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夏休みのエスクァイアおすすめ課題読書(短編集)17選+α
夏に長い夜、ときには海外のページの波でサーフィンをしてはいかがですか。眠りにつく前のひととき、スマホも遠くに置いて(目覚ましで使っている方は仕方ありませんが、消して寝る前は触らず…)、印刷活字の旅を楽しんでください。最後に、日本の編集部員それぞれはおすすめする1冊もご紹介しています。
2017年に『ニューヨーカー』誌で発表されるやいなやSNSで“大炎上”し、たちまち注目の新星となった作家クリステン・ルーペニアンの衝撃の短編「Cat Person(キャット・パーソン)」をご存知でしょうか。スマホのメッセージで盛り上がった男と女の「あるある感」満載のデートの顛末を描く現在を映す鏡のような作品です。
いきなり初っ端から、この夏一番のおすすめ短編集をご紹介することになりました(笑)。この本は2019年7月5日に、集英社から翻訳版が発売されていますので、英語が苦手な方はぜひこちらでお読みください。
「ここで何を言いたいのか?」という問いに答えますと、ウェブやSNSなどなど新しいメディアが世を席巻している時代においても、やはり本・雑誌というものが持つ力、そして文章=文学は放つ魅力の絶大なるパワーを未だ持っている…ということを改めて確認できたのでは?ということです。
そうです皆さん。寺山修司さんの名著である言った「書を捨てよ町へ出よう」は卒業し、「スマホを捨てよ書を拾おう」と言いたいのです。
そこでまず、その慣らし運転として、短編集から初めるのはいかがでしょうか?
短編集であれば、ひとつのストーリーのボリュームは最小限に留められているはず。こま切れに自由な時間を得た際にも、サクッと切りよく読める可能性も大となります。眠りに着く前の1時間もあれば、スマホなどで時間を潰したり、Youtubeやアマゾンプライム、Hulu、Netflixなどで映画を観るよりも、効率よく物語の世界を旅することができるわけですから…。しかも、自分自身のキャスティング&演出による想像の世界が繰り広げられるわけですから、唯一無二の名作になる可能性も大なのです。
ではここに、クラシックから現代まで、あなたのアンテナにかかること間違いなしの短編17選をご紹介しましょう(英語で読むことが辛い方には、その作者の日本語翻訳版となっている別作品もご紹介します)。そしてこちらの記事で、さらなる読書欲を増長するきっかけとなり、読書の秋を迎えていただくことを強く望みます。
ローレン・グロフ『Florida』
米国の著名女性作家による2018年発表の作品が、この『Florida』です。蛇やワニ、トカゲなどをモチーフに、むせかえるような暑さと薄暗いフロリダのジャングルの空気感を頬で感じることができるでしょう。グロフならではの言葉選びやプロット、対話の手法が余すことなく発揮され、読後も余韻が残る短編集となっています。
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そんな筆者ローレン・グロフの作品で、日本語訳されているものの中でおすすめとなるのが、こちらです。「結婚」という場面を壮大な悲喜劇として描き、オバマ前大統領も絶賛した話題作になります。 電撃的な出会いで結婚した、売れない俳優ロットと美貌のマチルド。純真な妻に支えられた夫はやがて脚本家として成功。しかしその後、夫は妻のいまわしき秘密を知るのでした…。巧みなプロットと古典劇の文学性を併せ持った大河恋愛小説です。
ケヴィン・バリー『There are Little Kingdoms』
彼の作品の1ページごとに、味わい深い言葉とストーリーテリングのストレートな面白さがあふれています。アーヴィン・ウェルシュ以降、英語で書かれた作品でこの手の面白さのある作家はいませんでした。失われた魂や、思うに任せないアイルランドの家族や友人関係を描いたストーリーには哀愁もあふれています。独自の才能が光る、おもしろく刺激的な作品。
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そんな筆者、アイルランド国立大学ゴールウェイ校・人文学部名誉教授であるケヴィン・バリーが共著している『ピーター・ライスの足跡』がおすすめです。この作品はシドニー・オペラハウスの屋根を代表作とする、アイルランドの構造家・構造エンジニアの故ピーター・ライスの仕事とその功績について、幅広い観点から述べられています。彼の美意識について知りたい方はぜひ。
ロアルド・ダール『Kiss Kiss』
キャサリン・マンスフィールド『The Garden Party and Other Stories』
キャサリン・マンスフィールドは、1920年代初頭に登場したモダニズム文学の先駆者的存在。英国の道徳観や、階級制度を鋭く分析しました。この背景には、彼女が渡英前にニュージーランドで育ったことが影響していると考えられます。惜しくも夭逝しましたが、「ガーデン・パーティ」を代表とする、珠玉の作品を世に残しています。
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そんな筆者、キャサリン・マンスフィールドの作品で、日本語訳されているものの中でおすすめとなるのが、こちらの短編集です。初めて夫に欲望を感じた妻が夫の本心を知る「幸福」。不慣れな外国で出会った親切な老人との午後の行方を綴る「小さな家庭教師」などなど、選りすぐりの十三篇をぜひご堪能ください。
ジュノ・ディアス『This Is How You Lose Her』
見たことのないような大胆な書きっぷりに、読者はつい、主人公ユニオールの懲りない人生にひきこまれてしまうことでしょう。この男は長年つきあった彼女と別れたかと思いきや、すぐ次の彼女をつくるのですが、その彼女にもフラれてしまいます。そして年上の彼女から教えてもらうのです…。私たちの関係性とはどれほど不完全なものかというメッセージとともに、本当の愛はそんなに簡単に転がっているものではないのだと教えられます
