もはやBTSは、どんなに控えめに言っても大物であることは間違いありません。

 グループが完全なる世界制覇を成し遂げるためには、想像以上に高次元の団結力が必要となるはずです。彼らの友情、をより強固にするためのものが。

 私がBTSのメンバーに接触したとき、まず気づいたのは彼らがいかに、お互いのことを気心の知れた仲間として理解し、信頼し合っているかということです。例えそれが、Zoomや通訳を介したインタビューであっても、もしドギマギとした関係性なら、すぐに感じとれるものです。しかしながら彼らには、それが全くありませんでした。肩を組んだり服の袖を引っ張り合ったり、互いの襟を直したりと、それはまるで家族のようにリラックスし、信頼という名のもと気を許し合っているのです。そして、互いのことについて話すときには、思いやりがしっかりと感じられる言葉で返してくれます。

 「ジミンは、ステージに対して特別な情熱を持っていて、パフォーマンスのことを本当によく考えているんです。そういう意味では、彼に学ぶことはたくさんありますよ」と、J-HOPEは言います。「これまで多くのことをやり遂げているにもかかわらず、いまでも全力を尽くして新しいものを持ち込もうとしている。彼のそういうところに、讃辞をおくりたいですね」と。

 すると、すかさずジミンが「ぼくのことを、そんなふうに言ってくれてありがとう」と応じます。

 そして今度は、ジミンがVのほうを見ながら、彼のことを「多くの人に愛されています」と語り出し、そして「自分の親友のひとりです」と説明します。そこへSUGAが割り込んできて、ジミンとVは、“グループ内で一番よくけんかをする間柄”であることを教えてくれます。

 するとVが、すかさず言い返します。「ここ3年くらいは、一度もけんかをしてないないけどね(笑)」と。

 このメンバー内での“けんか=言い争い”としては現在、彼らが言うにはジンとジョングクの二人の間でよく繰り広げられているそうです。この二人は、メンバーの中でも最年長と最年少に当たります。「最初は冗談で言ったことなのに、だんだん真剣な言い争いになってしまうんです」と、ジミンは言います。

 すると、ジンがそれを認めて、その様子を再現してくれました。

 「そんなに強く叩くなよ!」と言ってからジョングクの口真似で、「強くぶってなんかないだろ!」と返し、二人が殴り合いを始めるわけです。ですが、実際は全然強く殴ってなんかいないそうです(これはもう、じゃれ合いですね。仲の良さを感じます)。

 BTSは、そのキャリアをスタートさせてからずっと、自分たちの美意識、パフォーマンス、そしてミュージックビデオについて、確固たる自信を示してきました。それはBTSというグループ名にも表れています。

 これはもともと、「防弾少年団(방탄소년단:バンタンソニョンダン)」を略したものですが、英語圏での人気が上がってくると、この頭文字をBeyond the Sceneの略へと変更しました。

 韓国の芸能プロダクション「ビッグ・ヒット・エンターテイメント」はこれを、「今という現実に安住せず、さらなる成長を遂げるために扉を開けてその先へ向かう若さの象徴」と説明しています。

 彼らが互いに対して見せる思いやりや、彼らの傷つきやすさ、そして、彼らの生活や歌詞に見られる心の開けっぴろげなところは、アメリカの青年たちが自分や仲間たちに強いている絶え間のないあら探しや、問題のすり替えによる批判などより、よっぽど大人で男らしい態度に感じられます。そこに見えるのは、理想的な将来性ではないでしょうか。


「男らしさというものを、ある種の感情や特性によって定義する文化があるけれど、ぼくはその手の表現が好きじゃない」― SUGA

雑誌 BTS/Esquire USA WINTER 2020/2021

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 「男らしさというものを、ある種の感情や特性によって定義する文化がありますが、ぼくはその手の表現が好きじゃありません」と、SUGAは言います。「男らしいって、一体どういう意味なのか? 身体の状態は日によってさまざまです。いいときもあれば悪いときもある。それによって自分の健康状態を判断するわけで…。心もそれと同じ。状態がいいときもあれば、悪いときもある。多くの人は大丈夫なふりをして、自分は“弱くない”って言うでしょう。まるで、そう口にすると弱い人間になってしまうみたいに。それは間違っていると、ぼくは思うんです。体調が悪くても、誰もきみのことを弱い人間だと思ったりしません。心についても、そうあるべきだと思うんです。社会はもっと、それに理解を示すべきだと願っています」と、続けて語ります。

 2020年10月に私がこの言葉を聴いた頃、わがアメリカの現リーダーは、「COVID-19で死ぬのは弱いやつだけだ」と力説していました。まあ、これもまたある意味、将来性を示す言葉になるわけです。

