「今、何を着ていますか?」、「なぜそれを選んだのですか?」、「その服はあなたについて、何を語っているのでしょうか?」。

 これらの素朴な疑問が、作家でありファッション評論家でもあるチャーリー・ポーター氏の新刊『What Artists Wear』の核心にあります。この本は、芸術の世界に身を置く反逆者、そしてルールの破り方、異端児が身につけている服、さらにその中で生きることの意味を探る興味深い本です。

 題材と同様に、この本自体の装丁も常識を覆しています。ペンギン社の出版物なので、もちろんペーパーバックです。小さなポケットサイズで手に取りやすく、手頃な価格です。「とても親しみやすい本です」と、ポーター氏は言います。

 続けてこうも話しています。「若い読者がこれらのアーティストを発見するきっかけになればと思っています。衣服、そして服を着ることについて語ることは、その入り口なのです」。

Penguin What Artists Wear

What Artists Wear

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 ポーター氏によると、衣服の中に宿る言語、つまり、そのアーティストが直感的に、そして日常的に行う選択を探ることによって、私たちの文化的・社会的な風景にスポットライトを当てたメッセージを見つけることができるのだそうです。

 「ここ数十年、アーティストたちはビデオ・写真・パフォーマンスなどを通じて、これまでにない方法で自分自身を作品の中心に据(す)えています。そのため、彼らが着こなす服も作品の中心にあるのです。彼らは、観る人々にシグナルを送っているわけです」と、ポーター氏は新刊でつづっています。

 では、その信号とは何なのでしょうか? そして、それをどうやって読み解くというのでしょうか。

 例えば現代美術に多大な影響を与えた、フランシス・ベーコンの写真を観てみましょう。彼は抽象絵画が全盛となった第二次世界大戦後の美術界において、具象絵画にこだわり続けたアイルランド生まれのイギリス人画家です。1974年にサウス・ケンジントンのスタジオで撮影された写真の中で、彼は悪名高い混沌とした仕事場の真ん中で椅子に座っており、視線の先にはペンキが飛び散ったズボンが床に転がっています。しかし、彼自身が着ている服は、「カラフル、セクシー、ファッショナブル、清潔」です。

 これはなぜでしょうか?

 「ベーコンは創作プロセスに関する情報を、緻密にコントロールしていたアーティストです。なのでこの写真で、自分が主導権を握っていることを示したかったのです」と、ポーター氏は語ります。続けて、「そして彼は仕事が終わると早速着替え、ソーホーへと向かいます。社交的で魅力的な人になる準備をしていたのです」とも言います。

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The Estate of Francis Bacon
1974年に撮影された、自身の仕事場に座るベーコン。

 下の写真は、生きる彫刻=「living sculptures」というコンセプトを打ち立て、シングルブレストスーツのいで立ちが恒例となっている有名なコラボレーション・アート・デュオ、ギルバート&ジョージのショットです。

 ある夏の夜、ロンドンのイーストエンドの通りを歩く彼らを見つけたポーター氏は、「ごく普通に仕立てられたスーツを着こなしているのに、なぜ彼らは奇妙で、かつ脈絡もなく怪しげにみえるのか?」と自問したそうです。

 そして彼はこの本の中で、「男性のパワーを記号化したテーラーリングとは、私たちの精神にどのような影響を与えているのだろうか?」と、われわれに問いかけています。

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Sonnabend/Methodact
ギルバート&ジョージの作品『The Singing Sculpture』。

 また、ジャン=ミシェル・バスキアについてはどうでしょうか。バスキアほど偏屈なアーティストは他にはいないと言えるほど、個人的なイメージを尊重したアーティストの1人です。

 そんな彼は、仕立てた服と古着屋で手に入れた服を組み合わせて着こなしたり、パリ・コレの1987 Spring/Summer COMME des GARCONS HOMME PLUSのショーでモデルをこなしたりと、高価なデザイナーズアイテムを購入できる数少ないアーティストです。そんなスタイルで絵を描いたり、タバコを吸ったり、パーティーに参加したりしながら、絵の具の飛沫やタバコの火傷も自らの芸術におけるプロセスの一部として受け入れていたのです。

 「彼が身につけていたものは、特大であり、ぎこちなくもコントロールされた混沌としたものでした。しかしそれは、突如名声を得るずっと前から彼の中で形成されていたのです」と、ポーター氏は言います。

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Comme des Garçons
『コム・デ・ギャルソン・オム・プリュスのショーで、モデルとしてランウェイを歩くジャン=ミシェル・バスキア。

 このテーマに対するポーター氏の好奇心は、とどまる所を知りません。他にも、フランスの画家イヴ・クラインの完璧なテーラリング、日本を代表する芸術家草間彌生の万華鏡のような衣装、アンディ・ウォーホルのシグネチャーデニム、現代アートの作家シャーロット・プロジャーのカジュアルウェアまで、ポーター氏はこの新刊でアーティストを理解し、自分自身を着飾るための新しい方法を編み出そうとしています。

 芸術家のイマジネーションが具現化された作品、その一部である彼ら彼女ら自身が着こなす服には確かに、そこに言語が含まれていると言っていいでしょう。「この本は、アーティストが着るものを神格化しようとするものではありません。また、ファッションについての本でもありません。私が興味を持っているのは、着ている人について多くのことを教えてくれる、汚くて不潔なリアルな服なのです」と、ポーター氏はつづっています。

Source / ESQUIRE UK
※この翻訳は抄訳です。

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