この作品は、新潮クレスト・ブックスより翻訳版で『こうしてお前は彼女にフラれる』というタイトルで販売中です。ニュージャージーの貧困地区で…、ドミニカの海岸で…、ボストンの大学町で…と、かなわぬ愛をめぐる物語が、傷ついた家族や壊れかけた社会の姿をも浮き彫りに。浮気男ユニオールと女たちが繰り広げる、おかしくも切ない9つの物語をお楽しみください。
エドナ・オブライエン『The Love Object』
現代アイルランド作家を代表する1人。2014年発表のこの短編集には、50年に及ぶ輝かしい創作活動から生まれた作品を所収。今も活躍する作家として、そのスタイルは高く評価されています。主人公は孤独な尼やシングルマザー、億万長者など。どの人物も見事に描かれています。
そんな筆者、エドナ・オブライエンの作品で、日本語訳されているものの中でおすすめとなるのが、こちらです。アイルランドで片田舎で暮らす少女が二人、窮屈な修道院に入れられては問題を起こして追い返され、やがて都会へと出て行きます。素朴で可愛らしい少女が、都会でありふれた詰まらない女じへと変貌していってしまう「やるせない」物語です。1966年の作品です。
村上春樹『MEN WITHOUT WOMEN』
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の後、2017年に発表された短編集。7つの短編の主人公の男は、さまざまな理由から孤独を感じており、それぞれの話は、孤独感や切望を軸として展開します。村上春樹独特の語り口は長年のファンも、新しい読者も、どちらも満足させてくれることでしょう。
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この作品は、2016年に文春文庫より発売されているものになります。タイトルは『女のいない男たち』。同名のタイトルで、ヘミングウェイも28歳のときに短編集を出していますが…。短編集であることをメリットとして捉え、それぞれの作品同士が響きあうよう綴られた傑作の短編小説集です。「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」他全6篇で構成された珠玉の短篇集と言えるでしょう。
ケイト・ショパン『THE AWAKENING AND SELECTED STORIES』
夫を捨てて性の自由に目覚めるという、社会規範に抗った女性を描いたものとして、画期的な作品であったものの、当時は批判の対象となってしまいます。その後、フェミニズムの原点的作品として再評価されました。どれも非常におもしろく、最高にせつない話ばかりですが、彼女が時代の先を行き過ぎたためか過小評価されていました。
エレイ・ウィリアムズ『Attrib. and Other Stories』
英国人作家エリー・ウィリアムズが、2017年に発表した短編集になります。語り手は「1人で時を過ごすのでなければ、実際、センテンスの意義とは何だろうか?」と問いかけます。人間関係における「はてしなく無駄な仕事」や言葉の壁がテーマとなっています。レイチェル・コンの『Goodbye, Vitamin』と同様、『Attrib.』は日常にあるはかなさを愛おしく描いているのです。
アーヴィン・ウェルシュ『THE ACID HOUSE』
映画『トレインスポッティング』はご存じかもしれませんが、この映画の原作である小説と同様に、汚く、おかしく、刺激的な作品です。ウェルシュの初めての短編集では、様々な登場人物のドタバタが痛快な俗語で奇想天外に語られています。
前出のとおり、アーヴィン・ウェルシュと言えば『T2 トレインスポッティング』ですが、こちらはもっと危ないプロローグになります。
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『The Thing Around Your Neck』
『We Should All Be Feminists』や『Americanah』の作者による短編集は、家族や恋人、友人関係の結びつきに鋭く斬りこんでいます。『The American Embassy』には亡命申請をするも、ビザと引き換えに息子の殺人について語ることができないでいる女性が登場。『Tomorrow Is Too Far』は、兄弟の死にまつわる忌まわしい秘密を明らかにする女性を描いています。
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そんな筆者、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの作品で、日本語訳されているものの中でおすすめとなるのが、こちらの2013年にアメリカ、アフリカ、ヨーロッパの三大陸を背景に展開する長編『アメリカーナ』。この作品は全米批評家協会賞小説部門を受賞。かつての恋人たちは、いつの間にか別々の道を歩いていくさまを綴った三大陸大河ロマンです。これはもはや名著とも言えるでしょう。
アーネスト・ヘミングウェイ『THE NICK ADAMS STORIES』
男s向けウェブサイトにおすすめするヘミングウェイ作品としては、やや時代は古くはなりますが…。これは『パパ』は隠れた名作です。この短編集には、ヘミングウェイの最も有名な短編は収められていません。ですが、自然をテーマにした秀逸な作品であり、イリノイ州で過ごした若き日の半自伝的な内容となっています。何の衒いもなく、読みやすいヘミングウェイ作品と言えるでしょう。
もはや語るまでもないでしょう。でも、皆さんはいかがですか? 『老人と海』は読みましたよね? 『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』、『日はまた昇る』、『海流のなかの島々』は言うまでもありませんね…。でも、彼の死後発表された『エデンの園』や20年代のパリを描いた『移動祝祭日』は忘れがちな作品です。ですが、それ以上に見逃しがちなのが彼の短編。その中でも『われらの時代』『男だけの世界』が収録されているこの短編集を!