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HONG JANG HYUN

 もしいまから、BTSの魅力を堪能しようと思ったのなら、きっと彼らのあふれんばかりの才能にいきなり圧倒されることでしょう。それは、「マーベル・コミックがどんなものか見てみよう」と言うようなものかもしれません。このストリーミングの時代にBTSは、14枚のアルバムで合計2000万枚以上の売り上げを記録しているのですから。

 マルチ・アルバム・コンセプトの『THE MOST BEAUTIFUL MOMENT IN LIFE』、『LOVE YOURSELF』、『MAP OF THE SOUL』は、複数のアルバムとEPで展開されていますし、サムスンのBTSスマートフォンなどの有名ブランドとのコラボレーションも行っています。

 『BU』や『BTS Universe』といった短編映画やミュージックビデオのほか、『BT21』というキャラクター化された独自の世界では彼らは全員、ジェンダーニュートラルのアバターで表現されています。そして、「ARMY」の名で知られる彼らのファンたちも存在し、それ自体が世界的なカルチャー・ムーブメントにもなっているのです。

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BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV
BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV thumnail
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 彼らが英語で歌い、全米ナンバーワンになったシングル「Dynamite」は、これぞまさしくポップスという曲。キラキラしていて、聴いているだけで楽しくなります。

 彼らがほかのアーティスト、彼ら以前に世界的名声をかち得たポップ・アーティストの多くと異なっている点は、それより前の曲ではっきり表れていました。キラキラした輝きとビートの背後で、人間の心に絶えず問いかけ続けているのです。彼らの歌詞は常に、社会の常識に対しチャレンジしようとしているのです。疑問を呈し、ときにはそれを非難することもあります。

 2013年のデビュー・ステージでお披露目されたBTSのファースト・シングル「No More Dream」では、社会的な規範に従って成功することだけを求められる韓国の学校の生徒たちが抱く大きなプレッシャーへの憂慮(ゆうりょ=心配して思案)を表現していました。

 SUGAによると、若者のメンタルヘルスについて語る歌詞は、韓国のポップミュージックにはほとんど見当たらなかったそうです。「ぼくが音楽作りをやるようになったのは、ぼく自身が夢や希望や社会問題のことを歌った歌詞を聴いて育ったからです」と、彼は言います。「だから自分が音楽を作るときには、その方向性の歌詞が自然と出てくるんです」とのこと。

 音楽作りの夢を抱きはじめた当初、SUGAは自分自身がグループの一員になることなど全く考えていなかったそうです。約10年前、彼は韓国第4の都市である故郷の大邱(テグ)で、Hitman Bangの名で知られていたソングライター/プロデューサーのパン・シヒョクの初期作品を聴いて学びながら、GLOSSという名義を使ってアンダーグラウンド・ラップのレコーディングを開始していました。

 パンは、「ビッグ・ヒット・エンターテイメント」のCEOで同社を設立した人物です。2010年、高校3年生だったSUGAがソウルに上京してプロデューサー兼ラッパーとしてビッグ・ヒットに加わると、パンからビッグ・ヒットが新たにスカウトしたRM、J-HOPEとともに、ヒップホップ・アーティストを想定したグループの一員になるよう頼まれました。彼らはこの時期を、自分たちの成長過程における“シーズン 1”と呼んでいます。

 「当時はレコード会社も、ぼくらをどう扱っていいかよくわかっていなかったんだと思います」と言うのはRMです。「基本的にただぼくらは、レッスンを受けさせてもらっていただけという感じで、ときどきのんびりと、音楽作りをしていたといいった感じでしたね」と続けて言います。

 やがてグループ作りにも、次第に熱がこもってきます。ときには、ほんの偶然からファミリーが増えたこともありました。例えばVに関して、彼は友人が大邱(テグ)で行われるビッグ・ヒットのオーディションに参加するというので、その友人の応援も兼ねて同行してきたところ、最終的に合格したのはVのほうだったわけです。

 また、タレント発掘番組『スーパースター K』に落ちたジョングクをめぐっては、多くの芸能事務所からのオファーが重なり、争奪戦が繰り広げられました。ですが、最終的に彼自身がビッグ・ヒットを選択します。では、なぜジョングクはビッグ・ヒットにしたのでしょうか? それは彼がRMのラップに感銘を受け、憧れを抱いていたからだそうです。

