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DESIGN / HIROMI KIMURA//Esquire

アマール・シン氏(Amar Singh)は、ただのNFT(Non-Fungible Token = 代替不可能なトークン)愛好家ではありません。英国で育ち、インドのカプルタラ(Kapurthala)王家の末裔であり、一族のDNAに代々刻まれている“社会貢献”と芸術への愛情、そしてマイノリティー(歴史的・社会的に発言力を持たなかった、持てなかった人々)に力を与えたいという意志を持ち、NFTアート界でも慈善家としても著名な存在となっています。

彼は、人類(人間)がより良い方向に繁栄するために、新しい空間を創造することは世界に有意義な変化をもたらし、NFTが効果的に機能する無限の可能性を信じています。

今回、「エスクァイア」日本版では、そんな彼にインタビューをすることができました。「NFTをどう見ているのか」「アート業界の現在と未来についてどう考えているのか」…話を訊いています。

パンデミック前のギャラリーオーナーから、NFTのアートプロジェクトのみを手がけるようになったアマールさん。今では業界のリーダーとして活躍しています。最近ニュースにもなっている仮想通貨の低迷とFXT取引所のクラッシュ問題の前に、そんなアマールさんにインタビュー。彼のビジョンと視点は、以前よりもさらに価値があることを感じることでしょう。

アマール・シン氏に単独取材

エスクァイア編集部レシマ・ラマニ(以下、編集部):NFTを使用してどのような仕事をされてますか?

アマール・シン氏(以下、アマール):まず、NFTとは何か? について改めて説明させてください。

NFTは、真正性(しんせいせい)を証明するデジタル証明書です。住宅の権利書や自動車保険の契約書など、あらゆるものをNFTで発行することが可能です。今後数年間のうちに、各証明書はその方向に向かうと私は考えています。特にアートの世界では少なくとも5年以内に、すべてのアート作品がNFTの鑑定書付きで販売されるようになると私は予想しています。

編集部:そのメリットはなんでしょうか?

アマール:それは贋作(がんさく)を防ぎ、アーティストがロイヤリティを得るのに役立ちますし、アート作品を認証する方法としてより安全だからです。

編集部:現在のアマールさんの活動を教えてください。

アマール:信頼性を含めたクォリティの高いデジタルアートを提供するのことが、私(われわれの事業)のミッションなのです。世界最大規模のNFTスタジオのひとつをつくり、映画スタジオや制作会社のようにNFTを制作したうえでキュレーションと販売を行う。具体的にはアーティストやLVMHのようなブランドと提携してデジタルアートを制作し、それをNFTプラットフォームのひとつで配信・販売しているというわけです。また、アメリカ・サンフランシスコに本社を置く暗号資産取引所「Coinbase」、NFTマーケットプレイスの「MarkersPlace」「Veve」の立ち上げパートナーでもあります。

そんな中、私が一番大事だと思っているのはインパクト(ソーシャルインパクトや積極的な行動)です。このインパクトとは、文化や人の生活に変化をもたらすことを指します。

そして、全てのプロジェクトを社会貢献につなげるのは私の中では欠かせないことです。今夏(2022年)のプライド月間に合わせ、昨年に続いて「ジバンシィ」とThe Rewind Collective アーティスト集団と組んでLGBTQプライドを祝うためにデジタルアート作品を制作し、NFTで発売しました。販売収益はすべて、フランスのLGBTQの若者を支援するための団体「Le MAG Jeunes」に寄付しています。

「特権階級の男性中心に
語られてきたアートを、
NFTが解放(民主化)する」

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編集部:なぜアートの世界を選んだのでしょうか?

アマール:私はアートの大ファンですが、実はアート業界にはあまり関心がありません。ですが、アートが何千年もの間、存在するのことは深い理由があると思っています。私たちの心に響き、それが人間性の証でもあり、私たちの過去・現在・未来についての物語を語ってくれるものだと考えています。

でも、現在の美術館や博物館で保管されてる作品は、全ての人間のストーリー(物語)を表しているようには思えないのです。歴史の大半において、人類の物語が一部の特権階級、すなわち裕福な男性によって語られてきた側面があると思っています。

編集部:特に古典アートには、マイノリティーが描かれてこなかったということですね。

アマール:政府から資金提供を受けている美術館のような公的機関は、私たちの人類の遺産の管理者としての役割を託しています。ですが美術館に行くと、女性が制作した芸術は一貫して見過ごされ、同じレベルの重要性を持たれていないことが分かります。

さらに社会階級、民族性、性的指向を加えると、地球上のあらゆる社会の大多数…特に公的機関において、それらの物語が比例して表現されていないことになります。どう考えても、これには異議を唱えなければなりません。

編集部:きっかけは何だったのでしょうか?

