「プレッピー」とはそもそも、英国では8歳から13歳の児童に対して有償で教育を施す私立初等学校であり、アメリカではハーバードなどを代表とする一流大学への進学コースや名門私立高校を指す…つまりは、若きエリートたちの準備教育機関=プレパラトリースクール(preparatory schools)に由来します。

 これを略して「プレップ」と呼び、そこに通う生徒たちのことを「プレッピー」と総称していたことから端を発するものです。そこは入学金も高く、そのような学校へ通える生徒たちは、良家や裕福な家庭に暮らす人々に限られていました…。そんな彼らのスタイルは「アイビー」とはまた違った、オーソドックスかつ上品さを増した魅力あるものだったのです。

 その「プレッピー」の代表的アイテムと言えば、白のソックスにチノパン、オックスフォードシャツ、バーシティージャケット、ケーブルニットなどなど…。ジョン・F・ケネディからポール・ニューマン、ラルフ・ローレンらは、「プレッピー」スタイルの代名詞とも言える人々になります(ですが、そんな方々がすべて、プレップ出身であるわけではありません。あくまでスタイルの話です)。

 「『プレッピースタイル』に、今春は染まっていきたい!」と考える「エスクァイア」UK版スタイルディレクターのチャーリー・ティーズデールが、ここでプレッピースタイルの魅力について話します。


 先日、私(チャーリー・ティーズデール)はプレッピーの大司祭(偉大なる教祖的存在)の1人に会うことができました。彼の名は、ジャック・カールソン氏。元アメリカ代表ボートチームの選手であり、引退後はデザイナーとなりました。

 ザ・ボートレース(オックスフォード大学ボートクラブとケンブリッジ大学ボートクラブが、毎年4月にイングランド・ロンドンのテムズ川で行うエイトによる競漕大会)ではオックスフォード大学を代表し、世界選手権ではアメリカ合衆国を代表していた男なので、「プレッピー」の世界を知り尽くした人物と言っていいでしょう。

 彼が経営する「Rowing Blazers」というブランドは、ボートチームのブレザーをつくるところからスタートし、世界中のプレッピーファンのためのスタイルを提供するように進化してきました。ボタンダウンからスラックス、ラグビーシャツシグネットリング(日本で言うカレッジリング)まで、何でもそろっています。また、「Archaeology Club(考古学クラブ)」や「Byzantine Art Club(ビザンティン美術クラブ)」や「Finance(ファイナンス)」などと書かれた、イカした黒のベースボールキャップもあります。

 悪名高きプレッピースター、『アメリカン・サイコ』のパトリック・ベイトマンに敬意を表して、彼が務めていたとする投資銀行「ピアース&ピアース」のロゴを配したジムバックまで…、どれもたまらなくワクワクさせるアイテムです。

 色合いもエネルギーも、そしてその生意気さも、まさにアメリカ人そのもの! でも私は、そのスタイルではなく、その生き方というかその主義を愛しているのかもしれません。

 カールソン氏に会ったとき、彼は(ガント、J.クルー、Poloと同レベルと言っても過言ではない)アメリカのプレッピー界の大御所であるランズエンドとコラボレーションした「Rowing Blazers」の新作である「Spring Squall Sailing Jacket」を着ていました。

 私は、それをすでに目にしていましたし、「買おうか」とも思った(たった99ドルですよ!)のですが、原色パッチワークのジャケットが私の住むロンドンに馴染むかどうかわからなかったため、結局買わなかったアイテムです。

 カールソン氏には最高に似合っていました。それは彼は、アメリカ人でありボート選手という本物のプレッピーだから当然のことかもしれません。ですが私の場合は…ジムのローイングマシンでしか漕いだことはありませんので…(泣)

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 話は逸れてしまいましたが、2020年春夏コレクションを発表したばかりの、同じくニューヨーク発のブランド「Aimé Leon Dore(エイム レオン ドレ)」では、プレッピーをもっとスポーティーな切り口でアプローチしています。

 太めのスウェットパンツ、くすんだカラー、全体的な雰囲気は70年代や90年代のようで、アウトドアっぽく、休日のジェントルマンといった感じです。「『ザ・ソプラノズ』のトニー・ソプラノが釣り旅行に着ていきそうな服」、と言ったらイメージが具体的にわくでしょうか…。

 ハリントンジャケットやパッチワークシャツ、カーディガンなどのクラシックなプレッピーアイテムを扱っているのですが、それぞれがもっとエッジの効いたものになっています。そこには、気楽さと生意気さはありながらもスマートさが宿っています。

 「Aimé Leon Dore」のスマートさを際立たせているのが、最近のポルシェとのコラボレーションと言えるでしょう。「Rowing Blazers」よりは、私に合っている気がします。つまり私は、アメリカのプレッピーに身を包むべきか、それとも、もうちょっとイギリスよりのスタイルを取り入れるべきか迷うところでもあります。

 そんな中、イギリス版のプレッピーとして、2019年「Aimé Leon Dore」とミニコレクションを発表した「Drake's」がおすすめで、「最も優れた」と言えるほどのラインナップを提供しています。

 ヨーロッパを半年に1度周遊して、ファッションシーンをチェックしている私ですが、いつも、2つ目の目的地としてフィレンツェの展示会Pitti Uomoを訪れています。

 2020年は、「Drake’s」のブースが前シーズンの4倍もの大きさを有しており、さらにそこにはクールでオシャレな男性陣でごった返していました。「Drake’s」はほんの短い期間で、紳士向けのちょっと変わったブランドから、世界中にいる目の肥えたエキセントリックなプレッピーファンのためのブランドとなったわけです。

 日本で人気が高い(これは非常にいい兆候です)「Drake's」の得意なスタイルは、例えるなら「ナポリファションのセンスを持つ、ベスパ好きでセクシーな大学教授風」です。最近はトラックトップ(いわゆるジャージー)やラガーシャツ、スウェット、ピケポロシャツなど、スポーツウエアに力を入れています。

 そこには、プレッピースタイルを成功させるのに必要なカラーと、Pitti Uomoに着て行くにも申し分ないクオリティーを兼備しています。

 だからと言って、私は「Drake's」に身を包めるでしょうか。ルックブックを見てみると、若い男性がセーターを腰に巻いたり、肩にかけたりしています。これはアリなのか? やりすぎなのか? 写真のモデルは、シャツとネクタイの上にポロシャツを着て、さらにブレザーを羽織っています。さすがに「これはおかしい」と思いながらも、私はどうしてもそんな「プレッピー」に心惹かれてしまうのです。

 カウボーイスタイルのトレンドに乗ってみることも考えたのですが、チャップス(パンツの上から下腿部に巻きつけるカタチで装着し、脚部を保護する騎手用装具)を着こなせるほど、自分のお尻に自信などありません。かと言って、「ボッテガ・ヴェネタ」のチェルシーブーツを履くには足が大きすぎますし…。だから、いいです。

 2020年春も、プレッピー一色に染まることにします。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。