 そして、釜山の学校でダンスを学ぶ生徒で、学級委員でもあったジミンがオーディションを受けたのは、学校の先生のすすめがあったからとのこと。さらにジンは、本人の説明によると街中でスカウトされたのだそうです。「学校に登校しているとき、会社の人に声をかけられたんです。『ああ、こんなルックスの人間を見たのは初めてだ』って。それで面接を受けるよう言われました」とのこと。

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 「ぼくらが正式にハードトレーニングを積んだ時期が、BTSのシーズン2ですね」と、J-HOPEは言います。「ダンスのトレーニングが始まって、そこからチーム作りが本格的にスタートしたのだと、ぼくは思っています」とも言います。

 そうして昼は学校、夜はトレーニングという生活が続きます。「授業中は、みんな居眠りしていたよね(笑)」とVが言うと、「ぼくは、練習スタジオで居眠りしていたけどね」とJ-HOPEが切り返します。

 Hitman Bang(パン・シヒョク)は、彼らにあまりプレッシャーをかけないようにしていました。そして、自分たちの気持ちに正直な歌詞にするため、メンバー自ら曲を書いてプロデュースするようすすめます。

 SUGAはかつて、「社会を詳細に観察した曲が入っていないBTSのアルバムなんて、ありえない」と語ったことがありましたが、今回のニューアルバム『BE(Deluxe Edition)』に関しては、彼らはそんなこだわりをいったん脇に置くおくことにしました。とは言っても、それはメンタルヘルス的な要素を求めてのこと。グループのメイン・ラッパーであるRMはこう言います。

 「今度のアルバムには、社会問題を訴えるような内容の曲は入っていません。今、世界のすべての人々がつらい日々を経験しているので。なので、あまりアグレッシブな曲は、この時期にはふさわしくないという考えになりました」とのことです。

 COVID-19がもたらした新しい生活様式によって、彼らはアメリカで『BE』のプロモーションが行えなくなってしまいました。とは言え、もしこのパンデミックがなかったのなら、このアルバムの中からのファースト・シングルも存在しなかったかもしれません。

 「もしCOVID -19がなかったら、この『Dynamite』という曲は生まれてなかったでしょうね」と、RMは言います。「この曲とともにぼくたちは、気楽でシンプルかつポジティブになりたかったんです。ディープで暗い雰囲気じゃなくてね。ただただ、気楽に日を過ごしたいし、皆さんにそう過ごしてほしかったのです」と言います。

 ジンもそれにうなずきます。「ぼくらはファンの皆さんに、癒しと慰めのメッセージを届けたかったんです」と。そこで一度言葉を切ってから、さらにこう続けました。「『Dynamite』をリリースしたときには、世界制覇なんて考えてもいませんでしたし」とのこと。世界制覇というものは往々にして、そんな風に起こるものです。皆さんも、そのことは理解できるはずです。


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 『MAP OF THE SOUL ON:E』はオンラインのライブストリーミングで開催され、世界191か国で約100万人のファンが視聴しました。「規模の大きさについては、考えないようにしました」と彼らは言います。さらにJ-HOPEが、「生配信されることを知って、ちょっと緊張しました。スタジアムでのライブ・パフォーマンスではそこまで緊張しないんですけどね」と付け加えると、ジンが笑顔を見せて言いました。「J-HOPEは、スタジアムでパフォーマンスするために生まれてきたようなものだからね」と。

 タイトルのグラフィック・レイアウトを見ると、ONEのNとEの間に :(コロン)が入っているので、“MAP OF THE SOUL ONE”にも“MAP OF THE SOUL ON E”にも読むことができます。

 私(筆者)はこれを自分のオフィスで、ノイズ・キャンセル機能搭載のヘッドフォンとホットコーヒーのポットを用意して、午前3時に生で観ていました。ノイズ・キャンセリングの機能によって、コーヒーのポットが沸く雑音等をキャンセルすることができたので、それはもうコンサート会場にいるような感覚でした。まさに、“MAP OF THE SOUL on E”という気分だったわけです。

 コンサートは4つの巨大なステージを使った色彩とファッションと情熱のさく裂で、酩酊状態の叫びでもある「Dionysus」から苦しい心の内を見つめた「Black Swan」まで、ひとつのステップ、ひとつのジェスチャー、髪の毛の1本にいたるまで、無駄なものは何一つありませんでした。これは並の神経ではできないことです。

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BTS (방탄소년단) '봄날 (Spring Day)' Official MV
BTS (방탄소년단) '봄날 (Spring Day)' Official MV thumnail
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 そして、『MAP OF THE SOUL ONE』の最後に歌われた2017年の曲「Spring Day」は、まさにBTSの魅力を凝縮したものでした。表面的には、どこにもありそうな失恋と過去への追慕(ついぼ)を題材にした曲ですが、「あれは、ぼくらを代表する曲だと思います」とジンは言います。そして、「過去を見つめて、その中にどっぷり浸るのが好きなんです」とも続けます。