レイモンド・カーヴァー『What We Talk About When We Talk About Love』
今となっては悪名高きタイトルであるこの個性的な短編集は、米国中間層の人々の日常生活を描き出したものです。現実感のある会話や、無駄のない言葉でやるせない傷心を表現する手法は、彼の才能の真骨頂と言えるでしょう。2組の夫婦が何気ない会話から、やがて愛について語り始める物語です。
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この作品は、2006年に中央公論新社 村上春樹翻訳ライブラリー新書として発売されています。タイトルは、『愛について語るときに我々の語ること』。アグレッシヴな小説作法とミステリアスなタイトリングで、作家カーヴァーの文学的アイデンティティを深く刻印しています。80年代アメリカ文学にとってカルト的とも言えるほど影響をもらたらした傑作です。転換期の生々しい息づかいを鮮やかにして大胆に伝える短編の中の短篇集。カーヴァ―らしいタイトルも素敵すぎる…しかも、それを村上春樹の翻訳で…。これはこの秋の課題図書にします!
サラ・ホール『Madame Zero』
権威ある英国の文学賞、「ブッカー賞」にも2度ノミネートされているサラ・ホールが著者になります。都会や田園部の風景に目を向け、自然と人間、動物たちを見つめる中でエロティックなものから心に残るストーリーまで、詩的な短編集にまとめている名著です。
イアン・マキューアン『FIRST LOVE LAST RITES』
初版から40年を経て、マキューアンの初めての出版作品であるこの短編集は、著作の中でも暗さが印象的で独特の空気を放っており、彼は「Ian Macabre(不気味なイアン)」との異名をとるようになりました。ストーリーは殺人やセックスを題材にしており、妹とのひと夏の近親相姦を描いた『Homemade』などが収められています。
この作品は、1999年に早川書房 より発売されています。タイトルは『最初の恋、最後の儀式』、邦題にしてもなお、洒落たタイトルです。自分ではどうすることもできず、妄想を展開する世界感、怪物の住む世界へと引きこまれていく…少年と少女のひと夏の恋を、エロティシズムと恐怖を交えて綴った表題作は必読です。また、10歳の妹を誘惑する14歳の兄の姿を描いた出世作でもある「自家調達」など、時には残酷に、時には優雅に紡がれた八篇の短編をこの夏、どうぞご堪能ください。
アリス・マンロー『The Moons of Jupiter』
アリスが1982年に上梓した短編集であり、こちらは2004年にVintage社から発売されたペーパーバックです。結婚の破たんや恋愛における裏切りなど、人生の岐路に立つ12人の女性が主人公となっています。『Labor Day Dinner』では、再婚相手との生活に疑問を感じている女性が、死と紙一重の体験をしたことで物事の見方を変える物語。『Dulse』では、見知らぬ人の親切に慰めを覚える孤独な女性が描かれています。
この作品は、1997年に中央公論社 より『木星の月』というタイトルで発売されています。恋というものが、生きることにとって救いとなるのでしょうか? なぜ人は人と繋がるのでしょう…恋と性と死を見つめ、綾なす女性の心理と生理を克明に描いています
スティーブン・キング『DIFFERENT SEASONS』
最後に紹介する短編小説は、「エスクァィア・デジタル」のエディターがおすすめする1冊です。スティーブン・キングの小説と言えばSF要素であったり、ホラーテイストであることが多くの人に知られていますが、こちらの『恐怖の四季』は非ホラー小説なのです。季節をモチーフにした4つの短編小説が入っており、中には名作『スタンド・バイ・ミー』も含まれています。また、『刑務所のリタ・ワース』は分かりづらい内容かもしれませんが、これは映画『ショーシャンクの空に』の原作でもあります。『恐怖の四季』には、人間味溢れる個性の尊重や優しさなどが描かれており、おすすめの1冊です。
日本語訳は秋冬編と春夏編で2冊、新潮社から発売さえています。
From Esquire UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。
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