アマール:私の仕事が完全にデジタルアートにシフトする以前、女性やLGBTQの人たちのアートワークに特化したギャラリーを経営していました。そこでアート界の仲間たち(すくなくとも私の周り)は、女性やLGBTQアーティストをサポートする意味をあまり理解しておらず、その必要性を重要視していないと感じていました。

2018年にアメリカ人アーティストのリン・マップ・ドレクスラー氏(Lynne Mapp Drexler)の作品をギャラリー展示・販売し、1万5000~2万ドル程度で価格で取引されていました。ですが現在では、その作品はクリスティーズでおよそ150万ドルの価格で売られているのです。ドレクスラー氏は潜在的に偉大なアーティストであり、ただそこにサポートが必要だっただけということを理解しました。

この現実を経験した私は、女性やLGBTQのアーティストでその才能を認められていない人が世界にあと何人いるのだろうか…と、考えるきっかけになったのです。そして、この事実をいまこの記事で知った読者の皆さまも、おそらく気づくきっかけになったのではないでしょうか。

インドの独立運動で
活動した先祖の
情熱を継ぐ

存在しない画像

編集部:なぜ、アクティビズム(積極的な行動)やソーシャルインパクトが重要だと考えますか?

アマール:お金を寄付するだけでは、意味がないと思っています。人々に力を与え、過去の過ちを正したいのです。ご存知かと思いますが、私はインドのカプルタラ王家の末裔で自分の遺産(生まれ持った境遇)を理解し、そこからインスピレーションを得ています。

先祖のRajkumari Amrit Kaurは1887年に生まれ、アクティビストとして活躍してました。彼女はインドの独立運動でガンジーと密接に働き、1947年にインドが英国から独立した後インドの初代保健大臣に任命されました。1959年にマーティン・ルーサー・キング・ジュニアがインドを訪れたとき、彼が最初に会った人のひとりです。そして実家の壁には、ガンジー、ネルー、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに加えて祖先の写真が並べて飾られていたのです。社会変革のための活動は私の伝統の一部であり、自分の責務だと感じているのです。

編集部:世の中には、世界飢餓や子どもの貧困など、支援すべき大義名分がたくさんありますが、なぜ女性やLGBTQコミュニティのエンパワーメントにこれほど共鳴されるのでしょうか。

アマール:ガンジーの有名な言葉に、「男を教育すれば個人を教育することになるが、女を教育すれば家族を教育することになる(If you educate a man you educate an individual, but if you educate a woman you educate a family.)」というのがあります。

自分を支えるだけ、自分に都合の良いことだけを優先して生きていては、世の中は何も変わらないと考えています。つまり、権力や影響力が少数派によって握られることは不道徳だと強く思うのです。

ですが、それ以上に重要なことは、(数字に違いはあれど)各国の全体人口の約50%以上を占めるであろう…女性やLGBTQのマイノリティーを総じた人たちの声を聞かせない、あるいは資源や機会を与えないということ…これは、「自分たちの社会の進歩を抑制している」ということになるのです。

性別や性的指向を理由に、どれだけの科学者・教育者・革新者が見過ごされ、社会に貢献することなく終わってしまうか…を考えてみてください。これは単なる人権の問題ではなく、社会全体にとって大きな損失です。そこで女性に力を与えれば、子どもの飢餓や貧困など、多くの変化を与えることができると、私は信じているのです。

編集部:アーティストが従来のアートではなく、デジタルアートを制作・販売することを選択するメリットは何でしょうか?

アマール:NFTアートの世界は白紙状態と言っていいでしょう。まだ新しいので、バリアーは少ないというわけです。つまり、従来アートの世界ではあまり機会を与えられななかったアーティストが、この世界ならストレスなく参加できるというわけです。

定義上、ブロックチェーンは非中央集権的なオープンシステムになっています。過去は変えられませんが、世界中の人々を差別なく高揚できて新しいデジタルな歴史をつくる絶好の機会と感じてます。これこそがNFTとブロックチェーンによる、デジタルアートが提供する最大のメリットだと信じています。