 しかし、この曲のミュージックビデオを見てもCDジャケットを見ても、韓国の歴史に残るある出来事に対する思いがそこに込められていることは、否定できないでしょう。

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 この曲がリリースされる数年前に、韓国の史上最悪の海難事故のひとつ、セウォル号沈没事故が起きました。その事故では、十分な船体検査が行われていなかった過積載の貨客船が、急旋回することが原因となり沈没に至りました。

 この痛ましい悲しい事故では、船が沈没していく中、「船室に留まれ」という命令に従ったために数百人もの高校生が溺死してしまいました。報道によれば韓国政府は、抗議の声を上げる芸能人を沈黙させようと躍起になり、韓国教育部は事故の犠牲者を追悼する黄色いリボンを学校で禁止する措置をとったと言います。

 「あの曲は、特定の悲劇をテーマにしていますか?」と質問すると、ジンは「はい、おっしゃるとおり特定の悲劇がテーマになっていますが、これは願いの曲でもあります」と答えました。この曲のおかげで、セウォル号事故は韓国の若者やマスコミに忘れ去られることなく、間接的にそれが当時大統領だった朴槿恵(パク・クネ)の弾劾と罷免(ひめん)にもつながりました。

 無謀な急旋回のため、その上、整備不足で過積載の船が転覆したこの事故に関して、BTSは母国韓国が抱えるさまざまな問題を象徴したものとして強く問題視し、ファンたちと一緒に訴えたのです。ですがBTSは単に、声に出して世界へと発信すればいいという安易な考えで行動しているわけではないようです。

 「アメリカの場合は、ぼくらは外部の人間です。なので、アメリカについて感じていることに関して、そのまま口に出したりすることはありません」と、Vは言います。そんな彼らの気持ちを物語ったのが、ジョージ・フロイドさん死亡事件のあとの行動です。

 この事件後、アメリカでは多くの抗議活動が行われました。そしてBTSがとった行動は、この事件に端を発し再熱した「ブラック・ライブズ・マター運動(2013年、各SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散された運動。アフリカ系アメリカ人のコミュニティを起源とする国際的な人権活動であり、黒人に対する暴力や制度的人種主義に対抗する運動を行っている)」に対し、ビッグ・ヒット・エンターテイメントと共に100万ドルを寄付するということ。BTSのファン=ARMYたちも、それに歩調を合わせたカタチをとります。

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 ARMYたちは、熱狂的なファンの文化をとても魅力的な方向へとシフトさせていっていると言えます。ネット上でライバルたちへの誹謗中傷を展開することもなく、BTSの曲に宿るポジティブなメッセージを実際に、自ら具現化する行動をとっているのです。しかもそれは、単なる上っ面のものではありません。いわばARMYは、BTSのまさにエバンジェリスト(伝道師)と言っていいのです。

 これまでに、少額寄付活動を通じて熱帯雨林の再生に取り組んだり、クジラを育て、ルワンダの若者のために数百時間分のダンス教室を提供したり、世界中のLGBTQの難民を助けるための資金を集めてきました。

 ポップスターのファンたちと言えば、ひと昔前であれば自分たちのアイドルの誕生日にテディベアやバースデーカードをおくり、また5年前であれば、YoutubeでMVの視聴カウントを上げるためのハッシュタグを広めていたかもしれません。ですがARMYたちの行動は、全くそれと異なります。

 BTSの国際的なファン集団である「ONE IN AN ARMY」が今年(2020年)の9月、RMの26歳の誕生日に際して行った行動は、COVID-19で苦境におかれた地方の子どもたちがデジタル夜学校にアクセスできるようにするための資金づくりです。そこで集まった額は、2万ドル以上となりました。

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 また、2020年アメリカ大統領選挙をめぐる対話にも、参加していたと言っていいでしょう。2020年6月に米国オクラホマ州タルサで開かれたトランプ大統領の集会には、数十万もの参加申し込みがオンラインであったわけですが、実際に参加した人数は悲惨なほど少なかったのです。

 それには、その裏でこの選挙集会への偽の参加の呼びかけを行い、結果的にこの集会への妨害工作を成功させた集団がいたとも言われているのをご存知でしょうか。その集団は社会の多様性を守るため、そして、民主主義を保つために戦いを開始しました。

 そんな“善行なる荒らし”とも言われるこの行動に関して、現在までそれを仕掛けた張本人だと名乗りを上げる者も団体も、正式には発表されていません。ですがBTSファンの間で、その出欠確認を促す動画が存在し、数十万回の視聴数を獲得しているということ。どうやらそこにARMYが多少なりとも関わっていたことは、間違いないでしょう。

 このようにBTSメンバーとARMYの関係は、実に強固なものと言えるのです。「ぼくらとARMYは、常に互いのバッテリーを充電しあっています」と、RMは言います。そしてこう続けます。「へとへとに疲れているときでも、教育プログラムや寄付のことなど、世界中から届くいいニュースを耳にすると、改めて自分たちの責任の大きさを感じるんです」と。

 彼らの音楽にこめられた深く熱いメッセージに、心から触発されたARMYたちによって、こうした善行が繰り返し行われているのです。ですが同時に、それらの善行によって、BTS側も新たな音楽を生み出す刺激にもなっているようです。「ぼくらはもっとビッグにならないといけないって思っています。そして、もっと優れた存在にならないといけないとも」と、RMは続けます。「そういったみんなの行いから常に影響を受けて、ぼくらは優れたミュージシャンやアーティストである以前に、まずは優れた人間になろうと心がけているんです」と言います。

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 そんな献身的なARMYたちと同様に、以前からBTSの活躍を期待しながら応援していた人物がいました。それはこの2020年の秋、1週間まるまるBTS特集を組んだ『ザ・トゥナイト・ショー』の司会者であるジミー・ファロンです。

 「通常、アーティストの人気が急上昇している最中には、その噂が早くから耳に入ってくるものだけど、BTSの場合、その噂をはるかに超えてクレージーなほどに人気になっているね」と語っています。

 かつて私(筆者ホルムズ)自身、「面白いなぁ」と思ったことがあります。それは1964年2月9日の『エド・サリヴァン・ショー』の観客すべてが、「ビートルズを観に来ていたわけではなかった」ということです。

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The Beatles - I Want To Hold Your Hand - Performed Live On The Ed Sullivan Show 2/9/64
The Beatles - I Want To Hold Your Hand - Performed Live On The Ed Sullivan Show 2/9/64 thumnail
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 当時エルヴィス・プレスリーは、徴兵を受けていました(1958年1月20日~1960年3月5日の2年間兵役に。他と変わらぬ普通の一兵士として西ドイツにあるアメリカ陸軍基地に所属)。また、バディ・ホリーはすでに、この世の人ではありませんでした。そして1964年1月に、アメリカ合衆国で発売されたビートルズの2作目のアルバム『ミート・ザ・ビートルズ』がチャート1位になりますが、それ以前のナンバーワン・アルバム3枚を見てみると、テレビ・プロデューサー/コメディ作家でノヴェルティ・シンガー/ソングライターであるアラン・シャーマンのコメディ・レコード『Hello Mudduh, Hello Fadduh! (ハロー・マダー・ハロー・ファダー)』に、オリジナルキャスト版『ウェスト・サイド物語(West Side Story)』に、シンギング・ナンことスール・スーリールのアルバムに続きます。

 つまりこの頃、アメリカのミュージックシーンはロックンロールからしばし離れ、目標を見失ってバラバラになっていたと時期と言っていいでしょう。次は何に手をすればいいのか、わからない状態だったのです。

 話しは戻りますが、1964年2月9日の『エド・サリヴァン・ショー』の客席には、「ぼくはブロードウェイ・ミュージカル『オリヴァー!』のメドレーと、テッシー・オシェイのバンジョーを聴きにきたんだ」という感じの、文化的な感心の高さを持ちながら、適度にヒップな若者がいたことも十分に考えられます。

 直感的に人を笑うことは、そう悪いことではありません。それがバカにした笑いでなければ。ですが、いつあなたが笑われる側になるかわからないということも考慮しておくべきでしょう。

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 世の中には、自分が住んでいる世界とは別の世界も存在していることを認めることが大切なのではないでしょうか。あなたが頑固に目を向けようとしない色彩や、自分とは無縁だと思っている喜び、もう自分が踊るのは無理だというビートにあふれた世界が存在していることを認めるべきなのです。

 BTSはいま、地球上で最もビッグなグループです。が、全く知らない人に彼らを紹介することは、特にアメリカではそう生易しいことではないでしょう。その理由はおそらく、彼らを憧れの的として歓声をあげるのは、ティーンエイジャーがほとんどだからと言えるでしょう。