もちろん今は、絵文字のNFTを高金額で販売されてるのは事実ですし、問題点もあります。ですが、私が言いたいのはそういうことではありません。質の高いNFTを賢く、意味のあるようにつくれば価値を長く擁することができ、社会貢献にもつなげることができるはずです。

しかもブロックチェーンの最大の特長は、ロイヤルティシステムが組み込まれていることです。アーティストがデジタルアートNFTを作成する際、例えば5%のロイヤリティを設定したら作品が販売されるたびに、自動的に5%がアーティストやクリエイターに戻ります。これは画期的です。アートの所有権を追跡できるだけでなく、アーティストに確実に報酬が支払われるという、アートの世界では全く新しい仕組みになります。

編集部:「NFTの世界はアクセスしにくく、リスクが高い」と感じている人たちに、どのようにアドバイスしますか?

アマール:まずは、手頃なものを選択してみるのはいかがでしょうか。多くの人がNFTに殺到し、すぐにお金持ちになりました。が、同時に多くの人が大損もしています。

LVMHとRewind Collectiveアーティスト集団と行ったコラボ商品の価格は、100ドル設定でした。とても手の届きやすい価格だったと思っています。実際はもっと高い値段にすることもできたのですが、誰でも参加できるようにしたかったからです。繰り返しになりますが、私たちは質の高いNFTを重視しています。LVMHとつくったようなNFTは、NFT市場のごく一部に過ぎません。ですので、NFTアートの購入を検討しているのであれば、自分が本当に欲しいもの、そして自分にとって手頃な価格のものを見つけたら購入する。そうした購入であれば、リスクは低いと考えます。

つまり、それは…「もしあなたが最終的にお金を儲(もう)けるため、アート本来の価値(魅力)よりも投資としてNFTアートを選んだのなら、思い通りに行かない可能性はある」ということです。ぜひ純粋に、NFTアートを楽しんでください。

編集部:本日は、デジタルアートとNFTについて教えていただき、ありがとうございました。では、最後に少し趣向を変えて…、日本では旅行気分も需要も高まりつつあります。(筆者のミーハー心もあり)アマールさんのような王家の末裔の方がオススメする英国とインドでお気に入りの場所を教えてください。

アマール:そうですね…英国ロンドンでは、「コヴェント・ガーデン(Covent Garden)」にある『ダージリン・エクスプレス(Darjeeling Express)』と言うレストランがおすすめです。女性シェフが経営しており、収益の一部はインドの女性支援に使われています。また、テート・モダン美術館もおすすめです。多様なアーティストの作品を集めてコレクションを拡充しています。ハリウッドスターや著名人も常連ですよ。

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インドでは、デリーの『ブカラ・レストラン(Bukhara restaurant)』がおすすめです。そして、インド北部の都市デリーにあるバハイ教の礼拝所「ロータス寺院」も訪れてみてください。建築が見事ですので。

まとめ:今後の展望

アマールさんの慈善活動は、プライベートにも及んでいます。彼は2025年までに女性やLGBTQのアーティストの作品で、500万ドル相当のフィジカルアートを世界中の著名なギャラリーや美術館に寄付することを約束しました。

そして2022年7月の時点で、すでに500万ドルの寄付を達成しています。ですが、さらにアマールさんは野心的で、歴史や人類の物語を所蔵する機関がより包括的に人間の物語を語ることができるよう、今後も寄付を続けていくそうです。

またアマールさんはインドに対し、子どものLGBT転換療法(コンバージョン・セラピー)を禁止するための裁判に個人的な資金援助をしています。特に幼少期の会話療法がもたらす長期的な心理的ダメージは、一流の国際機関によって十分に立証されています。そして彼は、「この転換療法は子どもの人権を侵害している」と考えているのです。

イギリスでは2021年10月に、LGBTに対する強制的な転向療法を禁止する法案を発表しています。特に18歳未満のLGBTを保護するということ。インドにおいては前途多難ではあると認識しながら、近い将来このような有害な行為が禁止されることをアマールさんは確信しているということです。

《筆者による特記事項》

NFTと暗号通貨はここ数カ月で暴落を経験しました。専門家によるといくつかの説明があると考えられています。

  • FTX暗号通貨取引所の崩壊
  • 多くのNFT詐欺が存在している
  • NFTの種類に多様性がありすぎて、バリューのあるものがわかりずらい

専門家は、これがNFTの終わりではなくテクノロジーには無限の可能性があるため、業界がまた進化してクリエイターたちは芸術と創造性をテクノロジーと組み合わせるアプリケーションを開発することになるのではないかと予想してます。