 つまり、そんなティーンエイジャーは決まって、自ら正しいと思って行動していることを、家にいる両親という大人たちと確実に意見の対立が生じさせてしまうものですから。

 たぶんそれは、「世代間の文化的意識の隔たりがあるから」と言えるでしょう。「英語が一番でなくてはならない」と露骨に気をもみ、われわれアメリカの裏に今も根づいていると言える「外国嫌い」を恥ずかしげもなく露わにするという世代との文化的な分断、と言えるのです。

 そこにあるのは、言葉の壁なのでしょうか? まるで1989年以前に、R.E.M.のリードボーカルであるマイケル・スタイプが歌う曲を、一字一句理解していたとでも言うように。※筆者が指摘するマイケル・スタイプの曲は、「It’s the end of the world as we know it, and I feel fine」だと日本版編集部は推測しますがどうでしょう。タイトルを訳せば、「ご存知のように世界の終わりだけど、僕は平気さ」になります。

 理由が何であれ、そんな彼ら彼女らはいずれにせよその結果として、(この時代に当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう)パラダイムシフトと共に、ポップの偉大さを示す歴史的な瞬間を見逃すことになるのです。


 BTSが公の場での発言に関して、かなり気をつけなければなりません。――おそらく、これまでのどんなポップスターよりも――それは、そうする必要に迫られているからです。

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 私が2度目の取材で会った直後、彼らはアメリカと韓国の関係強化に多大な貢献があったとして、アメリカのコリア・ソサエティからジェームズ・A・ヴァン・フリート将軍賞を贈られました。その受賞スピーチでRMは、「この両国が分かち合った苦難の歴史と犠牲になった多くの人々を、私たちは決して忘れないでしょう」と述べたのは、極めて外交辞令的で無難なコメントを心がけた結果です。

 ところが、朝鮮戦争で命を落とした中国兵への言及がなかったことから、これに反発を示した人たちもいました。

 そんなわけで、サムスンのBTSスマートフォンが中国のネット通販から姿を消し、FILAとヒュンダイはBTSを起用していた広告を中国から引き上げ、中国共産党系の英字紙「グローバル・タイムズ(環球時報の国際版)」は、彼らが歴史を否定して中国国民の感情を傷つけたと非難し、中国のSNS微博(ウェイボー)では、「#防弾少年団辱華(BTSが中国を侮辱)」のハッシュタグを付けた投稿が2万件を超えることになりました。

 彼らにかかるプレッシャーは、決して小さなものではないのです。

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 例え世界ナンバーワンのポップ・グループであり、毎日血のにじむような努力を重ねていようとも。また、何千万もの熱烈なファンたちが彼らの名のもとに文字どおり地球を癒す活動を行い、“熱烈なファン”という言葉の意味を再定義しようとしているほどの熱狂ぶりを全世界に示しているにもかかわらず。それでも当のBTSのメンバーたちは、インポスター症候群(=「自分の成功が自分の実力によるものではなく運がよかっただけ、周囲のサポートがあったからにすぎない」と考えてしまうこと)に襲われているのもまた事実です。

 RMは、「“マスク・コンプレックス”というのがあることを聞きました。いわゆる成功者の70パーセントは、そういった心理状態にあるということを。つまり、僕の顔にはマスクがかかっているんです。そして誰かに、そのマスクを剥がされるんじゃないかと、いつもビクビクしているわけです。そういう恐怖は、ぼくらにも現にあります。でも、70パーセントがそうだと言われているので、そうなるのが普通なんだと思っています。そのときの状況や運によって、たまたま成功する場合もありますしね。人間は完全ではありませんし、ぼくらもいろいろな欠点を持っています。そういった不安を認めることが、のしかかってくるプレッシャーや重圧と付き合っていくための、ひとつの対処法でもあるんじゃないでしょうか。自分たちの影の部分を認めるってことを」と言います。

 そしてそれは、音楽づくりにも役立つ、さらに彼らを癒してもくれるもののようです。

 「曲や詞を書くときに、そういった感情をじっくり追究してみます。ぼくらはそんな状況下にいることを自覚していますし、心情的にもよく理解できていますのでる」と、J-HOPEは言います。「だから曲がリリースされたときには、ぼくらもまた、その曲を聴くことで心が癒されるんです。ぼくらのファンも、その気持ちを感じてくれていると思いますね、たぶんぼくら以上に。ぼくらとファンは、互いにポジティブな影響を与えあっていると思うんです」とのこと。

 もし、彼らが犠牲にしているものが何かあるとすれば――「自由な時間と、中国外交部から声明を出されることなく自由に発言すること」を別にすると――それは恋愛に関してでしょう。

 私がデートについて、「どう?」とか「時間はあるの?」とかいろいろたずねてみても、答えは明快に「ノー」です。「ぼくらにとっていま一番大切なことは、睡眠をとることなんだ」と、ジョングクがきっぱり言います。するとSUGAが、「この眼のクマが見えるでしょ?」と続けますが、私には見えませんでした。なぜなら、そんなものはなかったからです。太平洋をはさんだZoom越しでも、その肌にシミひとつないことがはっきりとわかりました。

 つまり少なくとも表向きは、彼らは誰とも恋愛関係にないということです。もし彼らを、大人へと導いた強力なリレーションシップがあるとするならば、それは「ビッグ・ヒット・エンターテイメント」とのリレーションシップに他なりません。

 「ぼくらの会社は、スタートしたときは20~30人くらいしかいなかったのですが、今ではかなりの数のスタッフがいますよ」と、RMは言います。「ぼくらにはファンもいますし、自分たちの音楽もあります。たくさんのものを守る責任が、ぼくらにはあるんです」と言いながら、一瞬その意味を自問自答してからこう続けました。

 「それが大人というものなんだと思うんです」と。「ぼくらは24時間365日、世界中のすべてのARMYたちと恋愛関係を結んでいるんです」と、最後にRMが付け加えています。

 平均的なポップミュージック・ファンというものは、すぐに理解できないものは頭の中から削除しようとしがちです。そんな傾向があると認識しながらも、ジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』では、9月28日(月)から特別に1週間スペシャルとして、BTSウィークを開始しました。その初日の1曲目は、予想どおり司会のファロンとハウスバンドのザ・ルーツを交えた、とても楽しい「Dynamite」でした。ですが、2曲目のパフォーマンスでは、思いきったことをやっています。

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BTS: IDOL | The Tonight Show Starring Jimmy Fallon
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 私の友人でロサンゼルス在住の33歳のBTSファンは、次のように言っています。

 「彼らが2曲目にやったのは、“IDOL”(2018年の『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』に収録されている曲)で、彼らの韓国人としてのアイデンティティーを祝福するものでした。彼らはソウルの朝鮮王朝(李氏朝鮮)の王宮「景福宮(キョンボックン)」でそのパフォーマンスを行いました。しかも、韓国の伝統衣装であるハンボクにインスパイアされた衣装を着て。ほぼ完全に韓国的なパフォーマンスで、超型破りなものでした。ひとりのファンとして、そのパフォーマンスをこう受け取りました。『“Dynamite”はほんの名刺代わりで、この曲が自分たち本来の姿であり、ここが自分たちのホームなんだ』ということを」。

 「視聴者に理解されないんじゃないかと、ちょっと心配していたんだ」と、司会のファロンは言います。さらに、「英語が、全然出てこないじゃないかって感じでね。でも、みんなが目にしたのは、スターのパワーそのものだったね。才能そのものだよ。すぐに、『ああ、これがすべてを物語っている』って思った。これだけパワフルだと、言葉の壁なんか越えてしまうんだね」と語っています。

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HONG JANG HYUN

 21世紀のアメリカのポピュラーミュージックは、以前に比べると遥かに細分化されています。そう、アラン・シャーマンやレナード・バーンスタインやスティーヴン・ソンドハイムが活躍し、シンギング・ナンがビルボードのナンバーワンを獲得した時代に比べると遥かに。

 ビートルズが大きな貢献を果たした単一文化は、もはや風前の灯。今では私たちひとりひとりが、自分たちのプライベート・ラジオ局の番組ディレクターとなって、過去の自分の視聴習慣とストリーミング・アルゴリズムによって、自分が求めているものに最も近いものを見つけることができるのです。

 これは素晴らしいことですが、ただ一点、重要なものを見過ごしてしまう可能性もあることが問題でもあります。私たちは親の世代が私たちの年代だった時代に比べたら、ずっと多くの情報を得ているとは言っても、その時代を左右するような最高のものを見逃している可能性もあるからです。

 例えば聴いているのがSpotifyのDiscover Weeklyや、大学でバンドの連中が着ていたTシャツにロゴが描かれていた音楽レコメンデーションサービスのパンドラ・チャンネルだった場合は特に。プライムタイムにはNetflixで大盛り上がりし、『ザ・トゥナイト・ショー』が放送されている時間帯においては、就寝前の最後のエピソードを観ているようでは、大事な瞬間を見逃してしまう可能性も大なのです。

 できれば、そうすべきではありません。「正直言ってBTSと同じ時代に生きているということは、歴史的にとても偉大な時代に存在しているってことだと思うんだ」、とファロンは言っています。「間違いなく、私がこの番組をやるようになってから見た中で、最もビッグなグループだよ」とも。


 ビートルズをはじめ、アメリカでブレイクしたさまざまな世界的アーティストに比べ、BTSには懸念する必要のない項目があります。

 それは、彼らは世界中で大人気となっています。その結果、各メンバーのパートナーである「ビッグ・ヒット・エンターテイメント」は最近株式上場しました。そのおかげもあり、今ではメンバー全員がとてつもなく裕福になったのです(特にHitman Bangは、億万長者になった初めての韓国芸能界の大物となります)。

 音楽シーンの中でもポップスの領域が衰退傾向にある中で、なぜこれほどの勢いを継続できているのでしょうか?

 「ぼくがアーティストを夢見ていたころはポップミュージックを聴き、アメリカのすべての音楽賞の授賞式を観ていたよ。アメリカで成功してヒットを飛ばすことは、もちろんアーティストにとっては名誉なことさ」とSUGAは言います。「そのことをとても誇りに思っているよ」と。

 BTSのメンバーは、自分たちのことを崇拝するわけでもなければ、見過ごすこともない国アメリカで、その人気がブレイクしていることも実感しています。ですが、そんな彼らはアメリカで、十分なリスペクトが得られていると感じているのでしょうか?

 「ぼくらが、すべての人からリスペクトされることなんて無理なことです」と、ジンは言います。そして、「応援してくれる人たちからのリスペクトがあれば、ほんと十分です。それは世界中のどこでも、同じことが言えると思います。誰でも、みんなから好かれることなんてありえないと思っていますし。本当に好きになってくれる人からリスペクトされるだけで、十分だと思っています」と語ります。

 その答えに、SUGAも同感のようです。

 「常に快適でいることはできないし、そういったことも含めたすべてが、人生だと思っています。正直なところスタートしたばかりの頃は、リスペクトを得ることに対して慣れていませんでした。でも、アメリカでも世界のほかの場所でも、リスペクトされることが増えるにつれて、だんだん変わってきたと思います」。

「応援してくれる人たちからのリスペクトがあれば十分だ。世界中どこだって似たようなものさ。誰でも好きになれるわけがないし、本当に好きになってくれる人からリスペクトされれば、それで十分だと思う」― ジン

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HONG JANG HYUN

 間違いなく、ミュージシャンにとってリスペクトの証となるものがあります。それがグラミー賞です。彼らはこれまでに、一度だけノミネートされたことがあります。ですが、それはベスト・レコーディング・パッケージ部門です。しかし、次のグラミー賞で彼らが見据えているのは、もっと偉大な部門となります。

 RMはその思いをはっきり明かしています。「ノミネートされたとなれば、ぜひ賞を獲得したいと思っています」とのこと。強い意思と才能と、そして努力による純粋な結果として、聖なる領域であり、それでいて歴史はあるけれど旧懐的な、もっぱら西洋に焦点をあてている(!?)グラミー賞の獲得です。ですが、世の中は往々にして、信じられないことが起こるものでもあります。

 RMはさらに言います。「グラミー賞が、ぼくたちの最後の仕上げになると思うんです。ぼくらが続けてきたアメリカン・ジャーニーの最終地点と言えますね」と、笑顔で言います。そして、「だから、きっとたどり着いてみせます」とも。

 「ザ・レコーディング・アカデミー(=グラミー賞の主催団体)」のお墨付きは、確かに偉大なものです。しかしBTSは、すでに世界制覇を成し遂げ、暴君どもにひと泡吹かせてもいます。また、彼らの触発された熱狂的なファンたちはささやかながら、けれど確かな行動主義を集結し、その思いをひとつにして地球を救いはじめているのです。

 また彼らは、男らしさの有害な部分である「弱みを隠す」ということもせず、果敢に挑戦を繰り返しながら大富豪の仲間入りを果たし、そして国際的なアイドルへと成長していったわけです。

 「グラミー賞が彼らに注目するかどうか?」は、1964年2月のあの夜、『エド・サリヴァン・ショー』を見ていた観客たちの期待と同様と言えるでしょう。BTSはビートルズと同様の勝利を収めてもいるのですから。


《追記》

 今回の長編インタビューは2020年10月に行われ、その頃はまだ「第63回グラミー賞」のノミネートは明らかにされていませんでした。しかし、日本時間11月25日未明にグラミー賞のノミネートが発表され、BTSの楽曲「Dynamite」が最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門でグラミー賞候補となりました。彼らは次々と目標を達成させていきます。次のジャーニーでは、私たちに何を見せて(魅せて)くれるのか、胸の高まりが止まりません。

Source / Esquire US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。